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同居の条件 [男と女ストーリー]

空っぽになったシャンプーを、ブツブツ言いながら詰め替えた。
風呂から出て、ビールを飲みながらお笑い番組に大笑いしている彼に話しかける。
「ねえ、シャンプー切れてなかった?」
「ああ、切れてた。ポンプ外して逆さまにして何とか洗った」
「あのさ、詰め替えのシャンプー置いてあったでしょ。なんで入れないのよ」
「ああ、なんか面倒で。どうせマコちゃんがやると思ったから」
彼は視線をテレビに戻し、再び大笑いを始めた。

一緒に暮らし始めて3ケ月。そろそろ本性が出てくるころだ。
彼は面倒くさいと言って、何もしない。
家事は分担と言ったのに、掃除も洗濯も料理も私がしている。
そのくせ味にうるさくて「何か物足りない味だな」とか言う。
「じゃあ作ってみなさいよ」と言うと、私よりうまく作ったりする。
それはそれでムカつく。
「ねえ、洗濯物たたむの手伝ってよ」
「うん。じゃあ、俺の分置いといて。後でやるから」
出た! 彼の「後でやる」発言。いつやるの? 明日?明後日?

「ねえ、一緒に暮らし始めたころの約束、憶えてる?」
「もちろん憶えてるよ。1、浮気はしない、2、帰りが遅いときは連絡する。ちゃんと守ってるでしょ。マコちゃんは時々忘れるけどね」
「だ、だって私は接客業だもん。お客様の都合で連絡できないことだってあるわ」
「うん。だから俺、怒ってないでしょ」
「まあ、そうね」
「でもさ、元カレとラインしてるのはどうだろ。まあ、浮気とは言えないかもしれないけどね」
「どうして知ってるの!」
「スマホをテーブルに置きっぱなしにしてるから、見えちゃうんだよ」
「何でもないのよ。向こうにも彼女いるし、音楽通だから、ライブの情報とか教えてくれるだけよ」
「うん。知ってる。だから怒ってないでしょ」

やだ、何だか分が悪くなっちゃった。家事の分担の話をしようと思ったのに。
ちょっとご機嫌でも取っておこう。

「ねえ、ビールもう1本飲む?」
「いいの? 結婚資金をためるためにビールは1日1本って決めたのに」
「まあ、たまにはね」
「やった! じゃあ俺、後片付けと風呂掃除するよ」
彼は鼻歌まじりに冷蔵庫を開けてビールを持って来た。

ああ、こういうことか。
結婚までに彼の操縦法を、もっと研究しなければ。
密かにニヤッと笑いながら、彼の分の洗濯物をたたんだ。


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おばけカボチャ [コメディー]

秋の日暮れはつるべ落とし。
おばあさんは夕食の支度の手を止めて、カーテンを閉めようと窓辺に寄った。
「おや?」
庭に、おばけカボチャが立っていた。
いつもなら、ギャーと叫んで失神するところだが、おばあさんは驚かない。
なぜなら今日はハロウィンだから。

「あらあら、おばけカボチャに仮装しているのね。どこの子供かしら。ええっと、お菓子をもらいに来たのよね。たしか、頂き物のクッキーがあったわ。ちょっと待っててね。おばけカボチャさん」

おばあさんはキッチンの戸棚からクッキーの缶を取り出した。
「あったわ」
振り向くと、おばけカボチャが、おばあさんのすぐ後ろにピタリとついていた。
「ああ驚いた。なあに。待ちきれなかったの? はい、クッキーよ」
おばあさんがクッキーを差し出しても、おばけカボチャは受け取らない。
「いらないの? これしかないのよ。困ったわね」
おばけカボチャは何も言わない。じっとおばあさんを見ている。

