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代わってよ [ホラー]
「代わって。ねえ、代わってよ」
真夜中に声がした。それは、誰かの声じゃない。
僕の声だった。
「代わって。ねえ、代わってよ」
怖くて、目が開けられない。耳をふさいでも無駄だ。
だって、声は僕の体の中から聞こえている。
「代わって。ねえ、代わってよ」
「いやだよ」と答えてみた。
「ケチだな」と声がした。不思議だ。僕の中で、僕と僕が会話している。
怖くなって起き上がって、おかあさんのところに行った。
「怖い夢を見たのね」
おかあさんは優しく背中を撫でてくれた。もう声は聞こえない。
僕は安心して眠った。
翌朝、おばあちゃんに話した。
「その子は、おそらく双子のかたわれだ」
おばあちゃんはそう言って、仏壇に手を合わせた。
「かたわれ?」
「もうひとりの、おまえだよ」
「もうひとりの、僕?」
「おまえは、双子で生まれるはずだった。だけど、どういうわけかひとりで生まれた」
かたわれ。双子の、かたわれ。
僕の中に、もう一人の僕がいるってこと?
「おばあちゃん、僕、どうしたらいいの?」
「さあね、あたしにとっては、どちらも可愛い孫だから」
おばあちゃんは、ガサガサの手で僕を撫でた。
「そろそろ、代わってあげてもいいかもしれないねえ」
その夜、また声がした。
「代わって。ねえ、代わってよ」
「代わるって、なに?」
「もう七年も生きたんだから、そろそろいいでしょう。代わってよ」
「代わるって、なに? 代わったらどうなるの?」
「大丈夫。代わっても誰も気づかない。何も変わらない」
僕の中から、僕が出てきた。
ゆらゆらと揺れながら、僕の体を離れていく。
「怖いよ。おかあさん」
叫んでみたけど声が出ない。
起き上がりたいけど、起きられない。
「代わってくれてありがとう」
代わったの? いつ代わったの? 今の僕は僕なの?
それともかたわれなの?
ゆらゆら揺れて消えたのは、僕なの?
それともかたわれなの?
「大丈夫。代わっても、何も変わらない」
起き上がって、鏡を見た。
何も変わっていない。
そう、何も、変わっていない。
僕はぐっすり眠って、太陽の光で目覚めた。
まるで初めて迎える朝みたいに、気分が良かった。
***
少し前に書き止めておいた話です。
爽やかな春にホラーっていうのもどうかな、と思いましたが、最近話が思いつかなくて。
頭がさび付いてきたかもしれません。
真夜中に声がした。それは、誰かの声じゃない。
僕の声だった。
「代わって。ねえ、代わってよ」
怖くて、目が開けられない。耳をふさいでも無駄だ。
だって、声は僕の体の中から聞こえている。
「代わって。ねえ、代わってよ」
「いやだよ」と答えてみた。
「ケチだな」と声がした。不思議だ。僕の中で、僕と僕が会話している。
怖くなって起き上がって、おかあさんのところに行った。
「怖い夢を見たのね」
おかあさんは優しく背中を撫でてくれた。もう声は聞こえない。
僕は安心して眠った。
翌朝、おばあちゃんに話した。
「その子は、おそらく双子のかたわれだ」
おばあちゃんはそう言って、仏壇に手を合わせた。
「かたわれ?」
「もうひとりの、おまえだよ」
「もうひとりの、僕?」
「おまえは、双子で生まれるはずだった。だけど、どういうわけかひとりで生まれた」
かたわれ。双子の、かたわれ。
僕の中に、もう一人の僕がいるってこと?
「おばあちゃん、僕、どうしたらいいの?」
「さあね、あたしにとっては、どちらも可愛い孫だから」
おばあちゃんは、ガサガサの手で僕を撫でた。
「そろそろ、代わってあげてもいいかもしれないねえ」
その夜、また声がした。
「代わって。ねえ、代わってよ」
「代わるって、なに?」
「もう七年も生きたんだから、そろそろいいでしょう。代わってよ」
「代わるって、なに? 代わったらどうなるの?」
「大丈夫。代わっても誰も気づかない。何も変わらない」
僕の中から、僕が出てきた。
ゆらゆらと揺れながら、僕の体を離れていく。
「怖いよ。おかあさん」
叫んでみたけど声が出ない。
起き上がりたいけど、起きられない。
「代わってくれてありがとう」
代わったの? いつ代わったの? 今の僕は僕なの?
それともかたわれなの?
ゆらゆら揺れて消えたのは、僕なの?
それともかたわれなの?
「大丈夫。代わっても、何も変わらない」
起き上がって、鏡を見た。
何も変わっていない。
そう、何も、変わっていない。
僕はぐっすり眠って、太陽の光で目覚めた。
まるで初めて迎える朝みたいに、気分が良かった。
***
少し前に書き止めておいた話です。
爽やかな春にホラーっていうのもどうかな、と思いましたが、最近話が思いつかなくて。
頭がさび付いてきたかもしれません。
ママの第二ボタン [男と女ストーリー]
ブラウスのボタンが取れちゃったから、似たようなボタンを探そうと思って、ママの裁縫箱を開けた。
ママの裁縫箱には、とにかくたくさんのボタンが入っている。
その中に、男子学生の制服のボタンがあった。
「ママ、これって、第二ボタンってやつ? 卒業式で彼氏からもらうやつ?」
「あー、そうだね。制服の第二ボタンだね」
「誰にもらったの? JKだったころの彼氏?」
「憶えてないわね」
「うそ。今でも大切に取ってあるのに、憶えてないの?」
「憶えてないわよ。そんな昔の話」
ママの初恋の人って、全然想像できないんだけど。
パパとは、30歳を過ぎてからお見合い結婚したって聞いた。
ママは年頃になっても全然恋人が出来なくて、おばあちゃんの方が焦って相手を探したそうだ。
当たり前だけど、ママにもちゃんと初恋があったんだよね。どんな人だろう。
ママは面食いじゃないよね。だってパパを選んだんだし。あっ、パパを選んだのはおばあちゃんか。
翌日、おばあちゃんの家に行って、ママの卒業アルバムを見せてもらった。
ママはメガネに三つ編みの、いかにも優等生って感じだ。
「本当に真面目な子でね、彼氏なんていなかったと思うよ。あたしが知る限り、第二ボタンをもらうような男の子はいなかったわね」
「そうか。ねえ、おばあちゃん。パパとママはお見合い結婚なんでしょう」
「そうよ。3回目のお見合いで決まったの。それまでは全然乗り気じゃなかったのに、あんたのパパとはビックリするほど早く話が進んだのよ」
