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小学生、浦島太郎 [名作パロディー]

はじめまして。浦島太郎です。
今日からこのクラスに編入しました。
特技は、魚を捕ることです。
よろしくお願いします。

僕は約600年前からタイムスリップしてきました。
海の中にある竜宮城っていうところから戻ったら、時代が大きく変わっていたのです。
親もいなくて、家もなくて、村はすっかり変わっていました。
途方に暮れていましたが、村……いや、この町の人はなぜかみんな僕のことを知っていました。
「浦島太郎さんでしょ」
「カメを助けて竜宮城に行った浦島さんよね」
僕は、意外と有名人でした。

町の人はみんな親切で、いろいろ世話をしてくれました。
600年の間に、この国が大きく変わったことを教えてくれました。
僕が学校へ行っていないことを知って、小学校から学ぶように勧めてくれました。
年齢は皆さんよりずいぶん上ですが、仲良くしてください。

「はい、みんな拍手!」
パチパチパチ
「ところで浦島君、急な編入だったから、君の給食が用意できなかったの。お弁当は持ってきた?」
「はい、組合長の奥さんが作ってくれました」
「それはよかったわ。3年生に混ざっての勉強は大変だけど頑張ってね。教科書とノートの使い方を説明するわね」
「はい、お願いします」
「みんなはちょっと自習しててね」
「はーい」


「なあ、浦島君の弁当って、あれかな?」
「きっとそうだよ。大事そうにふろしきに包んでる」
「きっと豪華な弁当なんだろうな」
「弁当箱大きいし、たぶんおかずもいっぱいだね」
「ローストビーフとか、エビフライとか入ってるかも」
「ちょっと開けて見ちゃおうぜ」
「ちょっと男子たち、やめなさいよ」
「いいじゃん。見るだけ、見るだけ」
「うわ、紐が掛かってる」
「高級なやつだ」
「いい、開けるよ。せーの」
パカ


「はーい、みんな、授業を始めますよ。えっ、なに、この煙。えっ、あの、どちらの老人会の方々ですか? うちの生徒たちはどこに?」
「先生、僕が乙姫様にもらった玉手箱が開いています。絶対開けるなって言われたのにな。あれ、先生、どこに行くんですか?」
「煙を浴びたら大変、私、婚活中なのよ」

乙姫様は、いったい何を下さったのだろう。
そしていきなり現れた老人たちは何?
僕のクラスメートたちは、どこに行ってしまったのかな?
(浦島君、家に帰ってうらしまたろうの物語を読んで下さい。すべて分かります)


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不快な通勤快速 [コメディー]

電車が揺れるたびに、コーヒーの空き缶が右へ左へゴロゴロ転がった。
今日の電車は、珍しく空いている。

私の右隣に座る女が言った。
「非常識ね。電車の中に空き缶を捨てるなんて。飲み終わって邪魔になったからって、平気でポイするなんて人間のクズよ」
私の左隣に座る男が、それに反論した。
「言い過ぎ。捨てたかどうかわからないよ。足元に置いたら転がっちゃったのかも。何でも悪く取るのは君の悪い癖だ」
「はあ?何いい人ぶってるのよ。このコウモリ男。誰にでもいい顔するから出世できないのよ」
「君みたいに粗探しする女が、陰でお局様なんて呼ばれるんだろうな」
「粗探しなんてしてないわ。私は正義感が強いだけよ」

「あの……」と私は、両隣のふたりの顔を交互に見ながら言った。
「席、代わりましょうか?」

この二人は、同じ車両の同じドアから乗ってきたが、まるで他人みたいに私を挟んで座った。二人連れだと分かっていたら席をずらしたのに。

「いいよ。代わらなくて」と男が言った。
「そうよ。見てわかるでしょ。私たちケンカ中なの」
「そうそう。隣に座ったら思い切り脛を蹴られる。そういう女なんだ」
「失礼ね。脛なんか蹴らないわよ。こっちのつま先が痛くなるわ」
ああ、居づらい。
そのときだ。乗って来た男子高校生が、足元の空き缶を蹴った。
その缶は、斜め前に座る老人の足に見事に当たった。

