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お知らせ(家の光童話賞・新美南吉童話賞) [公募]

ワールドカップ、盛り上がっていますね。
私も朝から応援しました。
日本代表に力をもらいました。寝不足だけど^^

さて、いつもブログを読んでくださる皆さま、ありがとうございます。
このたび、家の光童話賞の大賞をいただきました。

そして、なんともうひとつ。
新美南吉童話賞の最優秀賞をいただきました。
こちらは、オマージュ部門の大賞とのダブル受賞です。

これから季節は寒い冬なのに、私、お花畑にいるみたい。
大きな童話賞を二つもいただけるなんて。
浮かれてます。

家の光童話賞は、雑誌「家の光」1月号で読むことが出来ます。
すごく可愛い挿絵が付いてます。
チェックしてみてください。

PXL_20221202_133158342.MP.jpg

新美南吉童話賞は、ホームページで読むことが出来ます。
こちらもどうぞ。

http://www.nankichi.gr.jp/Dowasyo/kekka34.html

家の光からは、賞状と楯が届きました。
あまりに立派な楯で、これは家宝にするしかないです^^
毎日拝みます。

PXL_20221130_103831718.jpg

長く続けていると、ステキなご褒美がもらえるものですね。
これからも、いい報告が出来るように頑張ります^^
いつもありがとう!!


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コタツ生活 [コメディー]

朝、いつものようにタカシ君を迎えに行った。
「タカシ君。学校行こう」
家の中から声がした。
「ごめん、ユウ君。コタツから出られないんだ」
「えっ、何言ってるの? 早くおいでよ」
タカシ君のお母さんが出てきて言った。
「ごめんね、ユウ君。コタツがタカシを放してくれないのよ。今日はお休みさせるから、ユウ君ひとりで行ってね。気を付けるのよ」
「はあい」

???コタツがタカシ君を放さないってどういうこと?
寒くてコタツから出られないだけだろう。

学校が終わってから、ぼくはまたタカシ君の家に行った。
「タカシ君、プリント持ってきたよ」
「ユウ君、玄関開いてるから入って」
「おじゃましまーす」と上がって部屋に行くと、タカシ君はコタツに寝そべってマンガを読んでいた。
「なんだ。やっぱりさぼりじゃないか」
「違うよ。コタツがぼくを放さないんだ。コタツ布団をめくってごらん」
言われた通りめくってみると、コタツの足がタカシ君の足に絡まっている。
「ねっ、コタツから出られない理由がわかったでしょ」
「大変じゃないか。トイレとかどうするの?」
「それがさ、ぜんぜん平気なんだよね。ぼくの身体がコタツの一部になったみたいでさ、感覚がないんだ。ほら、コタツはトイレ行かないだろう」
「つらくないの?」
「ぜんぜん。だってこうしてマンガは読めるしご飯も食べられるよ。それに何よりあったかいからね」
ぼくは、プリントを置いて帰った。
タカシ君は、コタツの中で手を振った。

翌日も、プリントを持ってタカシ君の家に行った。
今度は、お母さんもいた。コタツに入りながらミカンを食べている。
「もしかして、お母さんも?」
「そうなのよ。夕べうっかりコタツで寝ちゃったら、もう出られなくなっちゃたのよ」
「ごはんとか、どうするんですか」
「ああ、ウーバーイーツがあるから大丈夫。スマホがあれば何でも買えるわ。あら、来たみたい。ユウ君、悪いけど受け取ってくれる。そうだ。パパに電話して、明日のパンを買ってきてもらいましょ」
コタツの一部になっても、お腹は空くんだな~と思いながら、玄関でお弁当を受け取った。

家に帰って、ママに尋ねた。
「ねえママ、うちにはコタツはないの?」
「ないわよ。コタツは人間を怠惰にさせるからね。コタツから出られなくなったら困るでしょ。私はこの温風ヒーターがあれば充分よ。ほら、温かいわよ」
ママが温風ヒーターにへばりついた。
温風ヒーターから手が伸びて、ママの足に絡みついた。
「あらいやだ。温風ヒーターの前から離れられなくなっちゃった。ユウちゃん、テレビのリモコンとスマホとお茶とミカン、手の届くところに置いてちょうだい」

