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ママ友ってなんだろう

ママ友との付き合いは大切。
子供の友達関係にも影響するらしいって、先輩ママが言っていた。
幼稚園に送り届けた後のファミレスは、今や日課になっている。
税込み380円のドリンクバーは、私にとって決して安くないが、これも主婦の仕事。
おしゃべりが苦手な私はめっぽう聞き役で、よく動くママ友たちの口を眺めて相槌をうつのが精一杯だ。

「ねえ、優ちゃんママはどう思う?」
こんなふうにいきなり話を振られると「へっ?」とマヌケな声を出してしまう。
「もう、聞いてなかったの? 旬くんママが不倫してるってウワサ」
「旬くんママが? …まさか」
「優ちゃんママ、ご近所でしょう? 何か知らない?」
「さあ…」
首をかしげると、途端にため息の嵐が起こる。
「つかえねーな、この女」と、言われているような気がする。

「なにか、探って…みる?」
ご機嫌をとるように言ってみると、みんなの目が輝く。
「やだ、優ちゃんママ探偵みたい」
「何かわかったら、明日報告してね」
「あ、明日…?」
軽はずみなことを言ってしまった。
旬くんママとは、家が近所というだけで、親しいわけではない。どうしよう。
やはり「おすそ分け作戦」といくか。

スーパーで柿を4つ買って旬くんママの家に行った。
「あの、実家から柿がたくさん送られてきて、その、おすそ分けです」
旬くんママは、柿と私を交互に見ながら「どうも」と短く言った。
そう。この人はとてもそっけない。会話が終わってしまう。
「す、素敵なお庭ですね」
「どこが?」
よく見ると、バラバラに伸びきったコスモスと、空の植木鉢が転がっている殺風景な庭だ。
しまった、ともじもじしていたら、旬くんママが呆れたように言った、
「散らかってるけど、上がってく?」
「いいんですか?」
「そのつもりで来たくせに」と、旬くんママが軽く舌打ちをした。

家の中は、本当に散らかっていた。
ダンボールとプラスチックの部品が床を占領している。
「内職してるの」
「あ、内職。へえ」
「本当は働きたいけど、旬がまだ小さいから一緒にいてあげたいし」
旬くんママはカチカチと手を動かしながら「適当に座って」と言った。
「大変そう」
「うん。でもね、旬が幼稚園に行ってる間に集中してやれば、小遣い稼ぎくらいになるのよ。旬が帰ってきたらめいっぱい遊ぶの。子供と過ごす時間は、私にとっても宝物だもん」
不倫どころか、めちゃくちゃいいママじゃないの。
私なんて怒ってばっかり。尊敬する。見習いたい。

「先生、私、コーヒー淹れます。柿も剥きます。どうぞお仕事お続けください」
「ぷっ」と旬くんママがふき出した。
「ありがと。面白い人ね、小暮さん」
え…?苗字を呼ばれただけなのに、妙に新鮮だ。優ちゃんママと呼ばれることに慣れていたせいか。
「それ、どこの柿?」
「えっ?さあ、産地見るの忘れたわ」
「ご実家から送って来たんじゃないの?」
はっ!なんてマヌケ。「おすそ分け作戦」すっかりバレた。
「ウケる。面白いわね、小暮さん」
旬くんママ…いえ、原田さんは笑い転げた。

翌日のファミレスで、私は原田さんの不倫疑惑を否定した。
不倫どころか毎日内職で忙しく、かといって子育てもおろそかにしないことを話した。
「ええっ?旬くんママ、内職してるの?」
「今どき内職って。なんか暗い。昭和かよ」
「そんなに家計が苦しいなら、公立の幼稚園にすればいいのにね」
嘲笑が起こる。なぜ原田さんが笑いものにされるのかわからない。

「あの」と私は顔を上げた。
「小遣い稼ぎに内職をして、何が悪いの? 私だって、そんなに生活が楽なわけじゃない。毎日380円のドリンクバーだって、専業主婦には結構な負担だわ。この時間だって、ずっと前から無駄だと思ってた。早く帰って子供のおやつでも作ったほうがよっぽどいい」
過呼吸になるかと思うほど一気にしゃべり、380円を置いて席を立った。
足がふるえていた。

やっちまった…という気持ちが20%、爽快感が80%
明日から、私が悪口の標的になるのかな。優香が仲間外れにされたりするかしら。
でも、自分をしっかり持っていれば大丈夫。
家に帰って、優香の好きなケーキを焼こう。

その後結局、朝のファミレス集会はなくなった。
私と同じ思いの人が、他にもいたらしい。
月日が経って、彼女たちとの付き合いがなくなっても、原田さんとだけは交流が続いている。
ママ友ってなんだろうって、最近考える。


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コメント 13

SORI

リンさんさん おはようございます。
フィクションなのか、現実の物語なのか、ついつい読み行ってしまいました。最後がすっきりする、なぜかありそうな世界です。
by SORI (2016-11-08 05:24) 

