年齢不詳の女 [ミステリー?]
たまの休日、ひとりでふらりと出かけた。
平日の昼間だ。電車は驚くほど空いている。
向かいの席に座っているのは、男と女。
こんなに空いているのに、ピッタリ寄り添っているのだから、きっと連れなのだろう。
男は服装や髪型から、50代くらいと思われる。
しかし女は、まったくの年齢不詳である。
20代にも見えるし、40代にも見える。
化粧は薄く、黒髪をひとつに結び、黒のコートに黒の普通のバッグ。
年齢を感じさせるものは何もない。
女はときおり男に話しかける。
顔を近づけて、囁くように話す。
夫婦にも見え、親子にも見える。
いったいどっちだ?
僕はひどく気になって、さりげなく席を立ち、女の隣に座った。
ちょうど後頭部を照らす太陽を、熱く感じ始めたことを利用した。
女の声が、微かに聞こえる。
「ねえ、あと何駅?」
20代の声のようで、40代の声にも聞こえる。
まるで特徴がない声だ。手がかりはないか?
手を見る。手袋を嵌めていて見えない。
首の皺は? タートルネックのセーターで見えない。
今が冬であることが、心の底からもどかしい。
夫婦か、親子か、兄妹か。
ところが駅に着いた途端、男が立ち上がり、さっさと降りてしまった。
女に手を振ることもなく、振り返ることもなく降りた。
同じ家に帰らないということは、夫婦ではない。
もしかして不倫か。上司と部下か?
だから別れ際は未練を残さず、あえて冷徹に。
それにしても、こんな昼間から不倫とは嘆かわしい。
心なしか女がひどく不幸に見える。
ふいに女が、僕の肩に寄りかかってきた。
女は耳元で「どこで降りるの?」と囁いた。
「み、緑が丘」と僕は答えた。
「ねえ、あと何駅?」
「えっ?」
ぴたりと寄り添って、抑揚のない声で言う。
「ねえ、あと何駅?」
さっきの駅で乗り込んで、向かいの席に座った紳士が、僕たちを不思議そうに見ている。
きっと彼の頭の中には、クエスチョンマークが浮かんでいる。
『男は20代、女は年齢不詳。親子か?恋人か?姉弟か?」
気になって仕方がない様子で、彼が立ち上がる。
そして女の隣に腰を下ろした。
僕は次の駅で、すかさず降りた。
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平日の昼間だ。電車は驚くほど空いている。
向かいの席に座っているのは、男と女。
こんなに空いているのに、ピッタリ寄り添っているのだから、きっと連れなのだろう。
男は服装や髪型から、50代くらいと思われる。
しかし女は、まったくの年齢不詳である。
20代にも見えるし、40代にも見える。
化粧は薄く、黒髪をひとつに結び、黒のコートに黒の普通のバッグ。
年齢を感じさせるものは何もない。
女はときおり男に話しかける。
顔を近づけて、囁くように話す。
夫婦にも見え、親子にも見える。
いったいどっちだ?
僕はひどく気になって、さりげなく席を立ち、女の隣に座った。
ちょうど後頭部を照らす太陽を、熱く感じ始めたことを利用した。
女の声が、微かに聞こえる。
「ねえ、あと何駅?」
20代の声のようで、40代の声にも聞こえる。
まるで特徴がない声だ。手がかりはないか?
手を見る。手袋を嵌めていて見えない。
首の皺は? タートルネックのセーターで見えない。
今が冬であることが、心の底からもどかしい。
夫婦か、親子か、兄妹か。
ところが駅に着いた途端、男が立ち上がり、さっさと降りてしまった。
女に手を振ることもなく、振り返ることもなく降りた。
同じ家に帰らないということは、夫婦ではない。
もしかして不倫か。上司と部下か?
だから別れ際は未練を残さず、あえて冷徹に。
それにしても、こんな昼間から不倫とは嘆かわしい。
心なしか女がひどく不幸に見える。
ふいに女が、僕の肩に寄りかかってきた。
女は耳元で「どこで降りるの?」と囁いた。
「み、緑が丘」と僕は答えた。
「ねえ、あと何駅?」
「えっ?」
ぴたりと寄り添って、抑揚のない声で言う。
「ねえ、あと何駅?」
さっきの駅で乗り込んで、向かいの席に座った紳士が、僕たちを不思議そうに見ている。
きっと彼の頭の中には、クエスチョンマークが浮かんでいる。
『男は20代、女は年齢不詳。親子か?恋人か?姉弟か?」
気になって仕方がない様子で、彼が立ち上がる。
そして女の隣に腰を下ろした。
僕は次の駅で、すかさず降りた。
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2018-03-19 18:04
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コメント(12)
うううむ。私は、この作品、怪談と読みました。
水木しげる的妖怪は日本の昔、主にいなかに出ますが、この女は、現代の日本の都会に出る妖怪ではないでしょう。
軽いホラーとして良くできた作品です。
by 雫石鉄也 (2018-03-20 13:40)
実際こういう人たまにいやすよね。
見た目がじゃなくて言動が。
あっしは他に客のいない喫茶店のビッグテーブルに座ってたら、見知らぬおばさんがやってきて、あっしに寄り添う位置に座られたことがありやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2018-03-20 15:56)
いいです、これ。
おどろおどろしくないから、そうきたか!の心地良さが際立ちます。
新たな都市伝説になりそうですね。
by ひと休み (2018-03-21 11:40)
こんにちは!
現実に体験しそうな恐怖ですね。
ゾクッときました。
わたしは終電車で、二本の吊革を両手でつかんで体操選手のように身体を浮かせていた人を見たことがありますが、不条理で怖かったです。吊革も壊れそうでヒヤヒヤしました。
by えもとえい (2018-03-21 12:11)
不思議なお話しですね。
朗読させて頂きたいので、よろしくお願いいたします。
by はる (2018-03-21 18:11)
リンさん、こんばんは。
読みながら私も一緒になって"親子か?恋人か?姉弟か?"って
気になって気になって・・・。
え?この女性、幽霊とかじゃないですよね。
ちゃんと見えてるから、横に座るんだし。
何か不思議ちゃん?
それとも・・・いろいろ考えるとちょっと不気味^^;
by まるこ (2018-03-21 21:47)
<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
ホラーですか。
ちょっとゾクッとしていただけたら…と思っていたので、大成功でした^^
by リンさん (2018-03-23 18:48)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
映画館で、すごく空いているのに、隣に座ってくる人いますよね。
詰めて座らなきゃだめだと思っているんでしょうか^^
by リンさん (2018-03-23 18:50)
<ひと休みさん>
ありがとうございます。
山手線に現れたら怖いですね。
永遠にぐるぐる回って乗り続けるんでしょうか。
by リンさん (2018-03-23 18:51)
<えもとえいさん>
ありがとうございます。
不可解な行動をする人っているものですね。
ずいぶん前ですが、電車でするめを焼いている人、見ました。
さすがに駅員が来ました(笑)
by リンさん (2018-03-23 18:53)
<はるさん>
ありがとうございます。
朗読もちろんOKです。
よろしくお願いします。
by リンさん (2018-03-23 18:54)
<まるこさん>
ありがとうございます。
この前電車に乗ったとき、年齢不詳の女性がいたんです。
それをヒントにしました。
正体は、私にも謎です^^
by リンさん (2018-03-23 18:57)