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マッチを売る女 [名作パロディー]

女はマッチを売っていた。
働いていたマッチ工場が倒産して、退職金代わりに大量のマッチをもらったからだ。
再就職は決まらない。貯金もない。
せめてマッチを売って、生活費を稼がなければ。
「マッチはいりませんか。とても美しい炎が出ますよ」
雪がちらつく寒い夜、マッチはひとつも売れなかった。

女はマッチを1本擦ってみた。
「ああ、やっぱりきれいな炎だわ」
次の瞬間、炎の中にクリスマスツリーが浮かんだ。
「やだ、幻だわ。そういえば、今日はクリスマスね。去年までは職場の仲間とパーティをしていたわ」
女はもう1本マッチを擦った。
フライドチキンを囲む仲間たちの笑顔が見えた。
「ああ、みんな、どうしているかしら。再就職は決まったかしら」
もう1本擦ってみた。
暖かい部屋で、ビールを飲む仲間たち。見覚えのある壁紙だ。
「この部屋は、あゆ子の部屋だ。毎年この部屋に集まっていたな」
もう1本擦ってみたら、今度は声が聞こえてきた。

『ねえ、冬美、どうしてるかな』
冬美というのが女の名前だった。
『あの子、ケイタイ料金払ってないみたいでさ、連絡できないんだよ』
『街角でマッチ売ってるって噂だけど、まさかね』
『ありえないよ。売るならネットしょ』
『ちょっとぬけてるんだよね、冬美は』

女は愕然とした。これは今現在行われているパーティだ。
仲間たちは、会社を辞めても連絡を取り合って、集まっていたのだ。
もっとも、ケイタイ料金を払っていないので、女に連絡が来ることはなかった。

再びマッチを擦る。
『そろそろケーキ食べない?』
『うん、食べようか』
『あれ?ケーキは?』
『あっ!忘れた。だってケーキはいつも冬美が用意してたから』
『ああ、ケーキがないクリスマスなんて』

女が財布をひっくり返すと、3千円入っていた。
「待ってなさいよ。今ケーキを買っていくから。小さいケーキしか買えないけど、ないよりマシでしょ」
女は走った。あゆ子の家なら15分で着く。
「まったく、ぬけてるのはどっちよ。チキン、残しておいてよ」と叫びながら。

不思議なマッチは、その後ネットでバカ売れした。

KIMG0715.JPG


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コメント 6

SORI

リンさんさん こんばんは
マッチを売る女は、家を売る女とは大違いですね。でも不思議な出来事があって楽しく読ませていただきました。
宝塚の実家から、初めてテザリング(スマホ⇔PC)で快適にコメントさせていただきました。表示スピードも意外と快適です。
by SORI (2018-12-22 19:44) 

まるこ

リンさん、こんばんは。

マッチを売る“少女”でなく“女”なのね(笑)
ラストは少しコミカルで、でも彼女はこの後、上手く生きて
いけたのねと思ってホッとしました。
やっぱり個人的にはクリスマスを題材にした物語は
ハッピーエンドがいいです^^
by まるこ (2018-12-22 23:49) 

dan

不思議なマッチを売る女。
夢物語かと思えばマッチ工場を辞めた仲間たちのクリスマスの
様子が見えるちよっと現実的な話。
大人でもクリスマスはなんとなく楽しいですよね。
by dan (2018-12-28 23:10) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
私に売れないマッチはない!って言いながら売ればよかったですね(笑)
デザリングですか。私も覚えようかな。
ネットが調子悪いときもコメントできますものね。

by リンさん (2018-12-30 12:52) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
マッチ売りの少女は、可哀想な最後だけど、こちらはハッピーエンド。仲間っていいですね^^
by リンさん (2018-12-30 13:04) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
現代版だとこうなります(笑)
きっとマッチを愛する彼女だからこそ、不思議なマッチが出来たのでしょうね^^
by リンさん (2018-12-30 13:07) 

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