SSブログ

黄色い花 [ファンタジー]

「お花には、妖精がいるのよ」
と、お母さんは言った。
「赤い花には華麗な子。白い花には優しい子。青い花には清楚な子。色によって違うのよ」
「ふうん」と僕は適当に相槌を打った。
花なんて、ただの植物じゃないか。
お母さんの、子供みたいな妄想に付き合っている暇はない。
今どきの小学生は忙しいのさ。

ある日、学校から帰ったら、リビングから話し声が聞こえた。
誰か来ているのだろうか。玄関に客用の靴はなかったけれど。
「あら、いやだわ。お上手ね。そんなこと、主人にも言われたことないわ」
お母さんの声だ。セールスマンでも来ているのだろうか。
うまいことおだてられて、化粧品でも買わされるのかな。
僕はそおっとドアを開けた。

お母さんはひとりでしゃべっていた。
リビングに飾った黄色い花に向かって、楽しそうに笑っている。
「もう、やめてよ。私なんて、もうおばさんよ。やだ~、20代は言い過ぎよ~」
嬉しそうに頬を染めた。

「お母さん?」
声をかけると、お母さんは体をピクリとさせて振り向いた。
「あ、あら、帰ってきたの? もう、男の子ならもっと元気に帰ってきなさいよ」
「お母さん、誰かとしゃべってた?」
「独り言よ。さあ、手を洗ってきなさい。おやつをあげるわ」
お母さんは慌てた様子で台所に消えた。
僕はテーブルの上の黄色い花を見た。
何もない。どう見ても、ただの黄色い花だった。

それから、お母さんはおしゃれになった。
どこにも出かけないのにお化粧をしたり、お出かけ用のワンピースを着たりした。
鼻歌を歌って、いつもご機嫌で、やはり黄色い花に向かって笑ったり照れたりしていた。

やがて黄色い花が枯れると、お母さんは悲しそうに窓辺でうなだれた。
泣いているような背中が寂しそうで、僕はその手をそっと握った。
「お母さん、黄色い花には、どんな妖精がいたの?」
お母さんは、想い出に浸るように微笑みながら言った。
「陽気なイタリア男よ」
妖精って男なんだ。イタリア人なんだ。
「ふ……、ふうん」
やっぱり僕には、理解できなかった。

お母さんは翌日、新しい花を買ってきた。ピンクの花だ。
僕はピンクの花をじっと見た。
もそもそと、花弁が動いた。何だろう?
見たこともない可憐な女の子が、ひょっこり顔を出して、あどけない顔であくびをした。
よ、妖精? なんて可愛いんだ。
バラ色の頬の女の子が、はにかむように僕に笑いかけた。
「おにいちゃん、いっしょにあそぼ」
ピンクの妖精は可憐な甘えん坊。僕はたちまち恋に落ちた。

KIMG0573.JPG


にほんブログ村
nice!(9)  コメント(8) 

nice! 9

コメント 8

SORI

リンさんさん おはようございます。
素敵なファンタジーです。男の子も花の妖精を知ったのですね。
枯れてしまうと寂しさも覚えることでしょう。
by SORI (2018-04-24 04:49) 

雫石鉄也

なるほど。花を見てムラムラするわけですね。
花というのは、いわば植物の生殖器ですから、動物でいうとアレやコレに相当するわけです。
ですから、動物のオスやメスたる僕やお母さんがムラムラするのも、うなずけます。
by 雫石鉄也 (2018-04-25 13:34) 

ぼんぼちぼちぼち

今度は僕が恋に落ちちゃったんでやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2018-04-27 22:09) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
男の子も母親の血を引いていたのですね。
妖精が見えると、花を買うのも楽しくなります。
by リンさん (2018-04-29 17:57) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
プレイボーイの妖精に、コロッといっちゃう母親もどうかと思いましたが、なるほど、ちゃんと理由があったのですね。
by リンさん (2018-04-29 18:00) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
儚い初恋ですね。
花が枯れてしまったら、恋も終わってしまいます。

by リンさん (2018-04-29 18:03) 

まるこ

リンさん、こんばんは。
めちゃくちゃ可愛らしい物語です^^
絵本で読んでみたい。

きっとこの少年はお花を大事にする優しい青年に
育っていくに違いないっ!!(*^^*)
by まるこ (2018-04-29 23:00) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
少年は、お花を変えるたびに恋をしちゃいそうです。
いつか本当の恋に出逢えるといいですけどね^^
by リンさん (2018-05-06 15:12) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。