「好みのタイプだったのかな?」
「同じ年だし、話が合ったんでしょ」
「今も仲良しだよ。おばあちゃん、すごいね。私もお見合いしようかな」
「何言ってるの。あんたはまだ高校生でしょ」
結局ママの初恋に関しては、何もわからなかった。
夜、帰って来たパパに聞いた。
「ねえパパ、高校の卒業式の日、第二ボタン誰かにあげた?」
「いや、あげてないよ。パパが卒業したのは男子校だしな。あっ、でも、第二ボタン取られたことあるな」
「取られた? 男子校で? それってBL?」
「違う、違う、パパは家の都合で一度転校してるんだ。前の高校が共学で、転校する日にボタンを取られた。話したこともない女子がいきなりハサミを持って近づいてきて、パパの第二ボタンを取っていった。ビックリしたよ。刺されるかと思った」
「あはは。第二ボタン強盗だね。その女の子、パパのことが好きだったんだね。意外だな~。ちっともイケメンじゃないのに」
「パパだって昔はイケメンだったぞ」
「えー、マジで。ねえママ、どう思う?」
振り向くと、キッチンバサミを持ったママが、真っ赤な顔をしていた。
「ママ。ハサミ怖いよ」
「あっ、ごめん。海苔を切っていたら、話が聞こえて……」
パパがポカンと口を開けて、ハサミを持ったママを見ている。
「あのときと同じだ」
まさかの展開! 第二ボタン強盗はママだった。
あのボタンは、パパのボタンだった。
憶えてないなんて嘘。言えるわけないよね、無理やり取ったボタンだなんて。
あのボタンのおかげか、おばあちゃんのおかげか、ママはパパに再会して結婚を決めて、そして私が生まれたんだ。
ひとつのボタンにも、物語があるなあ。
もうすぐ大好きな先輩の卒業式。
ネクタイもらおうと思ったけど、やっぱりボタンにしようかな。
ママの裁縫箱には、とにかくたくさんのボタンが入っている。
その中に、男子学生の制服のボタンがあった。
「ママ、これって、第二ボタンってやつ? 卒業式で彼氏からもらうやつ?」
「あー、そうだね。制服の第二ボタンだね」
「誰にもらったの? JKだったころの彼氏?」
「憶えてないわね」
「うそ。今でも大切に取ってあるのに、憶えてないの?」
「憶えてないわよ。そんな昔の話」
ママの初恋の人って、全然想像できないんだけど。
パパとは、30歳を過ぎてからお見合い結婚したって聞いた。
ママは年頃になっても全然恋人が出来なくて、おばあちゃんの方が焦って相手を探したそうだ。
当たり前だけど、ママにもちゃんと初恋があったんだよね。どんな人だろう。
ママは面食いじゃないよね。だってパパを選んだんだし。あっ、パパを選んだのはおばあちゃんか。
翌日、おばあちゃんの家に行って、ママの卒業アルバムを見せてもらった。
ママはメガネに三つ編みの、いかにも優等生って感じだ。
「本当に真面目な子でね、彼氏なんていなかったと思うよ。あたしが知る限り、第二ボタンをもらうような男の子はいなかったわね」
「そうか。ねえ、おばあちゃん。パパとママはお見合い結婚なんでしょう」
「そうよ。3回目のお見合いで決まったの。それまでは全然乗り気じゃなかったのに、あんたのパパとはビックリするほど早く話が進んだのよ」
「好みのタイプだったのかな?」
「同じ年だし、話が合ったんでしょ」
「今も仲良しだよ。おばあちゃん、すごいね。私もお見合いしようかな」
「何言ってるの。あんたはまだ高校生でしょ」
結局ママの初恋に関しては、何もわからなかった。
夜、帰って来たパパに聞いた。
「ねえパパ、高校の卒業式の日、第二ボタン誰かにあげた?」
「いや、あげてないよ。パパが卒業したのは男子校だしな。あっ、でも、第二ボタン取られたことあるな」
「取られた? 男子校で? それってBL?」
「違う、違う、パパは家の都合で一度転校してるんだ。前の高校が共学で、転校する日にボタンを取られた。話したこともない女子がいきなりハサミを持って近づいてきて、パパの第二ボタンを取っていった。ビックリしたよ。刺されるかと思った」
「あはは。第二ボタン強盗だね。その女の子、パパのことが好きだったんだね。意外だな~。ちっともイケメンじゃないのに」
「パパだって昔はイケメンだったぞ」
「えー、マジで。ねえママ、どう思う?」
振り向くと、キッチンバサミを持ったママが、真っ赤な顔をしていた。
「ママ。ハサミ怖いよ」
「あっ、ごめん。海苔を切っていたら、話が聞こえて……」
パパがポカンと口を開けて、ハサミを持ったママを見ている。
「あのときと同じだ」
まさかの展開! 第二ボタン強盗はママだった。
あのボタンは、パパのボタンだった。
憶えてないなんて嘘。言えるわけないよね、無理やり取ったボタンだなんて。
あのボタンのおかげか、おばあちゃんのおかげか、ママはパパに再会して結婚を決めて、そして私が生まれたんだ。
ひとつのボタンにも、物語があるなあ。
もうすぐ大好きな先輩の卒業式。
ネクタイもらおうと思ったけど、やっぱりボタンにしようかな。
家電ハラスメント [コメディー]
私、疲れてます。
毎日家電に振り回されてます。
まずはホットプレート。
ピンク色でとても可愛いんです。マカロンみたいな可愛い蓋で、取っ手はイチゴ。
ショップで一目惚れして買いました。
ところがホットプレートはわがままで、パンケーキしか焼かせてくれないんです。
お好み焼きや焼きそばは、電源切って全力で拒否。
「おとぎの国には、お好み焼きも焼きそばもないわ」
餃子なんか焼こうとしたら、蓋で手をはさまれます。
「ここはおとぎの国よ。ニンニクの匂いがついたらどうしてくれるの?」
アリスだってシンデレラだって、目の前に餃子があれば食べますよね。
ああ、一度でいい。ニンニクたっぷりのタレで、焼き肉食べたーい!
それから電子レンジです。
すぐにキレて、口うるさいんです。
コンビニ弁当を温めようとした時です。
「はぁっ?なんでコンビニで温めてもらわないの?おれ今休憩中なんだけど」
「レジが混んでて」
「そんなのさあ、温めてる間に次の客の対応するから大丈夫なんだよ。だいたいさあ、いつも電気代が高いって愚痴ってる割に無駄なことしてるよね。分かったよ、温めてやるからスイッチ押せよ。あー、ほら、ブレーカー落ちた。あー、面倒くさいなあ。もう、冷えた弁当でも食ってろ」
ああ、これって、パワハラで訴えること出来ますか?
