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弥生さん [コメディー]

弥生さんは、婚活パーティに参加しました。
「弥生です」と名乗ると、八割がた言われる。
「3月生まれですか?」
「はい、そのとおり。ちなみに父は1月生まれの睦月(むつき)、母は5月生まれの皐月(さつき)です」
というのが、弥生さんの定番の自己紹介でした、

この日は、運命的な出会いがありました。
彼の名前は、葉月くん。
弥生さんはいつもの自己紹介の後、葉月くんに言いました。
「葉月さんって、8月生まれですか?」
「はい、そのとおりです。ちなみに父は4月生まれの卯月(うづき)で、母は10月生まれの神無(かんな)です。もうひとつオマケに、祖母は2月生まれの如月(きさらぎ)です」
「すごい」

弥生さんは、運命を感じました。
しかも葉月くんはなかなかのイケメンです。
このまま結婚に猪突猛進!
「葉月さん、私たちが結婚したら、1月、2月、3月、4月、5月、8月、10月と、12カ月のうち7カ月が揃いますよ」
「本当だ。そうしたら子供は6月生まれの水無月(みなづき)、7月生まれの文月(ふみづき)を目指しましょう」
「あら、子供だなんて気が早いわ」

そんな将来設計まで飛び出したところに、ひとりの女が割り込んできました。
「ちょっと待った!」
「何ですか?あなたは」
「ふたりとも、ずいぶん盛り上がっているけど、9月と11月と12月はどうなるの?」
「どうなるのって……」
「さすがに長月(ながつき)、霜月(しもつき)、師走(しわす)はないよ。名前としてはイマイチだ」
「だから甘いって言ってるの。葉月くん、あなた私と結婚したら、12カ月のすべてを家族に出来るのよ」
「どういうことだ?」

さて、どういうことでしょう?
彼女はなぜ、そんなことを言ったのでしょう?
答えは、4月生まれで季節とは全く関係ない名前の作者が撮った写真のあとで(おそまつ)

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<答え>
「12カ月のすべてを家族に出来るって、どういうこと?」
弥生さんの問いに、女は答えました。

「私の名前は、暦(こよみ)でーす」
「こ、こよみ! それは素晴らしい。まさに僕にピッタリだ」
「暦か。それじゃあ太刀打ちできないわね」
そんなわけで、今回の婚活は空振りに終わりました。
弥生さんに、早く春が訪れますように。

みなさん、わかりました? 簡単すぎたかな。



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ネコの日 [ファンタジー]

2月22日は、ニャンニャンニャンで「ネコの日」なんだって。
イベント好きのヨシコさんは、こういうのは絶対に見逃さない。
「ミーちゃん、今日はネコの日だから御馳走よ」
そう言って、高級なネコ缶とネコ用デザートをお皿に載せた。
お皿はどこかのブランドらしいけど、アタシにとって器なんてどうでもいいの。
お腹いっぱいになればいいんだもの。

ヨシコさんは太っている。とてもよく食べるからだ。
今日だって、ネコの日に便乗して、自分のケーキもちゃっかり買っている。
抱っこされるとぷよぷよして気持ちいいけれど、健康のために少し痩せたほうがいいんじゃないかとアタシは思う。
だってヨシコさんがいなくなったらアタシはどうなるの?
毎日のご飯も、トイレ掃除も、ヨシコさんのお仕事だからね。

アタシは今の暮らしに満足している。
ヨシコさんが好きとか嫌いとか、幸せか幸せじゃないかとか、そんなことはよくわからない。
だってネコだもん。好きな時に甘えるし、気が乗らなかったら無視するわ。

翌朝、ヨシコさんはいつもの時間に起きなかった。
「お水ちょうだい」とニャーニャー鳴いてみたけれど、ちっとも来ない。
お部屋に行ったら、ヨシコさんは布団の上で倒れていた。
「ヨシコさん、ヨシコさん、どうしたの?」
まとわりついて呼びかけても、胸を押えて苦しそうに唸っている。病気だ。
ああ、だから、もう少し痩せたらって思ったのよ。

