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青春が終わった [男と女ストーリー]

大好きなバンドが解散した時、青春が終わったような気がした。
June party 通称JP。
デビューした時からの大ファンで、ライブにも行ったしCDも全部持っている。
ここ数年はあまり活動していなかったけれど、解散はさすがにショックだった。

「JP解散か。仲悪いって、ネットに書いてあったもんな」
夫が足の爪を切りながら言った。何も知らないくせに。
夫は、私がJPに夢中になっていた頃を知らない。
この虚しさを共有できるのは、元カレしかいない。
ライブにはいつも一緒に行ったし、ドライブのたびに聴きまくった。

スマホを取り出して、まだ消していない元カレのアドレスを開いてみる。
いやいや、今さらありえない。
閉じて開いてまた閉じて、スマホをポケットに入れた途端、着信があった。
元カレからだった。きっと彼も、私と同じ気持ちだったのだ。

「あ、カオリ? よかった~、番号変わってなくて」
「久しぶりね」
「俺さ、今実家に帰ってるんだよね。よかったら一度会えないかな」
少しは迷ったけど、お茶くらいならいいかと思って、出かけることにした。
何よりJPとの想い出を語れるのも、この喪失感を分け合えるのも彼しかいない。

待ち合わせは、懐かしいカフェ。
先に来ていた彼が窓側に席で手を振った。
「10年ぶりかな。カオリ、変わってないね」
「そんなことないよ。もうおばさんだよ」
「おれ、女盛りは35歳からだと思ってるから」
相変わらず口がうまい。だけど嬉しい。おしゃれしてきてよかった。
アイスコーヒーで喉を潤して、私は本題のJPの話を始めた。

「JP、解散しちゃったね」
「えっ、マジで?」
……。なに、この反応?
「へえ、知らなかったな~。でもまあ、仲悪いってネットに書いてあったからな」
……。夫と同じ反応。
喪失感を共有したくて、連絡をくれたとばかり思っていた。
行き場を失くした私の感情が、もやもやしたまま胸の中でしぼんでいく。

「ところでさ、俺、リストラされて今無職なんだ。カオリのダンナって、会社の社長だったよな。就職世話してくれないかな」
彼が目の前で両手を合わせた。「ごめん」と謝るときに、いつもしていた仕草。
浮気したとき、借金作ったとき、嘘をついたとき。思い出したら腹が立ってきた。

「俺、今は実家に世話になってるんだけど、親も年だし、それにさ、これがこれでさ」
小指を立てて、腹の前で円を描く。女房が妊娠中という意味か?
今どきこんなリアクションをする人いるかしら。バカみたい。
すっかり冷めた。おしゃれしてきて損した。

「夫の会社は、新卒しか雇わないから」
「冷たいこと言うなよ。マジで困ってるんだよ」
「生きてりゃ何とかなるわよ。JPの歌で、そんな歌詞があったでしょ」
「そうだっけ?」
そんなことも忘れちゃったんだね。

私はコーヒー代をテーブルに置いて立ちあがった。
バイバイ。アドレス、消しておくから。
私の青春が、またひとつ終わった。


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