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パパの子守り

奈々子が化粧をしている。今夜は同窓会だ。
「パパ、子どもたちのことお願いね」
「うん、まかせて」と言ったけれど、ちょっと心配だ。
何より奈々子がきれいすぎて、別の心配も頭をよぎる。
誰かに口説かれたりしないかな。
元カレと再会して、いい雰囲気になったりしないかな。
「じゃあ行ってくるね」
子どもたちが奈々子を追う。
「大丈夫だよ。ママはちゃんと帰ってくるからね」
と、自分にも言い聞かせた。

窓から奈々子を見送った。
レモンイエローのワンピースがよく似合う。
奈々子は世界中で一番きれいだ。

「ねえパパ、ママが恋しいのはわかるけど、しーちゃんがミルクこぼしてるよ。あとリュウとカイがティッシュの箱イタズラしてる」
「ああ、何やってるんだよ、おまえたち」
8歳から2歳まで、やんちゃな子どもたちに奈々子はいつも振り回される。
今日はおれがママの代わりだ。いつもは見ているだけだけど、ちゃんと叱らないと。

8歳のマリンはしっかり者だけど、お気に入りのぬいぐるみを取られると豹変する。
ほら、いつものケンカが始まった。
「リュウ、マリンにぬいぐるみを返しなさい。しーちゃん、テーブルに乗らないで。カイ、洗濯物で遊ぶな」
ああ、疲れる。奈々子の言うことはすぐに聞くのに、甘く見られてるな、おれ。

「さあ、ごはんの時間だよ。みんな残さず食べるんだぞ」
晩ごはんは、奈々子が用意してくれた。
子どもたちの大好物ばかりだ。
「マリン、もっと食べないと」
「いいの。太ったらインスタ映えしなくなっちゃうでしょ」
やれやれ。おしゃまな子だな。
「カイがぼくのごはん取った」「リュウがぶった」
「こら、ケンカするな。しーちゃん、お水で遊ぶな」
ああ、ぐったりだ。奈々子、早く帰ってこないかな。

外は真っ暗。車の通りも少なくなった。
遅いな。盛り上がってカラオケでも行ってるのかな。
まさか元カレと…いや、奈々子に限ってそんなことはない。
子どもたちはやっと静かになった。遊び疲れたようだ。
おれは待ってる。奈々子の帰りを、窓辺で待っているよ。


「ねえ奈々子、帰らなくて大丈夫? やんちゃな子どもたちが部屋を荒らしているんじゃない?」
「え、奈々ちゃん、子どもがいるの?」
「12歳を先頭に8歳、5歳、3歳、2歳よ」
「えええ、5人も?」
「一番上の子が、面倒見が良くてね。助かってるわ」
「でもまだ12歳だろう? ご主人は帰ってるのかい?」
奈々子はくすっと笑った。
「私はまだ独身よ。ネコ好きの彼氏募集中」
「奈々子の子どもは5匹のネコちゃんよ」
「なんだ、ネコか。じゃあさ、3次会行く? ちなみに俺も独身、ネコ好き」
「行く行く!」

深夜すぎ、奈々子が帰ってきた。足音ですぐにわかるんだ。
「ただいま、パパイヤ。お留守番ありがとう」
「にゃー!(奈々子、浮気しなかっただろうな)」

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