なんてこった。早く春が来ないかな。
(まだ11月です)

****
ニュースつくば、「短いおはなし」25日掲載です。
お時間あるときにどうぞ。

https://newstsukuba.jp/

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ホチキッス [男と女ストーリー]

中条さんは文房具マニアだ。デスクの上は遊園地みたいだ。
パラソルみたいな七色のマーカーや、マーブル模様のボールペン、ハサミはワニの形だし、定規はピアノの鍵盤になっている。

瀬尾君は、この部署に移動して半年になる。
へんてこな文房具を愛する中条さんが気になっている。
中条さんは、誰にでも惜しげなく文房具を貸す。
マカロンみたいな消しゴムも、パンダの付箋も、カタツムリのセロテープも笑顔で差し出す。
だけど、なぜかホチキスだけは、誰にも貸さなかった。

ある日瀬尾君は見てしまった。
中条さんの引き出しに、ひっそり収まるホチキスを。
それは古い紺色のホチキスだった。カラフルなハートのクリップの隣で、それはやけに地味だった。
瀬尾君は不思議に思った。なぜそれだけが正統派の事務用品なのだろう。
可愛いホチキスって売っていないのかな。
地味だから誰にも貸したくないのかな。

「あのホチキスは、中条さんの恋人の形見だよ」
飲み会の席で、先輩社員が言った。
「同じ職場に恋人がいたんですか」
「ああ、結婚話も出てたけど、3年前に事故で亡くなったんだ」
瀬尾君は思った。
中条さんがヘンテコな文房具を集めるようになったのは、彼の形見のホチキスが寂しくないように、引き出しをカラフルにしているのかもしれない。
彼女の笑顔の裏には、どれだけの悲しみが隠れているのだろう。
くるくる回る地球儀が付いたシャープペンシルも、光るロボット型の電卓も、きっとあのホチキスにはかなわない。

すっかり冷え込んだ11月の下旬、瀬尾君は営業先のトラブルで、すっかり帰りが遅くなった。
誰もいないと思ったら、オフィスに弱い灯りが点いていた。
残っていたのは中条さんだ。彼女がこんな遅くまで残業しているなんて珍しい。

中条さんは、あのホチキスを見ていた。
包みこむように両手に乗せて、愛おしそうに眺めている。

中条さんは、そっと唇を寄せて、ホチキスに優しくキスをした。
瀬尾君は、慌てて身をひるがえし、忍者のようにロッカーの陰に隠れた。
中条さんは、暫く頬を寄せていたホチキスを仕舞って、静かに立ち上がった。
歩き出した彼女が泣いていたのは、暗くても何となくわかった。
中条さんは時おり、誰もいなくなったオフィスで、恋人が残したホチキスを抱きしめているのだ。

彼女が帰った後、瀬尾君はそっと引き出しを開けた。
古くて地味な紺色のホチキスに、中条さんの唇の跡が付いている。
さくら貝みたいに可愛らしい唇の跡がライトに浮かび上がっている。
瀬尾君は、愛おしくてたまらない気持ちになった。
間接キス……したい。

瀬尾君は、ホチキスを取り出して、中条さんの唇の跡が残ったところに自分の唇を近づけた。
唇が触れそうになった時、突然ホチキスがパックリ口を開けた。
「えっ?」と思ったのもつかの間、ホチキスは瀬尾君の下唇にガシャンと針を刺して、どこかへ消えてしまった。
「いててて。すみません。もうしません」
瀬尾君は、ヒイヒイ言いながら、ホチキスの針を外した。
血がにじんだ口の中は、錆びた鉄と情けない罪悪感の味がした。

翌日、中条さんは引き出しを開けて、ホチキスがないことに気づく。
だけど彼女は、まるで気にしない。
いつか別れが来ることを、わかっていたようだ。
「瀬尾君、今度ホチキス買いに行くの、付き合ってくれる?」
「も、もちろん」
微笑む中条さんの唇に、思わず赤面する瀬尾君だった。

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抜け殻あつめ [ミステリー?]

