消えたプレゼント

ジングルベルに街中が浮かれている。明日は２４日。世間ではクリスマスイブというらしい。
私はいつもの探偵事務所で、たいして美味くもないコーヒーを飲んでいた。午前中から客など来ないと思っていたら、扉が開いた。
「探偵さん、大事件だよ」
そう言って飛び込んできたのは小学生だ。
「プレゼントが盗まれたんだ」

この子供は、近所に住む悠太だ。どういうわけか私に懐いている。半泣き状態で要領を得ない悠太の話を要約しよう。
明日は悠太のガールフレンドの誕生日だ。もちろんプレゼントを用意して会う約束をした。しかしそのプレゼントが、今朝起きたら消えていた。…というわけだ。

「ママがどこかへ仕舞ったんだろう」
私は面倒臭そうに答えた。子供の客など、一円にもならない。しかも小学生の分際で彼女がいるなど生意気だ。
「ママもパパも知らないって言ったよ。きっと誰かが盗んだんだ」
そんなもの誰が盗むんだ。バカバカしいと思いながらも断れない。他に仕事がないからだ。

私は、とりあえず悠太の家に行った。悠太の家族は、父良夫、母孝子、祖母フミ、そして悠太の４人家族だ。
さあ、捜査開始だ。
「悠太、プレゼントはどこに置いたんだ？」
「枕元だよ」
一応ベッドの下を確認したが、なかった。
窓の鍵はしっかり閉まっていたという。
「ところで、プレゼントの中身は何だ？」
「マグカップだよ。僕とおそろいなの」
ふん。マグカップか。おそろいとは生意気だ。
「どんな包装紙だ？」
「赤と緑。クリスマスのラッピングだよ」
まあ、時期的にそうなるだろう。

私は悠太を部屋に残し、母の孝子に話を聞くことにした。
「あら探偵さん。悠太が変なことで騒いでごめんなさいね。きっと自分でどこかに片付けちゃったのよ。なくなるはずがないわ」
そこへ、祖母のフミがやってきた。
「孝子さん、良夫はいないの？」
「今日は仕事に行きましたよ」
「忙しいのね。昨夜も遅かったのに。ところで、今日はクリスマスじゃないわよねえ」
「違いますよ。今日は２３日です」
「そうよね」と満足げに言うと、フミは部屋に帰った。ばあさん、しっかりしているように見えて、いくらかボケてきたのか。

ふと見ると、野球大会の賞状が飾ってある。
「悠太君は野球を？」
「ええ。ピッチャーなのよ。だから今年のクリスマスプレゼントは野球のボールらしいわ」
「らしい？お母さんが買いに行くんじゃないんですか？」
「ああ、うちではクリスマスプレゼントは義母が買うことになっているの。先週、義母と主人がふたりで仲よく買い物に行ったわよ」
孝子は、少し不機嫌な顔で言った。
「へえ。じゃあ、悠太君のサンタクロースはおばあちゃん、というわけですね」
そこで私は、はっとした。真相が見えてきた。
枕元に置いたプレゼント・マグカップ・クリスマスのラッピング・サンタクロース。すべてが繋がり始めた。

私は、フミの部屋を訪れた。
「あら、探偵さん、まだいたの？ヒマなのね」と嫌味を言われながらも、めげずに事の成り行きを説明した。
フミは驚いて押入れを開けた。そこには悠太がなくしたプレゼントが、大事そうに仕舞われていた。

そう。悠太の部屋から、プレゼントを持ち出したのはフミだ。
そしてすべては、勘違いから始まった。

昨夜、夜中にトイレに起きたフミは、悠太の部屋から出てくる良夫を見た。たまたま息子の寝顔を見に行っただけの良夫だが、フミは気になってその後で悠太の部屋を覗いた。
すると枕元に、先週買ったプレゼントが置いてある。フミは思った。
「あらあら、良夫は勘違いしているわ。明日はクリスマスじゃないのに」
そしてフミは、そのプレゼントを回収して預かっていた…というわけだ。
つまり、フミが買ったボールと、悠太が買ったマグカップは同じ大きさで同じ包み紙だった。重さも同じようなものだったし、枕元に置いたりしたから勘違いしてしまったのだ。

そんなわけで、悠太のプレゼントは無事に戻った。うっかり者のサンタが間違って持って行ったことにした。あながち嘘ではない。もっとも悠太が、いまだにサンタクロースを信じているかどうかは解らないが。

さて、クリスマスイブだ。予定はないが、せめてシャンパンでも開けようと思ったら客が来た。
赤い服に白い髭のふくよかな老人。
「大事件だ。そりに乗せたプレゼントが、消えちまった」



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公募ガイド「小説虎の穴」で、ボツになっちゃった作品です。
テーマは、コージーミステリー。
割と気に入っていたので残念でした。


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コメント 6

可愛らしいミステリーですね。探偵さんご苦労さまでした。

ああ、それにしても。。。私も土曜日と日曜日を間違えたり、
それに携帯電話がよくなくなるのですが、これもきっと
誰か犯人がいるのかもです。。。？！
by haru (2012-12-09 17:29) 

探偵事務所の探偵さんが、なんで一般家庭内の些事に首をつっこむんだろう･･･報酬は･･･？などとリアルなツッコミを入れたくなってしまう夢のない人間には、サンタクロースが各家庭にプレゼントを配る理由も方法もわかんねぇぜ！
というわけで、クリスマス推理もの、美味しゅういただきましたあ。
by 矢菱虎犇 (2012-12-10 08:53) 

＜haruさん＞
あらら。探偵さんにお願いしたら謎を解いてくれるかも（笑）
うちの主人も、よくメガネだケイタイだと探していますよ。
家では私が名探偵ですけどね＾＾
by リンさん (2012-12-11 18:06) 

＜矢菱さん＞
報酬はお年玉で…なんて言ったらクレームが来そうですね＾＾
そういえばセキュリティがしっかりしている昨今、サンタクロースもやりずらいでしょうね～（笑）
by リンさん (2012-12-11 18:09) 

お久しぶりです！
なんだかんだ言っても
クリスマスっすねえ。
みなさんのショートショートも
クリスマス気分で盛り上がってますね。
ボクは今年、クリスマスもずっと仕事なんです。
しかも、大みそかは宿直です。
でも、ボクも久々のブログ更新だし
クリスマスのお話しを書いてみます。
by ヴァッキーノ (2012-12-14 14:26) 

＜ヴァッキーノさん＞
おひさしぶりっす＾＾
クリスマスも大晦日も仕事ですか。
お疲れ様です。
ヴァッキーノさんには悪いけど、私２２日から休みです＾＾
学生並みの冬休み。
どっか行きたい～＾＾
by リンさん (2012-12-14 16:57)