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吸血鬼の日常 [公募]

私たち吸血鬼一族は、神代の昔から森の奥でひっそり暮らしていた。
しかし時代は変わり、度重なる自然災害や森林伐採で、とうとう住処を追われてしまった。
都会で人間たちと共存するようになって、もう30年が過ぎようとしている。
今ではすっかりこの暮らしに馴染んでいる。

最初は吸血鬼に対する偏見で、恐れられたり迫害されたり、大規模な抗議デモが起こったりした。
だけど私たちは長い時間をかけて、自分たちがいかに無害かを証明し、人間たちの理解を得るための努力をした。
その結果、私たちは市民権を得て、人間と同じ暮らしができるようになった。

この街の人口の、約一割が吸血鬼だ。
太陽が苦手な私たちは、夜働いて利益を得ている。
ちなみに私は、深夜のコンビニでアルバイトをしている。
十年前に結婚した夫は、血液工場で働いている。
血液工場というのは、人間から血液を買い、特殊な技術で真空パックして市場に出荷する工場だ。この工場のおかげで、私たちはいつでも新鮮な血液がスーパーで買える。
だから人間を襲って血を吸うなどと野蛮なことはもうしない。

深夜のコンビニに来る客は、吸血鬼が多い。
「仕事何時まで? 深夜カフェでブラッディドリンクでも飲まない?」
などと誘われることも多い。
「お生憎さま、私は人妻よ。家には五歳になる息子が待っていますの。仕事が終わったらすぐに帰るわ」
ご存知のように吸血鬼は年を取らないから、いつまでも若さと美貌を保っている。
それを武器にキャバクラでナンバーワンになった友人もいるけれど、私は今の仕事がとても好き。

ヘルメットをかぶった怪しい男が入ってきた。コンビニ強盗だ。
こういうことはたまにある。男は手に、ナイフではなく十字架とニンニクを持っている。
「金を出せ」
私は十字架とニンニクをじっと見た。
「平気なのか?」
「お客様、吸血鬼が十字架とニンニクに弱いなんて、本当に思っています? そんなの誰かが考えたただの迷信ですよ。警察呼びます? それとも生血を吸いましょうか?」
普段は隠している牙をちらりと見せる。男は一目散に逃げて行った。
こういう刺激もたまには楽しい。

明け方まで働いて家に帰ると、何やら家の前が騒がしい。先に帰っていた夫が、隣の奥さんにペコペコ頭を下げている。
「あなた、どうかしたの?」
「あ、ママ、大変だよ。しんのすけが隣のリナちゃんを噛んじゃったんだ」
「まあ、まさか、血を吸ってしまったの?」
「血を吸う前にリナちゃんが逃げたらしい」
「ああ、よかった。血を吸ったら大変だったわね。リナちゃんも吸血鬼になっちゃうもの。まあ、吸血鬼の暮らしも悪くないけどね」
ふふっと肩をすくめたら、隣の奥さんがすごい剣幕で怒鳴ってきた。
「ああよかったじゃないわよ。未然に防げたからいいけど、いつ血を吸われるかと思うと、夜も眠れないわ」
「すみません。しんのすけにはよく言って聞かせますわ。これ、うちのコンビニの新商品なんですけど、よかったらどうぞ」
しんのすけのお土産に買ったおやつを渡して、何とかなだめた。
裁判沙汰になったら大変だから、あとで金一封を渡しましょう。

家に入ると、しんのすけがしょんぼり座っていた。反省しているようだ。
「しんちゃん、毎日必要な血液を与えているのに、いったいどういうこと?」
「まあ、ママ、そんなに頭ごなしに叱らなくても。リナちゃんがムチムチしてて美味しそうだから魔が差したんだよな。ほら、しんのすけはグルメだから」
「あなた甘いわよ。ここに住めなくなったらどうするのよ。あなただってやっと課長になったのに」
「そうだな。ここは厳しくしよう。しんのすけ、どうして夜中にリナちゃんのところに行ったりしたんだ」
しんのすけは、ぐすんと涙ぐみながら、いやいやをするように首を振った。
「行ったんじゃないよ。リナちゃんに誘われたんだ。夜中にお散歩しようって」
「まあ、リナちゃんが? まだ小学生なのに大胆な子ね。それで、どうしたの?」
「リナちゃんが、血を吸ってくれって言ったんだ。吸血鬼になりたいんだって。僕はいやだって言ったよ。だけど、どうしてもってお願いされて…」

