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おとぎ話(笑)27 [名作パロディー]

<大きなかぶ>

おじいさんが植えたかぶが、ビックリするほど大きくなって全然抜けません。
おじいさんに呼ばれて、おばあさん、孫、犬、猫、ネズミが加勢しました。
みんなで引っ張って、ようやくかぶは抜けました。
「おつかれさまでした。みんなありがとう」
「ばあさんや、お茶でも飲むか」
「そうですね。お茶にしましょう。ああ、腰が痛い」

「ところでおじいさん、このかぶはどうするんです?」
「そりゃあ食べるだろう。煮物、漬物、スープもいいな」
「誰がお台所まで運ぶんですか?」
「あ………」



<かぐや姫>

「おじいさま、おばあさま、私は月に帰ります」
「かぐや姫や、達者でな」
「おまえのことは、ずっとずっと忘れないよ」
「それは無理ですわ」
「なぜじゃ」
「私に関わった全ての地球人の記憶から、私の存在が抹消されるからですわ。そういうシステムになっておりますの」

宇宙科学が発達した現代でも、月に生物がいないとされているのは、こうした理由によるものである。



<浦島太郎>

浦島太郎は、乙姫様にもらった玉手箱を開けてしまいました。
白い煙がもくもく現れ、浦島太郎はあっという間におじいさんになってしまいました。
「なんてことだ。おじいさんになってしまったぞ」
そこへ、カメがやってきました。
「あーあ、開けちゃったね。開けるなって言われてたのに」
「教えてくれ。どうしたらいいんだ」
「この契約書にサインして」
「契約書? 何の契約書だ」
「老人ホーム龍宮城。乙姫様のサイドビジネスだよ」



<シンデレラ>

シンデレラは、魔法のドレスと馬車でお城の舞踏会に向かいました。
「12時を過ぎたら魔法が解けるから、くれぐれも気を付けなさい」
妖精はそう言って、シンデレラを送り出しました。
「ああ、お城に着いたわ。ごきげんよう」
急いで入ろうとしたら
「お嬢さん、ちょっと待ってください。検温をお願いします」
「それからマスクの着用をお願いします」
「アルコールの提供は自粛しております」
「感染予防のため、他の方とは充分距離を取ってください」
「そんな、王子様と踊りたいわ」
「王子は本日、リモートでの参加となっております」
「帰ろう」



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お化け屋敷に住んでみた [ホラー]

ここはとても居心地がいいです。
朝から夜まで暗くて、1日中ひんやりしています。
時おり不気味な風が吹いて、人間の悲鳴がたくさん聞けるんです。
どこだかわかりますか?
そう、遊園地のお化け屋敷です。

私たち幽霊にとって、この世はとかく住みにくいのです。
太陽はギラギラだし、人は多いし車も多い。
休める場所なんてないんです。
その点お化け屋敷は最高です。
万が一見えてしまう人がいても、大騒ぎにはなりません。

ある夜のことです。
閉園後のお化け屋敷に、数人の若者が入ってきました。
スマートフォンをかざしながら、ハイテンションで歩いてきます。
「ここは本物の幽霊が出るとウワサのお化け屋敷でーす。生ライブ中に幽霊が映るかもしれません。こうご期待!」
何でしょうか、この人たちは。遊園地の許可は取っているのでしょうか。
スマホの照明を照らしながら、ずんずん奥へ進んできます。
やめてください。私、そんなところに映りたくありません。
拡散されて「画像を見たら死ぬ」的な都市伝説になるのは嫌です。

しかし彼らは、私をスルーしました。
見えていないようです。何だ、見えない人たちでしたか。
よかった。
とホッとしたのもつかの間、奥の方で悲鳴が聞こえました。
「うわあー、マジで出た。ヤバいよ。本物だ」
男たちは撮影もそっちのけで、一目散に逃げていきました。
奥に幽霊がいたのでしょうか。
ここに住み着いて3か月、私以外の幽霊に会ったことはありません。

私は奥に進み、声をかけてみました。
「どなたかいらっしゃいますか? 私以外に幽霊のお仲間がいるのかしら」
生温かい風に乗って、微かに声が聞こえました。
やっと聞こえるような小さな声です。
「あんた、俺が見えないのか?」
「はい、見えません。声は何とか聞こえますが」
「ふうん。だからいつも無視してたのか。あんたさ、俺が見えないってことは、ひょっとして死んでないんじゃないの?」
「まさか。私は3か月前に交通事故で死んだんですよ。それなのにお迎えが来ないから、こうしてさまよっているんです」
「だから、死んだと思っているだけで生きてるんだよ。だから迎えが来ないんだ。その証拠に、あんた幽霊としてはちょっと弱いんだよな。怖くないし」
ああ、自分でも幽霊っぽくないことはわかっていました。
「私、どうすればいいでしょう」
「とりあえず、生きたいと強く念じてみれば? 戻れるかもよ。じゃあ俺、ちょっと寝るから。まったく迷惑ユーチューバーにも困ったもんだ」
それっきり声は聞こえなくなりました。