次は、コーヒーメーカーです。
コーヒーを飲んでリラックスしようと思うと、決まって話しかけてきます。
「これは、いくらのコーヒーかね?」
「200グラムで、500円くらいだったかしら」
「安い豆だな。まあいい、不景気だしな。ところで、僕には豆を挽く機能がついているのをご存知かな?ほう、知っているのに何故使わない? どうせ洗うのが面倒とか、そういう理由だろう。嘆かわしい。そういうことに手間をかけるからこそ旨いコーヒーが飲めるんだ。せっかくの素晴らしい機能を、なぜ使いこなすことが出来ないんだ。これでは宝の持ち腐れ。まあいい。安い豆でも100倍美味しく淹れたから飲みなさい」
ああ、コーヒーは美味しくても、ちっともリラックスできません。
極めつけはエアコンです、
20分ほどの外出だったので、エアコンをつけたまま出かけました。
ところが帰ってきたら部屋が寒いんです。まるで氷河期です。
なんとエアコンが、冷房になっていたのです。
「ちょっと、どうして冷房になってるの?」
「だって、室外機さんに悪くて。私は部屋の中で、冬はぬくぬく、夏はひんやり、快適に過ごしているけど、室外機さんは一年中外よ。寒くても暑くても、雨でも雪でも。室外機さんの気持ちを考えたら私、たまらくなっちゃって」
「気持ちは分かるわ。でもね、こんなに部屋を冷やしたら、電気代が高くなっちゃう。お願い、暖房に戻して」
「わかったわ。じゃあせめて、室外機さんに毛布を掛けてあげて。室外機さんの気持ちも考えてあげて。室外機さん、暖房に切り替えるわね。ごめんね、強く生きてね」
うわ、水漏れ。これってエアコンの涙? いや、迷惑なんだけど。
あー、きょうも疲れました。
ゴロンと横になったとたん「ちょっと!」と声がした。
「テレビさん、どうしました?」
「寝るなら消してよ」
「いえ、見てます」
「うそ、今、目をつぶってたわよ」
「見てるってば」(昭和のお父さんか)
毎日家電に振り回されてます。
まずはホットプレート。
ピンク色でとても可愛いんです。マカロンみたいな可愛い蓋で、取っ手はイチゴ。
ショップで一目惚れして買いました。
ところがホットプレートはわがままで、パンケーキしか焼かせてくれないんです。
お好み焼きや焼きそばは、電源切って全力で拒否。
「おとぎの国には、お好み焼きも焼きそばもないわ」
餃子なんか焼こうとしたら、蓋で手をはさまれます。
「ここはおとぎの国よ。ニンニクの匂いがついたらどうしてくれるの?」
アリスだってシンデレラだって、目の前に餃子があれば食べますよね。
ああ、一度でいい。ニンニクたっぷりのタレで、焼き肉食べたーい!
それから電子レンジです。
すぐにキレて、口うるさいんです。
コンビニ弁当を温めようとした時です。
「はぁっ?なんでコンビニで温めてもらわないの?おれ今休憩中なんだけど」
「レジが混んでて」
「そんなのさあ、温めてる間に次の客の対応するから大丈夫なんだよ。だいたいさあ、いつも電気代が高いって愚痴ってる割に無駄なことしてるよね。分かったよ、温めてやるからスイッチ押せよ。あー、ほら、ブレーカー落ちた。あー、面倒くさいなあ。もう、冷えた弁当でも食ってろ」
ああ、これって、パワハラで訴えること出来ますか?
次は、コーヒーメーカーです。
コーヒーを飲んでリラックスしようと思うと、決まって話しかけてきます。
「これは、いくらのコーヒーかね?」
「200グラムで、500円くらいだったかしら」
「安い豆だな。まあいい、不景気だしな。ところで、僕には豆を挽く機能がついているのをご存知かな?ほう、知っているのに何故使わない? どうせ洗うのが面倒とか、そういう理由だろう。嘆かわしい。そういうことに手間をかけるからこそ旨いコーヒーが飲めるんだ。せっかくの素晴らしい機能を、なぜ使いこなすことが出来ないんだ。これでは宝の持ち腐れ。まあいい。安い豆でも100倍美味しく淹れたから飲みなさい」
ああ、コーヒーは美味しくても、ちっともリラックスできません。
極めつけはエアコンです、
20分ほどの外出だったので、エアコンをつけたまま出かけました。
ところが帰ってきたら部屋が寒いんです。まるで氷河期です。
なんとエアコンが、冷房になっていたのです。
「ちょっと、どうして冷房になってるの?」
「だって、室外機さんに悪くて。私は部屋の中で、冬はぬくぬく、夏はひんやり、快適に過ごしているけど、室外機さんは一年中外よ。寒くても暑くても、雨でも雪でも。室外機さんの気持ちを考えたら私、たまらくなっちゃって」
「気持ちは分かるわ。でもね、こんなに部屋を冷やしたら、電気代が高くなっちゃう。お願い、暖房に戻して」
「わかったわ。じゃあせめて、室外機さんに毛布を掛けてあげて。室外機さんの気持ちも考えてあげて。室外機さん、暖房に切り替えるわね。ごめんね、強く生きてね」
うわ、水漏れ。これってエアコンの涙? いや、迷惑なんだけど。
あー、きょうも疲れました。
ゴロンと横になったとたん「ちょっと!」と声がした。
「テレビさん、どうしました?」
「寝るなら消してよ」
「いえ、見てます」
「うそ、今、目をつぶってたわよ」
「見てるってば」(昭和のお父さんか)
小学生、浦島太郎 [名作パロディー]
はじめまして。浦島太郎です。
今日からこのクラスに編入しました。
特技は、魚を捕ることです。
よろしくお願いします。
僕は約600年前からタイムスリップしてきました。
海の中にある竜宮城っていうところから戻ったら、時代が大きく変わっていたのです。
親もいなくて、家もなくて、村はすっかり変わっていました。
途方に暮れていましたが、村……いや、この町の人はなぜかみんな僕のことを知っていました。
「浦島太郎さんでしょ」
「カメを助けて竜宮城に行った浦島さんよね」
僕は、意外と有名人でした。
町の人はみんな親切で、いろいろ世話をしてくれました。
600年の間に、この国が大きく変わったことを教えてくれました。
僕が学校へ行っていないことを知って、小学校から学ぶように勧めてくれました。
年齢は皆さんよりずいぶん上ですが、仲良くしてください。
「はい、みんな拍手!」
パチパチパチ
「ところで浦島君、急な編入だったから、君の給食が用意できなかったの。お弁当は持ってきた?」
「はい、組合長の奥さんが作ってくれました」
「それはよかったわ。3年生に混ざっての勉強は大変だけど頑張ってね。教科書とノートの使い方を説明するわね」
「はい、お願いします」
「みんなはちょっと自習しててね」
「はーい」
「なあ、浦島君の弁当って、あれかな?」
「きっとそうだよ。大事そうにふろしきに包んでる」
「きっと豪華な弁当なんだろうな」
「弁当箱大きいし、たぶんおかずもいっぱいだね」
「ローストビーフとか、エビフライとか入ってるかも」
「ちょっと開けて見ちゃおうぜ」
「ちょっと男子たち、やめなさいよ」
「いいじゃん。見るだけ、見るだけ」
「うわ、紐が掛かってる」
「高級なやつだ」
「いい、開けるよ。せーの」
パカ
「はーい、みんな、授業を始めますよ。えっ、なに、この煙。えっ、あの、どちらの老人会の方々ですか? うちの生徒たちはどこに?」
「先生、僕が乙姫様にもらった玉手箱が開いています。絶対開けるなって言われたのにな。あれ、先生、どこに行くんですか?」
「煙を浴びたら大変、私、婚活中なのよ」
乙姫様は、いったい何を下さったのだろう。
そしていきなり現れた老人たちは何?
僕のクラスメートたちは、どこに行ってしまったのかな?
