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捨てられちゃった

捨てられちゃった。
飼い主さん、「元気でね」って車で走り去っちゃった。
ネコを捨てるのは犯罪よって訴えたけど、届かなかった。
ニャーとしか聞こえないから仕方ない。
飼い主さん、優しかったのは最初だけだった。
だんだんかまってくれなくなって、ごはんも1日1回になって、トイレ掃除もしてくれなくて、挙句の果てに捨てられた。
新しい飼い主さんを探さなきゃ。
でもわたし、もう子ネコじゃないし難しいかな。
あらいやだ。雨が降ってきちゃった。
アジサイの葉っぱの陰に隠れよう。
ああ、温もりが欲しい。

捨てられちゃった。
他に好きな人がいるって、何なのよそれ。
ずっと二股かけられてて、しかも私、2番目だった。
彼女にバレたからさよならって、あんまりだわ。
笑顔がいいって言ってくれたのに。
二股罪で死刑になれ。
考えてみたら、優しかったのは最初だけだったな。
記念日もイベントも一緒にいてくれなくて、それでも私信じてた。
どうして気づかなかったんだろう。
今度は優しくて、私だけを見てくれる人を探そう。
もうすぐ30だし、運命の出会いを待つ余裕はないな。
あら、雨だわ。
あれ? アジサイの下に何かいる。
ネコだ。まあかわいい。

捨てられてしまった。
こっちは結婚する気で付き合っていたのに「ごめん無理」って、何だよそれ。
どこぞの実業家と会っているのは気づいていたけどさ、まさかそいつと出来ちゃった結婚だなんて。
うまいことやったな。ブランド志向だもんな。
金のかかる女だったし、別にいいや。
彼女と住むつもりでマンション買ったけど、しばらくはひとりでいいや。
今度付き合うなら優しい女性がいいな。
たとえばこんな雨の日でも、おひさまみたいな笑顔を見せてくれる人。
あれ、あの人何してるんだ?
こんな雨の中で傘もささないで。

「どうしたんですか?」
「アジサイの下に、ネコがいるの」
「ほんとうだ。ノラ猫かな?」
「捨てられたのよ」
「捨てられたのか。可哀想に」
「やだ、あなた泣いてるの?」
「君こそ泣いてるじゃないか」
「だって私のアパート、ペット禁止なんだもん」
「じゃあ僕が飼うよ。ほら見て。僕の手を舐めた」
「ありがとう」

優しい男と、おひさまみたいに笑う女と、2歳のメスネコ。
同じ日に捨てられたふたりと一匹は、やがて家族なる……かも

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上から目線 [公募]

「初めまして」と自己紹介をするのも変な話ですが、私は地縛霊です。
三か月前に、この部屋で死にました。
上から目線ですみません。死んでからずっと、天井に張り付いているのです。
私はここから動けません。
ずっと待っていたのです。新しい住人が来て、私に気づいてくれることを。
あなたのように霊感がある方に出会えるなんて、きっと神の思し召しですね。
しかも元カレにちょっと似てる。好みのタイプです。

私ね、自殺したことになっているんですよ。
スマホに遺書を残して首を吊ったことになっているんです。
だけど違うんですよ。殺されたんです。だから成仏できないわけですよ。
睡眠薬で眠らされて、この天井の梁に吊るされたんです。
あえて梁を見せている天井がお洒落で気に入ってこの部屋を借りたのに、それが仇になるなんてね。

誰に殺されたか分かります? さっき言った元カレに殺されたんですよ。
ミステリーにありがちなパターンです。彼は第一発見者でした。
連絡が取れないからと言って、管理人さんに鍵を開けてもらって入って来たんです。
本当は合鍵を持っているくせに、どこかに捨てて処分したんですよ。
彼は私にすがってオイオイ泣きました。
自分で殺したくせに白々しいと思いながら、こうして天井から眺めていたんですよ。
警察はあっさりしたものです。さっさと自殺で片付けました。

そこであなたにお願いがあります。彼に制裁を与えてほしいのです。
警察が逮捕しないのなら、社会的制裁を与えて苦しめてほしいのです。
そうしたら私、この部屋から出られる気がするんですよ。
あなただって嫌ですよね。四六時中幽霊に見下ろされて落ち着かないでしょう。
見えなきゃ何てことないけど、あなた、見えちゃう系の人ですものね。

