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私のバイブル [コメディー]

高校に入学して、割とすぐに彼氏が出来た。
高校生になったら恋をするという、少女漫画の鉄則に従った。
恋の相手は誰でもいいわけではない。スポーツ少年か、ちょっぴり不良か、プレイボーイか、若いイケメン教師と決まっている。
私は、サッカー部のS君に告白した。他はちょっと無理そうだったから。
昼休みに一緒にお弁当を食べたり、放課後の部活を見に行ったり、バイブル(少女漫画)通りの青春だ。
ここで、やはり少女漫画ならではの展開が訪れる。
ライバルの出現だ。それは、サッカー部のマネージャー。
S君が好きなマネージャーは、私に「練習の邪魔だから帰ってよ」とか言うのだ。

そして、S君と過ごす初めての夏休みがやってくる。
海、プール、花火にお祭り。少女漫画だと、ここで一気に距離が縮まる。
花火の夜に浴衣でファーストキス。これ、鉄則。

「ねえS君、夏休みどうする?」
「毎日練習。大会があるから」
あれれ? 想定外。
「お盆休みは? 花火大会は?」
「お盆は田舎のばあちゃんちに行く。じいちゃんの新盆だから、これは避けられない。花火大会の日は、弟と妹を連れて行くんだ。両親が仕事だからさ。ごめんね」
ああ、想定外。だけど、家族思いの優しい少年は、少女漫画っぽいから許す。
「サッカー部のマネージャーになれよ。そしたらずっと一緒にいられるよ」
「それは無理」
だって、マネージャーはライバル枠だもん。

そんなわけで、恋愛に全力を注ぐはずだった夏休みは、テレビとゲームと昼寝の日々と化した。
S君からは毎日電話があったけれど、サッカーの話ばかり。
少女漫画だったら、夜中に突然バイクで逢いに来たりするけど、それもない。

そんなとき、チャンス到来。S君が試合に出ると言う。
私はバイブルに従って、レモンたっぷりのドリンクを作って応援に行った。
サッカーはよくわからないので、S君だけを目で追っていた。
こういう疎い女の子も、少女漫画のヒロインっぽいでしょ。
試合は、よくわからないけど、どうやら負けたらしい。

私は「残念だったね」という慰めの言葉を用意して、S君に駆け寄ろうとした。
そのとき、日焼けしたショートカットのマネージャーが、泣きながらS君にタオルを渡した。
「S君、ナイスファイト! 気にするなって。ボールのキープ率は一番だったよ」
S君は、タオルを受け取って悔しそうに涙をぬぐった。
あれあれ? 炎天下のグランドで、真っ黒に焼けたふたりが泣いている。
そして時おり見つめ合い、痛みを分け合うように笑った。
あの子はライバルのはずなのに、なぜだろう、めちゃくちゃヒロインみたいだ。
私は校庭の隅っこに取り残されて、痛みを分け合うふたりをぼんやり見ていた。

けっきょくS君との恋は、2学期を待たずに終わった。
スポーツ少年を選んだのが失敗だったかな。
途中から、少年漫画みたいな展開になっちゃった。
次は、ちょっとクールな俺様系にアタックしてみようかな。


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