SSブログ

心友 [お話]

人気俳優の 暁ハヤトが、小学校の同級生 月山シンヤだと知っているのは、俺ぐらいなものだ。
当時シンヤと俺は、いじめられっ子という共通点で結ばれていた。
貧乏というだけでいじめられる世の中の仕組みを、子供ながらに嫌というほど味わった。

シンヤは両親を事故で失い、肩身のせまい思いをしながら親戚の家で暮らしていた。
決して裕福ではないその家で、日々気を使い、新聞配達をしながら学校に来ていた。
シンヤの口癖は
「このままじゃ終わらない」
シンヤは言った。
「生まれた環境は選べないけど、未来は自分で選べるよ」
そして俺は
「そうだね。キミならやれるよ」
と、いつも励ました。

シンヤは15歳で家を出て、単身アメリカへ行った。
そしてスターになって帰ってきた。
たまたま出演した三流のハリウット映画が日本で話題になり、帰国した彼はすでに立派な人気俳優だった。

シンヤはすっかり変わっていた。浅黒い精悍な顔から、あのモヤシのように痩せたシンヤを想像することはできない。
だけど俺にはすぐにわかった。
笑顔は昔のままだったからだ。
「このままじゃ終わらない」と言った通り、シンヤは頑張ったんだ。
俺は心から嬉しく思った。

俺は、町工場で働いている。
3年前に、飲んだくれの父親が借金を残して死んだおかげで、いくら働いても、暮らしは楽にならなかった。
だけど俺には母親がいる。高校生の妹もいる。そして何より、心の友がいる。
違う世界で活躍しているシンヤを思って、俺も頑張った。

**

「暁ハヤト、結婚だって!」
ワイドショーを見ていた妹が大声を出した。
「へえ」と俺は、わざと興味のないふりをした。
「相手誰だと思う?すごいよ。女優の花沢レイナだって。
ビッグカップルだね。すご~い!」
ずっと温かい家庭に憧れていたシンヤだった。
よかったな…心の中でつぶやいた。

数日後、仕事から帰ると妹が血相を変えて飛んできた。
「お兄ちゃん、大変!結婚式の招待状がきた」
「誰から?」
「ビックリしないでよ。なんと、暁ハヤトから」
「え?」
「何かの間違いかな?それともお兄ちゃん、ハヤトと知り合いなの?
ハヤトって、アメリカ生まれって言ってるけど、本当はこの町出身っていう噂もあるんだよ」
「そんなわけないだろ!」
俺は妹の手から招待状を取り上げた。
「いいか、この招待状のことは誰にも言うなよ」
ちょっと凄んだら、妹は頬をふくらませて
「わかったよ。どうせ言ったって誰も信じないよ。お兄ちゃんとハヤトが知り合いのわけないじゃん。共通点ないもん!」
と、悪態をついて部屋に戻った。

俺は丁寧に招待状を開けた。
暁ハヤト・花沢レイナ の名前の横に、懐かしい癖のある文字で
「このままじゃ終わらない」と書いてあった。

ハヤトが俺を憶えていてくれた。
それだけでいい。それだけで嬉しい。

俺は、欠席に〇をつけた。
そしてとなりに、「キミならやれるよ」といつもの励ましの言葉を添えた。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
nice!(6)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 4

ヴァッキーノ

欠席に〇をするところが、いいですねえ。
あれれ?って感じ。
こういうのが好きなんだよなあ。

まあ、現実問題、芸能人の結婚式なんかに行ったら
ご祝儀いくら包んだらいいんでしょうね?
すごい額だろうなあ(笑)


by ヴァッキーノ (2010-08-01 21:28) 

矢菱虎犇

いいですねぇ
ラストと題「心友」がしっかりリンクしてるんだなぁ!

よく芸能人が有名になったら知り合いやら親戚が急に増えるって話があるじゃないですか。関係が希薄なほど、あいつのことよく知っている!って自慢して、自分の存在をアピールしちゃう。逆に心がつながっている関係だと、こうなっちゃうのかもしれませんねぇ。
by 矢菱虎犇 (2010-08-01 23:32) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
そうなんです。
欠席にする結末が浮かんで、そこから話を作っていったんです。
注目していただけて嬉しいです。

芸能人の結婚式…やっぱり10万くらい包むんでしょうかね…
by リンさん (2010-08-02 19:32) 

リンさん

<矢菱さん>
ありがとうございます。
親友ではなく、あえて心友にしたのは、まさにそういう意図です。
本当の友達って、離れていても心がつながっているんでしょうね。
by リンさん (2010-08-02 19:34) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0