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年末スペシャル [コメディー]

除夜の鐘

「今年の除夜の鐘、音小さくない?」
「うん、それにちょっと雑音入ってるし」
「ちょっくら寺に行ってみるか」

「あっ、去年の鐘の録音テープ流してる」
「何やってるんだよ、住職」
「働き改革じゃ。国に文句言え」

除夜の鐘2

「除夜の鐘を数えたら、110だった」
「除夜の鐘は108だろう」
「ちょっくら寺に行ってみるか」

「えっ? 除夜の鐘って消費税込みで108だったんでしょ。今年は消費税10%だから110でいいんじゃないの? えっ? ちがうの?」


年越し蕎麦

「お蕎麦屋さん、今年は家で蕎麦を打とうと思っているんです。だから今年の出前は結構ですわ」
「蕎麦打ち、やったことあるんですか?」
「いいえ、初めて。だけどユーチューブを見ながらやれば出来るわよ」
「いや奥さん、蕎麦打ちはそんなに簡単じゃありませんよ。今年は修業に行っていた息子が帰ってきて、店の蕎麦を打つんです。食べてやってくれませんか」
「まあ、息子さんが。わかりました。じゃあ息子さんのお蕎麦をいただくわ」
「毎度あり」

「おい、注文入ったぞ。息子よ、心を込めて蕎麦を打て」
「わかったよ、父さん。真剣にユーチューブ見ながら打つよ」


年の瀬詐欺

「もしもしお母さん、正月には帰るよ」
「あら珍しい。3年ぶりだね」
「あのさ、紹介したい人がいるんだ」
「まあ、ついにあんたにも、そういう人ができたのね」
「うん、でさ、〇〇寿司の特上寿司を頼んで欲しいんだ。彼女に食べさせてあげたいんだ。金は僕が払うから、立て替えておいてくれよ」
「わかった。〇〇寿司の特上ね」

……近所の家に嘘の電話をかけて、特上寿司を注文させた〇〇寿司の店主が逮捕されました。警察では余罪があるとみて調査を進めています。

「あら、新手の詐欺ね。気をつけなくちゃ。あっ、電話だ」
「もしもし、母さん、俺だけど」
「あら、どうしたの? あんたから電話なんて珍しい」
「お正月に帰るよ。紹介したい人がいるんだ。それでさ、〇〇ピザの特大スペシャルドリンク付きを注文してくれないかな。彼女が好きなんだ」
「わかった。楽しみね」

……模倣犯は、必ず現れる。親とはまめに連絡を取りましょう。


ネコと年末

にゃんだ、これ。紐がいっぱい付いてて楽しい!
「ああ、鏡餅が!」

にゃんだ、これ。ビリビリって、破いていいの?
「あっ、新しいカレンダーが!」

にゃんだ、これ。白い布が行ったり来たり。飛びかかっちゃおう。
「ああ、窓ふきが出来ない!」

…というわけで、大掃除はしません。(言い訳だろ!)


2019年ももうすぐ終わりですね。
皆さま今年もお世話になりました。
以前のように更新出来ませんが、ブログは続けていきますので(ネコに邪魔されながら)来年もよろしくお願いします。
私は温泉で年越しです。
皆さま、よいお年をお迎えください。

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サンタクロース・ハナ [ファンタジー]

「世界初の、女のサンタクロースだってよ」
「女にできるのかね、サンタの仕事が」
「しかも東洋人だってよ。黒髪のサンタクロースなんて前代未聞だ」
「世も末だな」
「まっ赤なミニスカートでも履いてくれたら、目の保養にもなるけどな」

そんな男どもの陰口なんて何のその。
世界初の女性サンタクロースになったハナは、クリスマスの準備に追われていた。
ハナは、サンタ訓練生の中でもダントツに成績が良かった。
プレゼントを積み込む素早さ、トナカイの調教、そりに乗るバランス。
そして特殊技術を使ってプレゼントを配る技の取得。
誰かに見られないように存在を消す技。全てにおいて及第点だ。