「子どもの頃、セミの抜け殻を集めるのが好きだったの」
彼女は甘いカクテルを飲みながら、そんな話をした。
「机の引き出しが、ひとつ丸々抜け殻で埋まったの。それを見つけた母親が悲鳴を上げて全部捨てたわ」
「ひどいね。せっかく集めたのに」
「そうね。私には宝物でも、母にはただ気持ち悪いだけのゴミだったのね」
「俺も好きだったよ。セミの抜け殻。形を残したまま空っぽになるなんて、ある意味芸術だよ」
「あなたとは気が合うわ。ねえ、私、また抜け殻を集めているんだけど、よかったら見に来る?」
俺は、カウンターの下でガッツポーズをした。

彼女は、いわゆる「あげまん」だ。
彼女と付き合った男は必ず出世する。
営業部のTは彼女と付き合ってから成績が伸びて、同期で初めて課長になった。
うだつが上がらなかったYは、彼女と不倫してからとんとん拍子に出世して、今は総務部の部長だ。
ひょんなことから社長に気に入られて正社員になったアルバイトのK。
大手企業からヘッドハンティングされたA。
株で大儲けしたS。
数多くの男が、彼女を踏み台にして出世していった。
俺もあやかりたくて食事に誘ったら、彼女はあっさりついてきた。
しかも最初のデートで部屋に誘ってきた。
よし、これで出世コースまっしぐらだ。

彼女の家は、小さなアパートだった。
たくさんの男たちを出世させたのに、やけに質素な暮らしぶりだ。
「狭い部屋でごめんなさいね」
「いや、一人暮らしにはちょうどいいよ」
「そうなんだけどね。増えてきちゃったから広い部屋に引っ越そうかと思っているの」
「増えちゃったって、何が?」
「言ったでしょ。抜け殻よ。集めすぎて増えちゃった」
セミの抜け殻が増えたところで、たかが知れてると思いながらリビングに入った俺は、目の前の光景に、思わず後ずさりした。

リビングには、亡霊みたいにさまよう男たちがいた。
「なにこれ」
「元カレたちの抜け殻。みんな私の部屋で脱皮していくの。一皮むけて立派になって出ていくの。残った抜け殻が、私のコレクション。どう?いいでしょう」
よく見ると、知っている顔がいくつかある。
彼らは、背景が見えるくらい透き通った体で、ゆらゆら動いている。
その目は焦点が合わず、恐らく何も見ていない。
「生きてるの?」
「生きてるか死んでるか、自分でもわからないのよ。だって抜け殻だもん」
見ているうちに、気持ちが悪くなってきた。
このまま彼女と付き合ったら、俺の抜け殻も、こいつらと一緒にさまようのか。
いやだ。吐き気がする。彼女は平気なのか?
俺は部屋を飛び出して、最終電車で家に帰った。

3か月後、後輩がプロジェクトリーダーに大抜擢された。
遊びと女の話ばかりだったのに、やけにやる気に満ちている。
「お前、もしかして、あげまんの家に行ったのか?」
「行きましたよ。2か月前に、駅でばったり会って誘われたんです」
「抜け殻を見ただろ。気持ち悪くないか?お前の抜け殻も、あの部屋にいるんだぞ」
「抜け殻なんてどうでもいいです。セミだって、抜け殻気にして鳴かないでしょ」
「そうだけどさ」
「あっ、先輩すみません。俺、今から専務と食事なんです。お嬢さんを紹介してくれるって」

ヤバい。このままでは、後輩が上司になる。
俺はあげまんのところに行った。
「今日、家に行ってもいい?俺も君のコレクションに加えて欲しい」
「ああ、あれは、もうやめたの」
「どうして?」
「週末に母が上京して、全部捨てちゃったの。私には宝物でも、母には気持ち悪いゴミだったのよ。だからね、もうどうでもよくなっちゃった」
彼女はさっぱりした顔で笑った。
どこかのゴミ捨て場で、揺れている抜け殻が浮かんだ。
気持ち悪い。俺、やっぱ出世しなくていいや。

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姉の存在

姉は子どもの頃から、わがままで手に負えなかったという。
中学くらいから悪い仲間と付き合いだして、万引きで捕まって高校を退学。
18歳で家を出てから10年間、一度も帰ってこない。

