サンタクロース・ハナ [ファンタジー]
「世界初の、女のサンタクロースだってよ」
「女にできるのかね、サンタの仕事が」
「しかも東洋人だってよ。黒髪のサンタクロースなんて前代未聞だ」
「世も末だな」
「まっ赤なミニスカートでも履いてくれたら、目の保養にもなるけどな」
そんな男どもの陰口なんて何のその。
世界初の女性サンタクロースになったハナは、クリスマスの準備に追われていた。
ハナは、サンタ訓練生の中でもダントツに成績が良かった。
プレゼントを積み込む素早さ、トナカイの調教、そりに乗るバランス。
そして特殊技術を使ってプレゼントを配る技の取得。
誰かに見られないように存在を消す技。全てにおいて及第点だ。
「ハナ、そろそろ出発の時間だね。準備はいいかい?」
相棒のウィル(トナカイ)が赤い鼻を揺らしながらやってきた。
「バッチリよ。何度も確認したわ」
A地区からZ地区まで、サンタクロースはそれぞれに別れてプレゼントを配る。
ハナはZ地区。生まれ故郷の日本を担当する。
「ハナ、懐かしいだろう。少しくらい家に寄ってもいいんだよ」
「ダメダメ。急いで配らなきゃ。待っている子がいっぱいいるのよ」
南から北へ、素早く正確に、プレゼントを枕元に置いておく。
どうやって配るかは、企業ヒミツ。
「ハナ、初めてなのに順調だね。すごいよ」
「女のくせに、なんて言わせないわよ」
「うん。そんなことを言うやつがいたら、頭突きしてやるよ」
輝く空をひゅんひゅん飛んで、最北の街に着いたのは夜明け前。
「間に合いそうね。さあ、どんどん配りましょう」
しかし、最後の子供の家に着く前に、プレゼントが無くなってしまった。
「うそ。ちゃんと確認したのに、1個足りないわ」
「おかしいな。あっ、ハナ見て。こんなメモが」
『さあ、女のサンタさん、この試練に耐えられるかな(笑)』
それは、先輩サンタクロースたちの嫌がらせだった。
優秀なハナにサンタの座を奪われて、腹いせにこっそり1個抜いたのだ。
「ひどいことするな。どうする?ハナ」
「一人だけもらえないのは可哀そうよ。何とかしなくちゃ。この子のプレゼントは何だったかしら」
「イチローのサインボールだよ。ハナが苦労して手に入れたサインボールだ。今から手に入れるのは無理だよ。ごめんねって手紙でも書く?」
「そんなのダメだよ。ねえ、ウィル、やっぱり家に寄ってもいい?この近くなの」
「いいけどさ、どうするの?」
ハナはウインクをしてソリに乗り込んだ。目指すはハナの家。
赤い屋根の小さな家、ハナは気配を消すことなく家に入った。
「お父さん、お父さん、ごめんね、起きて」
お父さんが真っ暗な部屋で目をこすりながら起き上がった。
「おお、ハナ、立派なサンタクロースになったな」
「そんなことより、お父さん、イチローのサインボール持ってたよね」
「おお、オリックス時代の貴重なボールだ。ネットオークションに出したら高値で売れるぞ。それがどうした?」
「ちょうだい」
「はあ?」
「お願い、イチローファンの男の子にあげるプレゼントなの。その子は将来、イチローを超える野球選手になる……かもしれないわ。ねえ、お父さん、ネットで売るより価値があるわ」
お父さんは、ハナの熱意に負けて、渋々サインボールを差し出した。
「ありがとう。お父さん。メリークリスマス」
先輩の嫌がらせにも負けず、無事に仕事を終えたハナは、サンタクロースの国に帰った。
「ああ、美しい朝焼けね」
無事に全部配り終わったことを報告したら、先輩たちが悔しそうな顔をした。
「どうする、ハナ。頭突きする?」
「しなくていいわよ、ウィル。ムカつくけど、あいつらのおかげで家に帰れたもん」
「心が広いな」
「ちょっとしか会えなかったけど、お父さん、悲しそうだったな」
それはイチローのサインボールを奪われたからだろう……とウィルは思ったが口には出さなかった。
可愛いサンタクロースは、子供たちの嬉しそうな顔を想像しながらぐっすり眠った。
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「女にできるのかね、サンタの仕事が」
「しかも東洋人だってよ。黒髪のサンタクロースなんて前代未聞だ」
「世も末だな」
「まっ赤なミニスカートでも履いてくれたら、目の保養にもなるけどな」
そんな男どもの陰口なんて何のその。
世界初の女性サンタクロースになったハナは、クリスマスの準備に追われていた。
ハナは、サンタ訓練生の中でもダントツに成績が良かった。
プレゼントを積み込む素早さ、トナカイの調教、そりに乗るバランス。
そして特殊技術を使ってプレゼントを配る技の取得。
誰かに見られないように存在を消す技。全てにおいて及第点だ。
「ハナ、そろそろ出発の時間だね。準備はいいかい?」
相棒のウィル(トナカイ)が赤い鼻を揺らしながらやってきた。
「バッチリよ。何度も確認したわ」
A地区からZ地区まで、サンタクロースはそれぞれに別れてプレゼントを配る。
ハナはZ地区。生まれ故郷の日本を担当する。
「ハナ、懐かしいだろう。少しくらい家に寄ってもいいんだよ」