「そろそろおじいさんが寄り合いから帰ってくるわ。夕飯の支度をしなくちゃ」
おばあさんはスーパーの袋から大きなかぼちゃを取り出して、まな板の上に置いた。
流しの下から出刃包丁を取り出し、「えいやあ」と振り下ろし、かぼちゃを真っ二つに切った。
「ひいっ!」
と叫んだのは、おばけカボチャだ。
「おやまあ、あんた、どうしたの?」
振り向いたおばあさんの手には、よく研がれた包丁が握られている。
「うわあああああ」
おばけカボチャは、一目散に走り去った。
「あらまあ、お菓子はいらないのかしら。変な子ね」

夜になって、寄り合いから戻ったおじいさんは、大好物のかぼちゃの煮物を食べた。
「美味いかぼちゃだ」
「おじいさん、そういえばね、今日、おばけカボチャさんが来たのよ」
「なんじゃ、それは?」
「ハロウィンの仮装よ。どこかの子供がおばけカボチャに仮装してきたのよ」
「子供? ここは老人専用の集合住宅だぞ。子供なんかいるもんか」
「あら、そういえばそうね。じゃあ、あれ、本物のおばけだったりして」
おばあさんは、かぼちゃの天ぷらを食べながら首をひねった。

***
おばけカボチャは、こっぴどく叱られていた。
「人間を驚かせるのがおまえの仕事なのに、逆に脅されてどうする」
「すみません。でも、あのばあさん、まるで山姥ですよ」
「ハロウィンと重なってしまったのが失敗だった。次こそ頑張れ。リベンジの日は12月22日だ」
「はい。今度こそ、しっかり驚かせます」

****
「ねえ、おじいさん、西洋ではカボチャと言えばハロウィンだけど、日本はやっぱりカボチャと言えば冬至ね」
「そうだな。ばあさん、美味しいカボチャを頼むよ」

今年の冬至は、12月22日です。

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無人島に持っていくもの [コメディー]

無人島に何かひとつだけ持っていくとしたら、何を持っていく?

よくある質問だわ。
そもそも無人島に行くことがわかっているのに、ひとつしか物を持って行かない人っている?
用意周到、準備万端で行くものじゃないの?
「行かない」っていう選択肢もあるしね。

スマホを持っていくって答えたバカがいたけど、電波来てないし、もし来ていても充電切れたらどうするの?
「大丈夫っす。充電器持っていきますから」
ホントにバカ。

ナイフって答えた人も多かったな。
確かに便利よ。だけど危険。死にたくなっちゃうもの。
水、ライター、毛布、薬、本って答えた人もいたな。
まあ、どうせお遊びだから、危機感がないのは当たり前ね。

さて、今夜は魚料理にしようかな。デザートはフルーツ盛り合わせ。
星空レストランの三ツ星料理よ。お酒が飲めないのが残念だけど。
ああ、満点の星がきれいだわ。

乗っていた船が沈没して、この無人島にたどり着いたのは半年前(たぶんね)
何も持っていなかったけど、何とかなるものよ。
石や木を使って火を熾したり、木に登って果実を取ったり、魚を捕まえたり、大概のことは出来るようになるわ。
いちばん必要なのは、強靭な体力と鋼のような精神力ね。
だけど今、いちばん欲しいのは、やっぱり男かな(笑)

おーい、だれか見つけてー


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金木犀の午後 [男と女ストーリー]

ハックション!
夫が庭先で大きなくしゃみをした。
子供たちが巣立ち、夫婦ふたりの暮らしで会話が増えると思ったら逆だった。
話すことが何もない。
「犬でも飼おうかしら」
何気なく呟いたら夫が「ふん」と鼻を鳴らした。
「生き物を飼うと責任が生じる。暇つぶしで飼えるもんじゃないぞ」
「わかってるわよ」
正論だけど言い方がむかつく。会社でも煙たがれているんじゃないかしら。

ハックション!
2回めのくしゃみ。ほら、女子社員が悪口言ってるんじゃない?
「寒くなって来たし、おでんでも作ろうかしら」
頭の中で材料をあれこれ考える。大根、こんにゃく、玉子……
買い物に行かなくちゃ。

