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怖い話 [ホラー]

宿泊学習の夜、みんなで輪になって、順番に怖い話をしていった。
みんなそれなりに、怖い体験をしているんだなと感心しながら聞いていた。
「おい、次はおまえの番だ」
みんな一斉に僕を見た。
「怖い話なんて出来ないよ。そんな体験ないもん」
「自分の体験じゃなくてもいいんだよ。誰かに聞いた話とか、何かあるだろう」
「うーん、じゃあ、おじさんの話をするよ」
僕はそう前置きをして、話し始めた。

僕のおじさんは、昼間はゴロゴロ寝てばかりいるんだ。そして夜になると出かける。
ろくに食事も摂らないから、痩せて青白い顔をしていて、幽霊みたいなんだ。
うちの離れに住んでいるんだけど、子どものころから「おじさんには近づくな」って言われていたから、一度も話をしたことがない。
ある夜、塾の補習で遅く帰った僕は、家の前でおじさんと鉢合わせしたんだ。
「おじさん、どこに行くの?」
僕は、思い切って話しかけた。
「飯を食いに行く。おまえも行くか?」
おじさんは、意外と普通に話しかけてきた。ママに言ったら絶対にダメって言われるから、僕は黙ってそのままおじさんについて行った。

おじさんは、赤いネオンが輝くクラブに入った。
「おじさん、ここ、子どもが入っちゃダメなところでしょ」
「大丈夫だ。おまえなら大丈夫だ」
何が大丈夫なのか分からなかったけど、おじさんに続いて店に入った。

「あら、いらっしゃい。今日はいい娘が入っているわよ」
薄暗い店で、髪の長い女の人がカウンター越しに言った。
「3日ぶりだ。さっそくいただこう。この子にも、何か飲ませてやってくれ」
「なあに? あんたの子ども?」
「兄貴の子だ。まだ目覚めていない」
「ふうん」
おじさんは、若い女と奥の部屋に入っていった。
何だか嫌な感じだった。
おじさんが、奥の部屋で何をしているのかわからないけど、きっといやらしいことだろうと思った。
来るんじゃなかったと後悔しながら、女の人が出してくれたジュースを一気に飲んだ。
それはひどく不味くて、だけど妙に気持ちがよくて、もしかしたら変な薬が入っていたのかもしれない。だからすぐに吐き出そうとしたけれど遅かった。
「ははは。最初はそんなもんさ」
女の人が笑った。
おじさんが奥の部屋から出てきた。若い女はいなかった。
ふうっとため息をつきながら、僕の隣に座った。
「おじさん、怪我してる。口から血が出てるよ」
「ああ、おれの血じゃない」
「えっ?」

おじさんは、吸血鬼だったんだよ。その店で、若い女の血を吸っていたんだ。
生血を吸わないと、生きていけないんだって。
うちの先祖に吸血鬼がいて、ごくまれに生まれてしまうらしいんだ。吸血鬼がね。

「これが僕のおじさんの話。どう? 怖かった?」
「なあんだ。作り話かよ。吸血鬼なんているわけないもんな」
「え、本当の話だよ。ほら」
僕は口を開けて、生え始めたばかりの牙を見せた。
あの夜、女の人が出してくれた人間の血を飲んで、僕はすっかり目覚めたんだ。
「ねえ、誰か血を吸わせてくれないかな。さっきからずっと我慢してるんだ」
途端にみんな、悲鳴を上げて出て行った。
僕の話、そんなに怖かった?

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アンチエイジングセールス [コメディー]

営業の基本は、まず相手を褒めること。
「お若く見えますね」は魔法の言葉。
男性は、多少年上に見られた方が貫禄があっていい、なんて人もいますけど、女性はとにかく若く見られたいものです。
褒めて褒めて褒めまくって、化粧品を売るのです。

ピンポーン
「こんにちは、奥様。ABC化粧品です。ただいまこの地域にお暮しの、30代の女性を対象にサンプルを配っておりますの。……あらまあ、奥様50代? とても見えませんわ。てっきり30代後半かと。まあ驚いた。週一でエステとか通ってるんですか? 何もしてないって、まあ信じられませんわ。このサンプル、30代限定なのですが、特別に30代に見える奥様にも差し上げますわ。ぜひ使ってみて下さいね。これを使ったらますます若返って、20代に見えてしまうかもしれませんわよ」