子どもの頃から大人しかった私は、姉を反面教師にして高校・大学を問題なく卒業した。
今は、地元ではわりと大きな安定した会社で働いている。
姉と違って優等生。それが私の立ち位置だ。

父も母も、姉の話をしない。
部屋はそのまま残っているのに、最初からいないように話題を避ける。

ある日、家族でご飯を食べていたら、テレビで詐欺師が捕まったニュースをやっていた。
その詐欺師が、姉と同姓同名だったので、私たちは箸を止めてテレビを見た。
だけど捕まった女は50過ぎの太った女で、ちらりと映った顔は姉とはまるで別人だった。
姉の名前はありふれているから、こういうことは時々ある。
「あー、びっくりした」
「いくら何でも詐欺なんてねえ」
「お姉ちゃんが、そんなことするわけないよ」
私が言うと、父と母は黙って下を向いた。

「どうだ。仕事は大変か?」と父が話題を変える。
「大丈夫。みんな優しいから」
「いい会社でよかったわね」
テレビは天気予報に変わり、いつもの食卓が戻った。

クリスマスソングが流れるショッピングモール。
街には、キラキラしたものが溢れている。
大好きなファンシーショップで、リップクリームや髪留めやアクセサリーをポケットに入れた。
初めてじゃない。
防犯カメラが死角になる場所を、私は知っている。

店を出ようとしたら、腕をつかまれた。
「返しなさい」
耳元でささやかれて振り向くと、姉だった。

商品を全部戻した後、フードコートの隅っこで姉と向き合った。
「仕事うまくいかないの?」
「うん。怒られてばっかり。私は真面目過ぎて機転が利かないんだって。お昼休みもひとりだし、息を吸うのも辛いときがある」
「だからって、万引きは犯罪だよ。今度やったら警察に突き出すから」
「ごめん。もうしない」

姉は、ファンシーショップの店長だ。
それを知ってて、この店を選んだ。姉が止めてくれるから。

10年前に万引きをしたのは、姉ではなく私だ。
当時私は受験生で、周りの期待に押しつぶされそうだった。
姉は、私の身代わりになった。
そして、父と母もそれを知っていた。

「お姉ちゃん、家にはもう帰らないの?」
「あたしが帰ったら、みんな気まずいでしょ」
「でも、こんなに近くにいるのに」
「いいから帰りな。お父さんとお母さんに余計なこと言うなよ」
「わかった」
「辛くなったらまたおいで。ただし、万引きはダメだよ」

木枯らしが吹く舗道を歩いて帰った。
何があっても、満面の笑みで私を迎える両親の元へ。
お姉ちゃんが羨ましい。
そんなことを言ったら、罰が当たるね。

********
ニュースつくばのコラム「短いおはなし」
10月28日に私のノベルが掲載されます。
よかったら読んでみてください。
https://newstsukuba.jp/

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祭りのあとの街 [ファンタジー]

10月になると、ショーウィンドウはハロウィン一色です。
どこもかしこもオレンジ色のお化けカボチャが並んでいます。
街角のデパート。お化けカボチャたちのおしゃべりが聞こえてきます。

「あー、今日はいよいよハロウィンだな」
「この大通りを、仮装した人間たちがぞろぞろ歩くんだ」
「いいなあ。一度でいいからあのパレードに加わってみたい」
「じゃあさ、抜け出しちゃう?」
「そうだな。今夜なら、誰にもバレないぞ」
「仮装パレードに混ざって歩くんだ。最後の夜だ。楽しもうぜ」
「そうだな。明日には俺たち、倉庫行きだもんな」

夜になり、人出が増えて来ました。
お化けカボチャたちはショーウィンドウを抜け出して、パレードの中に紛れ込みました。
「うひゃー、楽しい。テンション上がるぜ」
「人間の仮装すげーな。俺たちぜんぜん目立たない」
魔女やゾンビや流行りのキャラクター。何でもありのハロウィンパーティ。
お化けカボチャたちは踊りながら歩き続けました。