私は念じました。「生きたいです。生きたいです」

数日後、私は目を覚ましました。
3か月間眠り続けた私は、ようやく意識を取り戻したのです。
もうすぐ退院です。
「お姉ちゃん、これ見て」
妹がお見舞いに来ました。学校帰りに毎日来てくれます。
「これね、今話題になってる動画。お化け屋敷で本物の幽霊が映った画像なの。すごいよ、怖いよ」
妹が見せてくれた動画は、あの日のお化け屋敷の物でした。
若い男の幽霊がはっきり映っています。
「あら、あの人けっこうイケメンだったのね」
退院したら、行ってみようかしら。霊感ないから見えないけどね。
私は、画像の幽霊に「ありがとう」と微笑みました。


ホラーなのに怖くなくてすみません。
怖いのを期待した人、ごめんなさい。
あっ、でも、あなたの後ろに……


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悲しい結末 [公募]

図書館に行く目的は、読書でも勉強でもない。ただ、あの子に会いたいだけだ。
坂の上にある女子高の制服だ。
艶のある長い髪とページをめくる細い指。
笑顔はスイートピーみたいに可愛くて、そこだけ光が射しているように輝いている。

僕はさえない高校生で、幽霊部員ばかりのパソコン部は中途半端、バイトは禁止で時間を弄んでいた。母に「勉強してこい」と追い立てられて行った図書館で、妖精みたいな彼女を見かけた。
一人のときもあれば、数人で来るときもある。
勉強したり本を読んだりしながら閉館まで過ごす。
僕はといえば、勉強も手に着かず、かといって漫画以外の本を読んだことがない。
ただただぼんやり、彼女を見つめる毎日だ。

雨の日曜日、図書館は静かだ。
今日の彼女は、袖にリボンがついた黒いブラウスと、くるぶし丈のジーンズを履いている。
私服もいい。カチカチとシャープペンシルを鳴らして、無心で何かを書いている。
僕は物理の教科書なんかを開いたけれど、試験前でもないのに勉強する気になれず、ぼんやり頬杖をついた。

小さな女の子が、トコトコと僕のところに歩いてきた。手に絵本を持っている。
「おにいちゃん、これ読んで」
「えっ」周りを見ても僕しかいない。
「おうちの人は一緒じゃないの?」
 女の子は、何も答えず本を差し出す。仕方ないな。暇だし一冊ぐらい読んでやるか。
それは「あかいくつ」というアンデルセンの童話だった。
読んでみて驚いた。なんて残酷な話だ。子供に読ませていいのか、これ。
死ぬまで踊る? 足を切断? 世界残酷物語か。
あまりにショッキングな内容に呆然としていたら、女の子が次の本を持ってきた。
「かちかち山」日本の昔話だ。題名くらいは聞いたことがある。
読んでまた驚いた。壮絶な復讐劇だ。しかも復習の仕方がエグイ。
タヌキの背中に火をつけて火傷させた上に、傷口に塩を擦り込むだと。
鬼だ。ウサギは復習の鬼と化した。何だか僕まで背中がヒリヒリする。

女の子は次に「ごんぎつね」という本を持ってきた。有名な童話だけど読んだことはない。
読んでみるとこれがまた、何とも悲しい話で、おいおい、このオチはないだろうと思わず目頭を押さえた。
悲しい。全米が泣いた映画より泣ける。
童話の世界って凄いな。
楽しい話ばかりだと思っていたのに、たった三冊で、ぼくの情緒は乱れっぱなしだ。

顔をあげると彼女がいない。僕が童話に夢中になっている間に帰ってしまったようだ。
女の子がまた本を持ってきた。しかしそれは「ダイアリー」と書かれた誰かの日記だ。
「あそこの机に置いてあったの。読んで」
女の子が指さした机は、まさにさっきまで彼女がいた場所だった。
じゃあ、この日記は彼女のもの?
「人の日記を勝手に読んだらダメなんだぞ」
そう言いながら、気になって仕方ない。
ちょうど栞を挟んだところだけ、ちらっと見ちゃおうか。
見るだけ、すぐ閉じるから、読まないからと言い聞かせ、頁を開いた。

『6月20日(雨)今日の彼は、インディゴブルーのTシャツ。爽やかで素敵。子供に本を読むときの甘い声は、私の鼓膜をとろけさせる。この場所を失いたくないから、告白はしない。でもいつか、きっと』

読んじゃった。えっ、もしかしてこれ、僕のこと? 
確かに青いTシャツを着てるけど、インディゴブルーってどんな色? 
本の読み聞かせもやっていた。甘い声かどうかはわからないけれど。
あれ、もしかして両想い?