「お母さん、ただいま。あら、お客様?」

「まあ、お嬢さまですか。学生さんかしら。えっ、32歳? まあ、とても見えませんわ。てっきり20代前半かと。なんとまあ可愛らしい。職場でもモテモテでしょう。あら、結婚なさっているの? お子さんまで? まあ、なんてお若いママ。その若さと美貌を保つために、ぜひABC化粧品をお使いください。ただいま無料サンプルをお配りしていますの。これを使ったら、ピチピチの女子高生に見えてしまいますわよ。あら、ピチピチなんて、古いですわね。ホホホ」

「ママ、おばあちゃん、ただいま」

「あら奥様、お孫さんですか。可愛いですね。年中さんくらいかしら。えっ、8歳? 小学生なの? てっきり4歳くらいかと。まあ、お若く見えますわね。ABC化粧品は、無添加なのでお子様にもお使いいただけるんですのよ。これを使えば、ますます若返って3歳くらいに見えてしまいますわ。あら、やだ、どうして泣くの? 8歳だもんって、ええ、わかっていますよ。でもね、たとえ子どもでも、年齢より若く見られるのは嬉しいでしょ。世の中の女性はみんなそうよ。えっ、男の子? 男の子なの? あらあ、貫禄がありますこと。9歳くらいに見えますわ」

***
先日、化粧品のセールスの電話がありました。
「奥様ですか。とてもお若い声ですが、30代ですか?」
と聞かれたので、「はいそうです」と答えました(笑)

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真夏のマフラーとかき氷 [男と女ストーリー]

別れた恋人から小包が届いた。開けてみたらマフラーだった。
何だよ、これ。こんな真夏に嫌がらせか?
僕は頭にきて、元カノのサエに電話した。
「ああ、それね、タンスの中から出てきたから。あんたの忘れ物でしょ」
「わざわざ送らなくても。捨ててくれてもよかったのに」
「一日だって手元に置きたくなかったの。二度と見たくなかったのよ、あんたの物なんて。目が汚れるからね。本当はあんたの住所も名前も書きたくなかったよ。手が汚れるからね。それを無理して送ってやったのよ。感謝しなさいよ」
「はいはい」
ムカつきながら電話を切った。あいつは僕をゴキブリとでも思っているのか?
ああ、別れて正解。

一緒に暮らし始めて1年。別れる前はずっとこんな感じだった。
サエには、優しさと思いやりが欠如しているんだ。
マフラーを捨ててしまおうと箱から取り出すと、何だか柔らかいいい匂いがした。
「あいつ、わざわざ洗ったのか?」
バカみたいだ。どうせ捨てるのに。
元カノにもらったマフラーなんて持っていても、いいことなんかひとつもない。
ん? 元カノ? そうか。これはサエが編んだマフラーだ。
付き合い始めたころ、不器用ながら一生懸命編んでくれたマフラーだ。

「あんたっていつも背中丸めてるからさ、首が寒そうで見てられないんだよね。別に愛情とか込めてないから。そういうキモイことしてないから。巻きたきゃ巻けば」
サエはそう言って、マフラーをくれた。

ああ、そういえば、あいつは昔からああいうやつだった。
そういうところ、嫌いじゃなかった。
一緒に暮らし始めても、サエはずっと変わらなかった。
…っていうことは、変わったのは僕の方?

数日後、ふたりで暮らしていたアパートの近くまで行き、サエを呼び出した。
「何なの、急に。暇じゃないんだけど」
「いや、ちょっと用があって来たら、新しいカフェが出来ていたから。ここ、いつオープンしたの?」
「先月」
「ふうん。お勧めは?」
「知らないよ。あたしも初めて来たから」
「そうなの? 新しいカフェが出来たらすぐ行ってたのに、趣味変わった?」
「カフェ巡りを趣味にした覚えはないけど。それに、ひとりで入っても詰まらないでしょ」
サエは性格がきついから友達が少ない。出かけるときはいつも僕と二人だった。

「あ、かき氷がある。スペシャルメガイチゴフラッペとコーヒーにしよう」
「バカじゃないの。おなか壊すよ」
注文を済ますと、店員が「あの」と僕の顔を覗き込んだ。
「冷房、効きすぎてますか?」
「いえ、大丈夫です」
店員は、怪訝な顔で奥に下がった。
「別に普通だよね。冷房」
「あんたが首にマフラーなんか巻いてるからだよ。ホントにバカね」
サエが思い切り、呆れた顔をした。

このマフラーの意味を、僕は脳みそが溶けてサラサラの水になるまで考えた。
そしてひとつの結論を出した。
「あのさ、サエ、俺たちやり直そうよ」
サエが何か言おうとしたとき、タイミング悪く、スペシャルメガイチゴフラッペが運ばれてきた。

