クズと守護霊 [ファンタジー]
ヤツはぐうたらだ。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からシャワーを浴びる。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からビールを飲む。
「暑い、暑い」と言いながら、ふたたび眠る。
ヤツは働かない。だから金がない。
金がないから嫁も来ない。
来るのは借金取りくらいだ。
ドンドンドン「おい、出てこい! いるのはわかってるんだ」
ほら、噂をすれば借金取りが来た。
こんなに激しくノックしても、ヤツは起きない。
並の神経ではないのだ。
うるさいし、仕方がないから追い返そう。
「うわ、いきなり植木鉢が落ちてきた。なんだ、なんだ、うわっ!」
植木鉢を落として、ホースの水をかけてやったら逃げて行った。
借金を返さないヤツが悪いのはわかっている。
助ける必要はないのかもしれないが、なにしろ私は、ヤツの守護霊だ。
たとえクズでも、ヤツを守るのが私の仕事なのだ。
カビが生えたパンを食べて死にそうになった時も助けてやった。
根っからのダメ人間だから、放っておけないのだ。
ああ、どうして私は、こんなヤツの守護霊なのだろう。
もっと守り甲斐のあるヤツだったらいいのに。
汗水たらして働く好青年の守護霊だったら、どんなによかったか。
ヤツが寝ている間に、守護霊組合に行く。
「お願いしますよ。守る人間を変えてくださいよ。もう限界ですよ」
「よし、そこまで言うなら変えてやる」
何度も願いを出しているせいか、ようやく許可が出た。
翌日から私は、かわいらしい少女の守護霊になった。
優しくて品行方正。私が守らなくても、すべての人に守られている幸せな子だ。
穏やかだ。
借金取りも来ないし、かびたパンを食べることもない。
こうも穏やかだと、ヤツのことが気になってくる。
腐ったものを食べていないか。電気を止められていないか。
ちょっと様子を見てこよう。
ヤツがぐったりしている。顔が腫れているではないか。
借金取りが来て、ボコボコにされたんだな。
ちょっと可哀想だ。
それでもヤツは時計を気にして立ち上がった。
ヤツは仕事を始めたようだ。さすがに、このままではまずいと思ったのだろう。
それとも借金取りに殴られて目が覚めたか。
日雇いの工事現場だ。
「水分だけはしっかりとれよ」と耳元で、ささやいてやった。
夕方ヤツは、もらった金を手にスーパーに行き、酒と花を買った。
花? 私が離れたとたん、彼女でも出来たか?
ヤツは酒と花を持って、アパートと反対方向に歩き出した。
行き先は墓地だ。
ヤツが立ち止まった墓は、なんと私の墓だった。
よく見たら、私が生前好きだった酒ではないか。
「じいちゃん、なかなか来れなくてごめんよ」
すっかり日が暮れた墓場で、ヤツはいつまでも手を合わせていた。
そうか。ヤツは私の孫だったか。
自ら進んで孫の守護霊になったことを、私はすっかり忘れていた。
自分の孫だから、少しばかり甘やかしすぎたのだ。
私は守護霊組合に頼んで、ふたたびヤツの守護霊にしてもらった。
今度は甘やかさんからな。
しっかり生きろよ。タカシ。
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「暑い、暑い」と言いながら、朝からシャワーを浴びる。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からビールを飲む。
「暑い、暑い」と言いながら、ふたたび眠る。
ヤツは働かない。だから金がない。
金がないから嫁も来ない。
来るのは借金取りくらいだ。
ドンドンドン「おい、出てこい! いるのはわかってるんだ」
ほら、噂をすれば借金取りが来た。
こんなに激しくノックしても、ヤツは起きない。
並の神経ではないのだ。
うるさいし、仕方がないから追い返そう。
「うわ、いきなり植木鉢が落ちてきた。なんだ、なんだ、うわっ!」
植木鉢を落として、ホースの水をかけてやったら逃げて行った。
借金を返さないヤツが悪いのはわかっている。
助ける必要はないのかもしれないが、なにしろ私は、ヤツの守護霊だ。
たとえクズでも、ヤツを守るのが私の仕事なのだ。
カビが生えたパンを食べて死にそうになった時も助けてやった。
根っからのダメ人間だから、放っておけないのだ。
ああ、どうして私は、こんなヤツの守護霊なのだろう。
もっと守り甲斐のあるヤツだったらいいのに。
汗水たらして働く好青年の守護霊だったら、どんなによかったか。
ヤツが寝ている間に、守護霊組合に行く。
