楽しいきもだめし [公募]
夏休みです。夏祭りにキャンプ、子供会の行事は楽しいことがいっぱいです。
だけど小夏には、たったひとつだけ、にがてなことがあります。
それは、きもだめしです。
まっくらな夜に子供だけで集まって、二人一組でお墓を一周するのです。
四年生の小夏は、今年から低学年をひっぱる立場です。
「むり。ぜったいむり」
小夏は、とても怖がりで泣き虫でした。
きもだめしの日がきました。
小夏は、咲という一年生の女の子と組むことになりました、
話したこともない、おとなしそうな子です。
よりによっていちばん小さな子と組むなんてと、小夏はお墓に入る前から泣きそうでした。
「泣いたらばつゲームだ」
男子たちがゲラゲラ笑って小夏をからかいました。
生あたたかい風がふいています。
小夏たちの番がやってきました。
「咲ちゃん、大丈夫だからね」
そう言って先を歩く小夏の方が、よっぽどふるえています。
「小夏ちゃん、怖いの?」
「こ、怖くないよ。四年生だもん」
強がっても足がすくみます。
小夏は木の枝がざわっとゆれただけで、ひめいをあげて飛び上がりました。
「小夏ちゃん、だいじょうぶ?」
咲はまるで怖がっていません。
「咲ちゃんは平気なの?」
「うん。楽しいよ。みんないるから」
「みんなって?」
「ほら、あそこに魚屋のおじいさんがいる」
咲は木の下のお墓を指さしました。だれもいません。
だけどそのお墓は、去年亡くなった魚屋のおじいさんのお墓でした。
「あの……咲ちゃん、もしかして、ゆうれいが見えるの?」
「うん。ここにはすごくたくさんいるよ。子供たちが遊びにきたから、みんなうれしくて出てきたんだよ」
小夏は背すじがゾクッとしました。
「小夏ちゃん、ちっとも怖くないよ。みんなとてもやさしいよ」
「やさしくてもゆうれいでしょう?」
「小夏ちゃん、あそこに、肉屋のおじさんがいるよ。小夏ちゃんのことを見てるよ」
「え? 駅前のお肉屋さん? あそこのコロッケ、おいしいから大好き」
小夏はふるえながらも、あげたてのアツアツコロッケを思いうかべました。
「おじさんが、毎度あり~って言ってるよ」
「ほんと?」
小夏は、だんだん怖くなくなってきました。
「あそこには、駄菓子屋のおばさんがいるよ」
「わあ、いつもおまけしてくれたおばさん? お店がなくなって、わたしさみしいよ」
「おばさんが、ありがとうって言ってる」
小夏は、とても楽しくなってきました。
「ねえ咲ちゃん、もしかしてわたしのおばあちゃんもいる?」
小夏は、やさしかったおばあちゃんに、もう一度会いたいと思っていました。
「あそこで手をふっているよ。ピアノの練習、ちゃんとやっているかなって言ってる」
「ちゃんとやってるよ。今度の発表会でショパンをひくよ」
「あとね、お盆には、おまんじゅうをそなえてほしいって」
「おばあちゃん、おまんじゅう好きだったもんね。わかったよ。約束ね」
小夏は、胸がじんわりあたたかくなりました。
そしてお墓を一周して、みんなのところへ帰りました。
ニコニコと笑いながら帰ってきた小夏を見て、男子たちはひょうしぬけしました。
ぜったい泣きながら帰ってくると思っていました。
「小夏、よくひとりで行けたな」
男子の一人が言いました。
「え? ひとりじゃないよ。咲ちゃんといっしょだよ」
「咲ちゃんって、だれ?」
「一年生の咲ちゃんだよ」
「そんな子いないよ。それに今年は、一年生は参加してないよ。小夏ちゃんと組むはずだった二年生は風邪でお休みだったんだよ」
「うそ……」
小夏はとなりを見ましたが、だれもいません。
ついさっきまでいっしょだった咲の顔を思い出そうとしましたが、不思議なことに思い出せません。
「小夏ちゃん、その子、ゆうれいじゃない?」
子供たちは、いっせいにひめいをあげてお墓から逃げ出しました。
だけど小夏は、少しも怖くありません。
お墓をふりかえって、にっこり笑いました。
「咲ちゃん、また来年ね」
小夏は、きもだめしがすっかり大好きになっていました。
*******
公募ガイドの「童話コンテスト」に応募した作品です。
入選は出来ませんでしたが、ベスト20に選んでいただき、講評を送っていただきました。
それを参考に、少し手直ししたものをアップしました。
講評がいただけると思わなかったので、すごくうれしく、また勉強になりました。
いろいろ落ちまくっているので、童話には向かないのかなと思っていましたが、少しだけ自身が持てました。
