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あいのり [公募]

「あーあ、電車が止まった上に雨まで降ってきた。タクシーはなかなか来ないし、ついてないな」
「あの…どちらまで行かれます?」
「M町だけど」
「あっ、僕もM町に行くんです。よかったらタクシー相乗りしませんか?」
「そりゃいい。料金も半分になるしな」
「ちょうどタクシー来ました。乗りましょう」

「お客さん、どちらまで」
「俺、コーポミラノ。あんたは?」
「え? うそ、僕もコーポミラノですよ」
「そうなの? 俺コーポミラノに彼女がいるんだよ。電車止まったから泊めてもらうの」
「奇遇ですね。僕も彼女の家に行くんです」
「へえ…。じゃあ、せーので彼女の部屋番号言ってみようか」
「いいですよ。せーの」
『205』

「は? あんた勘違いしてない? 205は俺の彼女の部屋だ」
「じゃ、じゃあ、せーので彼女の名前言ってみましょうよ。せーの」
『明美』

「え? 何言ってるんだ。明美は俺の女だ」
「下品な言い方しないで下さいよ。明美は僕の恋人です」
「明美は誰にでも優しいから、あんた勘違いしてるんだ」
「あなたこそ、明美を脅して言いなりに…」
「まさか。いいか、明美がいつも付けてるティファニーのペンダントは俺が贈ったものだ」
「違いますよ。ティファニーのオープンハートは僕があげたんです」
「明美の部屋にウサギの抱き枕があるだろう。あれは俺があげたものだ」
「あの不細工なウサギですか? 不気味だからベランダに出しましたよ。僕があげたクマのクッションの方がずっと可愛い」
「ああ、俺がいつも尻に敷いてるクマか。この前醤油こぼしちまった」
「何てことを…。僕のテディに」

「明美の部屋に24のDVDがあっただろう。あれは俺があげたものだ。シーズン8まできっちり揃ってる」
「え? そうとは知らずに夢中で見てしまった。悔しいけど、めちゃめちゃ面白かった」
「フフ、俺の勝ちだな」
「そういえば、ワンピースの漫画があったでしょう。一巻から七三巻まで。あれは僕がプレゼントしたんです」
「何だって? 面白くて二八巻まで一気読みしちまった」
「続き、教えましょうか?」
「やめろ!死んでも言うな」

「もしかして、あそこにあった僕のゲーム、レベルアップしたのはあなたですか?」
「ああそうだ。誰かさんがゲットした最強のアイテムを使ってな」
「ひどい、あの武器、やっと手に入れたのに」
「それじゃあ俺がコツコツ作っていたジグゾーパズルを完成したのはおまえか?」
「そうですよ。最後のピースを埋める時の快感は、今もこの指に残っています」
「ちくしょう。糊付けまでしやがって」
「じゃあ、僕の超難解間違いさがしの答えにマルをつけたのあなたですか?」
「ああ、たいして難しくもなかったぞ。おまえの頭じゃ無理かもしれないけどな」
「赤でマルつけることないじゃないですか」

「それよりおまえ、俺が買った高級ワイン飲んだだろう」
「知りませんよ。あなたこそ、僕が買った瓶詰のキャビア食べたでしょう」
「知るか。おまえこそ冷凍していた北海道の毛ガニ食っただろう」
「2時間並んで買った有名店のロールケーキを食べたのはあなたですか」
「ネットで取り寄せた1個8〇〇円のプリンを食ったのはおまえか」

「あの、お客さん、到着しました」
「コーポミラノだ。よし、続きは明美の部屋でやろう。どっちが彼氏かはっきりするぜ」
「ええ。僕が恋人だってこと、明美の口からはっきり言ってもらいますよ」
「運転手さん、いくら?」
「いえ、お代はけっこうです」
「え? 何で?」
「いや、さっきから聞いてたら、どうやら私の妻が、ご迷惑をおかけしているようなので」
「は? 妻?」
「運転手さん、奥さんの名前は?」
「明美です」
「えええ~!」
「それから…いろいろとご馳走さまでした」
「あんたが食べたのか!」

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公募ガイド「小説の虎の穴」でボツだった作品です。
今回のテーマは、スケッチコメディ。
コメディ大好きなんですけど、残念でした(ショボン)
次回頑張ります^^

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SORI

リンさんさん おはようございます。
上海から昨日、帰国いたしました。また寄らせていただきます。
運転手さんまで、からんでいたとは驚きの結末でした。楽しかったです。
by SORI (2014-04-12 11:38) 

みかん

え~! タクシーの運転手さんの奥さんだとは~
しかし明美さん すごいわね(笑)

by みかん (2014-04-12 22:45) 

麻乃あぐり

こんばんは、リンさん♪

とても面白い展開ですね。

実際こんな状況なら、殺伐とした雰囲気になるはずなのに、
言葉の節々におかしみがあって、面白いです♪
「ちくしょう。糊付けまでしやがって」という言葉にはニヤリとしました(笑)。

にしても、明美さんは手広くやってますね(笑)。
by 麻乃あぐり (2014-04-12 23:56) 

dan

こんな偶然があったら世の中楽しいですね。えっ恐いかも。
それにしても運転手さんまで関わりある人だったとは。
これ傑作だと思うのだけど。次頑張ってくださいね。

by dan (2014-04-13 11:28) 

海野久実

うふふふふ。
運転手さんの冷静さは、これはもう明美さんとぐるですね。
乗客の二人の男と明美さんとの間にチョメチョメな関係があったら笑えないんでしょうけど、そこまでは行ってない感がいいですね。
明美さん、相当、男のあしらい方がうまそうです。

この作品、充分入選レベルだと思うんですけどね。
ぼくのもボツでした。
ぼくのはホラーチックなお話の中でちょこっとコメディーっぽい舞台の場面が入る構成なのでテーマと少々ずれてるかなと思っていました。
今回はブログにアップせずに他に持って行ってみようかなと。


by 海野久実 (2014-04-13 13:41) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
お帰りなさい。またよろしくお願いします^^

by リンさん (2014-04-14 19:15) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
ふふ^^明美さん、どんな人なんでしょうね^^
by リンさん (2014-04-14 19:15) 

リンさん

<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
コメディって、難しいですね。
結局みんなで明美さんに振り回されてる。
でも、いちばん得してるのは運転手?なのかな(笑)
by リンさん (2014-04-14 19:18) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
ホントに偶然って怖い。
だけどこれだけ入り浸っているのに、今までよく鉢合わせしませんでしたね。
次回は…賞とりたいですね^^
by リンさん (2014-04-14 19:20) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
ホントにね~、この人たちは明美さんに何を求めているのか?
ただ単に部屋が居心地良かったりしてね^^

海野さんも残念だったんですね。
読んでみたいけど、他でいい結果が出るといいですね。
by リンさん (2014-04-14 19:23) 

九子

これでボツですか!
入賞するって大変なんですね。
by 九子 (2014-04-18 23:32) 

リンさん

<九子さん>
ありがとうございます。
毎回出しているのに、最優秀は1回だけ。
なかなか厳しいです。次回は頑張ります。
by リンさん (2014-04-21 23:14) 

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