これは、幼い恋心か。人間と吸血鬼の禁断の恋物語か。
「でも、血は吸わなかったのよね」
「うん。血を吸う前に、リナちゃんが変身しちゃった」
「変身?」
「体中から黒い毛が生えてきて、リナちゃん動物になっちゃった。だから僕、急いで逃げてきたんだ」
「じゃあ、逃げたのはリナちゃんじゃなくて、しんちゃんなのね」
「しんのすけ、そのとき、月は出ていたか?」
「うん。雲が割れて、まんまるの月が出た」

ああ、そういうことか。
前からおかしいと思っていた。
隣からたまに聞こえる遠吠えのような音。裏通りをさっと通り抜ける犬のような動物。
間違いない。隣のご主人は狼男だ。そしてリナちゃんもその血を継いでいる。
狼男はまだ市民権を得ていないから、いっそ吸血鬼になったほうがいいと思ったのだろう。

「さあ、朝ご飯を食べて眠りましょう」
私はしんのすけの頭をなでて、新鮮な血液をテーブルに並べた。
新しい一日が、今日も始まる。

********

公募ガイド「TO-BE小説工房」で落選だったものです。
テーマは、「ありえない出来事」

公募ガイドを見る前に、落選だとわかっていました。
なぜなら、枚数を間違えるというとんでもないミスをしてしまったのです。
5枚厳守なのに、6ページあった@@
しかも全く気付かずに送ってしまい、気づいたのは締め切りのずいぶん後。。。
こんなミスは初めてです。
まさに、ありえない出来事だ~

まあ、5枚に収めて送っても、入選したかどうかはわかりませんが…
気が緩んでいるのかな。
気を付けよう。
こんなミスは初めてです。


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コメント 10

雫石鉄也

なかなか面白かったです。
ですが、冒頭から?でした。
吸血鬼の食料は人間の血液なワケでしょう。だったら、山奥にひっそりと暮らすのは不自然じゃないですか。確かに人間に認識されたくないでしょう。でも、それじゃ肝心の食料を入手するのに苦労するのではありませんか。それとも、最初は人里にすんでいたが、迫害されて山奥にいったわけですか。
いっそのこと、冒頭から9行を削除したらどうですか。
>この街の人口の、約一割が吸血鬼だ。
ここから始まるわけです。
by 雫石鉄也 (2015-11-10 14:02) 

みかん

血液工場があって血液がスーパーで買える世界!
この物語を映像で見たいなぁと思いました(*^_^*)
お隣は狼男さんか~ ますますすごい世界!
by みかん (2015-11-10 20:50) 

SORI

リンさんさん こんばんは
昔からの祈願だった人間と吸血鬼の共存が、ついに実現したのですね。思いもよらない事件もあって楽しかったです。
by SORI (2015-11-10 22:26) 

海野久実


雫石さんのおっしゃる通りですね。
吸血鬼は人の近寄りがたい断崖のお城に住んでいて、夜な夜なコウモリに姿を変えて人々の血を吸いに行く、そんなイメージですね。
あまり離れちゃうと不便です(笑)

冒頭のその部分がほぼ原稿用紙一枚分ではないですか。

狼男が市民権を得るには吸血鬼になるのもいいけれど、それでは狼男が絶滅しちゃいますね。
天候を科学的に操る事が出来るようになった未来では満月の夜は必ず曇りと言う事にすればいいかも。
まだまだ先の話ですね。

by 海野久実 (2015-11-11 11:07) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
なるほど、おっしゃる通りです。
街の一割が吸血鬼の世界って、確かにあり得ないし、余計な過程の説明は要りませんでしたね。
すっきりしました。
ありがとうございます。
by リンさん (2015-11-11 16:50) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
私も映像で見たい^^
だれか作って~^^
by リンさん (2015-11-11 16:54) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
こんなふうにすれば、共存できるかもしれませんね。
書いてて楽しかったです。
by リンさん (2015-11-11 17:01) 

リンさん

<海野久美さん>
ありがとうございます。
そうですね。
よく見直せば、前半を削って5枚に収めることもできたかな?
送る前に、誰かに読んでアドバイスもらえたらいいんですけど。

狼男の共存は、考えてみれば吸血鬼より簡単かもしれませんね。
満月の夜だけ外出しなければいいんですものね。
by リンさん (2015-11-11 17:05) 

dan

枚数間違えるなんてリンさんらしくもない。
残念です。あり得ない出来ごとです。
吸血鬼や狼男は苦手だけど面白かったです。
次々と難しいテーマ考えるものですね。
頑張って下さい。

by dan (2015-11-13 17:08) 

リンさん

<danさん>
そうなんですよ。
自分でもびっくりポンでした。
これからはしっかり見直そうと思います。
ありがとうございます^^
by リンさん (2015-11-15 16:55) 

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