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ハロウィンの夜 [ファンタジー]

じいちゃんが、カボチャをくりぬいてランタンを作った。
三角の目に、大きな口。不気味な顔だ。
「もうすぐハロウィンだ。知ってるか、和也。ハロウィンには死者の霊が帰ってくるんだ」
「そうなの?」
「ああ、だからな、ばあさんが帰ってくるように、ランタンを作ったんだ」
じいちゃんがそう言って、カボチャのランタンにろうそくを灯した。
「ステキね。そういえば、このカボチャ、おばあちゃんに似てるわ」
「本当だ。こんな目でよく笑っていたな」
お母さんとお父さんは嬉しそうにランタンを見ていた。
だけど僕には、お化けカボチャにしかみえない。
おばあちゃんの顔なんか、よく憶えていない。

ハロウィンの夜、玄関先にカボチャのランタンを灯した。
「おーい和也、ご飯だぞ」
呼ばれて階段を降りると、居間から賑やかな笑い声が聞こえる。
テーブルにはいつもより豪華な夕飯が並んでいる。
そしてテーブルを囲むお父さん、お母さん、じいちゃん、そして……お化けカボチャ。
「どうして、お化けカボチャがいるの?」
じいちゃんが作ったカボチャのランタンに、手足が生えて座っている。
「何言ってるの、和也。おばあちゃんでしょ」
「そうだぞ、和也。おばあちゃんが帰って来たんだ」
「うそだ。お化けカボチャだ。気味が悪いよ」
「こら、おばあちゃんに何てこと言うの?」
お化けカボチャは、黙って頷きながら、静かに座っている。
特に害はないみたいだ。それに家族がみんな幸せそうに笑っている。
僕は不思議に思いながらも、一緒に座ってご飯を食べた。

食事を終えると、お化けカボチャは僕の破けたズボンを繕ってくれた。
小豆を煮て、白玉団子を作ってくれた。
要らないチラシでゴミ箱を作った。
お化けカボチャは休むことなく働く。
片付けやら、繕い物やら、何かしら仕事を見つける。
「せっかく帰ってきたのに、相変わらず貧乏性ね、おばあちゃんは」
「好きにさせておけ。そういう性分だ」
家族は呆れながらも楽しそうだ。
本当に、おばあちゃんなのかな。

深夜に目が覚めた。
喉が渇いて台所に行くと、何やらオレンジ色の物体が揺れている。
お化けカボチャだ。
お化けカボチャが、シュッシュッと音を立てて、包丁を研いでいる。
思わず悲鳴を上げると、振り向いたお化けカボチャがにやりと笑った。
「やっぱり化け物だ。僕たちみんな殺されるんだ」
僕は急いでお父さんとお母さんを起こした。
「大変だよ。お化けカボチャに殺される!」
「和也。まだそんなこと言ってるの? しょうがない子ね」
僕がしつこく起こしたから、お父さんとお母さんは、迷惑そうに起き上がった。
時刻は午前0時を過ぎたころだ。
台所に、お化けカボチャはいなかった。

「あら、おばあちゃん、シンクをピカピカにしてくれたわ」
「包丁も研いである」
「さすがおばあちゃんね。見習わなくちゃ」
「ああ、もうハロウィンは終わりか。日付が変わってる」
「そうね。おばあちゃん、来年も来てくれるかな」
「おいおい、あまりこき使うなよ」
ピカピカの台所、真っ白な布巾とよく研がれた包丁。
そういえば、おばあちゃんがいたころは、ずっとこうだった。
やっぱりおばあちゃんだったのか。
おばあちゃん、優しかったな。どうして忘れちゃったんだろう。

朝が来た。
縁側に、じいちゃんが座っていた。
となりには、じいちゃんが作ったカボチャのランタンが、寄り添うように置いてある。
すっかり殺風景になった晩秋の庭で、寒そうな背中が寂しそうだ。
じいちゃんは、優しくカボチャを撫でた。
あっ、一瞬だけ、カボチャがおばあちゃんに見えた。
三角の、優しい目で笑っている。

来年は、ちゃんとおばあちゃんに見えるかな。
僕は、今やっと、おばあちゃんの顔を思い出したんだ。

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しろまめ

ハローウィンを日本のお盆に見立てたお話、しんみりだけど温かくて素敵でした。
子どもにはオバケに見える、故人が生前の姿で見えるのは大人。
普通、子どもにだけ見える、っていうのを逆転していて、でも、確かに人間の感性としてそうかもしれないという設定ですね。

by しろまめ (2021-10-28 21:10) 

SORI

リンさんさん おはようございます。
素敵なファンタジーです。心が癒される物語でした。
by SORI (2021-10-29 06:28) 

雫石鉄也

りんさんらしい、しっとりとしたファンタジーで良かったです。
主人公の男の子がおばあちゃんの顔をよく覚えてないという設定が良かったです。
桂枝雀師匠の「貧乏神」という落語を思い起こしました。これは小佐田定雄さんが枝雀師匠のために書いた新作落語で、いいかげんで文無しの男に取り憑いた貧乏神が、男のために掃除、洗濯、炊事といった家事を行う落語です。おもしろい落語ですから、機会があればどうぞ。
by 雫石鉄也 (2021-10-29 13:41) 

ぼんぼちぼちぼち

そうそう、おばあちゃんの時代の主婦は、休みなく働いてやしたもんね。
働きに降りてきてくれたなんて、おばあちゃんに感謝でやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2021-10-30 14:38) 

にのまえ

ハロウィンがお盆にあたるって大人になるまでしりませんでした。
なんか不思議でほのぼのしたお話ですね。
by にのまえ (2021-11-01 08:41) 

リンさん

<しろまめさん>
ありがとうございます。
本当はもっと怖いホラーにする予定だったのですが、うまく書けずに路線変更しました^^
でも、これでよかったかな。
by リンさん (2021-11-06 17:16) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
おばあちゃん、毎年来てくれるといいですね。
by リンさん (2021-11-06 17:19) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
貧乏神が家事をしてくれるなんて、よほどのダメ男なんですね。
面白そう。今度聴いてみます。
by リンさん (2021-11-06 17:20) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
そうですね。
台所をピカピカにしてくれるなら、うちも大歓迎です^^
by リンさん (2021-11-06 17:24) 

リンさん

<にのまえさん>
ありがとうございます。
私が子供の頃はハロウィンなんて知りませんでした。
娘が英語教室に通ってから、初めて本当の意味を知りました。
by リンさん (2021-11-06 17:26) 

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