お祭り騒ぎは夜通し続きます。
飲んで騒いで踊りまくる人間たち。
お化けカボチャも負けてはいません。見るものすべてが楽しくて仕方ありません。
朝になり、人間たちは、ぽつりぽつりと家に帰っていきます。

「朝日が昇って来たぞ」
「ああ、もう終わりか。楽しかったね」
「名残惜しいな。まだショーウィンドウに帰りたくないよ」

そのとき、大通りにたくさんの人間たちが集まってきました。
「あれ、また何か始まるのか?」
「楽しそうだな。混ぜてもらおうぜ」

人間のひとりが近づいてきて言いました。
「仮装したお化けカボチャさんたち、ゴミ拾いを手伝ってください」
「ゴミ拾い?」
見ると、大通りはたくさんのゴミであふれています。

「ゴミ拾いだって」
「人間って、楽しいだけじゃないんだな」
「仕方ない。拾うか」

「ああ、お化けカボチャさんたち、ちゃんと分別してくださいよ。缶は缶、瓶は瓶、紙は紙」
「ぶんべつ?」
「そんなこともするのか。人間って大変だな」
すっかりきれいになった大通りを眺めながら、お化けカボチャたちは、ショーウィンドウに帰りました。

「あれれ、ショーウィンドウが、クリスマスになってる」
「いつの間に?」
「夜中から作業してたのか?」
「人間って大変だな」

赤と緑のツリーの前に座り込んだお化けカボチャたちを、業者が来てひょいと持ち上げました。
「カボチャ3体、ここにありました。引き揚げます」
お化けカボチャたちは車に乗せられて、来年の秋までゆっくり眠ります。
夕べの騒ぎが嘘みたいに、早朝の街は静かです。
あくびをしながら運転する業者さん。
夜勤明けのサラリーマン。
デパートの開店前に働く清掃員。
「みなさん、おつかれさまです!」

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ただの幼なじみ [男と女ストーリー]

幼なじみの太一が嫁をもらった。
東京の大学で知り合って、卒業と同時に式を挙げたって。
お金がないから、地元に帰って親と同居するらしい。
同居ってことは隣に住むんだ。嫌でも顔を合わせるしかない。

太一とあたしは、小学校から高校まで、ずっと一緒に通った。
朝はどちらかが迎えに行き、帰りも一緒に帰った。
どちらかが部活で遅いときは、待ってて一緒に帰った。
まるで付き合っているみたいだった。将来結婚するかもって、ちょっと思っていた。
でもまあ、そう思っていたのはあたしだけ。
太一にとっては、隣に住んでいるだけの、ただの幼なじみ。
「あーあ、家出ようかな。でも就職したばっかりだしな」
つぶやきながら隣の窓を見た。もうすぐ、太一と嫁が帰ってくる。

「おはよう。麻衣子さん」
「おはよう。実花さん」
太一の嫁の実花さんと、毎朝挨拶を交わす。
「行ってらっしゃい」と、実花さんに見送られて、太一と一緒に歩き出す。
太一の就職先は、あたしと同じ会社だった。
この辺りでいちばん大きな工場で、太一は営業部、あたしは総務部だ。
「ねえ太一、会社が同じだからって、毎朝一緒に行くことないんじゃない?」
「だって、同じ場所に同じ時間に行くんだから、一緒に行くのは必然だろ」
「いや、だけどさ。実花さんが気にするでしょう?」
「えー、気にするって何を?」
相変わらず、鈍感な奴。女心がわからない。
帰りも、残業や部署の飲み会以外は一緒に帰る。
これって学生時代と同じだ。まずい。封印した気持ちがよみがえりそうだ。