アタシは窓に張り付いて、外を歩く人たちに呼びかけた。
「誰か助けて」
家の前は女子高生たちの通学路。誰か気づいて助けてくれたらいいのに、笑いながらスマホで写真を撮っている。
「ヤバい、あのネコ、めっちゃ出たがってる」
「ウケる。SNSにアップしよ」
ちょっと、そんな呑気な状況じゃないから。
アタシはジャンプして助けを求めた。
その拍子に、窓の鍵が外れたけれど、窓の開け方がわからない。
ああ、なんて無知なの、アタシ。もっといろいろ冒険しておけばよかった。

それでもガリガリやっていたら、隣の奥さんが通りかかった。
「あらあら、ミーちゃん、どうしたの?」
奥さんはすーっと簡単に窓を開け、「ヨシコさん、いないの~?」と中を覗いた。
「ヨシコさ~ん。ミーちゃんがお腹空いてるわよ~」
そう言いながら入ってきたお隣さんによって、ヨシコさんは救出された。

ヨシコさんの入院中、アタシはお隣さんの家にいた。
優しくしてくれたし、ダンナさんは時々マグロの刺身やツナ缶をくれた。
だけど、どういう訳かアタシはヨシコさんが恋しくて、あのぷよぷよがたまらなく恋しくて、夜中に鳴いてお隣さんを困らせた。
居心地はいいはずなのに、自分でもわからないのよ。
おいしいご飯と、ふかふかのお布団があっても、何かが足りないの。

ヨシコさんは、心臓にナントカっていう機械を入れて帰ってきた。
「ミーちゃん、ただいま」
ぷよぷよの腕に包まれて、アタシはわかったの。
この人が大好きだってこと。

今日はたくさん甘えてあげる。
だから今日が「ネコの日」じゃなくても、ご馳走にしてね。
マグロのお刺身とか、タイの尾頭付きとか、どう?
(すっかり贅沢になったミーちゃんであった)


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義理チョコ禁止 [コメディー]

「倉田さん、おはようございます」
「あれ、佐々木さん、もう風邪大丈夫?」
「はい。三日もお休みしちゃってすみません」
「いいよ、いいよ。お互い様さ」
「あの、それからこれ、チョコレートです。昨日のバレンタインデーに渡せなくてすみません」
「あれ、佐々木さん、知らないの? 今年から義理チョコ廃止になったんだよ。部長からの命令。社内での義理チョコは禁止になったんだ」
「そうなんですか。三日も休むと浦島太郎ですね」
「まあ、俺たちもホワイトデーのお返し、気にしなくて済むからさ、その方が気楽だよ」
「でも、せっかく作ってきたんだから受け取ってくださいよ」
「えっ、手作り?」
「昨日は熱も下がってヒマだったから作ったんです。ラム酒をちょっと入れて本格的に作ったトリュフです。買ったチョコより絶対に美味しいですよ」
「うーん。じゃあもらうけど、お返しはいいよね。だって本当は禁止事項なんだからさ」
「それはおかしいですよ。世の中すべて、ギブアンドテイクですよ」
「えー、じゃあいらない。そもそも佐々木さんにだけホワイトデー返したら変でしょ」
「じゃあ、こうしましょう。売ります」
「はっ? 売る?」
「はい。このチョコを、倉田さんに販売します。それならいいでしょう」
「いやいや、おかしいでしょ。バレンタインチョコをやるから金払えってこと?」
「そうです。それだったらホワイトデーのお返しは結構です」
「じゃあさ、試食させてよ。試食もしないで買えないよ」
「わかりました。自分用に取っておいたチョコですが、どうぞ、食べてください」

