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怪談タクシー [ホラー]

怪談タクシーへようこそ。

連日の熱帯夜で、眠れませんよね。
こんな夜は、怖い話に限ります。
当タクシーの経験豊富な乗務員が、お客様にひと時の涼を贈ります。

ご乗車ありがとうございます。
では、早速はじめさせていただきます。

あれは、今夜と同じような蒸し暑い夜でした。
午前2時を回ったころでございます。
タクシーを走らせていましたが、客はつかまらないうえに、ひどい睡魔に襲われました。

公園の駐車場に車を停めて、少しばかり仮眠をとることにしたのです。
目を閉じてウトウトしかけたとき、運転席の窓をたたく音がしました。
とんとんとん…控えめなか細い音です。
客かと思って目を開けましたが、そこには誰もいませんでした。

「風の音か」と、ふたたび目を閉じると、また窓をたたく音がします。
とんとんとん…さっきより、いくらか大きな音でした。
目を開けても、やはり誰もいないのです。
誰かのいたずらかと思い、車の外に出てみました。
するとそこに、小さな子供がうずくまっていたのです。

いくらなんでも、こんな夜中に子供がいるはずがない。
不審に思いましたが、放っておくわけにもいきません。
私は声をかけました。
「こんな時間に、何をしてるんだい?」

子供は男の子で、今どき珍しく半袖半ズボンに白いハイソックスを履いていました。
よく見ると、ハイソックスの足首から先がぼやけています。
これは霊だ、と思いました。
おそらくこの近くで亡くなった、子供の霊だろう。

私は恐ろしくなって、車に戻ろうとしましたが、体が思うように動きません。
子供が立ち上がって、にやりと笑いました。
「おじさん。ぼくもいっしょに連れて行っておくれよ」
子供はそう言って、私の手首をつかみました。
子供とは思えないほどの力でした。
「や、やめてくれ」
私は叫んで、思い切り手を振り払い、急いで車に戻りました。
バタンとドアを閉めるのと同時に、車を急発進させました。

どくどくと汗が流れ、心臓が爆発しそうでした。
大通りに出ても、客を拾う気になどなれませんでした。
私はそのまま事務所に帰りました。
事務所の灯りは、どれだけ私を安心させたでしょう。

「いやあ、恐ろしい目にあったよ」
事務所に戻ると、先に帰っていた同僚が、怪訝な顔で言いました。
「おまえの右手の手首にくっついているのは何だ?」

私は自分の右手を見ました。
そこには、小さくて白い子供の手がありました。
私の手首に巻き付いていたのです。
私はあのとき、子供の霊に手をつかまれたまま車のドアを閉めたため、手首だけがちぎれてついてきたのです。

そのあと、どんなにお祓いをしても、手首から子供の手が離れることはありません。
ですから私は、今でもこの手といっしょに暮らしているんですよ。
ほら、見てください、私の右手を。
まるで体の一部のように、小さな手が私の手首を握っているでしょう。

お客さん、そんなに怖がることはありませんよ。
この手は悪さなんてしませんから。
ただ、午前2時になると、どうしても来てしまうんですよ。
この公園に…。
ほら、お客さん、見てください。
手首のない子供が、手を振っているでしょう。

どうです?涼しくなりました?
二度と乗りたくないとか言わないでくださいね。

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コメント 6

SORI

リンさんさん おはようございます。
子供の手がくっついているのを見た瞬間、血の気が一番引きました。暑い時に思い出させていただきます。
by SORI (2015-08-06 07:20) 

みかん

うわぁ。。。 手首だけ(>_<)
思わず自分の右手首 見ちゃった~w

by みかん (2015-08-06 20:03) 

dan

ああ~苦手な分野、片目つぶって最後まで読んで
ぶるぶる。  でも全国的に?夏はこれですよね。
by dan (2015-08-07 10:53) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
少しでもSORIさんが涼しくなってくれたら嬉しいです。
by リンさん (2015-08-09 10:08) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
ずっと手首が付いてるなんて、うっとうしいですよね。
みかんさんの手首、大丈夫だった?(笑)
by リンさん (2015-08-09 10:10) 

リンさん

<danさん>
苦手なのに読んでいただいて、ありがとうございます。
片目をつぶっても変わりませんよ(笑)

by リンさん (2015-08-09 20:21) 

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