「ちょっと君、電車の中で缶を蹴るなんて非常識よ。おじいさんに謝りなさいよ」
女が言った。
「俺、サッカー部だから、足元に来たものは何でも蹴っちゃうの。そういう習性なの」
高校生は「めんどくせえ」と言いながら、車両を移ってしまった。
「まあ、なんて子。親の顔が見てみたい」
「あのさ、君も悪いよ」と男が言った。
「何が悪いの?」
「君はさっき、あのご高齢の方をおじいさんと呼んだけど、あの人は君のおじいさんじゃない。それに、もしかしたら老けて見えるだけで、そんなに年寄りじゃないかもしれない。おじいさんは失礼だよ。君だっておばさんって呼ばれたら嫌だろう」
「私はおばさんじゃないわ。でもあの人は誰がどう見てもおじいさんよ。要するにあなたは私が言うことを全部否定したいだけなのよ」
「そうじゃないよ。君はもっともらしく正義をかざすけど、根本に愛がない。自己満足なんだ」
「あら、言ってくれるじゃないの。そもそもあなたは……」
「あっ、降りる駅だ。続きは家でやろう」
「望むところよ。あっ、ビールあったかしら」
「コンビニ寄って行こう。久々にバドワイザーの気分」
「いいね。ビールの好みだけは合うわね、私たち」
二人は寄り添って電車を降りた。しんどかった。嵐が過ぎた気分だ。

そう思ったのもつかの間、今度は斜め前の老人が私の隣に移動して来た。
「ねえ、あんた。あたしゃおじいさんじゃないよ」
「はあ、そうですね」
「あたしゃ、ばあさんだ」
「えっ、あっ、そうですか。でも私、関係ないです。さっきの夫婦とは赤の他人です」
「関係あるよ」
老人は、ふふっと笑った。
「あの空き缶を捨てたのはあんただろう。あたしゃ見てたよ。あんたがシートの下に缶を投げるのをね」
あー、生きた心地がしないとはこのことだ。
確かに捨てた。私が捨てた。まさか見られていたなんて。

「あんた、降りるときに缶を拾って行くんだよ。あたしゃ終点まで行くからね。ずっと見てるよ」
老人はニタっと笑って元の席に戻った。
電車が揺れて、空き缶が私の足元に転がって来た。
飲み終わったときよりずいぶん汚れている。
「おかえり」
私は缶を拾い上げて、電車を降りた。あー、しんどかった。

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お知らせ(本が出ます)

お知らせです。

3月25日に発売される児童文庫
「意味がわかると怖い3分間ノンストップショートストーリー ラストで君はゾッとする」
に、私の作品が載っています。

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17の怖いお話が載っています。
ラストで君はシリーズは、小学生に大人気なので、すごく楽しみです。
近くなったら、しつこく宣伝するのでよろしくお願いします^^
3月25日は、みんなで本屋さんに行こう!!

予約受付中です↓
https://amzn.asia/d/1LfNBB9

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コロナ禍の恋 [男と女ストーリー]

あの人は、病室の窓からいつも手を振ってくれた。

彼が交通事故で入院したと聞いてから、私は生きた心地がしなかった。
すぐにでもお見舞いに行きたかったけれど、コロナのせいで面会禁止。
事故でスマホも壊れたらしく、電話もメールも通じない。
心配で眠れない夜を過ごし、病院の裏庭で彼の病棟を眺めた。
命に別状はないと言っていたし、一目でも顔が見たいと思った。

そして5階の端の窓からあの人の姿が見えたとき、私の胸は大きく高鳴った。
ドキドキし過ぎて倒れそうなくらいだった。
「気づいて、気づいて」と念を送ったけれど、あの人は看護師との話に夢中で、私にまるで気づかない。
だけど逢えたことが嬉しくて、私は翌日も同じ時間に同じ窓を見た。
あの人が見えた。今日は、看護師はいない。
思い切って手を振ってみた。
「気づいて。私はここよ」
念が通じて、あの人が私を見て、少し戸惑いながら遠慮がちに手を振り返してくれた。
奥に昨日の看護師がいるのかもしれない。
はにかんだ笑顔が素敵。

それから毎日、同じ時間に彼の病棟を眺めた。
雨にも負けず、風にも負けず、花粉にも負けず、欠かさず出かけた。
そして私たちは、ほんの短い時間、見つめ合って手を振り合う。
触れ合えなくても、言葉を交わせなくても、気持ちは通じ合っている。