「う、美味い! なんだこれ。すごく美味いぞ。甘さ控えめで、口の中でふわっととろける。ラム酒の香りもいいなあ」
「でしょ。私、パティシエを目指していたんです。お菓子作りはプロ並みですよ」
「払う。金払うよ。いくら?」
「いくら出します?」
「1個100円、6個だから600円」
「じゃあ、1800円いただきます。ホワイトデーは3倍返しと相場が決まっていますから」
「ちゃっかりしてるな。わかったよ。はい、1800円。これでお返しはナシだからな」
「まいどあり。じゃあ私、部長にチョコを渡してきます」
「えっ、ダメだって。義理チョコ禁止令を出したのは部長だぞ」
「大丈夫です。義理チョコじゃありません。本命チョコです」
「えっ、マジで? 不倫じゃん!」
「ふふふ、義理チョコ禁止令を提案したのは、実は私です。だってあの人、血糖値が高いんですもの。私が作った糖質カットのチョコしか食べさせたくないんです。奥様はそういう気遣いが出来ない人みたいだし。倉田さん、味見してくれてありがとうございます。倉田さんグルメだから、感想を聞きたかったんです。来年もよろしくお願いしますね」

「か、金返せ!」

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タイムカプセル [公募]

小学校の校庭は、思っていたより小さく感じた。
校庭が狭くなったのはなく、私が大人になったからだ。
12月の風に、校庭の土が舞う。マフラーを巻き直して時計を見る。
「遅い……」

小学校の卒業後に、四人でタイムカプセルを埋めた。
大切なものを持ち寄って、校庭の隅に埋めた。
美咲と聡とキンジと私は、休み時間も放課後も、飽きるほど一緒にいた。
キンジだけが渾名で、いつも本ばかり読んでいたから二宮金次郎に因んで付けられた。

小学校が廃校になることを知り、急きょタイムカプセルを掘ることになった。
集まるのは、ずいぶん久しぶりだ。
ずっと終わらないと信じていた友情関係は、中学生になった途端にあっさり崩れた。
美咲と聡が付き合い始めたのだ。
四人の間に恋愛というものが存在するということを、受け入れられず戸惑った。

ある日美咲は目を輝かせて言った。
「ねえ、佳織ちゃんとキンジも付き合えばいいのに。そうすればダブルデートできるよ」
何気なく言った言葉は、ひどく不快だった。
「やめてよ、誰がキンジとなんか付き合うか」
すぐ後ろにキンジがいるとは知らずに、私は大声で言った。
キンジは聞こえなかった振りで通り過ぎたが、その日を境に私を避けるようになった。
そして私たちは、そのまま中学を卒業して、それぞれ別の高校へ進んだ。
結局、友情は続かないということだ。

校庭の遊具は、思い出の宝庫だ。ジャングルジム、うんてい、すべり台。
聡は誰より運動が得意だった。美咲はちょっと怖がりだった。
キンジはいつも順番を譲ってくれて、私はいつも笑っていた。
10分後に、ようやくスコップを持った聡と美咲が来た。
ふたりは高校進学を機に別れたが、成人式で再会してまた付き合いだした。
「やっと来たな。腐れ縁カップルが」
「相変わらず口が悪いな。佳織は」
「6年ぶりね。佳織ちゃん、成人式来なかったから」
「ヒマな学生と違って、働いているもんで」
「マジで口悪い。ところで、場所憶えてる?」
鉄棒から西に30歩、そこから南に40歩、せーので右を向いて真正面に見える桜の木の下に埋める。それが、みんなで決めた場所だ。

私たちは、12歳の歩幅を考慮して歩いた。
桜の木が同じ場所に在ったことに感謝して、木の下を掘った。
意外と深く掘っていたことに驚きながら、銀色の缶を掘り出した。
それは、9年分の錆をまといながらも、ちゃんと私たちを待っていた。

「開けるか」
「ねえ、キンジの分はどうする?」
「お家に届けてあげようか」
「エロ写真とかだったらどうする?」
「キンジに限ってそれはない……たぶん」
私たちは、ここにいないキンジのことで笑いあった。
聡が、ゆっくり蓋を開ける。それぞれの名前が書かれた封筒が、4つあった。

