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地球人5号

地球に未練なんて何もない。もともと異星人だもん、私。
今はじっと迎えを待つ日々。ああ、早く自分の星に帰りたい。

「エリナ、飯だぞ。何度呼べば来るんだ」
地球人1号、こいつは野球を見ながらぼやくのが生きがいだ。
「早く食べてちょうだい。片付かないでしょ」
地球人2号、こいつは「早くしなさい」が口癖でいつも怒っている。
「あーあ、姉がヒッキーなんてハズくてピエンだわ。マジ死んでほしいんですけど」
地球人3号は、意味不明な地球語を話すくせにいつも上から目線。ムカつく。

今日は地球人4号が来た。中学校の担任だ。
「通信制の高校に行くのもひとつの選択肢ですよ。エリナさんは、やれば出来る子ですから、このままではもったいないです。とりあえず、保健室登校してみよう」
「先生、お気遣いなく。16歳になったら迎えが来て、自分の星に帰りますので」
「エリナ、あんたはまたバカなこと言って!」
地球人2号にぶたれた。暴力的な人種だ。
16歳の誕生日まで、あと1年とちょっと。それまでの辛抱だ。

もっとも厄介なのは、地球人5号だ。向かいの家に住む幼なじみというやつだ。
5号は毎日のようにうちに来て、私の部屋でゲームをする。
聞いてもいないのに、学校の話を笑いながら喋り続ける。
「ゲームなら自分の部屋でやれよ、5号」
「いいじゃん。生まれたときから来てるんだもん。俺さ、小さいころはマジで家が2軒あると思ってたよ。ところでさ、5号って何? またおかしな妄想始めたの?」
「いいから帰れよ」
神経が図太いから、どんなに邪険にしても帰らない。

ある日5号が、いつもよりしんみりした顔で言った。
「あのさ、エリナ、俺、引っ越すことになった」
「えっ」
「親父とおふくろ、離婚するんだ。俺、おふくろと住むことになって……」
5号の手が、少しふるえている。
「ああ、この部屋は落ち着くな。うちはいつも怒鳴り声ばかりだ。エリナが一日中引きこもる気持ち、わかるなあ」
「地球人ごときにわかってたまるか」
「あはは、そういう設定か。エリナは本当に面白いな」

数日後、5号は向かいの家を出て行った。
「エリナ、ケンちゃん行っちゃうよ。さよならしなさい。エリナ! まったくあの子は、どうしようもない子だわ」
2号が階段の下で吠えている。私は布団をかぶって泣いていた。
どうして涙が出るのかわからないけれど。

それから私は、ひたすら16歳になるのを待った。
1号と2号の策略で通信制の高校に入学した。やつらはなかなかの策士だ。
まあ、ここで暮らすのもあと僅かだし、5号がいなくなってヒマになったから、地球の勉強をするのも悪くない。

そして16歳の誕生日がやってきた。
親に見られてマズいものは全て捨てて、いつでも旅立てる用意をした。
もっとも私の記憶は、関わった全ての地球人の中から抹消されるので、そこまで用意周到にする必要もない。

午前0時、窓を開けた。いよいよだ。
目の前に、ぱあっと明かりがついた。来た、来た、ついに来た!

と思ったら、向かいの窓の灯りだった。
「よう、エリナ、おひさ!」
5号が顔を出した。
「うちの親、復縁したんだ。まったく人騒がせな親だよ。まあ、そんなわけで明日からヨロシク。あっ、流れ星だ。ねえ、今の見た? あれ、エリナ、なに泣いてんの?」
私は泣きながら、5号の部屋めがけて、手当たり次第ぬいぐるみを投げつけた。
「お前のせいで、星に帰れなかったからだよ」
「あはは、まだ続いてたんだ。その設定」
「あと1年、地球にいてやるよ」

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コメント 8

SORI

リンさんさん おはようございます。
楽しい設定の物語です。この先が知りたくなるけれども想像するところが値打ちですね。
by SORI (2020-07-03 05:24) 

雫石鉄也

面白いSFでした。
このエリナちゃんSFファンで、現実逃避しているわけでしょう。
この子が私の娘なら地球人1号として良好な親子関係がつくれそうです。私もずいぶん長いSFファンですから。
by 雫石鉄也 (2020-07-03 14:22) 

ぼんぼちぼちぼち

シュールで面白かったでやす。
こうして一生地球で過ごしてゆくんでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-07-04 20:42) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
この女の子は、この先もずっと地球にいると思います^^
by リンさん (2020-07-09 20:04) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
これ、SFでいいんですか。
カテゴリー迷って未分類にしちゃいました。
エリナちゃんのパパが雫石さんだったら、楽しい家族になりそうですね^^
by リンさん (2020-07-09 20:07) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうですね。
この子は地球で新しい妄想をしていくのだと思います。
by リンさん (2020-07-09 20:08) 

木沢俊二

とても良かったです。最初はギャグかと思ったんですが、だんだん事情が分かってきて、星に帰るってそういうことかと思うとなんか涙が出そうになりました。
そして沢山家に来たのはそういうことかと色々押し寄せてきて、この短いお話の中に何個も胸が熱くなるシーンがありました。
素晴らしい作品をありがとうございました!
by 木沢俊二 (2020-08-02 12:07) 

リンさん

<木沢俊二さん>
ありがとうございます。
そんなに深く読み込んでいただけて、こちらこそ感謝です。
こういう、ちょっと素直じゃない女の子を書くのが好きです。
by リンさん (2020-08-04 17:51) 

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