真夜中の廃墟 [ホラー]
キリコから電話がきたのは、深夜2時だった。
「ハコ、どうしよう。マサルが出てこないんだよ」
「出てこないって、どこから?」
「廃墟だよ。F町のはずれの廃墟。入ったきり出てこないんだ」
「あんたたち、まだそんなことやってんの?」
キリコとマサルは、心霊スポット巡りが趣味で、あたしも前は一緒に行っていた。
だけどキリコとマサルが付き合い始めたのを知って、行くのをやめた。
ふたりがこっそり手をつないだり、囁き合ったりするのを見たくなかった。
「勘弁してよ」と言いながら、あたしは車を走らせた。
キリコのためじゃない。心霊スポットが好きなくせに怖がりのマサルが心配だったからだ。
誰も歩いていない寂しい街道。
道は徐々に狭くなり、背の高い草が車のミラーをこするたび、背中がひやりとした。
壊れかけたコンクリートの建物が現れた。20年前に閉鎖されたリゾートホテルだ。
F町の廃墟は、深い靄に包まれていた。
ライトに人影が映った。マサルだった。
「なんだ、マサルいるじゃん」
車を降りて近づくと、マサルはひとりでぼんやり立っていた。
「キリコは?」
「たぶん中にいる」
「何やってんのよ。まったく」
きっとキリコは、なかなか出てこないマサルを捜しに、再び廃墟に入ったのだろう。
「キリコを迎えに行こう」
そう言ってマサルの腕を取ると、それは氷のように冷たかった。
「マサル、よほど怖かったのね。大丈夫?」
「ハコが一緒に行ってくれるなら大丈夫」
弱気なマサルに、今更ながらときめいた。
悟られないように、マサルの前を歩き出した。
ケイタイが震えた。キリコからだった。
「キリコ、何やってんのよ、まったく」
「それはこっちのセリフだよ。ハコこそ何やってんの。早く来てよ」
「え?あたしは廃墟の前にいるよ」
ねえ、と振り返ってマサルを見た。
マサルは青い顔で笑っている。靄のせいか、輪郭がぼやけている。
「ハコ、早く行こう」
マサルがあたしの手を握った。冷たい手。まるで…。
ケイタイから、キリコの声が叫び続ける。
「ハコ、ハコ、どうしたの?どこにいるの?」
泣き叫ぶようなキリコの声に、あたしは応えなかった。
キリコ、悪いわね。マサルはあたしを選んだわ。
あたしはマサルに寄りそって、廃墟へと歩き出した。
生温かい風の中、マサルの横顔が冷たく笑った。
にほんブログ村
「ハコ、どうしよう。マサルが出てこないんだよ」
「出てこないって、どこから?」
「廃墟だよ。F町のはずれの廃墟。入ったきり出てこないんだ」
「あんたたち、まだそんなことやってんの?」
キリコとマサルは、心霊スポット巡りが趣味で、あたしも前は一緒に行っていた。
だけどキリコとマサルが付き合い始めたのを知って、行くのをやめた。
ふたりがこっそり手をつないだり、囁き合ったりするのを見たくなかった。
「勘弁してよ」と言いながら、あたしは車を走らせた。
キリコのためじゃない。心霊スポットが好きなくせに怖がりのマサルが心配だったからだ。
誰も歩いていない寂しい街道。
道は徐々に狭くなり、背の高い草が車のミラーをこするたび、背中がひやりとした。
壊れかけたコンクリートの建物が現れた。20年前に閉鎖されたリゾートホテルだ。
F町の廃墟は、深い靄に包まれていた。
ライトに人影が映った。マサルだった。
「なんだ、マサルいるじゃん」
車を降りて近づくと、マサルはひとりでぼんやり立っていた。
「キリコは?」
「たぶん中にいる」
「何やってんのよ。まったく」
きっとキリコは、なかなか出てこないマサルを捜しに、再び廃墟に入ったのだろう。
「キリコを迎えに行こう」
そう言ってマサルの腕を取ると、それは氷のように冷たかった。
「マサル、よほど怖かったのね。大丈夫?」
「ハコが一緒に行ってくれるなら大丈夫」