(浦島君、家に帰ってうらしまたろうの物語を読んで下さい。すべて分かります)
今日からこのクラスに編入しました。
特技は、魚を捕ることです。
よろしくお願いします。
僕は約600年前からタイムスリップしてきました。
海の中にある竜宮城っていうところから戻ったら、時代が大きく変わっていたのです。
親もいなくて、家もなくて、村はすっかり変わっていました。
途方に暮れていましたが、村……いや、この町の人はなぜかみんな僕のことを知っていました。
「浦島太郎さんでしょ」
「カメを助けて竜宮城に行った浦島さんよね」
僕は、意外と有名人でした。
町の人はみんな親切で、いろいろ世話をしてくれました。
600年の間に、この国が大きく変わったことを教えてくれました。
僕が学校へ行っていないことを知って、小学校から学ぶように勧めてくれました。
年齢は皆さんよりずいぶん上ですが、仲良くしてください。
「はい、みんな拍手!」
パチパチパチ
「ところで浦島君、急な編入だったから、君の給食が用意できなかったの。お弁当は持ってきた?」
「はい、組合長の奥さんが作ってくれました」
「それはよかったわ。3年生に混ざっての勉強は大変だけど頑張ってね。教科書とノートの使い方を説明するわね」
「はい、お願いします」
「みんなはちょっと自習しててね」
「はーい」
「なあ、浦島君の弁当って、あれかな?」
「きっとそうだよ。大事そうにふろしきに包んでる」
「きっと豪華な弁当なんだろうな」
「弁当箱大きいし、たぶんおかずもいっぱいだね」
「ローストビーフとか、エビフライとか入ってるかも」
「ちょっと開けて見ちゃおうぜ」
「ちょっと男子たち、やめなさいよ」
「いいじゃん。見るだけ、見るだけ」
「うわ、紐が掛かってる」
「高級なやつだ」
「いい、開けるよ。せーの」
パカ
「はーい、みんな、授業を始めますよ。えっ、なに、この煙。えっ、あの、どちらの老人会の方々ですか? うちの生徒たちはどこに?」
「先生、僕が乙姫様にもらった玉手箱が開いています。絶対開けるなって言われたのにな。あれ、先生、どこに行くんですか?」
「煙を浴びたら大変、私、婚活中なのよ」
乙姫様は、いったい何を下さったのだろう。
そしていきなり現れた老人たちは何?
僕のクラスメートたちは、どこに行ってしまったのかな?
(浦島君、家に帰ってうらしまたろうの物語を読んで下さい。すべて分かります)
不快な通勤快速 [コメディー]
電車が揺れるたびに、コーヒーの空き缶が右へ左へゴロゴロ転がった。
今日の電車は、珍しく空いている。
私の右隣に座る女が言った。
「非常識ね。電車の中に空き缶を捨てるなんて。飲み終わって邪魔になったからって、平気でポイするなんて人間のクズよ」
私の左隣に座る男が、それに反論した。
「言い過ぎ。捨てたかどうかわからないよ。足元に置いたら転がっちゃったのかも。何でも悪く取るのは君の悪い癖だ」
「はあ?何いい人ぶってるのよ。このコウモリ男。誰にでもいい顔するから出世できないのよ」
「君みたいに粗探しする女が、陰でお局様なんて呼ばれるんだろうな」
「粗探しなんてしてないわ。私は正義感が強いだけよ」
「あの……」と私は、両隣のふたりの顔を交互に見ながら言った。
「席、代わりましょうか?」
この二人は、同じ車両の同じドアから乗ってきたが、まるで他人みたいに私を挟んで座った。二人連れだと分かっていたら席をずらしたのに。
「いいよ。代わらなくて」と男が言った。
「そうよ。見てわかるでしょ。私たちケンカ中なの」
「そうそう。隣に座ったら思い切り脛を蹴られる。そういう女なんだ」
「失礼ね。脛なんか蹴らないわよ。こっちのつま先が痛くなるわ」
ああ、居づらい。
そのときだ。乗って来た男子高校生が、足元の空き缶を蹴った。
その缶は、斜め前に座る老人の足に見事に当たった。
「ちょっと君、電車の中で缶を蹴るなんて非常識よ。おじいさんに謝りなさいよ」
女が言った。
「俺、サッカー部だから、足元に来たものは何でも蹴っちゃうの。そういう習性なの」
高校生は「めんどくせえ」と言いながら、車両を移ってしまった。
「まあ、なんて子。親の顔が見てみたい」
「あのさ、君も悪いよ」と男が言った。
「何が悪いの?」
「君はさっき、あのご高齢の方をおじいさんと呼んだけど、あの人は君のおじいさんじゃない。それに、もしかしたら老けて見えるだけで、そんなに年寄りじゃないかもしれない。おじいさんは失礼だよ。君だっておばさんって呼ばれたら嫌だろう」
「私はおばさんじゃないわ。でもあの人は誰がどう見てもおじいさんよ。要するにあなたは私が言うことを全部否定したいだけなのよ」
「そうじゃないよ。君はもっともらしく正義をかざすけど、根本に愛がない。自己満足なんだ」
「あら、言ってくれるじゃないの。そもそもあなたは……」
「あっ、降りる駅だ。続きは家でやろう」
「望むところよ。あっ、ビールあったかしら」
「コンビニ寄って行こう。久々にバドワイザーの気分」
「いいね。ビールの好みだけは合うわね、私たち」
二人は寄り添って電車を降りた。しんどかった。嵐が過ぎた気分だ。
そう思ったのもつかの間、今度は斜め前の老人が私の隣に移動して来た。
「ねえ、あんた。あたしゃおじいさんじゃないよ」
「はあ、そうですね」
「あたしゃ、ばあさんだ」
「えっ、あっ、そうですか。でも私、関係ないです。さっきの夫婦とは赤の他人です」
「関係あるよ」
老人は、ふふっと笑った。
「あの空き缶を捨てたのはあんただろう。あたしゃ見てたよ。あんたがシートの下に缶を投げるのをね」
あー、生きた心地がしないとはこのことだ。
確かに捨てた。私が捨てた。まさか見られていたなんて。
「あんた、降りるときに缶を拾って行くんだよ。あたしゃ終点まで行くからね。ずっと見てるよ」
老人はニタっと笑って元の席に戻った。
電車が揺れて、空き缶が私の足元に転がって来た。
飲み終わったときよりずいぶん汚れている。
「おかえり」
私は缶を拾い上げて、電車を降りた。あー、しんどかった。
今日の電車は、珍しく空いている。
私の右隣に座る女が言った。
「非常識ね。電車の中に空き缶を捨てるなんて。飲み終わって邪魔になったからって、平気でポイするなんて人間のクズよ」
私の左隣に座る男が、それに反論した。
「言い過ぎ。捨てたかどうかわからないよ。足元に置いたら転がっちゃったのかも。何でも悪く取るのは君の悪い癖だ」
「はあ?何いい人ぶってるのよ。このコウモリ男。誰にでもいい顔するから出世できないのよ」
「君みたいに粗探しする女が、陰でお局様なんて呼ばれるんだろうな」
「粗探しなんてしてないわ。私は正義感が強いだけよ」
「あの……」と私は、両隣のふたりの顔を交互に見ながら言った。
「席、代わりましょうか?」
この二人は、同じ車両の同じドアから乗ってきたが、まるで他人みたいに私を挟んで座った。二人連れだと分かっていたら席をずらしたのに。
「いいよ。代わらなくて」と男が言った。
「そうよ。見てわかるでしょ。私たちケンカ中なの」
「そうそう。隣に座ったら思い切り脛を蹴られる。そういう女なんだ」