そしてついに、その日が来た。
彼が入院して1か月半、コロナが5類に移行して、面会が可能になった。
私はすぐに病院に行って、彼と面会をした。
5階の談話室に、松葉杖の彼が来た。
「リハビリきつくてさー。でももうすぐ退院できそうだよ」
「あらそう」
そんなことはどうでもよかった。
「トイレに行く」と嘘をついて、私は部屋を出た。
5階のいちばん端の部屋に行きたくて。
そう、私が会いたいのは彼じゃない。
毎日5階の端の窓から手を振り合った「あの人」。
たぶん、この病院のお医者さん。
一目惚れなの。あの人に会った途端、彼のことなんか頭の中からすっかり消えた。

いちばん端の部屋は「プライベートルーム」の札が掛かっていた。
患者さんは入れない。やはりあの人はお医者さんだ。
「どうしたの?」
いつのまにか彼が後ろに立っていた。
「そこ、医者の喫煙室だよ。もちろん患者は入れないし、喫煙室ってことも、一応秘密になってるらしい。今は色々うるさいだろ。それにさ、さぼりに来てる医者もいるらしいよ。ほら、ちょうど出てきた」

喫煙室から出て来たのは、あの人だった。
続いて、髪が少し乱れた看護師が赤い顔で出て来た。
あのときの看護師だ。何をしていたかは想像できる。
あの人は私をちらりと見て、すぐに視線を戻した。
「あの医者、常習犯」
彼が耳元で言った。

なあんだ。近くで見たら、全然大したことないじゃない。
ガッカリだ。一時の気の迷いってやつだ。そもそも私、彼氏いるし。

「ねえ、退院したら、美味しいもの食べに行こうね。リハビリ頑張って」
私は彼の手を優しく握った。





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ライバル [コメディー]

正蔵さんと大助さんは、隣同士の幼なじみ。
同じ日に生まれ、生まれたときからのライバル関係だ。
どちらが先に歩くか、どちらが先にしゃべるか。
学校へ上がれば成績、スポーツ、ラブレターの数さえも競い合うようになった。
同じころに結婚して息子が生まれると、今度は息子同士を競わせた。
そして月日は流れ、今度は孫の番だ。

「おおい、香里、香里はどこだ」
「どうしたの、おじいちゃん。ここにいるよ」
「香里、隣の沙恵が梅むすめに選ばれたぞ」
「梅むすめ? ああ、梅まつりのキャンペーンガールね」
「どうして正蔵の孫が梅むすめなんだ。香里の方がずっと可愛いじゃないか」
「おじいちゃん、私は応募してないよ。興味ないし、やりたくないよ」
「いや、今からでも遅くない。市長に掛け合ってやるから、梅むすめやりなさい」
「やだよ。別にいいじゃん。やりたい人がやれば」
「それじゃあ隣に負けちゃうじゃないか」
「おじいちゃん、そういう時代じゃないよ。私と沙恵は、何も競い合ったりしないよ。ずっと仲良しだもん。まあ、確かに沙恵より私の方が可愛いのは事実だけどね」

沙恵と香里は19歳。同じ大学に通っている。
「そんなわけでさ、おじいちゃんがうるさくて」
「ごめん香里。うちのじいちゃんが自慢したんだ。梅むすめなんて、ちょっと愛想がよければ誰でもなれるのにさ」
「ああ、沙恵は愛想だけはいいからね。私はダメだわ。知らないおじさんと写真とか撮りたくないし」
「そうだね。香里はすぐ顔に出るからね」
「ところでさ、おじいちゃんたちの競い合い、いつまで続くんだろうね」
「本当だね。つまらないことに神経使わずに、もっと世の中の役に立つことすればいいのにね」
「あっ、それだ」

香里が家に帰ると、大助さんは全国のキャンペーンガールの情報を集めていた。
「香里、これはどうだ。納豆むすめ」
「だからそういうのはいいってば。それよりおじいちゃん、隣の正蔵さん、被災地に寄付したんだって」
「なに?」
「えらいよね。1万円ぐらい寄付したって言ってたかな」
「こうしちゃおれん。2万円寄付する」
正蔵さんと大助さんは、競い合うように被災地に寄付をした。