何のことはない。当時好きだったアイドルの写真や、百点のテスト、お気に入りのシュシュなどが出てきた。
聡はJリーガーのカード、美咲は自分が書いたポエムに赤面した。
「キンジの開ける?」
「じゃあ、聡が開けてよ。それでもしもエロ写真だったらそのまま埋めよう」
「よし」とキンジの封筒を開けた聡の表情が変わり、一枚の紙を私に差し出した。
「手紙だ。佳織宛の手紙」
「えっ、あたし?」
飾り気のない便箋に「佳織へ」と癖のある文字で書かれた手紙だった。

『佳織へ  僕の性格からして、絶対に言えない言葉をここに残します。僕は佳織が好きです。ずっと好きでした。この先いろんな人と出会うと思うけど、この気持ちを忘れたくないのです。タイムカプセルを開けて君がこれを読んだとき、お願いだから「キモイ」とか言わないで欲しい。もっとも、そういうのも佳織らしくて好きだけどね。 キンジより』

文字が滲んで、泣いていることに気づいた。キンジの気持ちなど、考えたこともなかった。
キンジは、17歳の夏に事故で逝ってしまった。
一緒にタイムカプセルを開けることは出来ない。
何も知らずにキンジを傷つけた中学生の私。
もう謝ることも出来ない。

「雪だ」と美咲が手のひらをかざす。
晴れた空に雪が舞う。遠い昔、小学校の帰り道にも、こんなふうに雪が降った。
「風花だよ。晴れた空から雪が降ることを、風花って言うんだ」
そう教えてくれたのは、キンジだった。
物知りで優しくて照れ屋のキンジを、私たちはずっと忘れない。

3人で空を仰いだ。
「ありがとう。キモイなんて言わないよ。キンジは大切な友達なんだから」
空に向かって手を振ると、いつの間にか雪もやんだ。

*****

公募ガイド「TO-BE小説工房」で、選外佳作でした。
課題は「風花」
こんなきれいな課題が出ると、なんだか身構えてしまいますね。
いい話を書かなきゃ、みたいな。
なかなか書けなくて、ギリギリで出した作品でした。
今月の課題の「鮎」も、なかなかに難しいです。


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母の教え [コメディー]

「えー、野田さん休み? 子供がインフルエンザ? なんだよ~。あー、やっぱり若い独身女性がよかったなー。野田さんの子供、身体弱くね? それでなくても学校行事で会社休むくせに。その分こっちに仕事が回ってくるんだから、勘弁してほしいよな~」

『こら、マサヨシ!』
「えっ? かあちゃん?」
『情けない。おまえは子供の頃、しょっちゅう熱出したこと忘れたのか! その度に母ちゃんは仕事休んでお前の看病したんだぞ。そりゃあ嫌味を言う人もいたさ。だけど優しい上司や先輩のおかげで、母ちゃんは仕事も育児も頑張れたんだ。いいかい、子供は国の宝だよ。ということは、その母親も宝だ。おまえは馬鹿だけど、人の気持ちがわかる男に育てたつもりだ。自分ひとりで大きくなったわけじゃあるまい。優しくて、心の広い男になれ!』

「先輩。どうしたんですか。早く外回り行きましょうよ」
「いや、今、おふくろの声が…」
「先輩、マザコンっすか? 早く行きましょうよ。野田さんの分の仕事もあるんだし。また残業ですよ。まったく勘弁してほしいっすよね」
「こら、そんなこと言うんじゃない。子供は国の宝だ。ということは、母親も国の宝だ。俺たちみんなでフォローしようじゃないか」
「先輩。おれ、感激しました。先輩って心の広い素晴らしい人だったんですね」
「いや、それほどでも…。だけどな、人の気持ちがわからない奴は出世できないぞ」

「あの、先輩、言いにくくてずっと言えなかったんですけど…」
「なんだ?」
「おれ、来月から育休もらってもいいっすか?」
「ええ~~~~」
「子供は国の宝ですから、当然父親も宝っす。フォローよろしくお願いします」


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