1か月後、実花さんが訪ねて来た。太一が職場の飲み会でいない夜だ。
きっと、太一と一緒に会社に行くのをやめて欲しいとお願いに来たのだ。
「麻衣子さんにお願いがあるの」
ほら来た。
「麻衣子さん、知っていると思うけど、太一君って、すごくモテるの」
あっ、そうなの?
「大学にもバイト先にもファンがいたの。でもね、太一君って鈍感だからそういうの、全然気づかないの」
うん、それは分かる
「でね、私、太一君に色目使う女を最大限のパワーでブロックしてきたのね」
ラ、ラスボスか?
「でもさ、会社ではそうはいかないでしょう。一緒に行くわけにいかないし」
そりゃそうだ。妻同伴じゃ仕事にならないもん。
「会社って危険よ。オフィスラブとか社内不倫とか」
ドラマの見過ぎだよ。
「私、麻衣子さんが同じ会社だって聞いて、すごく安心したの。だって麻衣子さんがずっと目を光らせていたら、悪い虫がつかないでしょ」
はっ?あたしゃ防虫剤か!
「私ね、すごく不思議だったの。あんなにカッコよくて優しい太一君が、大学まで恋愛経験ゼロだなんて信じられなかった。だけどね、小学校から高校まで、登下校が常に麻衣子さんと一緒だったと聞いて納得したのよ。麻衣子さんがいたから、誰も彼に近づけなかったの」
えっ、あたし、結界張ってた?
「だからね、これからも太一君を守って欲しいの」
お願いって、それ? あたしゃボディガードか!

「あの、実花さん、ひとつ聞いてもいい?」
「なあに?」
「あたしのことは、心配じゃないの?」
「ぜんぜん。だって、ただの幼なじみでしょう。あっ、太一君からラインきた。もうすぐ帰るって。ねえ、飲んできた夫にお茶漬けを出すのって、妻の務めかしら?梅と鮭どっちがいいと思う?じゃあ帰るね。主婦って、いろいろ大変なんだよ」
実花さんは、嬉しそうに帰って行った。

まったく、鈍くて空気の読めない夫婦だな。
それにしても、ただの幼なじみって、不憫な生き物だ。

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生まれ変わったら

「生まれ変わったら、お金持ちの家の子になりたいです。そして町で困っている人を見かけたら、100万円ずつ配ってあげます」

私が発表すると、クラスのみんながどっと笑った。
「佐伯さんは優しいのね。だけどね、昨日の宿題は、将来の夢ですよ。生まれ変わったらの話じゃないのよ」
みんながさらに笑った。

先生、私には将来はないんです。だってもうすぐ死ぬんだもの。
昨日の夜、パパとママが話すのを聞いてしまったんです。
コロナでお店がダメになって、借金もたくさんあって(たぶん100万円より多いです)、もうみんなで首をくくるしかないって言ってました。
だからもう、学校へ来るのも最後かもしれません。

金曜日の午後、私は仲良しのクラスメートに「元気でね」と言って別れた。
不思議そうな顔をしていた。
だって、今日が最後かもしれない。そんな予感がする。

家に帰ると、お客さんが来ていた。
真っ黒な服に身を包んだ、やけに痩せた青白い顔の男。
死神だ。絶対そうだ。パパが死ぬ情報を聞きつけて、魂を取りに来たんだ。
パパとママは、死神の前にかしこまって座っている。
「エリナ、奥に行っていなさい」
パパが言ったけど、私は動けなかった。
「お嬢さんも一緒にどうぞ」
死神が言った。低い声だ。私も一緒に連れて行くつもりだ。
天国か、地獄か。生まれ変われるならどっちでもいい。
パパとママの後ろにちょこんと座った。

「さて」と言いながら、死神が鞄から書類を取り出した。
死神と契約するつもりなんだ。どんな契約? 苦しまないで天国に行ける契約?
それなら私もサインする。

「こちらが、佐伯様が相続する財産でございます」
財産? ちらっと覗いたら、数字が並んでいる。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……。すごい。100万よりずっと多い。
「突然言われても」と言いながら、パパも数字を目で追っている。
「故人の遺言でございます。故人とお母さまが離婚されて、幼少期に家を出たとはいえ、立派な血縁がございます。当然の権利ですよ」

死神……じゃなくてパパのお父さんの弁護士が帰った後、パパとママは呆然としていた。
パパのお父さんがものすごくお金持ちだってことを、パパとママはまるで知らなかったみたい。おばあちゃんは何も言わずに死んじゃったから。
「お店、続けられるね」
ママが、涙声で言った。
「首をくくらなくていいんだね」
私が言うと、パパとママは驚いだ顔をした。
「ばかだな。そんなことするわけないだろう」
笑った。久しぶりに、みんなで笑った。