「おじいちゃんたち、本当に負けず嫌いだね」
「うん。でもこれで、被災地の人が少しでも助かればいいでしょ」
「さすが、香里は頭いいね」
「英語は沙恵とビリ争いしてたけどね」
「そうだった。あたしたち、ビリを競い合ってたね」
「でもさ、沙恵はどうして梅むすめに応募したの?英語しゃべれないのに。外人に話しかけられたらどうするの?」
「えへへ。それは大丈夫。今、彼にマンツーマンで教えてもらってるの」
「彼って?」
「留学生のマイクよ」
「うそ、あのイケメンのアメリカ人?まさか、沙恵……」
「実は付き合ってるの。黙っててごめんね。彼氏いない歴19年の香里には、なかなか言いづらくて」
「何それ。私がその気になれば、いくらでも彼氏できるから。すっごいイケメン見つけるから。ああ、そうだ。納豆むすめ、応募しよう。私、納豆むすめのセンター目指すから。じゃあね、おやすみ」

香里を見送って、沙恵は肩をすくめた。
「ふう。相変わらず負けず嫌いだな、香里は。おじいちゃんにそっくり。納豆むすめのセンター? 無理じゃん、愛想ないし。それよりあたしも募金しよう。お年玉いっぱいもらったから」

「おい香里、隣の沙恵が被災地に募金したらしいぞ」
「えっ、じゃあ私もする。負けてられないわ」
こういう競い合いならいいかも……。




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龍の子ども [ファンタジー]

結婚して7年経ちますが、なかなか子宝に恵まれません。
夫とふたりで出掛けた初詣の神社で、私は熱心に祈りました。
「どうか今年こそ、子どもが授かりますように」
夫が毎年欠かさず参拝するこの神社は、龍神様を祀っています。

急に辺りが暗くなりました。
多くの参拝客で賑わっていたはずの拝殿から人が消えました。
何が起こったのでしょう。
「おまえに子どもを授けてやろう」
暗やみから声がしました。大地を這うような恐ろしい声です。
怯える私の前に、大きな龍が現れました。血の塊みたいな赤い目で私を見ました。
「願いを、聞いてくださるのですか?」
「ああ、授けよう。ただし生まれてくる子は龍の子どもだ。大切に育てろ」
「龍の子ども? それはどういうことですか」
龍は、私の問いには答えずに消えてしまいました。

気がつくと私は、神社の隅でうずくまっていました。
「大丈夫? 貧血かな」
夫が心配そうに背中をさすってくれました。
「違うの。私、たぶん妊娠した」
「えっ」

私は本当に子どもを授かりました。
夫はとても喜びましたが、私は不安でした。
あの龍のお告げが、夢だとは思えなかったからです。
龍が生まれた子どもをさらっていくのではないか、そんなことばかり考えました。
だけどお腹が大きくなるにつれて、そんな不安は消えました。
私の中に宿った小さな命が愛おしくてたまりませんでした。
とにかく無事に生まれて欲しい。そればかり祈りました。

秋になって、私は女の子を出産しました。
紛れもない人間の赤ん坊です。鱗もなければ角もありません。
「可愛いなあ」
夫は生まれたばかりの子どもを不器用に抱きながら、優しく頬ずりしました。
ホッとしました。神様は、純粋に私の願いを聞いてくれただけなのです。
恐れることなど何もありません。

「お宮参りに行こう」
夫が言いました。
「君の祈りが通じて僕たちは親になれた。龍神様にお礼に行こう」
初詣の記憶が甦って少し怖くなりましたが、夫の言う通り、きちんとお礼をしようと思いました。
すやすや眠る娘を抱いて、神社に行きました。
拝殿の前に立つと、突然娘が目が開けて私を見ました。
その目は、赤く光っていました。
あのときの龍と同じ目です。驚いて思わず娘を落としそうになりました。
「大丈夫。気を付けてくれよ。僕たちの宝物なんだから」
夫が、私の代わりに娘を抱きました。
そして娘を抱いたまま、長い長いお祈りをしました。

祈りを終えた夫が振り向いて言いました。
「大丈夫だよ。龍神様はこの子を連れて行ったりしないから」
「えっ?」
夫は娘の頬を優しく撫でながら微笑みました。夫はすべてを知っていたのです。

「じつは僕も、龍の子どもなんだ。母が36年前に授かった子どもだよ」
夫は毎年龍神様に、元気で生きていることを伝えているそうです。
「毎年お参りを欠かさなければ大丈夫」
夫が私の手を握りました。温かい大きな手です。
「毎年お参りに来るわ。この子を大切に育てるわ」
私は夫の肩にそっと寄り添いました。

