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パラレルワールド(後編) [ファンタジー]

(前編からお読みください)

図書館の匂いに混ざって、甘い香りがした。
目を開けると、僕とススム君の手の上に、もうひとつの手が本をつかんでいた。
その手は、若い女の人の手だった。
「ごめんね。私が先よ」
そう言って本を取り上げたその人は、僕らを見て驚いた。
「ススム君?まさかね。ここにススム君がいるはずないわよね。それにしてもそっくり」

僕たちは、顔を見合わせた。
「そんなに似てますか?僕と、そのススム君」
「うん、そっくり。あなたの方が、ちょっと太ってるかな」

女の人は、「じゃあ急ぐから」と本を抱えて出て行った。
僕たちは後をつけた。
女の人は、図書館のとなりの病院に入った。
「図書館のとなり、病院じゃないよね」
「うん。だから、ここは異次元なんだ」

女の人は病室に入った。503号室。僕らの教室は5-3(関係ないか)
その人が出るのを待って、おそるおそるドアを開けた。
そこには、もうひとりのススム君がいた。

もうひとりのススム君は、病気だった。
すごく痩せていて、青い顔をしていた。
ススム君と、もうひとりのススム君が見つめ合った。
「おねえさんが、僕とそっくりな子に会ったって言ってたから、まさかと思ったけど…。
いったいどうやって来たの?」
もうひとりのススム君が目を丸くして聞いた。
ススム君が、ここに来るまでのことを詳しく話すと、「なるほど」とメモをとりながら聞いた。

「君は、病気なの?」
「うん、もうずっと入院してるんだ。今日は特に具合が悪かったから、看護学校のおねえさんに代わりに借りてきてもらったんだ」
「そうなんだ。早く良くなるといいね」
「うん…。君は元気そうでいいな。友達もいるし」
もうひとりのススム君は、寂しそうに笑った。

廊下の足音に気づいた、もうひとりのススム君は
「もう帰った方がいいよ。検温の時間だ」と言った。
誰かに見られたらまずいので、僕らは帰ることにした。

もうひとりのススム君は、借りた本を差し出した。
「これ、返してきてくれる。きっとこれを返したら、君たちの世界に帰れると思うよ」
「わかった。じゃあ、バイバイ」
「お大事に…」

ススム君はドアの前で振り返り、「また会えるよね」と聞いた。
もうひとりのススム君は、軽く手を振って布団をかぶった。
泣いているのかな…と僕は思った。

僕らは、図書館に行ってせーので本を戻した。
再び光に包まれ、目を開けると元に戻っていた。
いつもの図書館の匂い。
午後の日差しが、僕たちを包んだ。

ススム君が本を開いた。
そこには、殴り書きのような字で、メッセージが書いてあった。
『僕はもう本を借りるのをやめます。さようなら。もうひとりの僕が元気でよかった』

「病気のこと、知られたくなかったのかな」
僕が言うと、ススム君は突然泣き出した。
「僕、体育の授業が嫌だなんて、二度と言わないよ」
ススム君は本を抱えて泣いた。ススム君が泣くのを見るのは初めてだった。

「ススム君、あっちでは僕はススム君と友達じゃないけど、いつかきっと、あっちの世界の僕はススム君と友達になるよ。絶対なるよ」
僕も泣いた。ふたりでわんわん泣いた。
図書館のおねえさんが心配して「君たち大丈夫?」と顔を覗き込んだ。
そのおねえさんは、あっちの世界で見た、看護学校のおねえさんとそっくりだった。

     *

僕たちは、少し落ち着いてから図書館を出た。
「行かないほうがよかったね」
ススム君がぽつりとつぶやいた。
「そんなことないよ。きっと向こうのススム君は、元気な君を見て安心したんだ。
ねえススム君、僕は行ってよかったと思うよ。パラボナワールド」
「パラレルワールドだよ!」
ススム君が、やっと笑った。

こども.jpg

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コメント 22

浅葱

やっと、人心地がつきました。
by 浅葱 (2011-02-05 18:48) 

haru

読んでいて涙で、文字がかすみました。自分の子どもの時と重なって。
「昔々のクリスマスのお話」に書いた自分と。
病気のススム君は、もう一人の自分には友達がいることを知って、きっと
とっても安心したのでしょう。

ダメだなぁ~。コメントを書いていても文字がかすみます。
素的なりんさんワールドをありがとねっ!
追伸 生き霊の話(笑)にもコメントありがとうございます。
by haru (2011-02-05 18:51) 

