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未来の兄嫁 [コメディー]

今年大学生になったお兄ちゃんは、お盆休みが終わるとさっさと東京に帰った。
もっとゆっくりすればと、お母さんは言ったけれど、「バイトが」とか、「サークルが」とか言いながらそそくさと帰った。

わたしは知っている。
お兄ちゃんには、彼女がいる。
「お母さんに言うなよ」と、わたしにだけこっそり、写真を見せてくれた。
おしゃれで笑顔がステキな可愛い人だった。

会ってみたいと、わたしは思った。
うちに遊びに来ないかな。こんな田舎に来るわけないか。
結婚したら、あの人がお義姉さんになるのか。お化粧とか教えてもらおう。
…なんて、気の早い想像までした。

夏休みも終わりに近づいた。
わたしは、どうしてもお兄ちゃんの彼女に会ってみたかった。
「お母さん、東京に行きたいんだけど」
「東京? 何しに?」
「東京見物。せっかくお兄ちゃんが東京にいるんだから」
「あんたは本当にお兄ちゃんっ子だね。でもひとりで電車に乗れるの?」
「乗れるよ。もう12歳だよ。お兄ちゃんに駅まで迎えに来てもらうし大丈夫だよ」
お母さんは「可愛い子には旅をさせろ」の精神で許してくれた。

東京までは電車で3時間。
田舎の景色から、住宅がひしめき合う都会へと進み、大きなビルやスカイツリーが見えてくる。
お兄ちゃんには連絡してあったから、駅まで迎えに来てくれた。
「電車、迷わなかったか?」
「スマホがあるから大丈夫」
「いいなあ。俺が中一のときは、携帯も買ってもらえなかったぞ」
お兄ちゃんが、わたしの頭をくしゃっと撫でた。

お兄ちゃん、家にいるときとちょっと違う。
カッコいいな。彼女とどんなところに遊びに行くのかな。
おしゃれなカフェとか、夜景が見えるレストランかな。
「ねえ、お兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんの彼女に会ってみたい」
お兄ちゃんは、ちょっと照れながら、「じゃあ、会いに行くか」と言った。
「いいの?」
「もちろん。メグちゃん、きっと喜ぶよ」
彼女、メグちゃんっていうんだ。可愛いな。

わたしたちは再び電車に乗って、秋葉原に向かった。
「そうか、そうか。おまえもメグちゃんのファンになったか」
「…ファン?」
「運がいいな。俺、チェキ券持ってる」
「…チェキ券?」
お兄ちゃんは、鼻歌まじりにビルの地下に下りていく。

すごい熱気だ。
せまい舞台で、アニメ声で歌う女の子たち。
サイリウムを振りながら、変な踊りをする観客。
これって、もしかして……地下アイドルってやつ?

「お兄ちゃん、メグちゃんって彼女じゃないの?」
「彼女だよ。メグちゃんを推してるファンすべての彼女だ」

お兄ちゃんはそのあと、チェキ券とやらで、メグちゃんと並んで写真を撮っていた。
わたしに見せてくれたのは、この写真だったのか。
メグちゃんはとびきりの笑顔で写真を撮る。
お兄ちゃんとも、その次の人とも、そのまた次の人とも。

彼女じゃないじゃん。
うちに遊びに来るわけないじゃん。
お義姉さんになるわけないじゃん。

がっかりしたような、ほっとしたような。
とっとと帰って宿題やろう。

**********
10日ぶりの更新になってしまいました。
ちょっとね、私ではなく家族に心配なことがあって、なかなか書けなかったりパソコンにも触れない日があったりしました。
まあ、悩んでも仕方ないし。少しいい方向に向かいそうだし。
いろいろあるけど、前を向いていきましょう!
あんまり更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。



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