頭の中がぐるぐる回る中、彼女が戻ってきた。
青い顔で僕から日記を奪い取ると、乱れた髪をかき上げて睨んだ。
「読んだ?」
「読んでない。でも、ちらっとだけ見えた」
彼女が僕の胸ぐらをつかんだ。
「彼に言ったらぶっ殺すからね」
「彼?」 
彼女の視線は、奥のスペースで子供たちに読み聞かせをしている図書館司書のお兄さんに注がれていた。
あ……、インディゴブルーってあの色か。僕の青と全然違う。ひとつ賢くなった。
なんて、そうじゃないだろう。失恋決定だ。
彼女は大事そうに日記を抱えて図書館を出ていった。
今日読んだ本の中で、いちばん残酷で悲しい結末だ。

脱力して座り込むと、女の子がまた本を持ってきた。
「マッチ売りの少女」児童虐待の話じゃないか。勘弁してくれ。これ以上悲しみに浸りたくない。
日曜日の図書館は、雨音と、インディゴブルーの司書さんの優しい声に包まれている。
読み聞かせが終わって戻ってきた司書さんに、女の子が纏わりついた。
「パパ、これ読んで」

ああ、彼女も失恋決定だ。

*******

公募ガイド「TO-BE小説工房」の応募作。選外佳作でした。
課題は「本」
最優秀の作品は面白かった。すごく上手でした。
私も頑張ろう。

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未来の食卓 [SF]

私が幼いころ、母は誰よりも早く起きて家事をこなしていた。
「お母さん、朝から大変だね」と私が言うと母は笑いながら言った。
「何言ってるの。洗濯は洗濯機がやるし、ごはんは炊飯器が炊くし、お湯はポットが沸かしてくれるのよ。大したことないわ」
偉いなあ。私もお母さんになったら、母のようになりたいと思った。

そして今、私は二人の娘の母になった。
お母さんのようになりたくて、久しぶりに早起きをした。

「ママ、おはよう!どうしたの? 今日はやけに早いね」
「あら、リナちゃんおはよう。今朝はね、炊飯器でごはんを炊いたのよ」
「ゲッ!炊飯器なんて売ってたの? 家電ミュージアムでしか見たことないよ」
「アキバの古い電気屋さんで見つけたの。ちゃんと動くのよ」
「今どき炊飯器でご飯炊く家なんかないよ。ねえ、なんか焦げてない?」
「えっ? あらいやだ。お水入れるんだったわ」
「もういいよ。ほら、焦げ臭いからパパとユナが起きてきちゃったよ」
「おはよう。ママ、なにごと?」
「ごめんなさい」
「クッキングマシンに頼もう。へいクック、朝食作って」
『かしこまりました。お好みのメニューをどうぞ』
「パパは和食、あたしとユナは洋食。ママは?」
「じゃ、じゃあ、中華で(しょんぼり)」
『かしこまりました』

ここ30年で、AI技術は目覚ましい発展を見せた。
特に家事分野では、世界中が競い合うように技術を磨いた。
女性が家事をやる、男性が家事をやる、そんな議論は遠い昔の話。
最新のクッキングマシンは、フリーズドライの材料を定期的に補充すれば、バランスの取れた料理を10分で作ってくれる優れものだ。

「キャー! ママ、洗面所が泡だらけ」
「あら、洗濯機に洗剤を入れ過ぎたかしら」
「もう、洗濯機も買ったの? クリーニングボックスに入れたら畳むところまで自動でやってくれるのに」
「ママ、どこに干すんだよ。今どき洗濯物を外に干す家なんかないぞ」
「そうだよ。友達に見られたら恥ずかしいよ」
「ごめんなさい。でも、一度やってみたかったのよ。パンパンってやつ」
「ああ、俺のおふくろも良くやってたなあ。あのTシャツを叩く音、気持ちよかったな」
「はいはい、令和の話はそのくらいにして。朝食できたよ」

ピピピピ ピピピピ
「なに、この音?」
「炊飯器? 洗濯機? ママ、また何かやらかした?」

ピピピピ ピピピピ
「ほらほら、起きなさい。目覚まし時計が鳴ってるでしょ」
「えっ、お母さん?」
「学校に遅刻するわよ。早く朝ごはん食べなさい」
なんだ夢か。そうだよね、30年やそこらであんなに科学が発展するわけないよね。

「おはようお母さん、朝ごはん何?」
「和食と洋食どっちがいい? 好きな方を選んでボタンを押しなさい」
「えっ?」
「クッキングマシンよ。お父さんの会社で造ったの。まだ試作品なんだけど、なかなか便利よ」

ああ、まんざら夢でもなかった。

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