「すげえ。メニューの写真よりデカい」
「だからお腹壊すって言ったんだよ」
小学生を諭す母親みたいに、サエが腕組みをした。
「あんたがそのかき氷を、残さず食べたら考えてやるよ。かき氷食べるといつも頭が痛くなるくせに、ホントにバカだね」
サエが笑った。久しぶりに見る笑顔だ。
あ、キーンと頭が痛くなった。そんな僕を見て、サエがますます笑った。

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母の秘密 [公募]

終戦の年に生まれた私は、父の顔を知りません。
南の島で戦死したと、母が話してくれました。遺骨はありませんでした。
そのせいでしょうか、幼少期から同じ夢を何度も見ました。
ジャングルで彷徨っている兵士の夢です。
ジャングルになど行ったことがないのに、やけにリアルな夢でした。
兵士は、彷徨いながら私の名前を叫ぶのです。
「弓子、弓子、必ず帰るから」

空襲で家が焼けたそうで、父の写真は一枚もありませんでした。
だけど私には、その兵士が父だとはっきり分かったのです。
「お母さん、お父さんは南の島で生きているのよ。そのことを私に伝えたくて、夢に出てくるんじゃないかしら」
母は静かに笑いながら、まったく相手にしてくれませんでした。
「弓ちゃん、夢はただの夢よ。お父さんは戦死したのよ」
母はいつも気丈でした。戦前から結核療養所で働き、閉鎖された後は市民病院で看護婦をしながら私を育ててくれました。

あるとき、衝撃的なニュースがありました。
南の島で日本兵が発見されたのです。
終戦を知らずに、二十八年間もジャングルを彷徨っていたのです。
やっぱり、と私は思いました。
「お母さん、きっとお父さんも生きているわ。この兵士のように、今もジャングルを彷徨っているのよ。ねえ、お母さん、何とか捜しに行けないものかしら」
しつこく訴えた私の頬を、母がピシャリと叩きました。
母が手を上げたのは、後にも先にもこのときだけでした。
「いい加減にしなさい。お父さんは死んだのよ。何度も言わせないでちょうだい」
疲れているときに纏わりついたのが、癇に障ったのでしょうか。
それにしても母がどうしてこんなに怒るのか、さっぱり分かりませんでした。
それ以来、父が夢に出てくることはありませんでした。

その翌年私は、ご縁があって結婚をしました。
七歳年上の夫は真面目で優しく、二人の子どもにも恵まれました。
時代はすっかり豊かになり、小さいながらも家を建て、母と一緒に暮らす計画を立てました。
しかしその矢先、母は脳梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまいました。
「ようやく親孝行が出来ると思ったのに」
苦労続きだった母の手をさすりながら、私はしばらく泣き続けました。

葬儀を終え、夫とふたりで母の遺品を片付けました。
質素な暮らしを続けた母の部屋は、使い込まれた家具や必要最低限の食器など、まるで無駄のない小さな城でした。
抽斗を片付けていたときに、一枚の写真を見つけました。
親子三人が写った写真です。裏には『弓子0歳』と書かれていました。
私を抱いた男性は、幼いころ何度も夢に出てきた兵隊さんでした。やはり父だったのです。
だけどその隣にいる女性は、母ではありませんでした。
幾つかの疑問が私の中で渦を巻きました。
この女性は誰なのか、そもそも父は、私が生まれる前に戦死したのではなかったか。

手を止めて呆然とする私の背後から、夫が写真を覗き込みました。
「あれ、トミエさんじゃないか」
驚いて振り向くと、夫は懐かしそうに写真の女性を指さしました。
「この人、遠い親戚でね、僕が子供のころ、よく家に遊びに来ていたんだよ。赤ん坊を生んで間もなく、亡くなってしまったんだ」
「男性の方は?」
声が震えているのが、自分でも分かりました。
「ご主人は、トミエさんが亡くなった後、結核を患って、暫く療養所にいたけれど治らなかったようだ。せっかく戦争で生き残ったのに、可哀想だってお袋が泣いていたよ」
夫が背を向けて作業に戻った後、私は写真を元の抽斗に戻しました。
母が死ぬまで隠し続けた秘密を、そっと封印したのです。

その夜、久しぶりに父の夢を見ました。
痩せ細った父が、病室の窓から四角い空を見ています。
「弓子を、どうか弓子をお願いします」
傍らに佇む白衣の女性が、「はい」と頷きました。
それは若い日の母でした。
母は、ただ単に情の深い看護婦だったのか、それとも父を深く愛していたのか、今となっては知るすべもありません。
だけど母は、紛れもなく私の母でした。血の繋がりはなくても、私たちは真の親子でした。

元号が新しくなりました。母が生きた年齢を、とうに過ぎました。
可愛い孫もいます。戦争のない平和な日々を、私はこれからも生きていくのです。

**********

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
テーマは「戦争」
こういうテーマは苦手ですが、私の周りにはお年寄りが多くて、お父様を戦争で亡くした方や戦争経験者がいるので、その方たちから聞いた話を参考に書きました。
なかなか難しいですね。

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彦星君 [ミステリー?]