「ハナ、そろそろ出発の時間だね。準備はいいかい?」
相棒のウィル(トナカイ)が赤い鼻を揺らしながらやってきた。
「バッチリよ。何度も確認したわ」
A地区からZ地区まで、サンタクロースはそれぞれに別れてプレゼントを配る。
ハナはZ地区。生まれ故郷の日本を担当する。

「ハナ、懐かしいだろう。少しくらい家に寄ってもいいんだよ」
「ダメダメ。急いで配らなきゃ。待っている子がいっぱいいるのよ」
南から北へ、素早く正確に、プレゼントを枕元に置いておく。
どうやって配るかは、企業ヒミツ。
「ハナ、初めてなのに順調だね。すごいよ」
「女のくせに、なんて言わせないわよ」
「うん。そんなことを言うやつがいたら、頭突きしてやるよ」
輝く空をひゅんひゅん飛んで、最北の街に着いたのは夜明け前。
「間に合いそうね。さあ、どんどん配りましょう」

しかし、最後の子供の家に着く前に、プレゼントが無くなってしまった。
「うそ。ちゃんと確認したのに、1個足りないわ」
「おかしいな。あっ、ハナ見て。こんなメモが」

『さあ、女のサンタさん、この試練に耐えられるかな(笑)』

それは、先輩サンタクロースたちの嫌がらせだった。
優秀なハナにサンタの座を奪われて、腹いせにこっそり1個抜いたのだ。
「ひどいことするな。どうする?ハナ」
「一人だけもらえないのは可哀そうよ。何とかしなくちゃ。この子のプレゼントは何だったかしら」
「イチローのサインボールだよ。ハナが苦労して手に入れたサインボールだ。今から手に入れるのは無理だよ。ごめんねって手紙でも書く?」
「そんなのダメだよ。ねえ、ウィル、やっぱり家に寄ってもいい?この近くなの」
「いいけどさ、どうするの?」
ハナはウインクをしてソリに乗り込んだ。目指すはハナの家。

赤い屋根の小さな家、ハナは気配を消すことなく家に入った。
「お父さん、お父さん、ごめんね、起きて」
お父さんが真っ暗な部屋で目をこすりながら起き上がった。
「おお、ハナ、立派なサンタクロースになったな」
「そんなことより、お父さん、イチローのサインボール持ってたよね」
「おお、オリックス時代の貴重なボールだ。ネットオークションに出したら高値で売れるぞ。それがどうした?」
「ちょうだい」
「はあ?」
「お願い、イチローファンの男の子にあげるプレゼントなの。その子は将来、イチローを超える野球選手になる……かもしれないわ。ねえ、お父さん、ネットで売るより価値があるわ」
お父さんは、ハナの熱意に負けて、渋々サインボールを差し出した。
「ありがとう。お父さん。メリークリスマス」

先輩の嫌がらせにも負けず、無事に仕事を終えたハナは、サンタクロースの国に帰った。
「ああ、美しい朝焼けね」
無事に全部配り終わったことを報告したら、先輩たちが悔しそうな顔をした。
「どうする、ハナ。頭突きする?」
「しなくていいわよ、ウィル。ムカつくけど、あいつらのおかげで家に帰れたもん」
「心が広いな」
「ちょっとしか会えなかったけど、お父さん、悲しそうだったな」
それはイチローのサインボールを奪われたからだろう……とウィルは思ったが口には出さなかった。
可愛いサンタクロースは、子供たちの嬉しそうな顔を想像しながらぐっすり眠った。

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深夜のドライブ [公募]

あっ、泣いてる。悠馬の夜泣きが始まった。
瞼をはがして重い体を起こしながら、時計を見ると深夜一時。決まってこの時間だ。
「またかよ」という夫の声を背中越しに聞いて起き上がる。
私だって言いたい。「またなの?」と言って布団をかぶりたい。