「失礼ね。脛なんか蹴らないわよ。こっちのつま先が痛くなるわ」
ああ、居づらい。
そのときだ。乗って来た男子高校生が、足元の空き缶を蹴った。
その缶は、斜め前に座る老人の足に見事に当たった。
「ちょっと君、電車の中で缶を蹴るなんて非常識よ。おじいさんに謝りなさいよ」
女が言った。
「俺、サッカー部だから、足元に来たものは何でも蹴っちゃうの。そういう習性なの」
高校生は「めんどくせえ」と言いながら、車両を移ってしまった。
「まあ、なんて子。親の顔が見てみたい」
「あのさ、君も悪いよ」と男が言った。
「何が悪いの?」
「君はさっき、あのご高齢の方をおじいさんと呼んだけど、あの人は君のおじいさんじゃない。それに、もしかしたら老けて見えるだけで、そんなに年寄りじゃないかもしれない。おじいさんは失礼だよ。君だっておばさんって呼ばれたら嫌だろう」
「私はおばさんじゃないわ。でもあの人は誰がどう見てもおじいさんよ。要するにあなたは私が言うことを全部否定したいだけなのよ」
「そうじゃないよ。君はもっともらしく正義をかざすけど、根本に愛がない。自己満足なんだ」
「あら、言ってくれるじゃないの。そもそもあなたは……」
「あっ、降りる駅だ。続きは家でやろう」
「望むところよ。あっ、ビールあったかしら」
「コンビニ寄って行こう。久々にバドワイザーの気分」
「いいね。ビールの好みだけは合うわね、私たち」
二人は寄り添って電車を降りた。しんどかった。嵐が過ぎた気分だ。
そう思ったのもつかの間、今度は斜め前の老人が私の隣に移動して来た。
「ねえ、あんた。あたしゃおじいさんじゃないよ」
「はあ、そうですね」
「あたしゃ、ばあさんだ」
「えっ、あっ、そうですか。でも私、関係ないです。さっきの夫婦とは赤の他人です」
「関係あるよ」
老人は、ふふっと笑った。
「あの空き缶を捨てたのはあんただろう。あたしゃ見てたよ。あんたがシートの下に缶を投げるのをね」
あー、生きた心地がしないとはこのことだ。
確かに捨てた。私が捨てた。まさか見られていたなんて。
「あんた、降りるときに缶を拾って行くんだよ。あたしゃ終点まで行くからね。ずっと見てるよ」
老人はニタっと笑って元の席に戻った。
電車が揺れて、空き缶が私の足元に転がって来た。
飲み終わったときよりずいぶん汚れている。
「おかえり」
私は缶を拾い上げて、電車を降りた。あー、しんどかった。
お知らせ(本が出ます)
お知らせです。
3月25日に発売される児童文庫
「意味がわかると怖い3分間ノンストップショートストーリー ラストで君はゾッとする」
に、私の作品が載っています。
17の怖いお話が載っています。
ラストで君はシリーズは、小学生に大人気なので、すごく楽しみです。
近くなったら、しつこく宣伝するのでよろしくお願いします^^
3月25日は、みんなで本屋さんに行こう!!
予約受付中です↓
https://amzn.asia/d/1LfNBB9
3月25日に発売される児童文庫
「意味がわかると怖い3分間ノンストップショートストーリー ラストで君はゾッとする」
に、私の作品が載っています。
17の怖いお話が載っています。
ラストで君はシリーズは、小学生に大人気なので、すごく楽しみです。
近くなったら、しつこく宣伝するのでよろしくお願いします^^
3月25日は、みんなで本屋さんに行こう!!
予約受付中です↓
https://amzn.asia/d/1LfNBB9
コロナ禍の恋 [男と女ストーリー]
あの人は、病室の窓からいつも手を振ってくれた。
彼が交通事故で入院したと聞いてから、私は生きた心地がしなかった。
すぐにでもお見舞いに行きたかったけれど、コロナのせいで面会禁止。
事故でスマホも壊れたらしく、電話もメールも通じない。
心配で眠れない夜を過ごし、病院の裏庭で彼の病棟を眺めた。
命に別状はないと言っていたし、一目でも顔が見たいと思った。
そして5階の端の窓からあの人の姿が見えたとき、私の胸は大きく高鳴った。
ドキドキし過ぎて倒れそうなくらいだった。
「気づいて、気づいて」と念を送ったけれど、あの人は看護師との話に夢中で、私にまるで気づかない。
だけど逢えたことが嬉しくて、私は翌日も同じ時間に同じ窓を見た。
あの人が見えた。今日は、看護師はいない。
思い切って手を振ってみた。
「気づいて。私はここよ」
念が通じて、あの人が私を見て、少し戸惑いながら遠慮がちに手を振り返してくれた。
奥に昨日の看護師がいるのかもしれない。
はにかんだ笑顔が素敵。
それから毎日、同じ時間に彼の病棟を眺めた。
雨にも負けず、風にも負けず、花粉にも負けず、欠かさず出かけた。
そして私たちは、ほんの短い時間、見つめ合って手を振り合う。
触れ合えなくても、言葉を交わせなくても、気持ちは通じ合っている。
そしてついに、その日が来た。
彼が入院して1か月半、コロナが5類に移行して、面会が可能になった。
私はすぐに病院に行って、彼と面会をした。
5階の談話室に、松葉杖の彼が来た。
「リハビリきつくてさー。でももうすぐ退院できそうだよ」
「あらそう」
そんなことはどうでもよかった。
「トイレに行く」と嘘をついて、私は部屋を出た。
5階のいちばん端の部屋に行きたくて。
そう、私が会いたいのは彼じゃない。
毎日5階の端の窓から手を振り合った「あの人」。
たぶん、この病院のお医者さん。
一目惚れなの。あの人に会った途端、彼のことなんか頭の中からすっかり消えた。
いちばん端の部屋は「プライベートルーム」の札が掛かっていた。
患者さんは入れない。やはりあの人はお医者さんだ。
「どうしたの?」
いつのまにか彼が後ろに立っていた。
「そこ、医者の喫煙室だよ。もちろん患者は入れないし、喫煙室ってことも、一応秘密になってるらしい。今は色々うるさいだろ。それにさ、さぼりに来てる医者もいるらしいよ。ほら、ちょうど出てきた」
喫煙室から出て来たのは、あの人だった。
続いて、髪が少し乱れた看護師が赤い顔で出て来た。
あのときの看護師だ。何をしていたかは想像できる。
あの人は私をちらりと見て、すぐに視線を戻した。
「あの医者、常習犯」
彼が耳元で言った。
なあんだ。近くで見たら、全然大したことないじゃない。
ガッカリだ。一時の気の迷いってやつだ。そもそも私、彼氏いるし。
「ねえ、退院したら、美味しいもの食べに行こうね。リハビリ頑張って」
私は彼の手を優しく握った。
彼が交通事故で入院したと聞いてから、私は生きた心地がしなかった。
すぐにでもお見舞いに行きたかったけれど、コロナのせいで面会禁止。
事故でスマホも壊れたらしく、電話もメールも通じない。
心配で眠れない夜を過ごし、病院の裏庭で彼の病棟を眺めた。
命に別状はないと言っていたし、一目でも顔が見たいと思った。
そして5階の端の窓からあの人の姿が見えたとき、私の胸は大きく高鳴った。
ドキドキし過ぎて倒れそうなくらいだった。
「気づいて、気づいて」と念を送ったけれど、あの人は看護師との話に夢中で、私にまるで気づかない。
だけど逢えたことが嬉しくて、私は翌日も同じ時間に同じ窓を見た。
