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ネコの日 [ファンタジー]

2月22日は、ニャンニャンニャンで「ネコの日」なんだって。
イベント好きのヨシコさんは、こういうのは絶対に見逃さない。
「ミーちゃん、今日はネコの日だから御馳走よ」
そう言って、高級なネコ缶とネコ用デザートをお皿に載せた。
お皿はどこかのブランドらしいけど、アタシにとって器なんてどうでもいいの。
お腹いっぱいになればいいんだもの。

ヨシコさんは太っている。とてもよく食べるからだ。
今日だって、ネコの日に便乗して、自分のケーキもちゃっかり買っている。
抱っこされるとぷよぷよして気持ちいいけれど、健康のために少し痩せたほうがいいんじゃないかとアタシは思う。
だってヨシコさんがいなくなったらアタシはどうなるの?
毎日のご飯も、トイレ掃除も、ヨシコさんのお仕事だからね。

アタシは今の暮らしに満足している。
ヨシコさんが好きとか嫌いとか、幸せか幸せじゃないかとか、そんなことはよくわからない。
だってネコだもん。好きな時に甘えるし、気が乗らなかったら無視するわ。

翌朝、ヨシコさんはいつもの時間に起きなかった。
「お水ちょうだい」とニャーニャー鳴いてみたけれど、ちっとも来ない。
お部屋に行ったら、ヨシコさんは布団の上で倒れていた。
「ヨシコさん、ヨシコさん、どうしたの?」
まとわりついて呼びかけても、胸を押えて苦しそうに唸っている。病気だ。
ああ、だから、もう少し痩せたらって思ったのよ。

アタシは窓に張り付いて、外を歩く人たちに呼びかけた。
「誰か助けて」
家の前は女子高生たちの通学路。誰か気づいて助けてくれたらいいのに、笑いながらスマホで写真を撮っている。
「ヤバい、あのネコ、めっちゃ出たがってる」
「ウケる。SNSにアップしよ」
ちょっと、そんな呑気な状況じゃないから。
アタシはジャンプして助けを求めた。
その拍子に、窓の鍵が外れたけれど、窓の開け方がわからない。
ああ、なんて無知なの、アタシ。もっといろいろ冒険しておけばよかった。

それでもガリガリやっていたら、隣の奥さんが通りかかった。
「あらあら、ミーちゃん、どうしたの?」
奥さんはすーっと簡単に窓を開け、「ヨシコさん、いないの~?」と中を覗いた。
「ヨシコさ~ん。ミーちゃんがお腹空いてるわよ~」
そう言いながら入ってきたお隣さんによって、ヨシコさんは救出された。

ヨシコさんの入院中、アタシはお隣さんの家にいた。
優しくしてくれたし、ダンナさんは時々マグロの刺身やツナ缶をくれた。
だけど、どういう訳かアタシはヨシコさんが恋しくて、あのぷよぷよがたまらなく恋しくて、夜中に鳴いてお隣さんを困らせた。
居心地はいいはずなのに、自分でもわからないのよ。
おいしいご飯と、ふかふかのお布団があっても、何かが足りないの。

ヨシコさんは、心臓にナントカっていう機械を入れて帰ってきた。
「ミーちゃん、ただいま」
ぷよぷよの腕に包まれて、アタシはわかったの。
この人が大好きだってこと。

今日はたくさん甘えてあげる。
だから今日が「ネコの日」じゃなくても、ご馳走にしてね。
マグロのお刺身とか、タイの尾頭付きとか、どう?
(すっかり贅沢になったミーちゃんであった)


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