SSブログ

七夕に会いたくて

「おばあちゃん、今年はケンちゃん来ないの?」
奈々子は、お隣の縁側で日向ぼっこをするおばあさんの顔を覗き込んだ。
「ああ、そうだねえ。塾と野球で忙しいから来ないだろうね」
おばあさんは寂しそうに言った。

毎年七夕祭りの日に、隣の家に泊まりに来る健太は、奈々子と同じ10歳だ。
少し離れた大きな街に住んでいる。
おばあさんの家は大人ばかりでつまらないから、奈々子の家に遊びに来る。
お祭りも一緒に行く。
幼いころは別れるのが嫌で「帰らないで」と泣いたりした。
年に一度の楽しみなのに、健太が急に遠くなったみたいだ。

「ケンちゃん来ないのか。つまらないな」
奈々子は小石を蹴りながらとぼとぼ帰った。
家ではお母さんが笹飾りの用意をしていた。
奈々子は短冊に『ケンちゃんにあえますように』と書いて吊るした。

奈々子の願いが通じたのか、七夕の夜、健太は来た。
その日、隣のおばあさんが突然亡くなったのだ。
倒れて病院に運ばれて、そのまま帰らぬ人になった。
お通夜にお葬式、奈々子もお母さんと一緒に参列した。
健太は泣いていた。
「おばあちゃん」って何度も呼び掛けていた。
奈々子は胸が痛くなった。

お葬式が終わった夜、お母さんが花火を持ってきた。
「奈々子、ケンちゃんは学校があるから明日帰るんだって。ちっともお話しできなかったから、せめて一緒に花火をしたら」
奈々子は、花火を持って健太を誘った。
並んで線香花火をしながら、健太はまた泣いた。
「おばあちゃんから、会いたいって言われてた。なのにいつも忙しくて電話にも出なかった」
「ケンちゃんは悪くないよ。悪いのはわたしだよ。七夕の短冊に、ケンちゃんにあえますようにって書いたんだ。だから会えたけど、代わりにおばあちゃんが……」
線香花火がポトリと落ちた。
ふたりはおばあちゃんの縁側で、わんわん泣いた。

おばあさんの家は、数年後に取り壊された。
並んで花火をした庭には『売地』の看板が立っている。

七夕の日、健太は必ずやってくる。
どんなに忙しくても、おばあさんの墓参りを欠かさない。
「ケンちゃん、高校決めた?」
「S高目指してる。奈々ちゃんは?」
「私もS高。うちからは遠いけど、制服が可愛いから」
「制服で高校選ぶ人、初めて見た」
「あっ、バカにしたな」
「してねーよ。理由はどうあれ、まずは合格しなきゃ」
「お祭り行ったら短冊に書こうよ。一緒に合格できますようにって」
「めんどくせー」
「そういうこと言わないの」
奈々子と健太は、並んでおばあさんのお墓に手を合わせた。

『私の可愛い彦星と織姫が、いつか結ばれますように』
空の上から、おばあさんの願い事が聞こえてきた。

nice!(8)  コメント(4) 

nice! 8

コメント 4

ぼんぼちぼちぼち

可愛い織姫と彦星でやすね。
将来、結ばれやすように!
by ぼんぼちぼちぼち (2021-07-05 21:04) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
年に一度が月に一度になって、やがて結ばれることを祈ります^^
by リンさん (2021-07-08 17:57) 

にのまえ

素敵なおはなしです。
by にのまえ (2021-07-09 00:19) 

リンさん

<にのまえさん>
ありがとうございます。
七夕なので、ちょっといい話を書いてみました^^
by リンさん (2021-07-12 21:09) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。