「ダメダメ。急いで配らなきゃ。待っている子がいっぱいいるのよ」
南から北へ、素早く正確に、プレゼントを枕元に置いておく。
どうやって配るかは、企業ヒミツ。
「ハナ、初めてなのに順調だね。すごいよ」
「女のくせに、なんて言わせないわよ」
「うん。そんなことを言うやつがいたら、頭突きしてやるよ」
輝く空をひゅんひゅん飛んで、最北の街に着いたのは夜明け前。
「間に合いそうね。さあ、どんどん配りましょう」
しかし、最後の子供の家に着く前に、プレゼントが無くなってしまった。
「うそ。ちゃんと確認したのに、1個足りないわ」
「おかしいな。あっ、ハナ見て。こんなメモが」
『さあ、女のサンタさん、この試練に耐えられるかな(笑)』
それは、先輩サンタクロースたちの嫌がらせだった。
優秀なハナにサンタの座を奪われて、腹いせにこっそり1個抜いたのだ。
「ひどいことするな。どうする?ハナ」
「一人だけもらえないのは可哀そうよ。何とかしなくちゃ。この子のプレゼントは何だったかしら」
「イチローのサインボールだよ。ハナが苦労して手に入れたサインボールだ。今から手に入れるのは無理だよ。ごめんねって手紙でも書く?」
「そんなのダメだよ。ねえ、ウィル、やっぱり家に寄ってもいい?この近くなの」
「いいけどさ、どうするの?」
ハナはウインクをしてソリに乗り込んだ。目指すはハナの家。
赤い屋根の小さな家、ハナは気配を消すことなく家に入った。
「お父さん、お父さん、ごめんね、起きて」
お父さんが真っ暗な部屋で目をこすりながら起き上がった。
「おお、ハナ、立派なサンタクロースになったな」
「そんなことより、お父さん、イチローのサインボール持ってたよね」
「おお、オリックス時代の貴重なボールだ。ネットオークションに出したら高値で売れるぞ。それがどうした?」
「ちょうだい」
「はあ?」
「お願い、イチローファンの男の子にあげるプレゼントなの。その子は将来、イチローを超える野球選手になる……かもしれないわ。ねえ、お父さん、ネットで売るより価値があるわ」
お父さんは、ハナの熱意に負けて、渋々サインボールを差し出した。
「ありがとう。お父さん。メリークリスマス」
先輩の嫌がらせにも負けず、無事に仕事を終えたハナは、サンタクロースの国に帰った。
「ああ、美しい朝焼けね」
無事に全部配り終わったことを報告したら、先輩たちが悔しそうな顔をした。
「どうする、ハナ。頭突きする?」
「しなくていいわよ、ウィル。ムカつくけど、あいつらのおかげで家に帰れたもん」
「心が広いな」
「ちょっとしか会えなかったけど、お父さん、悲しそうだったな」
それはイチローのサインボールを奪われたからだろう……とウィルは思ったが口には出さなかった。
可愛いサンタクロースは、子供たちの嬉しそうな顔を想像しながらぐっすり眠った。
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2019-12-21 13:32
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コメント(8)
どこの世界にも嫌がらせをする輩はいやすね。
あっしは美術中学時代、提出すべき作品をクラスメートに隠されて提出出来ないようにされたことがありやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-12-22 19:41)
面白かったです。
軽く、気軽に読めました。
このサンタクロース・ハナには、やっぱり赤いミニスカートをはいてほしいですね。
by ごろりん (2019-12-24 13:44)
リンさんさん おはようございます。
女性のサンタクロースの物語 楽しく読ませていただきました。
素晴らしい発想に関心させられました。素晴らしいファンタジーです。メリークリスマス
by SORI (2019-12-27 04:21)
黒髪の東洋人のサンタさんなんて本当に素敵です。
danには想像もつきません。
面白かったです。
by dan (2019-12-29 17:04)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
ぼんぼちさん、その才能をクラスメートに妬まれていたんですね。
心の狭い小さい人間ですよね。
自分を汚すだけなのにね。
by リンさん (2019-12-30 07:08)
<ごろりんさん>
ありがとうございます。
これがアニメだったら、絶対赤いミニですね(笑)
by リンさん (2019-12-30 07:09)
<SORIさん>
ありがとうございます。
サンタクロースがおじいさんばかりだったら、いつか途絶えてしまいますものね。
若い人を育てないと^^
by リンさん (2019-12-30 07:11)
<danさん>
ありがとうございます。
きっと世界中にサンタはいるんです。
白人も黒人もアジア人も。これぞ世界平和ですね^^
by リンさん (2019-12-30 07:13)