SSブログ

怪談タクシー2 [ホラー]

怪談タクシーへようこそ。
お盆も過ぎて、ようやく寝苦しい夜ともお別れですね。
とは言っても、まだまだ残暑は厳しいですよ。
そんな時は、当怪談タクシーをご利用ください。
経験豊富な運転手が、世にも恐ろしい体験談をお聞かせしますよ。
さあ、では始めましょう。

あれは、蒸し暑い夏の夜でした。
夜になって降り出した雨のおかげで、駅のロータリーにはたくさんの人が乗車を待っていました。
ドアを開けると、仕事帰りと思われる男と女が乗り込んできました。
いくらか酒の匂いがしました。
「どちらまで?」
尋ねると、女のほうが小さな声で地名を言いました。
聞き覚えのない地名だったので聞き返すと、
「案内しますので進んでください」と言いました。
男のほうは、酔って眠ってしまったのか何も言いません。

女の言うとおりに走ると、車はどんどん市街地を外れていきます。
「お客さん、この道でいいんですか?」
「はい。まっすぐ進んでください」
しかし家などまるでありません。
道は次第に細くなり、まるで獣道のようです。
鬱蒼と木が茂り、その先には灯りひとつありません。
「お客さん、本当にこの道ですか?」
私は恐ろしくなって何度も聞きました。
そのたびに女は「もう少しです」と、落ち着いた声で言うのです。

とうとう、行き止まりになりました。
深い森です。これ以上進めません。
「お客さん、行き止まりですよ」
振り返ると、そこに女はいませんでした。
いつの間にか降りた?いや、そんなはずはありません。
私は男を揺り起しました。
「起きてくださいよ」
男は目を開け、狐につままれたようにきょろきょろしました。
「ここはどこです?」
「お客さん、こっちが聞きたいよ。駅で女性と一緒にタクシーに乗ったでしょう?」
「いや、僕はひとりでタクシーに乗ったはずだ。乗った途端に眠くなって…」
「とにかく、あんたのお連れさんの言うとおりに走ったら、こんなところに来ちゃったんですよ。あの人はどこへ行ったんです?」
「さあ、何が何だか…」

とにかく引き返そうと、車をバックさせました。
その時、車に何かがぶつかりました。
「何か轢いたぞ?」
「タヌキか何かでしょう」
私はそう言って確認のため車を降りました。

「ひい!」自分でも驚くほどの悲鳴をあげ、その場で腰を抜かしました。
女が、ぶら下がっていたのです。
木の枝にロープをくくって、だらりと首を吊っていたのです。
顔はよくわかりませんが、髪型と服装は、さっきまで乗せていた女によく似ていました。
「どうしました?」
車を降りてきた男が、同じように悲鳴をあげました。
そのとき急に強い風が吹き、一瞬ですが女の髪が揺れて顔が見えました。
その目が、ぎろりと男を睨みつけました。
暗かったし、一瞬のことでしたから見間違いかもしれません。
しかし男は、発狂したように怯え、「許してくれ」と叫び続けました。

後でわかったことですが、女はこの男に、遊ばれた上に捨てられて、この森で自殺したそうです。
自分を捨てた男を、遺体の発見者にしたかったのでしょうね。
恐ろしい怨念です。

お客さん、今日の話はいかがでしたか。
雨が降ってきましたね。気を付けてお帰りください。
おや、さっきまで一緒だった女性はどうしました?

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
nice!(19)  コメント(12)  トラックバック(0) 

nice! 19

コメント 12

SORI

リンさんさん おはようございます。
細い道を進んでいくところが怖いです。千と千尋の神隠しの最初の場面を思い浮かべましたが、それより恐ろしい話だったのですね。
by SORI (2015-08-24 08:09) 

ぼんぼちぼちぼち

いやはや怖かったでやす。
鳥肌立ちやした・ブルブル
by ぼんぼちぼちぼち (2015-08-24 11:59) 

desidesi

こ、こわ〜い!
タクシーの運転手さんも災難ですね。
by desidesi (2015-08-24 19:18) 

海野久実

これはよく出来たお話ですね。
よくある怪談のパターンを踏襲していながら予想よりお話の展開が目まぐるしく、意外な結末へなだれ込む。
語り口に騙されてはいけませんね。
結構怖いお話でした。
by 海野久実 (2015-08-25 11:15) 

多楽園

はじめまして。
突然のご連絡失礼いたします。
私は韓国の多楽園(DARAKWON)という外国語専門の出版社の陳(ジン)と申します。
貴下のブログの小説作品、楽しく読ませていただいております。たくさんの作品のなかで、
特に、心温まる「ペンギンデート」や最後の最後まで結末が予想できなかった「あいのり」は印象に残っております。
実は、弊社でサービスを行っている「モーニングレター」という無料日本語学習メールに、貴下の2014年の小説作品を載せて頂けないかと思い、ご連絡いたしました。
もちろん、所定の謝礼もさせていただいております。
お忙しい中、お手数をおかけいたしますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
他の連絡先が見当たらなかったため、こちらのコメント欄を使わせていただきました。
ご検討の上、下記のメールアドレスにまでご返答いただければ幸いです。

email: jinkun@darakwon.co.kr / website: www.darakwon.co.kr

by 多楽園 (2015-08-25 13:11) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
千と千尋も、車でどんどん林の中に入っていくんでしたよね。
私も思い出しました^^
by リンさん (2015-08-25 18:44) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そんなに怖がっていただいて、書いた甲斐があります(笑)
by リンさん (2015-08-25 18:46) 

リンさん

<desidesiさん>
コメントありがとうございます。
タクシーの運転手さんは、いろんな体験をしているのでしょうね。
私は霊感がないから、こういう体験は皆無です^^
by リンさん (2015-08-25 18:48) 

リンさん

<海野久美さん>
ありがとうございます。
怖かったですか。やった!!
実際にこういうタクシーがあったら、面白いですよね。
怖いもの好きにはたまりません。

by リンさん (2015-08-25 18:52) 

リンさん

<多楽園さん>
はじめまして。
コメントありがとうございます。
いつも読んでいただいて嬉しいです。
メール送りました。
ご確認くださいね。
by リンさん (2015-08-25 18:59) 

多楽園

お返事が遅れてしまいまして、申し訳ありません。
実は、送られたメールが受信できませんでした。
どちらかのメールサーバーのセキュリティー問題ではないかと考えられます。
お手数をおかけしまして申し訳ありませんが、こちらの方( jelly_tone@hotmail.com )へ
もう一度メールをお願いできますでしょうか。
何卒、よろしくお願いいたします。
by 多楽園 (2015-09-01 14:40) 

リンさん

<多楽園さん>
メール届かなかったそうで、申し訳ありません。
再度送りました。
今度は届くといいのですが。
また届かなかったらコメントください。
by リンさん (2015-09-02 17:54) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0