あの人が見えた。今日は、看護師はいない。
思い切って手を振ってみた。
「気づいて。私はここよ」
念が通じて、あの人が私を見て、少し戸惑いながら遠慮がちに手を振り返してくれた。
奥に昨日の看護師がいるのかもしれない。
はにかんだ笑顔が素敵。
それから毎日、同じ時間に彼の病棟を眺めた。
雨にも負けず、風にも負けず、花粉にも負けず、欠かさず出かけた。
そして私たちは、ほんの短い時間、見つめ合って手を振り合う。
触れ合えなくても、言葉を交わせなくても、気持ちは通じ合っている。
そしてついに、その日が来た。
彼が入院して1か月半、コロナが5類に移行して、面会が可能になった。
私はすぐに病院に行って、彼と面会をした。
5階の談話室に、松葉杖の彼が来た。
「リハビリきつくてさー。でももうすぐ退院できそうだよ」
「あらそう」
そんなことはどうでもよかった。
「トイレに行く」と嘘をついて、私は部屋を出た。
5階のいちばん端の部屋に行きたくて。
そう、私が会いたいのは彼じゃない。
毎日5階の端の窓から手を振り合った「あの人」。
たぶん、この病院のお医者さん。
一目惚れなの。あの人に会った途端、彼のことなんか頭の中からすっかり消えた。
いちばん端の部屋は「プライベートルーム」の札が掛かっていた。
患者さんは入れない。やはりあの人はお医者さんだ。
「どうしたの?」
いつのまにか彼が後ろに立っていた。
「そこ、医者の喫煙室だよ。もちろん患者は入れないし、喫煙室ってことも、一応秘密になってるらしい。今は色々うるさいだろ。それにさ、さぼりに来てる医者もいるらしいよ。ほら、ちょうど出てきた」
喫煙室から出て来たのは、あの人だった。
続いて、髪が少し乱れた看護師が赤い顔で出て来た。
あのときの看護師だ。何をしていたかは想像できる。
あの人は私をちらりと見て、すぐに視線を戻した。
「あの医者、常習犯」
彼が耳元で言った。
なあんだ。近くで見たら、全然大したことないじゃない。
ガッカリだ。一時の気の迷いってやつだ。そもそも私、彼氏いるし。
「ねえ、退院したら、美味しいもの食べに行こうね。リハビリ頑張って」
私は彼の手を優しく握った。
ライバル [コメディー]
正蔵さんと大助さんは、隣同士の幼なじみ。
同じ日に生まれ、生まれたときからのライバル関係だ。
どちらが先に歩くか、どちらが先にしゃべるか。
学校へ上がれば成績、スポーツ、ラブレターの数さえも競い合うようになった。
同じころに結婚して息子が生まれると、今度は息子同士を競わせた。
そして月日は流れ、今度は孫の番だ。
「おおい、香里、香里はどこだ」
「どうしたの、おじいちゃん。ここにいるよ」
「香里、隣の沙恵が梅むすめに選ばれたぞ」
「梅むすめ? ああ、梅まつりのキャンペーンガールね」
「どうして正蔵の孫が梅むすめなんだ。香里の方がずっと可愛いじゃないか」
「おじいちゃん、私は応募してないよ。興味ないし、やりたくないよ」
「いや、今からでも遅くない。市長に掛け合ってやるから、梅むすめやりなさい」
「やだよ。別にいいじゃん。やりたい人がやれば」
「それじゃあ隣に負けちゃうじゃないか」
「おじいちゃん、そういう時代じゃないよ。私と沙恵は、何も競い合ったりしないよ。ずっと仲良しだもん。まあ、確かに沙恵より私の方が可愛いのは事実だけどね」
沙恵と香里は19歳。同じ大学に通っている。
「そんなわけでさ、おじいちゃんがうるさくて」
「ごめん香里。うちのじいちゃんが自慢したんだ。梅むすめなんて、ちょっと愛想がよければ誰でもなれるのにさ」
「ああ、沙恵は愛想だけはいいからね。私はダメだわ。知らないおじさんと写真とか撮りたくないし」
「そうだね。香里はすぐ顔に出るからね」
「ところでさ、おじいちゃんたちの競い合い、いつまで続くんだろうね」
「本当だね。つまらないことに神経使わずに、もっと世の中の役に立つことすればいいのにね」
「あっ、それだ」
香里が家に帰ると、大助さんは全国のキャンペーンガールの情報を集めていた。
「香里、これはどうだ。納豆むすめ」
「だからそういうのはいいってば。それよりおじいちゃん、隣の正蔵さん、被災地に寄付したんだって」
「なに?」
「えらいよね。1万円ぐらい寄付したって言ってたかな」
「こうしちゃおれん。2万円寄付する」
正蔵さんと大助さんは、競い合うように被災地に寄付をした。
「おじいちゃんたち、本当に負けず嫌いだね」
「うん。でもこれで、被災地の人が少しでも助かればいいでしょ」
「さすが、香里は頭いいね」
「英語は沙恵とビリ争いしてたけどね」
「そうだった。あたしたち、ビリを競い合ってたね」
「でもさ、沙恵はどうして梅むすめに応募したの?英語しゃべれないのに。外人に話しかけられたらどうするの?」
「えへへ。それは大丈夫。今、彼にマンツーマンで教えてもらってるの」
「彼って?」
「留学生のマイクよ」
「うそ、あのイケメンのアメリカ人?まさか、沙恵……」
「実は付き合ってるの。黙っててごめんね。彼氏いない歴19年の香里には、なかなか言いづらくて」
「何それ。私がその気になれば、いくらでも彼氏できるから。すっごいイケメン見つけるから。ああ、そうだ。納豆むすめ、応募しよう。私、納豆むすめのセンター目指すから。じゃあね、おやすみ」
香里を見送って、沙恵は肩をすくめた。
「ふう。相変わらず負けず嫌いだな、香里は。おじいちゃんにそっくり。納豆むすめのセンター? 無理じゃん、愛想ないし。それよりあたしも募金しよう。お年玉いっぱいもらったから」
「おい香里、隣の沙恵が被災地に募金したらしいぞ」
「えっ、じゃあ私もする。負けてられないわ」
こういう競い合いならいいかも……。
同じ日に生まれ、生まれたときからのライバル関係だ。
どちらが先に歩くか、どちらが先にしゃべるか。
学校へ上がれば成績、スポーツ、ラブレターの数さえも競い合うようになった。
同じころに結婚して息子が生まれると、今度は息子同士を競わせた。
そして月日は流れ、今度は孫の番だ。
「おおい、香里、香里はどこだ」
「どうしたの、おじいちゃん。ここにいるよ」
「香里、隣の沙恵が梅むすめに選ばれたぞ」
「梅むすめ? ああ、梅まつりのキャンペーンガールね」
「どうして正蔵の孫が梅むすめなんだ。香里の方がずっと可愛いじゃないか」
「おじいちゃん、私は応募してないよ。興味ないし、やりたくないよ」
「いや、今からでも遅くない。市長に掛け合ってやるから、梅むすめやりなさい」
「やだよ。別にいいじゃん。やりたい人がやれば」
「それじゃあ隣に負けちゃうじゃないか」
「おじいちゃん、そういう時代じゃないよ。私と沙恵は、何も競い合ったりしないよ。ずっと仲良しだもん。まあ、確かに沙恵より私の方が可愛いのは事実だけどね」
沙恵と香里は19歳。同じ大学に通っている。
「そんなわけでさ、おじいちゃんがうるさくて」
「ごめん香里。うちのじいちゃんが自慢したんだ。梅むすめなんて、ちょっと愛想がよければ誰でもなれるのにさ」
「ああ、沙恵は愛想だけはいいからね。私はダメだわ。知らないおじさんと写真とか撮りたくないし」