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だけど小夏には、たったひとつだけ、にがてなことがあります。
それは、きもだめしです。
まっくらな夜に子供だけで集まって、二人一組でお墓を一周するのです。
四年生の小夏は、今年から低学年をひっぱる立場です。
「むり。ぜったいむり」
小夏は、とても怖がりで泣き虫でした。
きもだめしの日がきました。
小夏は、咲という一年生の女の子と組むことになりました、
話したこともない、おとなしそうな子です。
よりによっていちばん小さな子と組むなんてと、小夏はお墓に入る前から泣きそうでした。
「泣いたらばつゲームだ」
男子たちがゲラゲラ笑って小夏をからかいました。
生あたたかい風がふいています。
小夏たちの番がやってきました。
「咲ちゃん、大丈夫だからね」
そう言って先を歩く小夏の方が、よっぽどふるえています。
「小夏ちゃん、怖いの?」
「こ、怖くないよ。四年生だもん」
強がっても足がすくみます。
小夏は木の枝がざわっとゆれただけで、ひめいをあげて飛び上がりました。
「小夏ちゃん、だいじょうぶ?」
咲はまるで怖がっていません。
「咲ちゃんは平気なの?」
「うん。楽しいよ。みんないるから」
「みんなって?」
「ほら、あそこに魚屋のおじいさんがいる」
咲は木の下のお墓を指さしました。だれもいません。
だけどそのお墓は、去年亡くなった魚屋のおじいさんのお墓でした。
「あの……咲ちゃん、もしかして、ゆうれいが見えるの?」
「うん。ここにはすごくたくさんいるよ。子供たちが遊びにきたから、みんなうれしくて出てきたんだよ」
小夏は背すじがゾクッとしました。
「小夏ちゃん、ちっとも怖くないよ。みんなとてもやさしいよ」
「やさしくてもゆうれいでしょう?」
「小夏ちゃん、あそこに、肉屋のおじさんがいるよ。小夏ちゃんのことを見てるよ」
「え? 駅前のお肉屋さん? あそこのコロッケ、おいしいから大好き」
小夏はふるえながらも、あげたてのアツアツコロッケを思いうかべました。
「おじさんが、毎度あり~って言ってるよ」
「ほんと?」
小夏は、だんだん怖くなくなってきました。
「あそこには、駄菓子屋のおばさんがいるよ」
「わあ、いつもおまけしてくれたおばさん? お店がなくなって、わたしさみしいよ」
「おばさんが、ありがとうって言ってる」
小夏は、とても楽しくなってきました。
「ねえ咲ちゃん、もしかしてわたしのおばあちゃんもいる?」
小夏は、やさしかったおばあちゃんに、もう一度会いたいと思っていました。
「あそこで手をふっているよ。ピアノの練習、ちゃんとやっているかなって言ってる」
「ちゃんとやってるよ。今度の発表会でショパンをひくよ」
「あとね、お盆には、おまんじゅうをそなえてほしいって」
「おばあちゃん、おまんじゅう好きだったもんね。わかったよ。約束ね」
小夏は、胸がじんわりあたたかくなりました。
そしてお墓を一周して、みんなのところへ帰りました。
ニコニコと笑いながら帰ってきた小夏を見て、男子たちはひょうしぬけしました。
ぜったい泣きながら帰ってくると思っていました。
「小夏、よくひとりで行けたな」
男子の一人が言いました。
「え? ひとりじゃないよ。咲ちゃんといっしょだよ」
「咲ちゃんって、だれ?」
「一年生の咲ちゃんだよ」
「そんな子いないよ。それに今年は、一年生は参加してないよ。小夏ちゃんと組むはずだった二年生は風邪でお休みだったんだよ」
「うそ……」
小夏はとなりを見ましたが、だれもいません。
ついさっきまでいっしょだった咲の顔を思い出そうとしましたが、不思議なことに思い出せません。
「小夏ちゃん、その子、ゆうれいじゃない?」
子供たちは、いっせいにひめいをあげてお墓から逃げ出しました。
だけど小夏は、少しも怖くありません。
お墓をふりかえって、にっこり笑いました。
「咲ちゃん、また来年ね」
小夏は、きもだめしがすっかり大好きになっていました。
*******
公募ガイドの「童話コンテスト」に応募した作品です。
入選は出来ませんでしたが、ベスト20に選んでいただき、講評を送っていただきました。
それを参考に、少し手直ししたものをアップしました。
講評がいただけると思わなかったので、すごくうれしく、また勉強になりました。
いろいろ落ちまくっているので、童話には向かないのかなと思っていましたが、少しだけ自身が持てました。