まだ一歳になったばかりの小さな生命体は、何が不満で泣いているのかさっぱりわからない。
抱き上げると、背中を逸らして激しく泣く。
すっかり重くなった子どもの背中をポンポンと叩きながら溜息混じりに部屋を出る。
十二月の真夜中、眠くて寒くて、泣きたいのはこっちの方だった。

その夜私は、完全装備で寝ていた。
厚手のスエット上下に靴下、すぐに羽織れるように、フリースのジャケットは布団の上に置いてある。
そんな格好で寝ているのは、そのまま真冬の外に出るための準備だ。
先輩ママから聞いた「夜泣きしてぐずった時は、車に乗せると泣き止むよ」という話を実践するためだ。
何にせよ、新しいことをするときは少しワクワクするもので、目がさえて眠れない布団の中で悠馬が泣き出すのを待っていた。
深夜一時、そろそろだ。あっ、泣き出した。
私はすかさず起きて悠馬を抱くと、夫を振り返ることもなくそそくさと部屋を出た。

ガレージに止めてある軽自動車に、押し込むように悠馬を乗せた。
チャイルドシートにくくり付けるまではずいぶんと暴れたけれど、車を発進させたら何事もなかったように泣き止んだ。
まるで何かのスイッチが切り替わったようだ。
それどころか、新しいおもちゃを見つけたようにニコニコしている。
「すごい。ゆうちゃん、ご機嫌になったね」
先輩ママの話は本当だった。私は嬉しくなって、夜の街を走り続けた。
真夜中の道路、前にも後ろにも車はない。
私たちのためだけに信号が点り、私たちのためだけに中央分離帯がある。
気持ちいい。このまま海にでも行ってしまおうか。そんな気分だ。
これは結構なストレス発散になりそうだ。
 
悠馬は、他の子よりも成長が遅い。
「あの子はもう歩いてる」「あの子はずいぶん喋るらしい」「あの子は誰にでも懐いて可愛い」「それに比べてゆうちゃんは」と、母や姑がため息をつく。
まだ一年しか生きていないのに、他の子と比べられるなんて可哀想。
そう思いながら、自分が責められているような気になる。
優馬がお腹にいたころから、間違ったことは何もしていない。
正しい育児だけをしてきたはずだ。だけどちっとも思い通りにいかない。
優馬はどこに行っても泣いてばかりだ。人見知りも激しい。
何でもイヤイヤ、物を投げて奇声を上げる。一歳健診も泣いて大変だった。
大人しく健診を受けている子が羨ましい。
寝ると心底ホッとする。そんなところに始まったのがこの夜泣きだった。

真っ直ぐな道が続いていた。
昼間は人で溢れている大きなビルもマンションも、息をしていないように静かだ。
コンビニやファミレスの灯りも、心なしか控えめに見える。
夜を支配したような気分だ。
「気持ちいい!」
思わず叫んだら、優馬が「キャッ、キャッ」と奇声を上げた。
きっと私が楽しいと、優馬も楽しいのだ。
「ゆうちゃん、明日もドライブしようか」
通じたのかどうか分からないけれど、優馬が「あーい」と返事をした。
そうか。こんな風に余裕をもって向き合えばいいのか。
何だか私、いつもいつも狼狽えてばかりだった。

夜の街をぐるりと回って帰るころには、悠馬はすっかり眠っていた。
天使みたいな可愛い顔で、ぽかんと口を開けている。
そうっと抱き上げて車のドアを閉めたら、慌てた様子で夫が出てきた。
「どうしたの、パパ」
「どうしたのじゃないだろう。起きたら君と悠馬がいないからビックリした。おまけに車もないし、マジ焦った」
「もしかして、育児に全く参加しないパパに愛想を尽かして出て行ったと思った?」
私はくすくすと笑いながら、ぐっすり眠っている悠馬をベッドに寝かせた。
「もう起きないと思うわ。車の中でずいぶんはしゃいでいたから」
私は、深夜のドライブが如何に楽しかったかを夫に聞かせた。
小さくて狭い部屋でジタバタしていた私の世界が、少しだけ変わったことを話した。
「明日も行くわよ。この際だから、悠馬の夜泣きを楽しんじゃおうと思うの」