娘はすくすく成長しています。毎日幸せです。
辰年生まれの夫と娘が、ふたりで空を見上げています。
その目が赤く光っていることには、気づかない振りをしています。

*****
あけましておめでとうございます……とはいえ、もう1月も半ばです。
正月休みがいつもより長かったことと、我が家にしては珍しく2回も温泉旅行に行ったおかげで、どうもペースを戻せません。
とりあえず、こんな私ですが今年もよろしくお願いします。

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おとぎ話(笑)34 [名作パロディー]

<泣いた赤鬼>

青鬼のおかげで人間と仲良くなれた赤鬼の元に、村役場の役人がやってきました。
「赤鬼さん、あなたを人間として住民登録することになりました」
「本当ですか」
「はい。これ、住民票です」
「ありがとうございます」
「これ、住民税と固定資産税の納付書です」
「これ、国民年金の納付書です」
「NHKの視聴料お願いします」

「あっ、赤鬼さん、泣いてる」
「人間になれてうれしいのかな?」
……違うと思う。


<シンデレラ>

お城の舞踏会に行きたいシンデレラの前に、魔法使いが現れました。
ボロボロの服を素敵なドレスに
カボチャを馬車に
ネズミを馬に変えてくれました。
「さあシンデレラ、舞踏会にお行きなさい。ただし午前0時に魔法が解けるから、それまでに帰るのよ」
「はい、わかりました。ところで魔法使いさん、ひとつだけ質問があります」
「何だい?」
「このカボチャ、魔法が解けたら食べられます? スープにする予定なんだけど」
「生活感ありすぎ。。。」


<笠じぞう>

「おじいさん、今年もお地蔵さまに笠かぶせたんですよね」
「ああ、かぶしてきたぞ」
「じゃあどうしてお礼の品を持ってこないんです? もう正月ですよ」
「そうだな。当てにしていたのにな」
「おじいさん、ちゃんと去年と同じように笠かぶせましたよね? 最後のお地蔵さまには、自分の手ぬぐいを取ってかぶせましたよね」
「いや、全部のお地蔵さまに笠をかぶせた。人数分用意したんだ」
「ああ、それだ!」
「それって?」
「自分の手ぬぐいを取ってまでかぶせることに意味があるんですよ。笠をかぶせるだけじゃ弱いんですよ、エピソードが!」
「エ、エピソード? そういうもの?」
「そういうものですよ、世の中というのは。いいですか、次はちゃんと自分の手ぬぐいを外してかぶせるんですよ。分かりましたね。ちゃんとやってくださいよ。生活かかってるんだから」
「わかった」

……忘れてただけなんだけどなあ(地蔵)


<不思議の国のアリス>
あら、時計を持ったウサギさんが走っているわ。
「ウサギさん、そんなに急いでどこへ行くの?」
「うさぎ年がもうすぐ終わるんだよ」
「まあ、大変」
「あんたもブログなんか書いてないで、大掃除でもしたら」
ギク!!

*****
あっという間に30日。今年もあと少しですね。
大掃除の合間を縫って書いております(笑)
みなさま、今年も読んで下さってありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。

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饅頭屋のクリスマス

小さな駅前の商店街。
昔は12月になると、街路樹にキラキラのイルミネーションを飾ったものだ。
駅からまっすぐ光のトンネルを歩くみたいだった。
あの頃は賑やかだった。
ケーキを売る声、おもちゃ屋の前で立ち止まる子ども、揚げ物や総菜のいい匂い。
今じゃすっかり寂れて、3分の2はシャッターを閉じたままだ。

私は先祖代々続く饅頭屋を、細々と続けている。
嫁に来た頃は忙しかったけど、今は常連客しか来ない。
閉店は午後7時。また売れ残っちゃった。
夫はさっさと奥に引っ込んで、晩酌を始めている。
「やれやれ」と片付けをしていると、ひとりの男が飛び込んで来た。
「もう終わりですか?」
「はい、この通り、もう閉店時間です」
「饅頭一個だけでも売ってくれませんか。朝から何も食べてなくて、もうフラフラで倒れそうなんです」
男は大げさに腹を押さえた。
「それなら饅頭なんかより、ご飯を食べた方がいいですよ。この先に、ラーメン屋がありますよ」
「もう一歩も歩けません」
あまりに情けない声を出すので、私は仕方なく、奥から売れ残りの饅頭をふたつ持ってきて男に渡した。
男はそれを、のどに詰まらせるような勢いで食べた。
温かいお茶を淹れてあげると、ようやく落ち着いたように「ふう」と息を吐いた。
「よっぽどお腹が空いていたんですね」
「ええ、きのうの夜から働き通しで」
「あらまあ、ご苦労様。どんなお仕事?」
「サンタクロースです」
やだ。つまらない冗談。こういうのって、何かツッコんだ方がいいのかしら?