「そうだね。香里はすぐ顔に出るからね」
「ところでさ、おじいちゃんたちの競い合い、いつまで続くんだろうね」
「本当だね。つまらないことに神経使わずに、もっと世の中の役に立つことすればいいのにね」
「あっ、それだ」
香里が家に帰ると、大助さんは全国のキャンペーンガールの情報を集めていた。
「香里、これはどうだ。納豆むすめ」
「だからそういうのはいいってば。それよりおじいちゃん、隣の正蔵さん、被災地に寄付したんだって」
「なに?」
「えらいよね。1万円ぐらい寄付したって言ってたかな」
「こうしちゃおれん。2万円寄付する」
正蔵さんと大助さんは、競い合うように被災地に寄付をした。
「おじいちゃんたち、本当に負けず嫌いだね」
「うん。でもこれで、被災地の人が少しでも助かればいいでしょ」
「さすが、香里は頭いいね」
「英語は沙恵とビリ争いしてたけどね」
「そうだった。あたしたち、ビリを競い合ってたね」
「でもさ、沙恵はどうして梅むすめに応募したの?英語しゃべれないのに。外人に話しかけられたらどうするの?」
「えへへ。それは大丈夫。今、彼にマンツーマンで教えてもらってるの」
「彼って?」
「留学生のマイクよ」
「うそ、あのイケメンのアメリカ人?まさか、沙恵……」
「実は付き合ってるの。黙っててごめんね。彼氏いない歴19年の香里には、なかなか言いづらくて」
「何それ。私がその気になれば、いくらでも彼氏できるから。すっごいイケメン見つけるから。ああ、そうだ。納豆むすめ、応募しよう。私、納豆むすめのセンター目指すから。じゃあね、おやすみ」
香里を見送って、沙恵は肩をすくめた。
「ふう。相変わらず負けず嫌いだな、香里は。おじいちゃんにそっくり。納豆むすめのセンター? 無理じゃん、愛想ないし。それよりあたしも募金しよう。お年玉いっぱいもらったから」
「おい香里、隣の沙恵が被災地に募金したらしいぞ」
「えっ、じゃあ私もする。負けてられないわ」
こういう競い合いならいいかも……。
龍の子ども [ファンタジー]
結婚して7年経ちますが、なかなか子宝に恵まれません。
夫とふたりで出掛けた初詣の神社で、私は熱心に祈りました。
「どうか今年こそ、子どもが授かりますように」
夫が毎年欠かさず参拝するこの神社は、龍神様を祀っています。
急に辺りが暗くなりました。
多くの参拝客で賑わっていたはずの拝殿から人が消えました。
何が起こったのでしょう。
「おまえに子どもを授けてやろう」
暗やみから声がしました。大地を這うような恐ろしい声です。
怯える私の前に、大きな龍が現れました。血の塊みたいな赤い目で私を見ました。
「願いを、聞いてくださるのですか?」
「ああ、授けよう。ただし生まれてくる子は龍の子どもだ。大切に育てろ」
「龍の子ども? それはどういうことですか」
龍は、私の問いには答えずに消えてしまいました。
気がつくと私は、神社の隅でうずくまっていました。
「大丈夫? 貧血かな」
夫が心配そうに背中をさすってくれました。
「違うの。私、たぶん妊娠した」
「えっ」
私は本当に子どもを授かりました。
夫はとても喜びましたが、私は不安でした。
あの龍のお告げが、夢だとは思えなかったからです。
龍が生まれた子どもをさらっていくのではないか、そんなことばかり考えました。
だけどお腹が大きくなるにつれて、そんな不安は消えました。
私の中に宿った小さな命が愛おしくてたまりませんでした。
とにかく無事に生まれて欲しい。そればかり祈りました。
秋になって、私は女の子を出産しました。
紛れもない人間の赤ん坊です。鱗もなければ角もありません。
「可愛いなあ」
夫は生まれたばかりの子どもを不器用に抱きながら、優しく頬ずりしました。
ホッとしました。神様は、純粋に私の願いを聞いてくれただけなのです。
恐れることなど何もありません。
「お宮参りに行こう」
夫が言いました。
「君の祈りが通じて僕たちは親になれた。龍神様にお礼に行こう」
初詣の記憶が甦って少し怖くなりましたが、夫の言う通り、きちんとお礼をしようと思いました。
すやすや眠る娘を抱いて、神社に行きました。
拝殿の前に立つと、突然娘が目が開けて私を見ました。
その目は、赤く光っていました。
あのときの龍と同じ目です。驚いて思わず娘を落としそうになりました。
「大丈夫。気を付けてくれよ。僕たちの宝物なんだから」
夫が、私の代わりに娘を抱きました。
そして娘を抱いたまま、長い長いお祈りをしました。
祈りを終えた夫が振り向いて言いました。
「大丈夫だよ。龍神様はこの子を連れて行ったりしないから」
「えっ?」
夫は娘の頬を優しく撫でながら微笑みました。夫はすべてを知っていたのです。
「じつは僕も、龍の子どもなんだ。母が36年前に授かった子どもだよ」
夫は毎年龍神様に、元気で生きていることを伝えているそうです。
「毎年お参りを欠かさなければ大丈夫」
夫が私の手を握りました。温かい大きな手です。
「毎年お参りに来るわ。この子を大切に育てるわ」
私は夫の肩にそっと寄り添いました。
娘はすくすく成長しています。毎日幸せです。
辰年生まれの夫と娘が、ふたりで空を見上げています。
その目が赤く光っていることには、気づかない振りをしています。
*****
あけましておめでとうございます……とはいえ、もう1月も半ばです。
正月休みがいつもより長かったことと、我が家にしては珍しく2回も温泉旅行に行ったおかげで、どうもペースを戻せません。
とりあえず、こんな私ですが今年もよろしくお願いします。
夫とふたりで出掛けた初詣の神社で、私は熱心に祈りました。
「どうか今年こそ、子どもが授かりますように」
夫が毎年欠かさず参拝するこの神社は、龍神様を祀っています。
急に辺りが暗くなりました。
多くの参拝客で賑わっていたはずの拝殿から人が消えました。
何が起こったのでしょう。
「おまえに子どもを授けてやろう」
暗やみから声がしました。大地を這うような恐ろしい声です。
怯える私の前に、大きな龍が現れました。血の塊みたいな赤い目で私を見ました。
「願いを、聞いてくださるのですか?」
「ああ、授けよう。ただし生まれてくる子は龍の子どもだ。大切に育てろ」
「龍の子ども? それはどういうことですか」
龍は、私の問いには答えずに消えてしまいました。
気がつくと私は、神社の隅でうずくまっていました。
「大丈夫? 貧血かな」
夫が心配そうに背中をさすってくれました。
「違うの。私、たぶん妊娠した」
「えっ」
私は本当に子どもを授かりました。
夫はとても喜びましたが、私は不安でした。
あの龍のお告げが、夢だとは思えなかったからです。
龍が生まれた子どもをさらっていくのではないか、そんなことばかり考えました。
だけどお腹が大きくなるにつれて、そんな不安は消えました。
私の中に宿った小さな命が愛おしくてたまりませんでした。
とにかく無事に生まれて欲しい。そればかり祈りました。
秋になって、私は女の子を出産しました。
紛れもない人間の赤ん坊です。鱗もなければ角もありません。
「可愛いなあ」
