SSブログ

白い月の夜 [男と女ストーリー]

「今夜の月はやけに白いね」
「そうね。ねえ、次はいつ会える?」
「5回目だね、その質問。言っただろ。年末年始は忙しいんだ」
「クリスマスは?」
「うちのショップ、クリスマスは書き入れ時。しかも俺、遅番」
「ふうん。じゃあ私、静香さんとパーティしようかな。誘われてるの。静香さんの彼氏が友達連れてくるって。10人ぐらい集まるんだ。静香さんって、すごいセレブなのよ」
「楽しそうだね。それにしても、月、白いね」
「そうね。じゃあ次はいつ会えるの?」
「6回め。だからさあ、俺、ショップのオーナーなんだよ。クリスマスと年末年始は絶対無理」
「ふうん。ねえ、静香さんの彼氏ってすごいお金持ちなんだって」
「へえ」
「年収1千万の男紹介してくれるって」
「あのさ、さっきからちょいちょい出てくる静香さんって誰?」
「会社の先輩」
「へえ、君の職場ってラーメン屋でしょ。家族でやってるラーメン屋でしょ。先輩なんていないよね」
「あっ、お客さんだった。店の常連さん」
「ふうん。セレブなのにラーメン屋に通うんだ。カッコいい人だね」
「そうよ。いつもシャネルで店に来るのよ」
「へえ、本当に白いな、月」
「そうね。で、次はいつ会えるの?」
「7回め。ああ、駅に着いちゃった。明日早番なんだ」
「電車、行ったばかりよ。あと20分は来ないわ」
「そうか。寒いね」
「ねえ、こっちに帰ってくれば? そうしたら毎日会えるわ」
「無理だよ。俺のショップ結構人気だからさ、今だって、注文バンバン入ってるし」
「あのさあ、さっきからショップって言ってるけど、あなたの職業、農業だよね。早番も遅番もないでしょ。バカじゃないの」
「はつ? 農業じゃねえし、オーガニック野菜のセレクトショップだし」
「自分で作った野菜をネットで売ってるだけじゃん」
「大人気なんだよ。クリスマスと年末年始は、イチゴの収穫で休みなしだ」
「ふうん。イチゴが恋人ってわけね」
「ねえ、君が僕の町に来るっていう選択肢はないの? ラーメン屋はお兄さんが継ぐんでしょ」
「私が農業を? ありえない」
「俺の年収、1千万だけど」
「えっ、マジで? 考えてみるわ」

「月、白いね」
「本当に白いわね」
「電車、1本遅らせようかな」
「月が白いから?」
「まあ、そうだね」

nice!(9)  コメント(4) 

nice! 9

コメント 4

SORI

リンさんさん こんばんは
白い月の夜の会話はロマンチックに収まるのかなと思っていたら、年収という現実の話でまとまってしまうのですね。予想が外れてしまいました。
by SORI (2020-12-05 23:11) 

ぼんぼちぼちぼち

あはは、妙にリアリティを感じてしまいやした。
現実にカップルの会話なんて、こんな感じに不条理でやすよね〜
by ぼんぼちぼちぼち (2020-12-07 13:39) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
なんだかんだ言っても、結局農家の嫁になるのかな~って思います^^
by リンさん (2020-12-11 18:07) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
セリフだけで話を進めるのは楽しいです。
若者に戻ったつもりで(笑)
by リンさん (2020-12-11 18:12) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。