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2016-07-09 10:12
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コメント(14)
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咲ちゃん!幽霊だったのね(゚o゚;
この最後のひとひねりが
「やられた~」となるわけです(´▽`)
小夏ちゃんは来年のきもだめしが
今から楽しみですね~
by みかん (2016-07-09 12:32)
いいですね~、じんわりと目頭にきました。
お墓=幽霊=怖い、じゃなくて、亡くなった人というとらえ方がよかったです。
りんさんの優しいお人柄が伺えます。
ワタシも講評を送っていただきましたが、すべてが「なるほど!」ってな感じでした。
by おなら出ちゃっ太 (2016-07-10 14:09)
昔から そしていまも怖がりですが りんさんの楽しいきもだめしを読んでいたら 少し怖くなくなったかもしれません。 (^.^;)
by たまきち (2016-07-10 17:52)
リンさんさん こんにちは
咲ちゃんて、誰だったのでしょうね。
やっぱり、1年生で亡くなった人なのでしょうね。
子供のころはお墓が怖いものだと思い込んでしまうものですね。でも懐かしい人たちのメモリアルでもあるのですね。
by SORI (2016-07-10 18:51)
こんばんは。
幽霊とうらめしや~っていうイメージが強くて
怖いモノって思ってしまいがちですが、
本来はこんな感じに見守ってくれている存在なのかも
しれないですね。
読後、なんだかとってもじんわりして、優しい気持ちに
なれました。
by まるこ (2016-07-11 22:34)
きもだめし...
懐かしい気持ちで読みました。
リンさんの童話はただの童話じゃないところがいいです。
ひとつ先のことを考えさせてくれます。「きっと何かある」とね。
そして最後にはほんわか暖かい気持ちにさせてくれる。
童話も自信もってください。
by dan (2016-07-12 15:38)
<みかんさん>
ありがとうございます。
じつは咲ちゃんは幽霊だったというオチが、小さい子供には理解できないというのが、入選しなかった理由です。
難しいものですね^^
by リンさん (2016-07-13 13:38)
<おならでちゃっ太さん>
ありがとうございます。
1次通過だったんですね。
私の場合、435編も応募があって、1次通過は奇跡です。
講評ありがたかったですね。
これからの励みになりました。
by リンさん (2016-07-13 13:45)
<たまきちさん>
ありがとうございます。
子供向きの童話なので、怖くならないように気をつけました。
楽しく読んでもらえてよかったです^^
by リンさん (2016-07-13 13:49)
<SORIさん>
ありがとうございます。
お墓が懐かしい人のメモリアルなんて、素敵な言葉ですね。
幽霊も怖いばかりじゃないですね。
by リンさん (2016-07-13 13:54)
<まるこさん>
ありがとうございます。
本当はお墓で肝試しなんていけないかもしれませんけどね^^
こんな肝試しならいいかなと思います^^
by リンさん (2016-07-13 13:58)
<danさん>
ありがとうございます。
嬉しいです。少し自信が持てました。
娘が小学生の頃、肝試しがありました。
みんな楽しそうだったので、それを書いてみました^^
by リンさん (2016-07-13 14:01)
いいですね。
亡くなった、よく知っていた人が幽霊になって出てくる繰り返しが子供受けしそう。
それが主人公には直接見えていないと言うのも面白いですね。
でも、幽霊の咲ちゃんの正体(生きていた時の事)がわからないままおわり?
それは続編でのお楽しみとか?
by 海野久実 (2016-07-15 18:58)
<海野久実さん>
ありがとうございます。
咲ちゃんの正体がわかったら、なんだか悲しくなっちゃう気がして、あえて書きませんでした。
大人向きのファンタジーなら、お菓子がお供えしてある咲ちゃんのお墓を登場させるのもアリかもしれません。
by リンさん (2016-07-16 15:04)