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秋の夜長にミステリー [ミステリー?]

秋の夜長に、ミステリー小説を読んでいたの。
何人もの人が惨殺されるお話で、怖いけれどやめられないの。
犯人は、首を絞めて殺害した後に、遺体に火をつけるのよ。
何もそこまで、と思いながら、犯人が火をつける理由を探りながら読んでいく。
身元の確認を遅らせるため? いいえ、その割には被害者のバッグがすぐ近くに落ちていたりして、ずいぶんとずさんだわ。きっと何か意味があるはず。
遺体の身元が判明したから、容疑者も3人に絞られた。
Aか、Bか、それともCか。刑事よりも早く事件の真相を暴いてみせるわ。

その時、凄まじい稲光と、家が揺れるほどの雷鳴。家じゅうの電気がプツリと切れた。
あらいやだ。ゴロゴロ言ってるな~とは思ったけど、本に夢中で気にしてなかったわ。
懐中電灯を探したけれど、肝心な時に見つからないのよ。
戸棚をガサガサやってたら、夫のライターが出てきた。
外国製のなかなか高価なライターだけど、去年禁煙に成功したから無用の長物ね。
でも、よかったわね。役に立つときが来たわよ。
ライターの灯りでろうそくを見つけて火をつけた。
あら、なかなかいいじゃないの。

私そこで、ハッとしたの。
そうよ、ライターよ。確かAは父親の形見のライターを持っていたわ。
それで火をつけたのよ。動機は、父の恨みをはらすため。
ああ、早く読みたい。続きが知りたい。

電気がついた。外は雨、雷の音は大分遠ざかった。
さて、本の続きを読みましょう。
刑事『父親の形見のライターで火をつけたんだろう』
A 『まさか。このライター使えませんよ。オイルが入ってないから』
刑事『犯行後に抜いたんだろう』
A 『そんなことしませんよ。もう古いし、オイル入れても火がつくかわかりませんよ。それにね、うちの親父はただの事故死。誰も恨んでなんかいませんよ』

ああ、Aじゃなさそうね。
その時、消し忘れたろうそくが倒れそうになって慌てて消した。
あぶない、火事になるところだったわ。
はっ、火事? 確かBは火事で両親を亡くしていたわ。
火事の原因は少年たちの火遊び。
そうよ、殺されたのはその少年たちよ。年齢的にも合ってるわ。
そうか、犯人はBね。続き読もう。
刑事『被害者は、みんなT市出身だ。そしてBさん、あなたもT市出身。両親が火事で亡くなったことと、今回の事件は繋がっている。違いますか?』
B 『刑事さん、そりゃあ偶然だ。T市出身なんてごまんといる。それにね、刑事さん、俺が火遊びをしたやつらを恨んでいるなんてとんでもない。実はね、あの少年たちの中に、俺もいたんでだよ。すぐに逃げたし、権力があったからみんなに口止めして俺の名前を出さないようにしたんだ。あはは、今バレちゃったけどな。もう時効だろ』

B最低、なんてやつ。だけどたぶん犯人じゃないわ。
ああ、消去法でCかしら。うーん、モヤモヤするわ。

その時、夫が帰ってきた。
「いやあ、雨やどりしてたら遅くなっちゃったよ。すごい雷だったね。停電になったの? へえ、どこかに落ちたかな。おや、君、この小説読んだの? 面白かったよね。僕も読んだよ。まさか犯人がDだったなんてね。最初の被害者の姉Dが、捜査に協力するふりして犯行を繰り返していたなんてね。ただの猟奇殺人だったなんてちょっと興ざめだけど、大どんでん返しが面白かったね」

「……まだ読み終わってないんだけど」
「あ、ごめん。風呂入ろ。ビールあるかな」
「ふざけんな。風呂から出たら首絞めて火をつけてやる」
終わった。私の読書の秋が、今終わった。

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