「お願いしますよ。守る人間を変えてくださいよ。もう限界ですよ」
「よし、そこまで言うなら変えてやる」
何度も願いを出しているせいか、ようやく許可が出た。
翌日から私は、かわいらしい少女の守護霊になった。
優しくて品行方正。私が守らなくても、すべての人に守られている幸せな子だ。
穏やかだ。
借金取りも来ないし、かびたパンを食べることもない。
こうも穏やかだと、ヤツのことが気になってくる。
腐ったものを食べていないか。電気を止められていないか。
ちょっと様子を見てこよう。
ヤツがぐったりしている。顔が腫れているではないか。
借金取りが来て、ボコボコにされたんだな。
ちょっと可哀想だ。
それでもヤツは時計を気にして立ち上がった。
ヤツは仕事を始めたようだ。さすがに、このままではまずいと思ったのだろう。
それとも借金取りに殴られて目が覚めたか。
日雇いの工事現場だ。
「水分だけはしっかりとれよ」と耳元で、ささやいてやった。
夕方ヤツは、もらった金を手にスーパーに行き、酒と花を買った。
花? 私が離れたとたん、彼女でも出来たか?
ヤツは酒と花を持って、アパートと反対方向に歩き出した。
行き先は墓地だ。
ヤツが立ち止まった墓は、なんと私の墓だった。
よく見たら、私が生前好きだった酒ではないか。
「じいちゃん、なかなか来れなくてごめんよ」
すっかり日が暮れた墓場で、ヤツはいつまでも手を合わせていた。
そうか。ヤツは私の孫だったか。
自ら進んで孫の守護霊になったことを、私はすっかり忘れていた。
自分の孫だから、少しばかり甘やかしすぎたのだ。
私は守護霊組合に頼んで、ふたたびヤツの守護霊にしてもらった。
今度は甘やかさんからな。
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2016-07-20 16:41
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コメント(10)
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リンさんさん こんばんは
じっちゃんが守護霊だったのです。根っから悪い人ではなかったようで安心いたしました。しっかり守って立派な人にしてあげでください。
by SORI (2016-07-20 21:01)
あの世に行ってもお孫さんは可愛いんでやすなぁ。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-07-21 13:49)
"ヤツ"がお花とお酒を買って持って行った場所に何だか涙が出そうになった。
ぐうたらでも、優しい心持ってるんだよね。
おじいちゃん、これからも彼を守ってあげてね。
by まるこ (2016-07-22 17:24)
守護霊組合思わず笑ってしまいました。
血縁って不思議なものだと思いませんか。
ぐうたらでも優しさはきっと受け継いでいるのでしょう。
by dan (2016-07-25 10:59)
<SORIさん>
ありがとうございます。
やっぱり身内には甘くなってしまうようですね。
これからは、厳しく優しい守護霊でいてほしいです。
by リンさん (2016-07-25 17:13)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうですね。やっぱり孫は格別可愛いと言いますものね^^
by リンさん (2016-07-25 17:14)
<まるこさん>
ありがとうございます。
きっと彼はおじいちゃんっ子だったんでしょうね。
だから守ってもらえるんでしょうね。
by リンさん (2016-07-25 17:16)
<danさん>
ありがとうございます。
たしかに血縁って不思議です。
優しいおじいちゃんに守られて、きっといい人生を送れると思います。
by リンさん (2016-07-25 17:20)
りんさん初めまして!コメント失礼します。お茶でも飲みながらというのがストレートにビンゴしたくらいピッタリですね(^o^)
ほのぼのしたストーリーから、りんさんの人柄にも好感が持てます。最近このブログに出会いましたが、毎回オチがいいんですね。ニヤニヤしながら読んでる自分がいます笑
by ふう (2016-07-27 05:50)
<ふうさん>
初めまして。
コメントありがとうございます。
いつも読んでくださっているなんて、ホントに嬉しい^^
ふうさんのブログにも、お邪魔しますね。
今後ともよろしくお願いします。
by リンさん (2016-07-30 12:13)