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レンタル頭脳 [SF]

試験が近いので、少年はアルバイトを増やした。
試験が近いならバイトより勉強だろう…と誰もが思う。
しかし少年はアルバイトをする。なぜなら少年にはお金が必要だから。
少年は金を貯めて、レンタル頭脳を利用する。

レンタル頭脳は、もともと老人のために開発された。
加齢とともに脳の働きが衰え、計算が出来なくなったり漢字を忘れたりすることがある。
衰えた脳を補うために作られたシステムが、レンタル頭脳である。
老人たちは大事な書類を書くとき、大切な財産の計算をするとき、レンタル頭脳を利用する。

もちろん若者が利用するには厳しい制限がある。特定な人しか利用できない。
ましてや学生が使うことなど、完全に違法である。利用したりさせたりした者は、厳しく罰せられる。
しかしどこの世界にも、闇のルートというものがある。
少年は、アルバイト先の先輩から教えられた。
「学生用のレンタル頭脳があるよ」まるで悪魔の囁きのような危ない誘いだった。
それなのに少年は誘いに乗った。
レンタル代の他に先輩への紹介料もかかり、少年にとってはかなりの高額だったが、ちょうどお年玉をもらったばかりで金があった。
何より少年は、理数系の頭脳が死ぬほど欲しかった。

レンタル頭脳の効果は素晴らしく、中の下だった少年の順位は、たちまち10位に上がった。
教師や友人には塾に行き始めたと嘘をついた。親は手放しで喜んだ。
一度でやめるはずが、やめられなくなった。
少年は次の試験でも、その次の試験でもレンタル頭脳を利用した。
友人の家で勉強すると嘘をついてアルバイトに精を出したが、親は何の疑いも持たなかった。
成績が上がると信用も増すのかと、少年は少し卑屈に笑った。

「おまえさ、やりすぎはよくないぞ。もう5回目だろう。あんまりレンタルしてるとバカになるって噂だぞ」
先輩は、自分で勧めておいてそんなことを言った。
「秋まで成績を持続したら、いい大学に推薦してもらえるんだ。そうしたらやめるよ。いい大学さえ出れば、いいところに就職できるだろう。いい年してバイトなんてしたくないからね」
少年はすっかり先輩を見下していた。先輩は「チッ」と舌打ちをしてレンタル頭脳を少年に渡した。

少年に異変が起きたのは、夏休みに入る少し前だった。
レンタル頭脳を返却した帰り道、少年はいつになく気分がよかった。
頭が空っぽなのだ。もう何も考えなくてもいいと、誰かに言われているようだ。
通行人が少年に話しかけた。
「すみません。駅への道は、右ですか?左ですか?」
「みぎ…?ひだり…? なんのこと?」
少年は何もわからない。ここがどこで、何をしているのか。
自分の名前さえも、少年はわからない。

ビルの大型モニターが、女性のアナウンサーを映し出す。
『ニュースをお伝えします。レンタル頭脳に不具合が生じていることがわかりました。何らかのウイルスに侵されて、脳の機能が破壊する恐れがあるとのことです。7月1日以降にレンタル頭脳を利用した方は、直ちに使用をやめて医師の検査を受けてください』

少年はぼんやりモニターをながめている。
だけどその内容は、少年にはさっぱりわからないのであった。
夏の風が吹き抜けるビル街を、ただどこまでも走りたいと、少年の脳は言っていた。

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海野久実

おおっ。
かなり本格的なSFですね。
ラストが抒情的なのが僕の好みです。
一つこれだけは惜しいなと思ったのがレンタル頭脳のビジュアルです。
手渡しできるものらしいので、その見た目を書いてほしいと思いました。
「SFはやっぱり絵だねぇ」という、SF作家であり翻訳家であり「ひらけ!ポンキッキ」のプロデューサーの野田昌宏さんの有名な言葉があります。
重要な小道具のレンタル頭脳が絵として見えないのはちょっともどかしかったですね。
by 海野久実 (2014-04-08 16:42) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
ああ、そうですね。どんなものか、ちゃんと書かないとだめですね。
想像にお任せします…じゃダメね^^

やっぱりICチップみたいなものを、パソコンなどをつかって脳に送り込む…のかな。特殊なケーブルを使って。
本格的に書こうと思うと、難しいですね。
やっぱり勉強不足だな^^
by リンさん (2014-04-11 17:37) 

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