たまきち

勇気あるなぁ。どんどん勇気だしなさいと思いました。

by たまきち (2016-11-08 16:39) 

まるこ

ママ友さん達の付き合いが大変そう、というより
こういう上辺だけの関係や仲間ってキツいですよね><
広く浅い交流がなくなっても、
本音を言い合える原田さんのような
狭くても深い友達が一人でもいるって
いうのが最高に素敵です^^
by まるこ (2016-11-09 15:09) 

海野久実

よかったよかった。
スッキリ良い方向で決着。
これをもっと長くするとしたら途中にもっとこじれるエピソードが入って、何やかやあってハッピーエンドという感じでしょうか。
更にミステリー要素が加わると、加納朋子さんの作品に近い感じになるかなあ。
ユーモアの質とか。
加納朋子さん知ってます?
入院してからもう10冊以上読んだんですが、いやいや面白い。
殺人事件が起こるわけでもなく、日常のちょっとした謎が絡んだ作品が主なんですが、涙ぐんだり吹き出したりしながら読んでいます。
by 海野久実 (2016-11-10 09:58) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
私は仕事をしていたので、こんなふうにお茶するママ友が羨ましかったです。
それでもいろんな噂は流れてくるもので、いろいろあるなと思っていました。
by リンさん (2016-11-10 19:06) 

リンさん

<たまきちさん>
ありがとうございます。
そうですね。ひとりが勇気を出せば変わることもありますね。
by リンさん (2016-11-10 19:07) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
私もママ友が何人かいましたが、今でも付き合っているのは一人だけです。
学生時代や職場の友達の方が長続きします。
by リンさん (2016-11-10 19:13) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
加納朋子さんを検索してみました。
タイトルは知っているものがいくつかありましたが、読んだことはないです。
今度図書館で借りてみます。
おすすめはどの作品ですか?
by リンさん (2016-11-10 19:16) 

海野久実

加納朋子作品でおすすめですかー
まず読むなら「沙羅は和子の名を呼ぶ」と「トオリヌケキンシ」かなあ。
「螺旋階段のアリス」と「虹の家のアリス」のアリスシリーズも面白いし、「ささらシリーズ」の三冊も面白そう。(二冊読んであと一冊注文中)
「駒子シリーズ」と言うのもあって、一冊目がデビュー作の「ななつのこ」なんですが昨日読んだばかり。
で、これはデビュー作だけあって、まだ加納朋子さんらしさが発揮されていない感じがしました。

by 海野久実 (2016-11-10 21:11) 

海野久実

先の二冊は短編集ですからとっつきやすいでしょう。
あとのシリーズ物も連作長編(同じテーマの短編連作)と言うやつで、読みやすいですよ。
デビュー作の「ななつのこ」は加納さんのファンになってから読むほうが良いかもしれません。
ぼくが最初にこの作品を読んでいたら、他の作品は読まなかったかも。
いや、面白いことは面白いんですよ。
「ななつのこ」のシリーズの二巻目を今読んでいるんですが、これはいつもの加納さんと言う感じで面白いです。
by 海野久実 (2016-11-11 11:11) 

リンさん

<海野久実さん>
詳しい情報ありがとうございます。
早速明日図書館に行ってみます。
しょぼい図書館なので、教えてもらった作品がないかもしれませんが、なかったら古本屋でもいってみます^^

私も以前入院した時は、病院に図書室があったので、小説や漫画を読みまくりました。
私が小説を書き始めたのはその後です。
いいきっかけだったのかもしれません。
by リンさん (2016-11-11 18:18) 

ひと休み

いま読みました。
爽快感でいっぱい。
お裾分け作戦がばれるとこ、大笑い。
優ちゃんママの反応の書き方が、本当にうまいです。
笑わせ方を知ってる、という感じですね。
(りんさん、ひょっとして大阪出身ですか? ぼくは大阪)
笑いがあるから、「正しさ」が光るんですね。

ほかのところで、オチが途中でばれてるので云々……
と書いたけど、
ショートショートの常識で見るより、
短い小説として(本来、SSってそうなんだけど)見る方が
りんさんの作品いいのかも。
笑って、しみじみして、人生に前向きになれて、
ほんとにすばらしいです。

加納朋子、「ななつのこ」しか読んだことありませんでした。
ぼくも海野さんのおすすめ、読んでみたいと思います。
長文しつれいしました(^^;)



by ひと休み (2016-12-19 08:24) 

リンさん

<ひと休みさん>
ありがとうございます。
細かいところまで読み込んでいただけて光栄です。
ちなみに私は生まれてから関東を離れたことはありません^^
お笑いは大好きです。

TO-BE小説工房でも、オチのない作品が選ばれたりしていますから、あまりこだわらなくてもいいのかもしれませんね。
日常を切り取ったような話も、書いていてとても楽しいです。

by リンさん (2016-12-19 23:54) 

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