「ご馳走様でした。おいくらですか?」
「お金はいいですよ。残り物だから」
「そうはいきません。そうだ、じゃあ、プレゼントを差し上げましょう。何がいいですか?」
「いえいえ、初対面のお客様にプレゼントをいただくわけにはいきません」
「いいんですよ。言ったでしょう、僕はサンタクロースです」
ああ、ヤバい人だ。適当なこと言って追い返そう。

「じゃあ、イルミネーションがほしいわ」
「イルミネーション?」
「そう、この商店街をキラキラにしてほしいわ」
「わかりました。それでは奥さん、メリークリスマス」

男は店を出ていった。変わり者だな。頭がおかしいのかしら。
シャッターを閉めようと外に出た私は、思わず息をのんだ。
キラキラだ。商店街の端から端までキラキラだ。
街路樹が、シャンパンカラーのイルミネーションに染まっている。
「あなた、ちょっと来て」
「なに?」と面倒くさそうに出てきた夫が目を見張った。
「何だこれ。すごいな」
コンビニにたむろしていた学生や、駅から出て来た人たちが集まって来た。
「すごい」「きれい」「SNSにのせよう」「友達呼ぼう」
商店街が、久しぶりに賑わい始めた。

「あなた、酒飲んでる場合じゃないわ」
「えっ?」
「饅頭作って売りましょう。正月に配る予定の甘酒も売ろう。今日から閉店は21時よ」

サンタクロースって、本当にいるのね。
来年は、饅頭3個取っておくわ。

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やさしいトナカイさん

「ああ、今年も無事にプレゼントを配り終えたな、トナカイくん」
「はい、サンタさん、お疲れさまでした」
「上がって一杯やっていきなさい」
「でも、ソリがありますから。飲酒運転になってしまいます」
「泊って行けばいいだろう。そうだ、フカフカの最上級の藁を買ったんだ。君がぐっすり眠れるようにな」
「それはありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「おおい、今帰ったぞ。トナカイくんに酒を出してくれ。去年誰かにもらった高級なウイスキーがあっただろう」
「すみません、奥さん」
「いいんですよ。そろそろ帰るころだと思って、用意しておきました」
「おお、これは旨そうなローストビーフだ」
「クリスマスですから、奮発しました。では、ごゆっくりどうぞ」

「トナカイくん、君とも長い付き合いになったな」
「そうですね。サンタさんと過ごすクリスマスが当たり前になってますね」
「しかし君、少しスピードが落ちたんじゃないか?」
「面目ない。明日からトレーニングに励みます」
「いいよ、しばらくゆっくりしなさい」
「奥さんの料理はどれも絶品ですね」
「そうだろう。ところで君もそろそろ身を固めたらどうだね。そうだ。今度いいメスのトナカイを探してあげよう」
「お気遣いなく」
「家族が増えるのはいいぞ。生活に張りが出る」
「はあ、そうですね。さあ、サンタさん、もう一杯お作りしましょう」

「あっ、しまった。忘れてた」
「どうしたんです?」
「世界中の子どもたちにプレゼントを配って、自分の子どものプレゼントを忘れてた」
「それはいけませんね」
「サンタクロースの子どもがプレゼントをもらえないのは可哀想だ」
「サンタさん、袋の中にプレゼントがふたつありますよ。ほら、これです。今からでも遅くありません。2階の子どもたちのところに置いてきましょう」
「うむ。ではわしが持って行こう。ああ、何だか眠くなってきたな。トナカイくん、子どもたちの枕元にプレゼントを置いたら、わしはもう寝る。君はゆっくり飲んでくれたまえ」
「はい、おやすみなさい」