夫は生まれたばかりの子どもを不器用に抱きながら、優しく頬ずりしました。
ホッとしました。神様は、純粋に私の願いを聞いてくれただけなのです。
恐れることなど何もありません。
「お宮参りに行こう」
夫が言いました。
「君の祈りが通じて僕たちは親になれた。龍神様にお礼に行こう」
初詣の記憶が甦って少し怖くなりましたが、夫の言う通り、きちんとお礼をしようと思いました。
すやすや眠る娘を抱いて、神社に行きました。
拝殿の前に立つと、突然娘が目が開けて私を見ました。
その目は、赤く光っていました。
あのときの龍と同じ目です。驚いて思わず娘を落としそうになりました。
「大丈夫。気を付けてくれよ。僕たちの宝物なんだから」
夫が、私の代わりに娘を抱きました。
そして娘を抱いたまま、長い長いお祈りをしました。
祈りを終えた夫が振り向いて言いました。
「大丈夫だよ。龍神様はこの子を連れて行ったりしないから」
「えっ?」
夫は娘の頬を優しく撫でながら微笑みました。夫はすべてを知っていたのです。
「じつは僕も、龍の子どもなんだ。母が36年前に授かった子どもだよ」
夫は毎年龍神様に、元気で生きていることを伝えているそうです。
「毎年お参りを欠かさなければ大丈夫」
夫が私の手を握りました。温かい大きな手です。
「毎年お参りに来るわ。この子を大切に育てるわ」
私は夫の肩にそっと寄り添いました。
娘はすくすく成長しています。毎日幸せです。
辰年生まれの夫と娘が、ふたりで空を見上げています。
その目が赤く光っていることには、気づかない振りをしています。
*****
あけましておめでとうございます……とはいえ、もう1月も半ばです。
正月休みがいつもより長かったことと、我が家にしては珍しく2回も温泉旅行に行ったおかげで、どうもペースを戻せません。
とりあえず、こんな私ですが今年もよろしくお願いします。
おとぎ話(笑)34 [名作パロディー]
<泣いた赤鬼>
青鬼のおかげで人間と仲良くなれた赤鬼の元に、村役場の役人がやってきました。
「赤鬼さん、あなたを人間として住民登録することになりました」
「本当ですか」
「はい。これ、住民票です」
「ありがとうございます」
「これ、住民税と固定資産税の納付書です」
「これ、国民年金の納付書です」
「NHKの視聴料お願いします」
「あっ、赤鬼さん、泣いてる」
「人間になれてうれしいのかな?」
……違うと思う。
<シンデレラ>
お城の舞踏会に行きたいシンデレラの前に、魔法使いが現れました。
ボロボロの服を素敵なドレスに
カボチャを馬車に
ネズミを馬に変えてくれました。
「さあシンデレラ、舞踏会にお行きなさい。ただし午前0時に魔法が解けるから、それまでに帰るのよ」
「はい、わかりました。ところで魔法使いさん、ひとつだけ質問があります」
「何だい?」
「このカボチャ、魔法が解けたら食べられます? スープにする予定なんだけど」
「生活感ありすぎ。。。」
<笠じぞう>
「おじいさん、今年もお地蔵さまに笠かぶせたんですよね」
「ああ、かぶしてきたぞ」
「じゃあどうしてお礼の品を持ってこないんです? もう正月ですよ」
「そうだな。当てにしていたのにな」
「おじいさん、ちゃんと去年と同じように笠かぶせましたよね? 最後のお地蔵さまには、自分の手ぬぐいを取ってかぶせましたよね」
「いや、全部のお地蔵さまに笠をかぶせた。人数分用意したんだ」
「ああ、それだ!」
「それって?」
「自分の手ぬぐいを取ってまでかぶせることに意味があるんですよ。笠をかぶせるだけじゃ弱いんですよ、エピソードが!」
「エ、エピソード? そういうもの?」
「そういうものですよ、世の中というのは。いいですか、次はちゃんと自分の手ぬぐいを外してかぶせるんですよ。分かりましたね。ちゃんとやってくださいよ。生活かかってるんだから」
「わかった」
……忘れてただけなんだけどなあ(地蔵)
<不思議の国のアリス>
あら、時計を持ったウサギさんが走っているわ。
「ウサギさん、そんなに急いでどこへ行くの?」
「うさぎ年がもうすぐ終わるんだよ」
「まあ、大変」
「あんたもブログなんか書いてないで、大掃除でもしたら」
ギク!!
*****
あっという間に30日。今年もあと少しですね。
大掃除の合間を縫って書いております(笑)
みなさま、今年も読んで下さってありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。
青鬼のおかげで人間と仲良くなれた赤鬼の元に、村役場の役人がやってきました。
「赤鬼さん、あなたを人間として住民登録することになりました」
「本当ですか」
「はい。これ、住民票です」
「ありがとうございます」
「これ、住民税と固定資産税の納付書です」
「これ、国民年金の納付書です」
「NHKの視聴料お願いします」
「あっ、赤鬼さん、泣いてる」
「人間になれてうれしいのかな?」
……違うと思う。
<シンデレラ>
お城の舞踏会に行きたいシンデレラの前に、魔法使いが現れました。
ボロボロの服を素敵なドレスに
カボチャを馬車に
ネズミを馬に変えてくれました。
「さあシンデレラ、舞踏会にお行きなさい。ただし午前0時に魔法が解けるから、それまでに帰るのよ」
「はい、わかりました。ところで魔法使いさん、ひとつだけ質問があります」
「何だい?」
「このカボチャ、魔法が解けたら食べられます? スープにする予定なんだけど」
「生活感ありすぎ。。。」
<笠じぞう>
「おじいさん、今年もお地蔵さまに笠かぶせたんですよね」
「ああ、かぶしてきたぞ」
「じゃあどうしてお礼の品を持ってこないんです? もう正月ですよ」
「そうだな。当てにしていたのにな」
「おじいさん、ちゃんと去年と同じように笠かぶせましたよね? 最後のお地蔵さまには、自分の手ぬぐいを取ってかぶせましたよね」
「いや、全部のお地蔵さまに笠をかぶせた。人数分用意したんだ」
「ああ、それだ!」
「それって?」
「自分の手ぬぐいを取ってまでかぶせることに意味があるんですよ。笠をかぶせるだけじゃ弱いんですよ、エピソードが!」
「エ、エピソード? そういうもの?」
「そういうものですよ、世の中というのは。いいですか、次はちゃんと自分の手ぬぐいを外してかぶせるんですよ。分かりましたね。ちゃんとやってくださいよ。生活かかってるんだから」
「わかった」
……忘れてただけなんだけどなあ(地蔵)
<不思議の国のアリス>
あら、時計を持ったウサギさんが走っているわ。
「ウサギさん、そんなに急いでどこへ行くの?」
「うさぎ年がもうすぐ終わるんだよ」
「まあ、大変」
「あんたもブログなんか書いてないで、大掃除でもしたら」
ギク!!
*****
あっという間に30日。今年もあと少しですね。
大掃除の合間を縫って書いております(笑)
みなさま、今年も読んで下さってありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。
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