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氷の世界 [ミステリー?]

体中が凍えるほどの寒さよ。
いったいここはどこかしら?
そこはかとない冷気が、体中を包んで身動きもできないわ。
地球が氷河期になってしまったのかしら。

そうだ。これは夢なんだ。
だって私は、つい最近まで自由に動けたはずだもの。
急に氷河期が訪れたりしないわよね。

突然光が見えた。
私は、光の方向に歩いていく。
自分で歩いたのか、誰かに連れていかれたのか、頭がぼんやりしてよくわからない。
そこは温かかった。楽しそうな音楽も聞こえてくる。
湯気が立ち上り、全身がほぐれるような温かさ。
温泉だわ。温泉に入って、凍えた体をゆっくり温めたら、きっとまた動けるようになるはずよ。

私は服を脱いだ。
自分で脱いだのか、誰かに脱がされたのか、そんなことはどうでもいい。
冷え切った体を早く温めたい。
扉の向こうは温泉よ。芯まで温まるステキな温泉よ。

そのとき、目覚まし時計のような音がした。
うそでしょう。ここで目覚めるなんて。
私はどうにか温泉に入ろうと、扉を開けて転がるように外に出た。
寒い……。

温泉はなかった。そこはさっきよりもずっと寒い世界。
真っ白で、みんな凍って、もう生きることもままならない。
ああ、早く目が覚めて、温かい場所に行きたいわ。

***
彼女は、ウキウキしながらキッチンに立った。
今日は彼が来る日だから、張り切って料理を作ろう。
彼女は冷蔵庫からエビを取り出した。
彼の好物の「エビサラダ」を作るのだ。
彼女は鼻歌を歌いながら、鍋に湯を沸かし、取り出したエビの殻を丁寧に剥いた。
今は黒いけれど、湯に入れたらたちまちきれいなピンクになる。
そんな姿を想像しながら、彼女はエビを湯に入れようとつまみ上げた。

そのとき、電話が鳴った。
彼からの電話で、急な仕事で行けなくなったと告げた。
彼女は不機嫌になり、剥いたエビを放り投げ、パックに戻して冷凍庫に入れた。
次に彼が来る日まで、エビは冷凍保存となった。

***
ああ、そうだった。私、エビだった。
早く夢から覚めて、温かいインド洋で泳ぎたいわ。


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