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未来の殺人犯 [SF]

会社からの帰り道、突然警察に拘束された。

「いったい何? 私が何をしたっていうのよ」
「今はまだ何もしていません。これからします」
「これから? 私がこれから何をするっていうの?」
「殺人です」
「はあ? 意味わかんない。私が誰を殺すっていうの?」
「この方です。ハラダシンヤさんです」
刑事が写真を見せた。まったく見覚えがない。
「だれ? このおっさん」
「あなたのご主人です。そしてあなたは将来、ご主人を殺します」
「絶対ウソ。こんなおじさんと結婚するわけないじゃん。全然好みじゃないわ」
「30年後の写真です。30年後はあなたも相当のおばさんです」
「余計なお世話よ」
「30年後、世界を揺るがす恐ろしいウイルスが発生します。ハラダ氏は、そのウイルスの特効薬を開発しました。完成まであと一歩のところで、あなたに殺されてしまうのです。私たちは、未来警察からの依頼を受けて、あなたを拘束しました。ハラダ氏は、未来の地球に必要不可欠な人物なのです」
「そんな立派な人を、どうして私が殺すのよ」
「浮気です。あなたは非常に嫉妬深く思考能力が低い人です。おまけに今より20キロ太っています」
「何気に失礼。最後の情報、関係なくない? それにしても、そんな大事な研究しながら浮気もしてたの? 全然モテそうもないおじさんなのに?」
「あなたは、明日ハラダ氏と出会います。そして電撃結婚します。ですから我々は、あなたがハラダ氏と出会うのを阻止しなければなりません」
「じゃあ、明日までここにいなきゃいけないの? 明日は友達の結婚式なのよ」
「はい、その結婚式でハラダ氏と出会います」
「そうなの? じゃあ出会っても無視するわ。絶対結婚しないから、家に帰してよ。見たいドラマがあるの」
「出会った以上、運命は変えられません。出会ってはいけないのです」
「やだやだ、絶対帰る!」
暴れたら注射を打たれて、そのまま眠り落ちた。気が付いたのは2日後だった。
私はなぜか、高熱を出して入院したことになっていた。
拘束されたことを家族や友人に話しても、「頭大丈夫?」と笑うばかりだった。
やはり夢だったのか? そう思って忘れることにした。

そして30年後の今年、謎のウイルスが世界中に蔓延した。
私は急激に、あの日のことを思い出した。
ああ、そうだ。ハラダという人が、数か月後に特効薬を完成させるはずだ。
私と結婚しなかったから、殺されることもないだろう。
しかしハラダ氏は、私ではない別の女に殺されてしまった。

『ウイルス研究の第一人者であるハラダシンヤさんが、妻に殺害されました。ウイルスの特効薬完成まであと一歩というところでした』

なんだ、結局死ぬんじゃないの。それがこの男の運命だったんだ。
じゃあ地球はどうなるの? 特効薬は出来ないの?
ふふふ、大丈夫よ。私、死ぬ前にハラダ氏に近づいて、薬のデータを手に入れたの。
これを製薬会社に売って大金を手に入れるのよ。
30年前のあの日、私の運命が変わったの。
ハラダ氏の妻から、愛人にね。

いや、それにしても、過去に戻って未来を変えられるのなら、ウイルスが広まる前に止めてほしかった。ねえ、そう思わない?

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コメント 6

ぼんぼちぼちぼち

今回の作品、展開が先読みできなくて、最高に面白かったでやす。
主人公、したたかな女性なのでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-06-04 17:02) 

SORI

リンさんさん こんにちは
未来警察も別の人に殺されるまでは察知できなかったようですね。未来がわかって対処するところが未来警察より賢かった訳です。
by SORI (2020-06-04 17:29) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
過去に戻れるほど科学が進化しても、ウイルスには弱いのですね。

by リンさん (2020-06-09 22:33) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
薬が完成したら、もう未来警察が動くこともないでしょうね。
結局ハラダ氏は被害者のままです。
by リンさん (2020-06-09 22:43) 

木沢俊二

TOBE工房でお名前を拝見しました。対岸の家、とても良かったです。一番良かった気がします。
このお話も面白かったです、ショートショートとしての展開にも味があって楽しめました!
by 木沢俊二 (2020-06-21 16:41) 

リンさん

<木沢俊二さん>
初めまして。
コメントありがとうございます。
TO-BEは、最初から出していますけど、年々レベルが上がっている気がします。
木沢さんも小説を書いていらっしゃるんですね。
いろいろ情報交換出来たら嬉しいです。
by リンさん (2020-06-23 17:04) 

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