ハックション!
3回目のくしゃみ。くしゃみ3回の意味ってなんだっけ。
お隣の金木犀がいい香り。まさか金木犀アレルギー?
だとしたら可哀想。いい香りなのに。
「さて、買い物行こうかな」
立ち上がった私を夫が呼び止めた。
「大型犬がいいな」
「はい?」
「エサ代はかさむが、番犬になるし従順なイメージがある」
「ふうん」
どこかズレているのよね、この人。犬の話はもう終わったのに。

ハックション!
あらあら、4回目のくしゃみ。こりゃ風邪だな。
「寒いんじゃない? もう家の中に入ったら」
聞こえているのかいないのか、夫はゴルフの素振りなんかしている。
「今夜はおでんか。いいな」
だから、ズレてるってば。

ハックション!
あっ、今のは私のくしゃみ。
「風邪か?」
「うつったのよ。あなたのくしゃみが」
「くしゃみはうつらないだろう」
「ねえ、私は小型犬がいいわ。可愛いもん」
「ズレてるなあ、おまえ。犬の話はさっき終わっただろう」
あなたにだけは、言われたくないわ。

「一緒に行くか」
「は? どこに?」
「買い物」
「えー、すぐそこのスーパーだよ」
「あと、ついでにペットショップ」
「やだ、本気なの?」
少しだけ楽しくなりそうな秋の一日。
金木犀の甘い香りのおかげかな。

ハックション!
今度は、ふたり同時にくしゃみをした。


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ふたつの指輪 [公募]

仕事を終えてアパートに帰ると、薄汚れた郵便受けに白い封筒が入っていた。
間違えて迷い込んだのかと思うほど不似合な封書は、もう15年も会っていない姪の結婚式を知らせる招待状だった。

『叔父さんの居場所を探すのに手間取って、急な知らせになってしまいました。席は用意してあります。ぜひ出席して下さい。父も母も待っています 彩夏』

結婚式は週末だった。髪を二つに結んだあどけない彩夏の顔が浮かんだ。
あの子が結婚する年齢になったのか。
こうして居場所を探してまで招待状をくれたことは、心の底から嬉しい。
だけどいったいどんな顔をして会えばいいのだ。そんな資格は、俺にはない。

15年前、仕事が上手くいかなくてギャンブルに走った。
そのとき背負った借金は、親父が肩代わりしてくれたが、その代わりに家を追い出された。
行き場をなくて兄のところに転がり込み、少しの間世話になった。
兄夫婦は文句も言わず優しく受け入れてくれたのに、俺は彼らを裏切った。

ギャンブルがやめられなくて、義姉の指輪を勝手に持ち出し、質屋で金を借りた。
倍にして返すつもりだったと言ったところで、そこには何の信憑性もない。
兄は烈火のごとく怒り、義姉は信じられないと泣いた。
「他人にだけは迷惑をかけるな」と、封筒に入った金を押し付けるように渡され、家を追い出された。
何も知らない小さな彩夏に「おじちゃん、行っちゃうの?」と、きれいな目で見つめられ、何ともいたたまれない気持ちになったのを今も鮮明に憶えている。

ため息混じりに招待状を見つめていたら玄関のドアが開いて、「ただいま」と裕美が帰ってきた。
裕美は近所のスナックで知り合った女で、2年前から一緒に暮らしている。
「あれ、今日は仕事休みか?」
「うん、ちょっと病院に」
「大丈夫か? 風邪か?」
「それより何、その手紙。結婚式の招待状?」
「ああ、姪っ子のね。兄貴の娘だ」
裕美が封筒を眺めて、細い指で俺と同じ苗字をたどる。
「行くんでしょう?」
「いや、今更どの面さげて会えばいいんだよ。俺は一生許されないことをしたんだ」