ちょっと押し入れを開けてもらえますか。上の板が、少しずれているでしょう。
そこに私、写真を隠してあるんです。彼と面白半分で撮った、いやらしい写真です。
あんまり見ないでくださいね。恥ずかしいから。
その写真をばらまいてください。
ネットにさらすとか、職場に送り付けるとか、まあ、その辺はお任せします。
どうか私の恨み、はらしてください。


「兄さん、写真見つかったよ」
「そうか。よくやった。あの女、やっぱり部屋に隠していたんだな。あんな写真が出回ったら俺は終わりだ。せっかく専務の娘といい感じなのにさ」
「兄さん、あの人を殺したのか?」
「バカ。殺すわけがないだろう。勝手に死んだんだよ。警察も自殺で処理しただろ」
「合鍵、持っていたんだろう」
「えっ、も、持ってねえよ。そこまでの仲じゃねえし。単なる遊び相手だよ」
「睡眠薬を飲ませて、天井の梁に吊るしたんじゃないの?」
「な、何だよ、さっきから。お前は俺の言うことを聞いてりゃいいんだ。いい年して定職にもつけないくせに、くだらない詮索するんじゃねえ。充分な金は渡しただろう。早く写真を寄越せよ」
「写真はあの部屋だよ。高いところにあって取れないんだ。僕、背が低いから」
「脚立とかねえのかよ。頭使えよ、バカ」
「低い椅子しかないんだよ。兄さんが取ってよ。それとも、彼女が死んだ部屋に行くのは嫌かな?」
「彼女じゃねえし。やっぱりお前は役立たずだな。いいよ。今から行こう」


あら、お帰りなさい。相変わらず上から目線ですみません。
まあ、彼を連れてきてくれたんですか。そうですか。恨みは自分ではらせってことですか。
わかりました。
「写真どこだよ」
「天井の梁の裏側だよ。ほら、あそこ」
「あの女、あんなところに隠してたのか。椅子を持って来い。さっさと燃やそう」
ああ、彼の顔がすぐそばに。彼に手が届きます。ありがとうございます。
このまま彼と二人で、地獄に落ちます。
「うわ、何かが首に巻きついた。いてて、誰かが手を引っ張ってるぞ。苦しい。おい、助けてくれ。天井に何かいるぞ!」
「兄さん、ごめん。僕、届かないや」

あの、すみませんが窓を開けていただけますか。
ここで殺したら、あなたが疑われてしまうから、どこかのビルの屋上から落とします。
きっと自殺で処理されるでしょう。私の時みたいに。
短い間でしたが、お世話になりました。やっとここを離れることが出来ます。
さようなら。お元気で。
「さようなら。どうか無事に成仏してください。それから、いつも上から目線の兄に伝えてください。化けて出ないようにって」

*****
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「天井」でした。難しかったです。
天井って、やっぱりホラーっぽいものを想像しちゃいますよね。
ありがちだったかな。

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おとぎ話(笑)26 [名作パロディー]

<桃太郎>

桃太郎は、サル、キジ、イヌを連れて鬼退治に行きました。
みごと鬼を成敗し、鬼の財宝を奪ってやりました。
「金銀財宝、全部持ってきてやった。これでもう悪さは出来ないだろう。は、は、は」
「あのう、桃太郎さん、上機嫌に水を差すようですが……」
「なんだ」
「舟が沈んでます」
「なんだと!いったいなぜ」
それは、鬼から奪った財宝を積んだからに違いない。
「あわわ、水が、水が~!!」
瀬戸内海の底には、今でも金銀財宝が、沈んでいるとかいないとか。。。



<王様の耳はロバの耳>

床屋は、王様の耳がロバの耳であることを知ってしまった。
厳重に口止めされたが、言いたくて仕方ない。
「そうだ、森に穴を掘って、そこに向かって言おう。穴を塞げば大丈夫さ」
床屋は森に行って穴を掘り、いざ叫ぼうとしたが思い出せない。
「はて、何の耳だったかな? 2文字の動物だったな。ウマ、サル、イヌ、ネコ、クマ。ああ、2文字の動物ってたくさんいるな」
ブタ、ゾウ、シカ、カバ……。
「あっ、カバだったかも。そうだそうだ。カバだ。確かそんな響きだった」
床屋は穴に向かって言った。
「王様の耳はカバの耳! 王様の耳はカバの耳!」
そしてそれは、どういうわけか国中に広まってしまった。
王様は大慌て。国民に向かって声明文を出した。
「カバじゃない! 私の耳はロバの耳だ!」
自分で告白しちゃった。
(床屋)「そうだ、ロバだ。ロバだった。ああ、すっきりした」



