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キューピットのお仕事 [ファンタジー]

私はキューピットです。人間を結婚まで導くのが仕事です。
遠距離恋愛担当、略して「遠坦」です。
職場恋愛担当(職坦)や、婚活担当(婚坦)だったらもっとポイントが稼げるのにと、思うことは少なくありません。
だけど、やりがいはあります。
距離や寂しさに負けず頑張るカップルを応援するのは、とても有意義です。

今回のターゲットは、東北支社に異動になった中田ナオキ君と、本社勤務の大沢さおりさんの遠恋カップルを結婚させるのが仕事です。
本社の職坦キューピットから引き継ぎました。
この二人は、離れても順調に愛をはぐくみました。
毎日の電話、月に一度の逢瀬、2年の地方勤務の後、結婚させるのは難しくないと思っていました。
ところがそこに、突然現れた東北支社の新入社員、野村ヒカリ。
東京に彼女がいると知りながら、ナオキ君にグイグイ迫ります。
後ろに誰かいるなと思ったら、やはりいました。
フリーの職坦キューピット、点数稼ぎの嫌な奴です。
「職坦さん、私のターゲットの邪魔をしないで頂きたい」
「おや、これは遠坦さん、所詮人間は近くにいる人と結ばれるものだよ。悪いけどこのポイントは俺がもらう」
私はナオキ君に、さおりさんが如何に素晴らしい女性かを囁き続けました。
おかげでナオキ君は心変わりすることなく、愛を育みました。

しかし、職坦のやつは強硬手段に出たのです。
ヒカリが、ナオキ君と撮ったツーショット写真を、さおりさんの社内メールに送り付けたのです。『彼のことはお任せください』なんて強気のメッセージを添えて。
「職坦さん、やってくれましたね」
「やったのはヒカリだ。俺は耳元でちょいと囁いただけさ」
職坦め、汚い真似をしやがって。

ナオキ君はすっかり落ち込みました。
さおりさんが電話もメールも無視するからです。
「会いに行きましょう。会って誤解を解くのです」
一生懸命囁きましたが、彼は心を閉ざしています。
こうなったら、さおりさんの所へ飛ぶしかありません。

しかし、さおりさんの肩の上に、なんと職坦キューピットがいたのです。
「なあ、失恋は新しい恋で埋めるものだぜ。あの大学院出のエリート、あんたに気があるぜ。いっそ乗り換えたらどうだ」
こいつ、一度に2つのポイントを手に入れようとしてるな。負けるものか。
「さおりさん、ナオキ君に会いに行きましょう。会って話せば誤解だとわかります」
両側から囁かれて、さおりさんはパニックになりました。
「職坦さん、もうやめましょう。さおりさんが精神的に参ってしまいます」
「構うものか。俺はポイントさえ稼げればそれでいい」
「ダメです。そんなの誰も幸せになりません。時として見守ることも必要なのです」
私は強引に、職坦キューピットを天空に連れて行きました。
混乱を避けるために、しばらく人間界を離れることにしたのです。

その後、事態は急展開。
なんと、ヒカリが幼なじみの青年と電撃結婚したのです。
実は彼女は、初恋の彼を振り向かせるために、ナオキ君を利用したのです。
誤解が解けて、ナオキ君とさおりさんは元のさやに収まりました。
春には本社に戻れます。ようやく私の仕事が実を結びそうです。

職坦キューピットは落ち込んでいました。
「なあ遠坦さん、今回のことは、初坦キューピットの仕業だぜ。すっかりやられたな」
「初坦?」
「初恋成就担当。略して初坦だ。滅多に成功しない分、報酬はデカいらしいぜ」
「なるほど。私たち、初坦さんに振り回されていたんですね」

そこへ、初坦キューピットがやってきました。
「遠坦さん、職坦さん、こんにちは。この度はありがとう。おかげでポイントいっぱい稼げたわ」
初坦キューピットがにっこり微笑みました。
「初坦、女だったのか」
「か、かわいい……ですね」
職坦さんと私の間に火花が散りました。
負けませんよ。この恋、私が成就してみせます!

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