SSブログ

福の神 福子さん

福子さんは、その名の通り福の神だ。
小さな町の商店街、福子さんが気に入った店は何故か必ず繁盛する。
カフェ、パン屋、ラーメン屋、雑貨屋に古本屋。
彼女が気に入れば客が増え、ネットで話題になり、テレビの取材まで来るほどだ。
「どうか、うちの店に来てください」
賄賂を持って訪ねてくる店主も数知れず。
しかし福子さんは、そんなものには全くなびかない。

行列が出来ているラーメン屋を横目で見ながら、とんかつ屋の店主は考えた。
「そうだ、圭太、おまえ福子さんと結婚しろ」
いきなり話を振られた息子の圭太は「はあ?」と目を丸くした。
「だってそうだろ。福子さんが嫁に来てくれたら、この店は一生大繁盛だ」
「そうよ、どうせあんた恋人いないんでしょう。そうだ、映画のチケットが2枚あるから今すぐ誘ってきなさい」
「今すぐって、家なんか知らないよ」
「さっき駅裏のカフェにいたわよ。早く行きなさい」
母親に背中を押され、圭太は家を出た。どうせ店は閑古鳥が鳴いている。

福子さんはちょうどカフェを出たところだった。
「福子さん、こんにちは」
「あら、とんかつ屋さん。今日はお店休みなの?」
「いえ、客がいなくてヒマだから、映画でも行こうと思って」
わざとらしくチケットを見せる。
「映画? いいわね」
「行きますか? おふくろがくれた古い映画のチケットなんだけど」
「古い映画、大好きよ」
圭太は、心の中でガッツポーズ。福子さんはまあまあ美人だし、好みのタイプだ。

ふたりは、隣町の古びた映画館に来た。
オーナーの趣味で古い映画ばかりを上映している寂れた映画館だ。
椅子も堅いし、つまらない時代劇だったけど、福子さんはとても楽しそうだ。
「いいわね、時代劇。レトロな雰囲気もすごく気に入ったわ」
福子さんがそう言った途端、寂れた映画館にたくさんの人が押し寄せた。
チケットのもぎりが間に合わないほどの大盛況だ。

映画の後は、老夫婦でやっている昔ながらの洋食屋で、遅めのランチをした。
ふたり以外に客はいない。貸し切りみたいだ。
「このオムライス、すごくおいしい。私絶対また来るわ」
福子さんがそう言った途端、客が次々入ってきて、あっという間に満席だ。
「ちょっとあんた、バブル期以来の繁盛だね」
老夫婦が嬉しい悲鳴を上げていた。

本物だ。福子さんの力は本物だ。圭太はますます好きになった。
何しろ福の神だ。これを逃せば後がない。
「あの、福子さん、僕とお付き合いして頂けませんか」
「えっ、本当? 実は私、前からあなたのこと気に入っていたのよ」
福子さんが頬を赤らめて言った途端、圭太のもとに女性たちがどっと押しかけた。
「圭太君はあたしの物よ」
「いいえ、圭太さんは私と付き合うのよ」
いきなり現れた女性たちは、圭太の取り合いを始めた。
「ええ? いきなりのモテ期到来? 選び放題だ」

福子さんは深いため息をついた。
「ああ、私が好きになる人は、必ず浮気するのよね」


おめでたい話を書こうと思ったら、こんな話になってしまいました。
何はともあれ、今年もよろしくお願いします。

nice!(12)  コメント(6) 

nice! 12

コメント 6

雫石鉄也

面白かったです。りんさんの安定した実力がよく判る作品です。オチはだいたい判りましたけど、それが面白さを損ねませんでした。
by 雫石鉄也 (2021-01-08 13:36) 

SORI

リンさんさん こんにちは
年初めの楽しい物語でした。すごい超能力も困ることもあるのですね。
今年も期待しています。
by SORI (2021-01-09 16:00) 

ぼんぼちぼちぼち

はは、思いもよらないオチに笑ってしまいやした。
そうきやしたか〜!
by ぼんぼちぼちぼち (2021-01-10 21:35) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
オチは結構迷ったんですよ。
結婚したけど、さほど流行らなくて、彼女の気持ちがわかってしまう…とか。
でも、長くなるので無難にまとめてしまいました^^
by リンさん (2021-01-16 16:40) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
力があっても金儲けに使わないのが、本当の神ですね^^
今年もよろしくお願いします。
by リンさん (2021-01-16 16:46) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
福子さん、一生結婚できないかもしれませんね^^
by リンさん (2021-01-16 16:50) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。