SSブログ

さくら色、ピンク色

桜が満開になった。
「リナの入学式まで持つかなあ、桜。桜がない入学式じゃ、かわいそうだよね」
ハラハラと散り始めた桜を見て、パパが言う。
「別に子どもは気にしないんじゃない? 桜なんて」
「えー、冷たくない? ママって本当にドライだね」

結婚して8年。パパ、ママと呼び合って6年。
一人娘の卒園式で、パパは大泣きした。
私は、そんなパパにちょっと引いた。

私たちは共働きで子どもを育てているけれど、私の職場の方が圧倒的に忙しい。
接待や出張もあるし、リナが寝てから帰宅することもある。
一方パパは、今どき珍しく、ほぼ毎日定時で帰れる仕事をしている。
だからリナの世話は、パパに任せることが多くなる。
保育園の迎え、食事にお風呂。髪を結ぶのは、たぶん私より上手い。
「初めて歩いた」「歯が生えた」成長を最初に知るのは、いつもパパだった。

恵まれていると思う。気兼ねなく仕事が出来て、家事や育児が疎かでも、パパは文句ひとつ言わない。リナはいい子に育っている。
恵まれているのに、少し苦しい。
本来やらなければいけないことを、していないという負い目だろうか。
母親なのに、という想いが、棘みたいに頭のどこかに刺さっている。
だから、卒園式で泣けなかったのかもしれない。

「パパ、入学式では泣かないでよね」
「はっ? 入学式で泣く親なんているかよ」
部屋の壁には、リナが入学式で着るピンクのワンピースが掛かっている。
義母が、リナのために買ってくれたものだ。
リナにはピンクより、紺や水色の方が似合うと思うが、そういったことにも、私は口出しが出来ない。

「ママ」
庭で桜の花びらを追っていたリナが、部屋に入って来た。
「ねえ、ママ、リナの入学式には、ピンクのお洋服を着てね」
「ピンクのお洋服? ママ、そんな服持っていたかしら?」
「あったよ。リナ、写真で見たもん」
「写真? ああ、新婚旅行の写真ね。もう着れないよ」
「どうして?」
「あのときは20代だけど、ママはもう30代。若くないもん」
「えー、リナ、ママとおそろいにしたくて、あのワンピースにしたのよ」
駄々っ子みたいに、リナがまとわりついてきた。

「まだ着れるよ。体型変わってないし、髪を下ろせば充分20代に見えるよ」
パパが、リナと同じ顔で言う。
「ホントに? じゃあ、着てみるか」
クローゼットからピンクのスーツを取り出すと、それはリナのワンピースと全く同じ色だった。
「いいなあ。ママはリナとおそろいの服が着られて」
パパが子供みたいに拗ねた。

母娘が同じ色の服で、桜並木を歩く。
やだ、入学式で、私泣きそう。
「ねえパパ、桜、咲いてるといいね」
「でしょ。ママもやっぱりそう思うでしょ」
「すごく思う」


にほんブログ村
nice!(10)  コメント(6) 

nice! 10

コメント 6

dan

ほっこりとつい笑顔になりそうなお話で心が
洗われるようです。
まさに春爛漫。こんな家族ばかりだといいですね。

by dan (2018-03-31 11:09) 

SORI

リンさんさん おはようございます。
おそろいの服を着て入学式、静かに流れる物語はいいですね。

by SORI (2018-04-02 09:11) 

まるこ

リンさん、こんばんは。

母親らしい事をしていないって負い目を感じているのは
自分だけで、娘もだんな様もそんなママを
愛してるっていうのがすっごく伝わってくる。
春らしくポカポカする温かいお話でした^^

by まるこ (2018-04-02 21:56) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
こんな素敵なダンナさんばかりだと、日本の将来も明るいと思います。
by リンさん (2018-04-05 23:03) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
小学校の入学式は、両親にとっても大切な行事ですね。
by リンさん (2018-04-05 23:07) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
いつまでたっても、家事子育ては女性の仕事という考えが否めません。
家族が笑っていられることが一番ですね。
by リンさん (2018-04-05 23:13) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。