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想い出の橋 [男と女ストーリー]

待ち合わせは、いつも橋の上。
芳人君の家は橋の向こう側で、私の家はこっち側。
だから橋で待ち合わせをして、どちらかの家に遊びに行った。
「しょうらい、けっこんしようね」なんて可愛い約束を、したような気もする。
大好きで、仲良しで、ずっと一緒だと思っていた…らしい。

その橋は、県境だった。
橋の向こうが埼玉県、こっちが群馬県。
だから当然、芳人君と私は、別々の小学校になる。
学区が違うどころじゃない。県が違う。
「いやだ、いやだ」とずいぶん泣いて、母を困らせたらしいけど、それもかなり昔の話。

30歳になった今、その思い出は、すっかり母の話のネタになっている。
「可愛かったのよ~。真美の初恋ね。いよいよもらい手がなかったら、芳人君を探して結婚してもらったらどう?」
「30歳の娘に、笑えない冗談言わないで」
とは言ったものの、芳人君は気になる存在だ。
もう顔も憶えていない。仲が良かった割に、写真はない。
うろ覚えの初恋の彼は、どんな男に成長しているのだろう。

日曜の昼下がり、散歩がてら、橋を渡ってみた。
車ではしょっちゅう通っているけれど、歩いて渡るのは久しぶりだ。
芳人君の家はどの辺りだろう。5・6才の子供が歩いてくるのだから遠くはないはず。
橋の近くに、古い家が数件並んでいる。きっとこの中に芳人君の家がある。
苗字はわからない。母もぜんぜん憶えていないという。
じろじろ覗くわけにもいかず、ぐるっと回って帰ってきた。

橋の真ん中でぼんやりしていたら、色々なことを思い出した。
「真美ちゃん、小学校と中学校は別々だけど、高校は一緒に行けるみたいだよ」
「そうなの?」
「母ちゃんが言ってた。高校は、県が違ってもいいんだって」
「じゃあさ、芳人君、同じ高校に行こうよ」
ああ、今ごろ思い出しても遅いって。私、女子高に行っちゃったよ。

女子高出た後、地元の短大に進んで、しょぼい建設会社に勤めて10年。
男はオッサンかチャラ男しかいないし、出会いもないまま30歳だ。
夕陽が目に染みる。ノスタルジーって、こういうときのためにある言葉だわ。

そのとき、男がひとり、私の方に向かって歩いてきた。
まさか、芳人君? ドラマやマンガじゃあるまいし、そんな奇跡があるわけない。
だけど、男はまっすぐ私に向かって歩いてくる。もしかして、本当に…?
男が、私に話しかけた。「あの、すみません」
ああ、これは夢? やっぱりあなたは芳人君なの?
「真美ちゃんでしょ。久しぶり」という言葉を期待したのに、妄想はあっさり崩れる。

「あの、おれ、写真撮ってるんですよ。橋の写真。ずっとあなたが真ん中に突っ立ているから撮れないんですよ。ちょっとどいてもらえます?」

……これが現実。なんだかムカつく言い方。
「はあ? ここはあなたの橋ですか? 違いますよね。なんで私がどかなければいけないんですか?」
「だから、夕陽の写真が撮りたいんだよ。今がベストなんだ。頼むよ。とっととどいてくれ」
「わかったわよ。せいぜい、いい写真を撮りなさいよ。このカメラ野郎」
ノスタルジーを邪魔したお返しに、「チッ」と舌打ちをしてやった。
せっかく想い出に浸っていたのに、台無しだ。サイアク!

それからしばらくして、朝刊を見ていたら、新聞の写真コンクールの大賞に、あの橋の写真が選ばれていた。
絶対にあのときの写真だ。切なくなるようなこの夕陽、憶えている。
悔しいけれど、すごくいい写真だ。
写真の下には、タイトルと投稿者の名前が……。

『想い出の橋 埼玉県〇市 ○○芳人(30)』

……マジか!!!


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SORI

リンさんさん おはようございます。
本当は奇跡の出会いだったのですね。この落ちは、かなりいけてます。
乱暴な言葉はお互いさまだったので、連絡をとってみるのもいいかも。でもお互いに、相手がかっこいいと思ったら乱暴な言葉は使わなかったのかもしれません。
by SORI (2018-04-06 05:12) 

雫石鉄也

私の「初恋」は25年中断していた。
by 雫石鉄也 (2018-04-06 13:44) 

dan

可愛らしい初恋と大人になってからの郷愁が、
思い出の橋と美しく切ない夕日という場面に
ぴったり収まっていい感じです。
橋の上で芳人君と分かってしまうより、この終わり方が好きです。
これからの二人を読者がどのようにでも想像できて面白いでしょう。

by dan (2018-04-09 16:54) 

ぼんぼちぼちぼち

途中からオチが解かりやしたが面白かったでやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2018-04-09 20:35) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
こういう再会も、なかなかインパクトがあっていいと思います。
案外うまくいくかもしれませんね^^

by リンさん (2018-04-10 23:44) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
「中断していた」ということは、また動き出すんですね。

by リンさん (2018-04-10 23:45) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
お互いにとって、想い出の橋だったんですね。
ロマンチックな再会より、ちょっと意地悪な神様のいたずらでしょうか(笑)
今後の二人を想像していただけたら嬉しいです。

by リンさん (2018-04-10 23:53) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
子供の頃、群馬県に住んでいたのですが、近くに橋があって、そこを渡ると埼玉県でした。
こんな想い出はありませんが、バスを降り忘れて、埼玉まで行ったことは何度かあります(笑)
by リンさん (2018-04-10 23:55) 

まるこ

リンさん、こんばんは!
"これが現実"だけれど、でも、これから恋がはじまる少女マンガの序章のような結末がなんだかとっても可愛くて良かったです。

芳人くんには、まさか舌打ちされた女性が想い出の女の子っていうのを教えてあげて良いのか・・・(笑)
by まるこ (2018-04-11 23:49) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
少女漫画って、たいがい第一印象サイアクなんですよね。
だから却ってうまくいくかもしれません。
by リンさん (2018-04-17 00:10) 

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