ルール [男と女ストーリー]
55歳の姉が結婚するらしい。
シニアの婚活サイトで知り合った人で、姉より一つ上の56歳。
共に初婚だという。
「結婚する前に彼に会って欲しいのよ。経済的に問題はないし、穏やかでいい人なの。それにね、月の半分は日本にいないんですって。シンガポールに支店があって、そちらに行くらしいの。ねえ、好条件だと思わない?」
確かに、経済力があって束縛されない生活なんて、55年もひとりで生きて来た姉にとってはこれ以上の条件はない。
土曜日、ホテルのレストランを予約して、3人でランチをすることになった。
姉の婚約者の木村は少し遅れてやってきた。
背が高くてスマートな人だ。物腰も柔らかく、かなりの好印象だ。
「結婚しても束縛するつもりはありません。夫婦というより、人生のパートナーとして共に暮らしていきたいと思っているんです」
「素敵ですね。ところで、これまでご結婚を考えたことはなかったんですか」
「海外に行くことが多いのでね、なかなか出会いがありません。お付き合いをしても、半分は海外ですから、結局うまくいきません」
姉は木村の言葉にいちいち頷いている。
「きっと私と出逢うために、独身でいてくれたのよ」
夢見る少女みたいな言って、彼の肩にそっと寄り添った。
「僕は、このあと商談があるので」と木村が言ったので、店を出ることにした。
姉が、すっと伝票を持ってレジに向かった。
勿論、男が払うのが当たり前などとは思わないけれど、さも当然のように上着を羽織る木村に、少し違和感を覚えた。
「では、また」「連絡するね」
そう言って、ふたりは別れた。
帰り道、姉に訊いた。
「食事代、いつもお姉さんが払うの?」
「誘った方が払うの。そういうルールにしたのよ。気を遣わなくていいでしょ」
「向こうが誘ったら向こうが払うのね」
「そうね。でも、向こうから誘われたことはないかな」
「えっ、何それ。いつもお姉さんが払ってるんじゃない」
「仕方ないよ。ルールだもん」
おかしい。絶対おかしい。どうして疑問を持たないの?
次の週末、今度は私が二人を誘った。
老舗の鰻屋で少し遅めのランチをした。
和やかな食事の後、伝票を広げて言った。
「ひとり3,500円です」
木村が「えっ」という顔をした。
「誘った方が払うルールは、私には通用しませんよ。今日は割り勘です」
木村は、納得できないような顔で財布を取り出した。
高そうな財布には、数枚のゴールドカード。どうやら、自分のためには惜しみなく金を使うタイプのようだ。
「木村さん、3人で軽く飲みませんか。いいお店知ってます? 誘ってくださいよ。もちろん誘った木村さんの奢りでね」
木村は、「用事があるから」と、いくらか憤慨した様子で帰っていった。
その後、姉も何か気づいたのか、木村への連絡を絶った。木村からも連絡は来ず、結婚話は白紙に戻った。
あのまま結婚しても、姉は幸せだったかもしれない。
だけど、姉の財産は私が守らなきゃ。たった一人の身内だもの。
「お姉さん、結婚なんかやめて二人で暮らそう」
「そうねえ。姉妹で仲良く老後を過ごすのも悪くないかしらね」
「じゃあ、そうしよう」
「あんたが誘ったから、家賃はあんた持ちね」
ええ~。。。
シニアの婚活サイトで知り合った人で、姉より一つ上の56歳。
共に初婚だという。
「結婚する前に彼に会って欲しいのよ。経済的に問題はないし、穏やかでいい人なの。それにね、月の半分は日本にいないんですって。シンガポールに支店があって、そちらに行くらしいの。ねえ、好条件だと思わない?」
確かに、経済力があって束縛されない生活なんて、55年もひとりで生きて来た姉にとってはこれ以上の条件はない。
土曜日、ホテルのレストランを予約して、3人でランチをすることになった。
姉の婚約者の木村は少し遅れてやってきた。
背が高くてスマートな人だ。物腰も柔らかく、かなりの好印象だ。
「結婚しても束縛するつもりはありません。夫婦というより、人生のパートナーとして共に暮らしていきたいと思っているんです」
「素敵ですね。ところで、これまでご結婚を考えたことはなかったんですか」
「海外に行くことが多いのでね、なかなか出会いがありません。お付き合いをしても、半分は海外ですから、結局うまくいきません」
姉は木村の言葉にいちいち頷いている。
「きっと私と出逢うために、独身でいてくれたのよ」
夢見る少女みたいな言って、彼の肩にそっと寄り添った。
「僕は、このあと商談があるので」と木村が言ったので、店を出ることにした。
姉が、すっと伝票を持ってレジに向かった。
勿論、男が払うのが当たり前などとは思わないけれど、さも当然のように上着を羽織る木村に、少し違和感を覚えた。
「では、また」「連絡するね」
そう言って、ふたりは別れた。
帰り道、姉に訊いた。
「食事代、いつもお姉さんが払うの?」
「誘った方が払うの。そういうルールにしたのよ。気を遣わなくていいでしょ」
「向こうが誘ったら向こうが払うのね」
「そうね。でも、向こうから誘われたことはないかな」
「えっ、何それ。いつもお姉さんが払ってるんじゃない」
「仕方ないよ。ルールだもん」
おかしい。絶対おかしい。どうして疑問を持たないの?
次の週末、今度は私が二人を誘った。
老舗の鰻屋で少し遅めのランチをした。
和やかな食事の後、伝票を広げて言った。
「ひとり3,500円です」
木村が「えっ」という顔をした。
「誘った方が払うルールは、私には通用しませんよ。今日は割り勘です」
木村は、納得できないような顔で財布を取り出した。
高そうな財布には、数枚のゴールドカード。どうやら、自分のためには惜しみなく金を使うタイプのようだ。
「木村さん、3人で軽く飲みませんか。いいお店知ってます? 誘ってくださいよ。もちろん誘った木村さんの奢りでね」
木村は、「用事があるから」と、いくらか憤慨した様子で帰っていった。
その後、姉も何か気づいたのか、木村への連絡を絶った。木村からも連絡は来ず、結婚話は白紙に戻った。
あのまま結婚しても、姉は幸せだったかもしれない。
だけど、姉の財産は私が守らなきゃ。たった一人の身内だもの。
「お姉さん、結婚なんかやめて二人で暮らそう」
「そうねえ。姉妹で仲良く老後を過ごすのも悪くないかしらね」
「じゃあ、そうしよう」
「あんたが誘ったから、家賃はあんた持ちね」
ええ~。。。
2022-09-12 19:17
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コメント(4)
リンさんさん おはようございます。
お互いの思いやりが大切なことを感じさせてくれる物語でした。
by SORI (2022-09-13 11:28)
ああ、自分はお金持ってるのに、人にはびた一文出したくない男っていやすよね。
お姉様、すぐに察しがつかれて良かったでやすね。
オチも面白かったでやす!
by ぼんぼちぼちぼち (2022-09-17 12:21)
<SORIさん>
ありがとうございます。
私には兄しかいないので想像ですが、姉妹って年齢を重ねても助け合って行くのかなと思います。
男の兄弟とは、ちょっと違うのかな、と。
by リンさん (2022-09-24 17:02)
<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
こんな男と結婚したら、光熱費をどちらが出すかで揉めそうですね。
結婚前に気づいてよかったです^^
by リンさん (2022-09-24 17:05)