ヴァッキーノ

おりんさんが、
どうしてもこのパラレルってワードで
執拗にボケようとするとこが、
ボクとしては大好きです。
さすが後編ですね。
前編の導入から、パラレルワールドへ!
アトラクションに乗ったって感じでしょうか。
おりんさんの長編、もしくは中編も読んでみたいですねえ。
by ヴァッキーノ (2011-02-05 21:00) 

ナビパ

あっちとこっちのススムくんきっと表裏一体
もう一人の自分も自分で。。。
なんか頭が混乱してきました。
でも面白くそしてためになるお話だと思いました。
パラレルワールドは実在するかもしれませんね。
そう信じた方が夢があっていいやぁ^^
by ナビパ (2011-02-05 22:12) 

春待ち りこ

あぁ。。。病気だったんですね。o(;△;)o ウルウル・・・
そんなススム君の姿を見て、たくさん泣いた仲良し二人組は
人を思いやる優しさと悲しみを乗り越える強さを学んだことでしょう。
ススム君はきっと。。。体育の大好きな元気な男の子になりますね。

一方、パラフレワールドのススム君だって
もう一人のススム君が羨ましかったに違いないから
そこは、意地でも頑張って
病気を治して。。。
やっぱり、元気な男の子になる!!!って勝手に決めました。(笑)
パリポリワールド。。。楽しみました。ありがとっ♪

……すみません。パラレロワールドでしたね……ん?(^w^)ぷぷぷ・・・

by 春待ち りこ (2011-02-05 23:47) 

海野久実

とてもいいお話でしたね。
僕は泣かせるお話を読んで泣くのが好きです。
お話に感動して泣いている自分が好きなのかもしれませんが。
でもこのお話のラストの泣き所で泣きそびれてしまいました。
いろいろ疑問があって、考えてしまったんですね。
「ハラレルワールド」と言う本は、ちゃんとした印刷された本でしょ?それにススム君は自分の名前を書いちゃったり、お互いの通信手段に使っちゃったりしてもいいのかと思ったり、ひょっとしてススム君の手書きの本?かと考えたり、それならなんで図書館にあるんだとか、いろいろね。
ちゃんとした図書館の蔵書なら、通信手段には紙をはさめばいいのにな、とか、本好きとしては本に落書きはゆるっせません(笑)
あとは向こうの世界へいく行き方ですよね。
「本が動くのを」というセリフがあるので、本は向こうとこちらで一冊しかない?
両方の世界に一冊づつあって、同時に同じ場所にある時にだけ扉が開く?
パタリロワールドというSFっぽいタイトルをつけてるんだから、その辺はちょっとへ理屈でいいから理屈をつけてほしいように思いましたね。
でもこれはファンタジーと名付けてらっしゃるので、思いっきりファンタジーで行けばいいと思うんです。
向こうとこちらに、似たようなふたつの世界があるというね。
パラソルワールドと聞くと、僕は無数に並行して存在する少しづつ違う世界を思い浮かべてしまいます。
それはまた異次元の世界と言うのとはちょっと違うと思いますし。
そんなところを疑問に思いながら読んで行ったものだからせっかくの感動シーンで感涙にむせびそこなっちゃったんです。
これももっと長いバージョンが読みたいような気がしました。

あ、そうだ。
僕が5日にアップした作品も考えてみると大きな意味で、偶然パラレロワールド物でした。
いやいや、ふたつの世界のファンタジーかな。
by 海野久実 (2011-02-06 01:12) 

雫石鉄也

いい話ですね。
センス・オブ・ワンダーがありますし、1950年代のアメリカSFを読んでいるような気になりました。古いSFファンの私としては、なんだか懐かしい気分になりました。
何人かの人がコメントされているように、ショートショートではなく、まとまった短編にされたらどうでしょう。
今年は締め切りましたが、来年の、東京創元社の創元SF短編賞に応募されてはどうでしょう。
http://www.tsogen.co.jp/sftanpensho/

by 雫石鉄也 (2011-02-06 07:06) 

愛輝

ススム君が始めて泣いたのがこの瞬間というのが印象的ですね。
冒険心をくすぐられるこの話が、一気に教育的に。
もしも書き直されて、賞に応募されるんでしたら、
きっといいところにいく気がします。

ちなみに。
なんとなくここまで僕が「パラレルワールド」を間違えると
確信犯のような気がしてきます。
とても空気を読むことに長けた子なんですね^^
by 愛輝 (2011-02-06 21:10) 