「私の将来の夢は、パパのお店を大きくすることです。今は小さなレストランだけど、100人くらい座れる大きな店にして、先生やみんなを無料で招待します」
月曜日、私は大きな声で発表をした。
「ありがとう、佐伯さん。先生、うんと長生きしなくちゃね」
みんなが笑った。
将来があるって、いいなあと思った。

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プロフィールをちゃんとしました

このブログを始めて、もう13年も経つというのに、プロフィールがいい加減でした。
私の場合、カテゴリー分けもかなりいい加減で、ずぼらな性格が出てるなあ~とお恥ずかしい限りです。

この度、プロフィールを書き換えることにしました。
というのも、3月からウェブサイト「ニュースつくば」で連載を始めました。
月に1度(ほぼ月末)に、このブログから抜粋したショートストーリーを少しアレンジして掲載させていただいています。
伊東葎花という筆名で書かせていただいています。
たぶんこのブログよりも多くの人の目に触れていると思うので、本家のブログの方もちゃんとしなきゃと思った次第です。
「短いおはなし」というコラムです。よかった覗いてみてください。
https://newstsukuba.jp/

これまであまり載せなかった受賞歴も、主なものをプロフィールに載せてみました。
けっこう時間がかかっちゃいました。
やっぱり小説書く方が楽しいわ♪

みなさま、これからもよろしくお願いします。

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おとぎ話(笑)31 [名作パロディー]

<浦島太郎>

信じてください。殺意なんてなかったんです。
わたしはただ、助けてもらった恩返しがしたかったんです。
ええ、そうです。竜宮城にお連れしようと思っただけです。
まさか、人間が海の中で呼吸が出来ないなんて知りませんでした。
本当です。殺すつもりなど微塵もありませんでした。
私は無罪です。

「判決を言い渡す。亀、有罪。懲役千年」
「ええ~、有罪? でもまあ、千年ならいいか。寿命長いし」


<ヘンゼルとグレーテル>

「お兄さん、見て。お菓子の家よ」
「本当だ。屋根は瓦せんべいだ」
「壁は落雁よ」
「柱は千歳あめだ」
「庭のお花は和三盆よ」
「ドアは羊羹だ」
「窓は飴細工ね」

「ちょっと、私のお家を食べているのはだあれ?」
「あっ、おばあさん、ちょうどいいところに。渋いお茶をお願いします」
「あたしも」


<赤ずきん>

「やあ、赤ずきんちゃん、こんにちは」
「こんにちは、オオカミさん」
(やだ、どうしてこのオオカミ、あたしの名前知ってるの?ヤバくない?)

「この先に、きれいな花畑があるよ。おばあさんのお見舞いに摘んでいったらどうだい?」
「ありがとう。オオカミさん」
(あたしがお見舞いに行くって、どうして知ってるの?ヤバくない?)

「ほら、きれいだろう」
「わあ、お花がいっぱい!」
(マジできれいな花畑。ヤバくない?)

「たくさん摘みましょ。おばあさま、きっと喜ぶわ」
(あれ?オオカミいない。ヤバくない?)

赤ずきんちゃん、本当にヤバいのは、この後です。


<舌切りすずめ>

すずめのお宿に招待された優しいおばあさん。

「ありがとうね。そろそろ帰るよ」
「おばあさん、お土産です。大きなつづらと小さなつづら、どちらがいいですか?」
「あら、つづらとは粋だね。どれどれ。ああ、どっちもいい仕事しているね。職人技が光っているよ。じっくり見させておくれ。そうだねえ、小さい方がちょっと丁寧かな。漆の塗り方がいいね。じゃあ、小さいのをもらうよ。ありがとうね」

「おばあさん、差し上げたいのは中身なのにね」
「目利きのおばあさんだったわね」
「小さい方を選んでくれてよかったわね」
「大きい方を選んでいたら話が変わっちゃう」

*****

久々の投稿になってしまいました。
義母が入院して、毎日落ち着かない日々です。
でも、こんなときこそ楽しいお話がいいですね。



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