一年に一度だけ来る客がいた。
それがちょうど7月7日だから、常連客は彼のことを彦星君と呼んでいた。

町はずれのスナック。客のほとんどは常連客だ。
還暦を過ぎたママさんが、ひとりで切り盛りしても事足りるしょぼいスナックだ。
彦星君がふらりとやってきたのは、もう10年ほど前になるだろうか。
バカ騒ぎをする常連客達を尻目に、静かにハイボールを飲んでいた。

「なあ彦星君、どうして毎年7月7日に来るんだい?」
「織姫と待ち合わせでもしてるのかい?」
「織姫なんてこの店にはいないだろう。ばあさんしかいねえ」
「ちょっと、ばあさんで悪かったわね。あんた出入り禁止にするよ」
そんな戯言を笑顔でかわし、彦星君はきっちり2杯のハイボールを飲み終えて帰る。

「なあ、今年も来るかな、彦星君」
「来るだろう。毎年来てるんだから」
「あら、今年の七夕は日曜日ね。彦星君のために店を開けるしかないかな」
「そうか、日曜か。じゃあ、俺は来られないな」
常連客はみな、仕事帰りに店に来る。だから日曜日は定休日になっていた。
「しょうがないな。彦星君のために開けるか」

そして7月7日、ママさんは彦星君のためだけに店を開けた。
どうせ大した売り上げはない。客はひとりでも5人でもあまり変わらない。
午後8時を過ぎたころ、彦星君がやってきた。
「いらっしゃい。いつもの?」
年に一度しか来ないのに、「いつもの」と聞くのもおかしいが、ママさんはハイボールをカウンターに置いた。
彦星君は、それをゆっくりと口に運んだ。
「ねえ彦星君、他の客にはまだ言ってないんだけどね、この店年内で閉めようかと思ってるのよ。だからね、来年はもう来ないで」
「そうですか」
「私ももう年だしさ。前は若い女の子を雇っていたんだけどね、その子がいなくなってから客足がさっぱり。今は常連客5,6人のために細々と続けているようなものよ」
「そうですか」
「ねえ、だからね、今日が最後だから教えてほしいの。あなたはどうして毎年七夕の日にだけ店に来るの?」
彦星君は、深いため息をついて、1杯目のハイボールを飲み干した。
ママさんが2杯目のハイボールをカウンターに置くと、彦星君はゆっくり、静かな声で話し始めた。

「11年前に、この店の近くで事故がありましたね。憶えていますか?」
「もちろん。事故にあったのはうちの従業員だもの。救急車を呼んだのも私よ」
「そうです。その節はお世話になりました。あの事故で亡くなった美咲は、僕の恋人です」
「あら、やっぱり。そんな気がしていたのよ。どこかで会ったような気がしていたの。美咲ちゃんのお葬式だったのね」
「はい。実は毎年、7月7日に美咲が帰ってくるんです」
「えっ?どこに?」
「この店にです。七夕の夜にだけ、三途の川に橋が架かって、こちらに来ることが出来るんです」
「三途の川に? 天の川じゃなくて? えっ、ちょっと待って。じゃあ、今もいるの?」
「はい、ママさんの後ろで笑っています」
ママさんは思わず振り返ったが、下手くそな字で名前が書かれたボトルが並んでいるだけだ。
「美咲が帰る場所は、ここしかないんです」
彦星君は、目線をママさんの後ろに合わせて、「じゃあね」と言った。
きっちり2杯分の金を払い、「またね」と小さく手を振った。
ママさんにではなく、恐らく彼にだけ見える恋人に向かって。

ママさんは、身寄りのない美咲を、娘のように可愛がっていた。
出勤途中で事故に遭った美咲のために、毎日手を合わせている。
「そうか、美咲ちゃん、ここに帰ってくるのか」
片づけを済まし看板の電気を消して、ママさんはふっとつぶやいた。
「もう少し、頑張ってみるか」

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