<笠じぞう>

「ただいま」
「おじいさん、おかえりなさい。あらまあ、笠が全部売れたんですね。やったー! ああ、よかった。売れなかったらどうしようと思ってましたよ」
おじいさんは、おばあさんがあんまり喜ぶものだから、全く売れなかった笠を峠の地蔵に被せたことを言えませんでした。
「それで、おじいさん、お金は?」
「ああ、金か、金は、その……」
「全部売れたならお金あるはずでしょ。早く出してくださいな」
「金は、あれだ」
「なんです?」
「で、電子マネーだ」
「ペイ?」

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墓前デート [男と女ストーリー]

久志のお母さんに初めて会うから、ちょっとおしゃれした。
袖がレースのブラウスと、淡いグリーンのフレアースカート。
5センチのハイヒールは買ったばかりの新品。ウキウキしながら彼の車に乗り込んだ。
「えっ、愛里ちゃんどうしたの。その服」
「だって、初めて久志のお母さんに会うんだよ。気合い入れたの」
「いつもの服で良かったんだけど。母さんに会うって言っても、墓参りだし」
「お墓参りでも何でも、初めて会うのに変わりないでしょ」
「そうだけどさ」
「何なのよ。ムカつく。あたしがこんなにおしゃれしてるのに、あんたは何? 訳わかんないキャラクターのTシャツとスウェット? 登山靴みたいなごついスニーカー。季節感ゼロじゃん。車だってしょぼい軽自動車だし、あーあ、浮かれて損した」
「ごめん。だけどさ……」
「もういい」
女心がわからない無粋な奴。それが久志。
着くまで口きかないから。

気がついたら景色が変わっている。林道で車が停車した。
「えっ、ちょっと、ここどこ? 山の中?」
「お墓は山の中腹にあるんだ。車で行けるのはここまで。ここからは徒歩で登るんだ」
「ゲッ! 何てこと!」

そこからの10分間は地獄だった。道はあるけど石と草だらけのひどい道。
買ったばかりのハイヒールは傷だらけ。スカートには変な草がくっついて取れない。
久志は登山靴だからスイスイ歩く。
「もう少しだよ。がんばれ~」って、部活の顧問か!
山の中腹の小さな墓地に着いた時には、身も心もボロボロ。
髪もブラウスも汗で張り付く。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。こんな山登るなら、事前に言ってよ。あんたっていつも言葉足らずね」
「ごめん。だって、愛里ちゃんいつもジーパンだからさ、まさかスカートで来ると思わなかったんだ」
「悪かったわね。あームカつく。帰りも絶対口きかないから」
「ごめん。でもきっと帰りは爆睡だよ。愛里ちゃん、いつもそうだもん」

久志は持ってきたカーネーションを墓に供えて、慣れた手つきで線香に火をつけた。
マイペースな奴。ムカつくけどせっかく来たから隣りにしゃがんで手を合わせた。
「お母さん、愛里ちゃんだよ。若く見えるけど32歳なんだ」
「年齢言わなくてもいいでしょ」
「母さんの遺言通り、健康そうな人を選んだよ」
「何気に失礼なんだけど、あたしの取柄ってそれだけ?」
「よく食べるし、酒も強いんだ」
「褒めてんの? けなしてんの?」
「これから墓参りは、ずっと愛里ちゃんと一緒に来るから」
「いや勘弁してよ。毎回はきついわ」
……って、久志、耳まで真っ赤なんだけど。
「今のって、もしかしてプロポーズ? まさかね。お墓でプロポーズなんてありえない」
「ごめん。この先にすごく景色がいい展望台があってさ、そこで決めようと思ったんだけど、愛里ちゃん、その靴じゃ無理でしょ。だから、ここでいいかなって……」
「なにそれ。お母さんの墓前じゃなかったら張り倒すところだわ」
「ごめん」
ごめんばっかり言ってるな、この人。謝らせてるのは私なんだけど。

「本当にごめん。返事は、今じゃなくてもいいから」
「登山靴買って」
「えっ?」
「それが返事」

5月はカーネーション、6月はバラ、7月は桔梗、8月はひまわり。
季節の花を持って、このお墓を訪れるふたりの姿が想像できる。
だからOK。
よろしくお願いしますね、お義母さん。

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