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双子の老婆 [ミステリー?]

同じ町内に、双子のおばあさんがいる。
「親も間違えるほどソックリなの」という二人は、本当によく似ている。
名前はスミさんとレミさんだ。
双子といっても、大人になれば個性が出てくるものだと思うが、この二人は本当にソックリだ。きっと生き方が似ているせいだろう。
ともに同じ時期に結婚したが、子どもが出来ず、それが理由で離縁された。
それから二人は、同じ家で一緒に暮らしている。今年で85歳になる。
私はボランティアでお年寄りの世話をしていて、スミさんとレミさんの家にも2年前から通っている。

「こんにちはスミさん。お弁当を届けに来たわよ」
「あら、どうも。いつも悪いね」
「レミさんはお留守ですか?」
「買い物に行ってるよ。あんた、よく見分けがつくね」
「わかりますよ。頬にホクロがある方がスミさん。もう2年も通ってるんですよ。このまえはスミさんがお買い物で留守でしたね」
「交代で買い物に行っているからね。タイミングが合わないんだよ」
「じゃあ次は絶対、二人そろっているときに来ますね」
ここ数カ月、決まってどちらかが出かけている。
どことなく奇妙な雰囲気を感じながら、いつもどおりに振る舞っていた。

数日後のことだ。ひょっこり寄ったら、レミさんが熱を出して寝込んでいた。
こんな時でさえ、スミさんはいなかった。
急いで薬を飲ませて、おかゆを作って看病した。
料理を作りながら不審に思った。
茶碗も湯呑も、冷蔵庫の食材も、一人分しか使われていない。
何かがおかしいと思いながらも、薬で落ち着いたレミさんに安心して帰った。

翌日、再び訪ねると、やはりレミさん一人だった。
「昨日はありがとう。すっかり治ったよ」
「よかったわ。ところで、スミさんはどうしたんです? 昨日もいなかったけど」
「ああ、あのね、年甲斐もなくケンカしてね、出て行ったのよ」
「出て行くって、どこに行くんです?」
「さあ、ほとぼりが冷めたら帰ってくるさ」

週末、いつものようにお弁当を届けに行くと、スミさんがいた。レミさんはいない。
「あら、スミさん帰ってきたんですね。よかった。それでレミさんは? まさか今度はレミさんが出て行っちゃたとか?」
「買い物だよ」
「次は二人がそろったときに来たいんですけど、いつならいます?」
「だからいつもいるよ。タイミングが悪いんだよ」
「ところでスミさん」
「なに?」
「ホクロの場所が左右逆ですよ」
スミさんが慌てて鏡を見る。やっぱり、この人はレミさんだ。
「ホクロの場所、合ってるじゃないか。あんた、あたしを嵌めたね」
「レミさん、ホクロを書いて、ずっと一人二役をやってたんですね。スミさんはどこに行ったんです?」
「死んだよ。将来を悲観して海に身を投げたんだ。3か月前だよ」
「なんてこと。じゃあどうしてスミさんの振りを?」
「死んだとわかったら、年金がもらえないじゃないか。遺体は見つかってないんだ。あたしはね、スミの分まで楽しく生きてやるんだよ」
「レミさん、それ犯罪ですよ」
「あんたは年寄りの見方だろう。見逃しておくれよ」

海に身を投げたって本当だろうか。あの二人、実はあまり仲良くなかった。
私は、1年前に交わしたスミさんとの会話を思い出していた。
「あんたは信用できる人だから、あたしの財産を預けておくよ。あたしたちは双子だけど性格は全然違う。レミは浪費家だから金の管理は任せられない。あたしが先に死んだら、葬式代に使って欲しいんだよ。もちろんレミには内緒だよ」
葬式はしないのだから、あのお金は私がもらっていいのかな。
そうよね、だってスミさんは生きてることになっているんだもの。

そんなことを思いながら、もう二度と訪れることはないレミさんの家を後にした。 

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