弱気なマサルに、今更ながらときめいた。
悟られないように、マサルの前を歩き出した。
ケイタイが震えた。キリコからだった。
「キリコ、何やってんのよ、まったく」
「それはこっちのセリフだよ。ハコこそ何やってんの。早く来てよ」
「え?あたしは廃墟の前にいるよ」
ねえ、と振り返ってマサルを見た。
マサルは青い顔で笑っている。靄のせいか、輪郭がぼやけている。
「ハコ、早く行こう」
マサルがあたしの手を握った。冷たい手。まるで…。
ケイタイから、キリコの声が叫び続ける。
「ハコ、ハコ、どうしたの?どこにいるの?」
泣き叫ぶようなキリコの声に、あたしは応えなかった。
キリコ、悪いわね。マサルはあたしを選んだわ。
あたしはマサルに寄りそって、廃墟へと歩き出した。
生温かい風の中、マサルの横顔が冷たく笑った。
にほんブログ村
2014-08-12 23:41
nice!(11)
コメント(8)
トラックバック(0)
マサルはなぜあっちの世界へ行くことになってしまったんでしょうね。
誰かに呼ばれた?
でもそれはハコとマサルの関係にヤキモチをやく存在ではない。
一人でも仲間を増やしたい邪悪な存在かも知れないですね。
>マサルの横顔が冷たく笑った
なんだかハコのこの後が心配ですね。
ところで、僕も本日作品を書きました。
タイトルは「心霊スポット」です。
なんとテーマが丸かぶりですね。
まあ、お盆ですからそんな事もあるのかもしれません。
僕の作品は主人公が小学生なので、時間はまだ宵の口です(笑)
by 海野久実 (2014-08-13 21:24)
リンさんさん こんにちは
沖縄でホテルの廃墟がありました。それはおそらく開業することもなく廃墟になった大きな建物でちょっと怖かったです。それを想像しながら2人が廃墟に入って行く姿が想像されました。
by SORI (2014-08-14 12:32)
お盆にぴったりの恐~いお話ですね。
愛ほど強いものはない? いやあ恐いでしょう。
私なら逃げる。
by dan (2014-08-15 11:33)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
マサルの中に、悪霊が入り込んでしまったんでしょうね。
そして、特にハコを選んだわけではなく、彼女のほうが霊感が強かったのかもしれません。
最初は恋愛を絡めずに書いたのですが、途中で思いついて書き直しました。
海野さんも心霊スポット書いたんですね。
読みましたよ。
やはりこの季節は、ホラーですね。
テレビでもやたらとやっています。
by リンさん (2014-08-15 18:57)
<SORIさん>
ありがとうございます。
うちの近くには、廃墟の病院があって、肝試しスポットになっているようです。
私は絶対行きたくありません。
by リンさん (2014-08-15 18:59)
<danさん>
ありがとうございます。
やっぱり夏はホラーですね。
恋は盲目と言いますが、逃げて~と言ってあげたいですよね^^
by リンさん (2014-08-15 19:01)
ホラー怖い…と、思っていたのですが、面白かったです!
ハコと一緒にいたマサルは誰だったんですか…(恐)
皆さんのコメントを見て、理解しました。(笑)
女の戦いと、恐怖とで、最後まで面白かったですー。(^^)
by KUMA-PANDA (2014-08-17 09:14)
<KUMA-PANDAさん>
ありがとうございます。
やっぱり夏はホラーですね。
恋愛が絡むと、ホラーもちょっと変わるな~と、読み返してみて思いました。
気に入ってもらえて嬉しいです。
アリガトー^^
by リンさん (2014-08-17 21:16)