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5人で肝試し [ホラー]

夏休み恒例の肝試し。
無縁仏が多く祀られている古い墓地を、みんなで一周する。
怖いけれど、友達と一緒だから平気だった。
とても楽しみにしていたけれど、僕はその日、熱を出して行けなかった。

僕を除く4人の子供たちが、帰ってこないと知ったのは翌朝だった。
4人の友達は、肝試しの夜に忽然と消えてしまったのだ。
警察やテレビ局が押しかけて、僕たちの小さな村は連日大騒動だった。

あれから20年。4人の友達はとうとう帰ってこなかった。
平成の怪奇事件として、今でも8月になるとワイドショーがやってくる。
とても仲良しだった5人組の中で、僕だけが大人になった。

僕は小学校の教師になった。
あの事件以来、子供だけの夜の外出は禁止になった。
もちろん肝試しなど論外だ。
しかし子供というものは、禁止されたことほどやりたがる。
夕飯を済ませたところで保護者から電話が来た。

「もしもし、先生。うちの子が出掛けてしまったんです。どうやら友達と示し合わせていたみたい。こっそり裏口から出て、恐らく肝試しに行ったんじゃないかと思うんです。先生、連れ戻していただけませんか。下の子が一人になってしまうから、私出られないんです」

僕は急いで家を出た。
夏休み前の学校で、数人の男子がこそこそ何かを企んでいるような姿は見かけた。
もっときつく釘を刺しておけばよかった。

自転車で墓地に行くと、入り口に4人の生徒が立っていた。
「おい、お前たち、肝試しは禁止だぞ。早く家に帰りなさい」
子供たちが振り返った。

「あっ、ヒロシやっと来た」
「ビビって来ないのかと思ったぜ」
「早く行こうぜ」
「遅れてきた罰。ヒロシが先頭な」

それは、20年前に姿を消した僕の友達だった。
訳が分からないまま背中を押され、僕は墓地の中に入ってしまった。
「お前ら、幽霊か? 20年前に死んだのか? ひとりだけ大人になった僕を恨んでいるのか?」
「何言ってるの? 俺たち、ずっとヒロシのこと待ってたんだぜ」
4人の子供に背中を押され、どんどん奥へ入っていく。
「やめてくれ。ごめん、悪かった。まさか4人で肝試しをやるなんて思わなかったんだ。本当にごめん」
僕は、古い石の前にうずくまって震えながら4人に詫びた。

肝試しは4人でやってはいけないという言い伝えがあった。
だから一人欠けたら中止にするはずだった。
あの日僕は、「遅れていく」と連絡を入れた。こっそり布団を抜け出すつもりだった。
だけどとうとう行けなくて、待ちくたびれた4人は「先に入ろうぜ」と、墓地に入ってしまったのだ。
「行けなくなった。違う日にしよう」と連絡を入れていたら、あんなことにはならなかった。

「もういいよ。俺たち、ヒロシと肝試しがやりたかっただけだから」
「なあヒロシ、あそこにいる4人は、お前の生徒たちじゃないか?」
「早く仲間に入らないと、あの4人も死神に連れていかれるぞ」
「ほら、早く行けって。頑張れ、熱血教師」

僕は立ち上がり、オドオドしながら歩いている4人の生徒のもとに走った。
「お前ら、校則違反だぞ」
「あっ、先生」
「説教は後だ。とにかく今は、5人で肝試しをしよう。先生の後についてきなさい」
4人の生徒は、ホッとしたように僕の背中にしがみついた。
「先生、怖くないの?」
「5人なら平気だ」

「そうだったよな」と振り返ったら、もう僕の友達はいなかった。
僕は優しい幽霊たちに深く頭を下げて、出口を目指した。

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コメント 4

SORI

リンさんさん おはようございます。
友達に出会えたのですね。ホラーだけファンタジーのような物語です。4人の子供がいなくなったのにファンタジーは不謹慎ですね。
by SORI (2020-08-12 04:58) 

ぼんぼちぼちぼち

先の展開が読めなかっただけに、とても面白かったでやす。
幽霊になった友達、いい友達でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-08-14 21:36) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
4人の友達は、彼を救うために現れたのかもしれませんね。
優しい幽霊です。
by リンさん (2020-08-20 21:11) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
4人は永久に墓地から出られなくなってしまったんですね。
大人になった彼は、みんなの分も生きなければいけないですね。
by リンさん (2020-08-20 21:14) 

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