リンさん

<浅葱さん>
よかったです(*^_^*)
最後まで読んでくださってありがとうございます。
by リンさん (2011-02-07 16:24) 

リンさん

<haruさん>
haruさんは子供のころ入院していたんですよね。
辛いこと思い出させちゃったらごめんなさい(・。・;
きっといつか、あっちのススム君にも、友達ができるでしょうね。
こちらこそ、ありがとうございました。
by リンさん (2011-02-07 16:32) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
もともと自分がカタカナ用語に弱いので、こういうボケをよくするんですよ。
あとは笑に走って、楽しい終わり方をしたいと思ったので…
>長編・中編…頑張って書いてみようかな。。。
でも長いと読んでもらえないかな…とか思っちゃうんですよね^^;
by リンさん (2011-02-07 16:41) 

リンさん

<ナビパさん>
続けて読んでくださってありがとうございます。
混乱しましたか(笑)
あっちとかこっちとか…そうですよねぇ^^
もう一つの世界、ホントにあるかもしれませんよ。
by リンさん (2011-02-07 16:45) 

リンさん

<りこさん>
だから、パラレルワールドだってば!(笑)

これはふたりの可愛い友情と、心の成長を書きたかったんです。
みんなが元気になることを、私も願ってます^^
by リンさん (2011-02-07 16:49) 

リンさん

<海野久実さん>
いつもありがとうございます。
そうか…本に落書きしたらいけませんよね。
深く考えずに書いてました(反省)
それから私はススム君の友達並みに知識に乏しくて…
なんかノリで書いてしまったので、いろいろすみません。
長いバージョン…もう少し勉強して書いてみます。

それにしても、パタリロワールドとか…ボケてくれちゃってますね。
りこさんといい、海野さんといい、楽しいコメントありがとうございます^^
by リンさん (2011-02-07 16:56) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
情報ありがとうございます。
みなさん、いろんな賞に挑戦されてますね。
すごく刺激になります。

まずは、勉強してみます。
ありがとうございました。
by リンさん (2011-02-07 17:00) 

リンさん

<愛輝さん>
ありがとうございます。
ふたりで泣いて、友情が深まったんですね。

パラレルワールド…きっと最後はわざと間違ってますね。
きっと空気を楽しく変えることができる子なんですね^^
by リンさん (2011-02-07 17:07) 

クローヴ

前編は向こうの世界に〜?!ってワクワクして、
後編ではウルッと涙しそうになり。。。
とても楽しかったです(^^)
ススム君の気持ちの変化に、こちらの心があったかくなりました。
by クローヴ (2011-02-09 23:08) 

銀河径一郎

残念ながらサッカー選手でなかったけど、向こう側のススム君に会えて
よかったです。
信じるしかなかった存在を確かめられて深い結びつきを感じられるという
のは実に貴重な体験ですよね!
ひとまわりたくましくなった両方のススム君に拍手です!
by 銀河径一郎 (2011-02-10 00:52) 

リンさん

<クローヴさん>
ありがとうございます。
私にしては珍しく、前後編にしてみましたが、楽しんでもらえてよかったです。
by リンさん (2011-02-10 20:21) 

リンさん

<銀河径一郎さん>
ありがとうございます。
そうですね。きっと会えてよかったですね。
お互いに、成長したのでしょうね^^
by リンさん (2011-02-10 20:23) 

hanatchi

あっちのススムくんは どうして もう本を借りないんだろう?;;
最初に思ったのは もうすぐ死んじゃうのかなぁ?ってこと。
それから
会えて 自分がもう一人いて 安心したのかなぁ?
元気な自分を見て 自分も元気になるって ホッとしたのかなぁ?
友達もできないような入院生活で 仲間をみつけたみたいで
嬉しくって あったかくって 満足したのかなぁ?
なんて 専門家ではない私は 単純に いろんなこと考えました^^;
自分じゃないけど もうひとり 自分の気持ちが分かるような存在
がいてくれる って ちょっと いいかもしれないですね^^
by hanatchi (2011-02-12 21:42) 

リンさん

<hanatchiさん>
ありがとうございます。
その後の展開をいろいろ考えていただいて、ありがとうございます。
できればハッピーエンドがいいけど、悲しい結末も想像しちゃいますよね。

私が考える続きは、病気のススム君はパラレルワールドのSF小説を書いて、ベストセラーになる…。病気は治らなくてもとても幸せになるといいな~と思うのです。
by リンさん (2011-02-13 17:55) 

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