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忠告 [ホラー]

僕に霊感があることを知ったのは、小学生のときだった。
遊び半分で行った町はずれの廃墟で、「なんだ、何もいないじゃないか」と背を向ける友達の後ろに張り付く青い顔の女を見たのだ。
それが合図だったかのように、あらゆる場所で幽霊を見た。
海、トンネル、墓地、旧校舎の階段。
恐ろしいのは、幽霊に張り付かれた友達は、その後必ず事故に遭う。
足をつかまれた友達は、体育のときに転んで骨折をした。
首をつかまれた友達は、事故に遭ってむち打ちになった。
手をつかまれた友達は、火事に巻き込まれて手を火傷した。

だから僕は、「足に気を付けて」とか、「ヘルメットを被って歩いた方がいいよ」とか、事故を未然に防いであげようとしたのだけれど、気味が悪いと言われて友達を失った。

そして僕は、高校生になった。
相変わらず幽霊が見えるけれど、誰にも話したことはない。
友達がいないから、怪我の忠告をする必要もない。
たとえサッカー部のエースが、幽霊に足をつかまれていたとしても。

僕は恋をした。
髪の長い、優しい図書委員の女の子だ。
彼女に会いたくて、僕は毎日図書室に通った。
「本が好きなのね。これ、私も読んだわ。面白かったよね」
こんな僕に笑いかけてくれる彼女に、毎日ときめいた。

どんよりと重い雲が広がる放課後、図書室は薄暗く、彼女以外誰もいなかった。
いや、もうひとり、彼女に張り付く青い顔の女がいた。
女は、彼女の美しい髪を撫でていた。
どういうことだろう。彼女が髪を失うということか。
青い顔の女がにやりと笑う。
僕はたまらず彼女に声をかけた。
「あの、髪、気を付けて」
「は?」
「きれいな髪を失うかもしれない。だから気を付けて」
「なにそれ、キモイ。もう閉めるから帰ってよ」
彼女は冷たく言った。稲光が図書室を照らして、大きな雷が響き渡った。

一瞬の出来事だった。
カーテンを閉めようと窓辺に寄った彼女を、一瞬の光が弾き飛ばした。
雷に打たれたのだ。
電気が一気に消えて、どこかの教室から叫び声が聞こえた。
青い顔の女が、笑いながら天井を抜けて消えて行った。

彼女は少しの間気を失っていたが、病院で目を覚まし、身体に異常はなかった。
ただ、きれいな髪だけが、焦げてチリチリになった。
だから気を付けてって言ったのに。

ショートカットになった彼女は、もう僕に笑いかけてはくれない。
気味が悪いと小声で言うのを聞いてしまった。
胸がチクリと痛んだけれど、これはきっと幽霊のせいではない。

もう教えない。誰にも、忠告なんかしない。
たとえ、そこのあなたの後ろに、青い顔の女が張り付いていても……ね。


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