「ふう……」
「お疲れさまでした。戸中井さん」
「ああ奥さん。参田さんはお休みになられましたか?」
「ええ、ぐっすり。毎年付き合わせてごめんなさいね、戸中井さん」
「いえいえ、参田部長にはお世話になりましたから」
「もう部長じゃないわ。仕事辞めたとたんおかしくなっちゃって、この時期になると自分をサンタクロースだと本気で思っているのよ」
「はい。僕たち、参田と戸中井で名コンビって呼ばれていましたからね、忘年会の余興はいつもサンタとトナカイをやらされました」
「あの頃がよっぽど楽しかったのね」
「そうだ。さっき参田部長が2階に運んだプレゼント、あれは僕からお二人へのクリスマスプレゼントです」
「まあ、いつもありがとう。あの人、どうせ今日のこと何も憶えてないのよ」
「そう思って、部長にはウイスキーを贈っておきました」
「ありがとう。来年まで取っておくわ」

「では、僕は帰ります。ローストビーフとウーロン茶、ご馳走様でした」
「早く帰ってあげて。奥様によろしくね」
「はい、よいクリスマスを」
「よいクリスマスを」

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帰郷の理由

15年ぶりに、故郷に帰ることにした。
東京で就職してからは忙しさもあったけど、「結婚はまだか」と言われるのが嫌で帰らなかった。

「お母さん、明日帰るから」
「えっ、何で帰るの?」
「何でって、何でもいいでしょう」
「良くないでしょう。何で帰るのよ」
「なに、迷惑なの?」
「違うよ。何で帰るのか聞いてるだけよ」
「もういい。とにかく帰るから!」

ああ、何だか拍子抜け。
娘が実家に帰るのに理由が必要?
しかも15年ぶりに帰る一人娘に、第一声がそれ?
まあ、帰らなかった私も悪いけど「待ってるよ」くらい言っても良くない?

そもそも理由なんてひと言じゃ言えない。
40歳手前で10年付き合った男にフラれて、仕事に生きようと思ったら新任の上司とそりが合わずに転職。
転職先は信じられないブラック企業で即辞表。
おまけにアパートのオーナーが変わって、立ち退きを要求された。
ここ一年で色々あって疲れちゃった。
貯金があるうちに、地元に帰ってやり直そうって思った。
そういうのは、ご飯を食べて落ち着いてからゆっくり話すつもりでいるのに、いきなり理由を聞くなんて、お母さんは鬼だわ。
もしかして、15年も帰らなかった仕返し?
まあいい。とにかく帰る。今の私にはそれしかないんだ。

在来線に揺られること3時間。
乗り継ぎのローカル線で30分。
懐かしい駅は変わっていない。
ああ、なんて静か。のんびりしている。山が近いな。
実家はここからバスで30分。
時刻は午後5時。もう辺りは暗いし、寒い。
早く帰ろうとバス停に向かったけれど、バス停がない。
嘘でしょう? 通りかかった自転車の高校生に尋ねてみた。
「ねえ、バス停の場所、変わった?」
「バス、ないですよ。3年前に廃線になって、今はありません」
なんですって? 確かに私がいた頃から乗る人まばらだったけど、まさか廃線?
すぐに母に電話をかけた。しゃくだけど迎えに来てもらうしかない。

「お母さん、バスないんだけど」
「そうそう、なくなっちゃったのよ」
「あのさ、悪いけど迎えに来てくれる?」
「無理よ。あのね、お父さんとお母さん、後期高齢者になったのを機に、去年免許返納したんだわ。今はほら、ネットスーパーもあるし、乗り合いタクシーもあるからね」
「えー、じゃあ私、どうしたらいいの?」

「だから訊いたでしょう。何で帰るのって(バスないけど)」
「えっ、そういう意味?」
「あんた、電話切るの早いから。タクシー呼びなさい。4千円くらい持ってるでしょ」
げげ、タクシー代が4千円? 田舎舐めすぎてた。
私は、山道を走るタクシーのメーターが、どんどん上がるのを眺めながら思った。
「まずは免許取ろう」

懐かしい家に帰ると、お母さんはご馳走を作って待っていた。
「ああ、お母さんのご飯、おいしい」
「ところであんた、何で帰って来たの?」
「え、だから電車とタクシー」
「いや、そうじゃなくて、何で帰って来たの?」
「だから電車と……」
日本語ってややこしい。

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