最低だった昔のことは、包み隠さず話してきた。「私もそれほどきれいな人生じゃないから」と、裕美は小さく笑ってくれた。
「可愛かったんでしょう。彩夏ちゃん」
「ああ、不思議と俺に懐いてたな」
「子供はね、どうしようもないダメな大人が好きなものよ。行って祝福してあげなさいよ」
「いいよ。金もないし。祝い金も渡せないんじゃカッコ悪いだろ」
ギャンブルもやめたし借金はないけれど、小さな工場の安月給で余裕などない。
ふたりで働いてもギリギリの生活だ。

裕美が「ちょっと待ってて」とタンスの抽斗から指輪を取り出してきた。
「これを質屋に持って行って、お金を借りたらいいわ」
「いや、おまえこれは母親の形見だろう?」
「そうよ。大切なものよ。だから売るんじゃなくて預けるの。お給料日に返してくれればいいわ。今月は夜勤が多かったから、少し多くもらえるでしょ」
白い封筒の横に置かれた指輪は、俺を責めるように輝いている。
昔の弱い自分を思い出して苦しくなる。
「やっぱりいいよ。彩夏には祝電でも送るよ」
「ダメよ。行きなさい」
10歳も年下の裕美が、母親みたいな顔で俺を見た。

「あなたはもう、昔のあなたじゃないでしょう。質屋でお金を借りても、それをきちんと返せる人でしょう。この指輪を、期日までに私のところに戻してよ。それが出来る人だということを証明してよ。私と、お腹の子供に」
「子供?」
「さっき言ったでしょう。今日病院に行ったの。あなたは、父親になるのよ」
裕美の目から、涙がこぼれた。そうか。こんな俺が、父親になるのか。
「ほら、さっさと行きなさい」
裕美が指輪を、俺の手のひらに乗せた。
15年前、義姉の指輪に手を付けたときはまるで感じなかった重みが、ずっしりと伝わってきた。
「ありがとう。ちょっと借りるよ」
俺は、この重みを一生忘れないと誓って立ち上がった。
帰りに小さな花束でも買って帰ろうかと、柄にもなく思った。

*****

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「質屋」
難しくて、最初から諦めムードでした。イマイチの出来でした。
今月は「夢」です。簡単なようで難しいテーマですね。

公募ガイド、7日に発売でしたが、届いたのは今日です(11日)
日曜祭日が入ると必ず遅れます。これはたぶん、配送する側の問題かもしれませんね。


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眼精疲労 [コメディー]

最近さー、目が痛くてさー、ネットで調べたら「眼精疲労」ってヤツらしい。
そんで、ネットでツボとか調べて押してみたんだけどさー、ぜんぜん治らなくて。
ネットで眼科も調べたんだけどさー、いまいちいいところがなくてー。
そもそも原因って何かなーと思ってネットで調べたんだけどさ、いろいろ書いてあって読むの疲れちゃってー。
友達に聞こうと思ってSNSやりまくったんだけどー、
『遠く見ればいいんじゃない?』
『緑を見るといいらしいよ』
『森に行け、森に』
って感じでさー、役に立たないんだよー。ねえ、原因なんだと思う?
あっ、やばい! やられる! あああー
よっしゃ! ステージクリアしたー。

彼女はずっと猫背でスマホのゲームをしながら、眼精疲労の相談をする。
ぜったい原因それだろ!

あああー、目が痛い。ねえ、次のステージ、超むずかしい!
それでさ、どうすれば治るかな? 眼精疲労。(だめだ、こりゃ)

*********

実はこのところ、ちょっと体調が悪いです。
たぶん眼精疲労が原因だと思います。目の奥が痛い。
頭痛、肩こりなど滅多にしないのに、頭ズキズキで肩は張るし。
初めてバファリンの偉大さを知りました(今まで飲んだことがなかった)

会社でもパソコンの仕事が多かったし、家でもパソコンやっていたからかな。
目薬つけても全然効かず、よく見たら「ものもらい用」の目薬だった。
ダメじゃん!

そんなわけで、更新がちょっと遅れてしまいました。
コメントくださった方、返事が遅くてすみません。
ようやく体調も戻ってきたので、少しずつペースを戻します。

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