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免疫 [ホラー]

カウンターだけの小さなバー。
もう少し広い店に移転したいところだが、今はここが僕の城だ。

閉店間際、今日最後の客は、近くのスナックのママだった。
この辺りでは、なかなか繁盛している店のママだ。
すでにどこかで飲んできたようで、すっかり出来上がった顔だ。
「珍しいですね。今日は、お店休みですか?」
「女の子がみんな、病気で休んじゃったのよ」
「へえ、揃いもそろって夏風邪ですか」
ママは水割りをチビチビ舐めながら、苦い顔をした。

「昨夜、2人組の男の客が来たのよ。辛気臭い男でさ、そのふたりが来たとたん、客がすーっと帰っちゃったの」
「へえ、なぜです?」
「そりゃあ、ふたりが貧乏神と疫病神だからよ」
「貧乏神と疫病神?」
「憑りつかれたら最後、商売あがったりよ。お札を貼って出入り禁止にしたわ」
ママは煙草に火をつけて「あんたも気を付けなさいよ」と言った。

「だけど、ママさんはどうして病気にならなかったんですか?」
「あたしは大丈夫よ。免疫があるからね。この年まで水商売やってるんだもの。どうってことないわ」
「免疫ですか。じゃあ、僕も貧乏神や疫病神に負けないように頑張ります」
「あたしもね、最初はこのくらい小さな店から始まったのよ。あなたも頑張りなさい」
ママは水割りを2杯飲んで立ち上がり、千鳥足で歩き出した。
その後ろを、大きな鎌を持った黒い服の男がゆらゆらとついて行く。

ママさん、死神には免疫がないようだ。

看板の電気を消してクローズの札をかけると、割と近くで救急車のサイレンが聞こえた。
「あのママさんのスナック、売りに出たら買おうかな」


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