朝までぐっすり眠れそう。
電気を消して布団にもぐり込むと、夫が少し拗ねたようにつぶやいた。
「明日は、俺も連れてって」
あらやだ。息子に嫉妬してるの? 
笑いをこらえながら、鼻先まで布団を引き上げた。

*************

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「深夜」でした。
このところなかなか書けなくて、先月の課題「駅」も、締め切り日に書いてそのまま送りました。
やっぱり年末は忙しないですね。
今月の課題は「壺」って。。。
またギリギリになりそうです。
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透明 [ファンタジー]

私はときどき透明になる。
そしてこっそりベッドを抜けて、夜の街に遊びに行く。
きれいなイルミネーションで飾られた街を歩くと、私の体は金や銀や赤に染まる。
透明だから、カメレオンみたいに風景に溶け合うの。

今日はクリスマスイブ。
寄り添う恋人たちや、ケーキを抱えたお父さん、千鳥足のおじさんや大声ではしゃぐ若者たち。
みんな楽しそう。だってクリスマスだもの。

「きみ、同類?」
不意に声をかけられた。姿は見えないけれど、すぐにわかった。
透明な男の子だ。同じ透明の子に会うのは初めてだ。
「透明になって、どのくらい?」
男の子が隣に並んで歩きだした。見えなくても気配でわかる。
「今年の春から、何度か透明になってるよ」
「そうか。僕はもう2年も透明生活をしているよ」
優しそうな、素敵な声だ。私たちは、大きなクリスマスツリーの下に並んで座った。
雪が降りそうだけど、ちっとも寒くない。
「透明っていいよね。寒くないし、体は軽いし、いくら歩いてもちっとも疲れないもん」
「そうだね」
「ねえ、今日はクリスマスイブだけど、ケーキ食べた?」
「いや、食べてないよ」
「私も。ああ、イチゴがたっぷり乗ったケーキが食べたいな」
「いいね」と、男の子が笑った。
「このままどこかに遊びに行こうよ。高級ホテルのレストラン、R指定の大人の映画、夜の水族館、私たち、どこでも行けるよ」
誰かとおしゃべりするのは久しぶりで、私はすっかり浮かれていた。

「行けないよ。僕はもう、帰らなきゃ」
「そうか、家はどこ? 近いの? また会える?」
「いや、もう会えないよ」
男の子の声が、少しずつ小さくなっていく。
「僕はもう消えるよ。透明じゃなくて、本当に消えるんだ。2年は長すぎた」
何かを諦めたような、悲しい声だ。

やっぱり私たちは同類だ。眠ったまま目覚めない。
たとえ透明になって街を自由に歩いても、重い体はベッドで眠ったままだ。

「僕は消えるけど、きっと君は大丈夫だよ。まだ間に合う。今日帰ったら、自分の体に言い聞かせるんだ。起きてケーキが食べたい、イチゴがたっぷり乗ったケーキが食べたいってね」
優しい声でそう言って、男の子は消えた。
気配がすっかり消えてしまった。ひとり残されて、私は急に現実を知る。

中学校の入学式の日、私は事故に遭った。それからずっと眠っている。
パパは大好きなお酒を断って、ママは毎日手を摩ってくれる。
透明になって自由に歩けても、やっぱり自分の体で歩きたい。
家に帰って、眠る私をじっと見た。
「ケーキが食べたい、イチゴがたっぷり乗ったケーキが食べたいよ。もういい加減目覚めてよ」
透明の私が、きれいな涙になって、私の中に戻っていく。
ゆっくりゆっくり、命を吹き込むように戻っていく。

パパ、ママ、クリスマスの朝、きっと奇跡は起きるよ。

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