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サンタとトナカイ [ファンタジー]

「おはようございます。サンタさん。雪かきをしておきました」
「ありがとうトナカイくん。しかしわしはもうサンタじゃないよ。もう引退したんだから」
「ほかの呼び方を知りません」
「じいさんでも、クソジジイでも、好きに呼びなさい」
「滅相もない。あなたは私にとって偉大なサンタクロースです」
「嬉しいね。しかしトナカイくん、君まで辞めることはなかったんじゃないか? まだ若いのに」
「いいえ、あなた以外のサンタクロースと仕事をする気にはなりません」
「そうか。君は実によくやってくれたな。何かプレゼントを贈ろう」
「ありがとうございます」
「そうだ。イブの夜にプレゼント交換をしよう。今まで配るばかりでもらったことがない。トナカイくん、イブの夜にうちに来なさい。何がいいかな。金の鈴がいいかな」
「そんな高価なものを戴けませんよ」
「あげるんじゃないよ。交換するんだ。君もプレゼントを持ってきなさい」
「あ、はあ、わかりました」

サンタクロースは、あれこれとプレゼントを考えていました。
「少々値が張るが、いいものがいいな。トナカイくんは何をくれるかな?」
カタログを見ながら、「高級腕時計かブランデーが欲しいな」などとつぶやいていました。
「おや、サンタクロース協会から電話だ。はい、もしもし」
「引退したのに申し訳ないのですが、イブの夜、少しだけでも手伝っていただけませんか? なにぶん人手不足で」
「そうか。わしはいいが、トナカイくんにも聞いてみないと」
「トナカイは必要ありませんよ。今年からハイブリットの超高速ソリに乗ってもらうことになってます。3倍の速さで配れますよ」
「なんだと? ではトナカイは?」
「もう用済みですよ。あれ? 聞いてなかったですか? みんなまとめてお払い箱です」
「何てことだ。トナカイのやつ、わしに気を遣って言わなかったのか。なんて水くさい奴だ」
実はトナカイは、突然仕事を失って、路頭に迷っていたのです。
サンタクロースには退職金と年金がありますが、トナカイには何もないのです。
雪かきや雑用を引き受けて、少しばかりの収入を得ていたのです。
「高価なプレゼントは、彼にとって負担だったな。こりゃあ失敗した」

イブの夜、トナカイはプレゼントを持ってやってきました。
「サンタさんが欲しがっていた懐中時計です。暗い夜には光りますよ」
トナカイには、角がありませんでした。
「トナカイくん、まさか角を売ったのかい?」
「はい、でも気にしないでください。また生えますから」
「何も知らずに悪いことをした。わしからのプレゼントはこれだよ」
サンタが指さす先にソリがありました。新品の美しいソリです。
「このソリで、また一緒にプレゼントを配ろう」
「でも、トナカイはもう不要です。解雇されたんですよ」
「君を雇うのはわしだよ。フリーランスのサンタクロースだ。カッコいいだろ」
トナカイは、目に涙を浮かべながら喜びました。
「カッコいいです。ありがとうございます。やはりあなたは偉大なサンタクロースです」
「さあ、さっそく仕事だ。手伝いを頼まれたんだ」
「はい、では参りましょう」

角のないトナカイは、ピカピカのソリにサンタとプレゼントを乗せて空を飛びました。
光る懐中時計が午前0時を告げました。
「さあ急ぎましょう。超高速ソリに負けていられませんよ」
「その調子だ、トナカイくん」


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影がないのは [ホラー]

放課後、いつものようにユウ君と待ち合わせをした。
同じ方向だから、一緒に帰ることになっている。
五月の木漏れ日がキラキラ光るケヤキの下で、ユウ君はぼくを待っていた。

「ユウ君ごめんね。そうじ当番でおそくなっちゃった」
「別に平気だよ。さあ帰ろう」
ぼくたちは、並んで歩き始めた。ユウ君は、何だか少し元気がなかった。
の葉っぱが反射しているせいか、ちょっと顔色も悪い。
確かにユウ君なのに、何かがちがうような、不思議な感じがした。
「ユウ君、クラスで何かあった?」
ぼくたちは、二年生になってクラスが離れてしまった。
ユウ君のクラスには、いじめっ子がいるのかもしれない。
先生も、ちょっと怖そうだ。
ユウ君はおとなしいから、何かひどいことをされているのかもしれない。
「別に何にもないよ。ちょっとお腹が空いているだけさ。サトシ君は優しいね」
ユウ君が笑った。いつもの笑顔だ。なあんだ、お腹が空いているのか。
安心した。だけど安心したとたん、ぼくは奇妙なことに気づいてしまった。

ユウ君に、影がない。
後ろから太陽が照りつけて、ぼくの影はこんなにくっきり映っているのに、ユウ君には影がない。
どうして影がないんだろう? 影がないのって、なんだっけ。
前に何かの本で読んだことがある。ぼくは心の中で考えた。幽霊? 死神? 妖怪?

「吸血鬼だよ。サトシ君」
ユウ君が、ぼくの耳元でささやいた。
「えっ?」と振り向く間もなく、ユウ君はぼくの首すじにかみついた。
意識がだんだん遠くなる。どういうこと。ユウ君、これ、どういうこと?

気がついたら、ぼくは保健室で寝ていた。
「目が覚めた? 校門のところで倒れていたのよ。多分貧血だから、栄養のあるものをたくさん食べなきゃダメよ」
保健の先生は優しく言った。若い女の先生で、生徒たちに人気がある桃子先生だ。
「先生、ユウ君は?」
「ユウ君? お友達はいなかったわ。きみは一人で倒れていたのよ」
あれは、夢だったのかな。ユウ君に会う前に、校門の前で倒れてしまったのかな。
「最近、貧血の子が多いのよね。きみ、一人で帰れる? おうちの人に来てもらう?」
「大丈夫です」
ぼくはゆっくり起き上がった。不思議だ。すごくお腹が空いている。
少しよろけたら、桃子先生が体を支えてくれた。
「あれ、首に傷があるわよ。虫に刺されたのかしら。絆創膏を貼ってあげるね」
桃子先生がぼくの首に手を当てた。先生は、長い髪をひとつに束ねている。
白くて細い首すじがぼくの目の前にあった。
「吸いたい」
「えっ? 何か言った?」

ぼくは桃子先生の首すじにかみついた。そしてゆっくり血を吸った。
なぜそんなことをしているのか自分でも理解できないけれど、空腹が満たされるまで、夢中で血を吸った。
なんておいしい。なんていい気分だ。
「先生ありがとう」
絆創膏を持ったまま倒れている桃子先生は、きっとじきに目覚めるだろう。
そしてぼくと同じように誰かの血を吸って、いつも通りの優しい先生に戻るだろう。

五月の空は、夕方でもまだ明るい。早く夜にならないかな。
どうしてだろう。太陽が苦手だ。
「あれ、サトシ君?」
家の近くで声をかけられた。振り向くと、隣の家のおねえさんだ。確か中学二年生。
「遅いね。さては居残りだな」
「ちがうよ」
おねえさんは、ぼくの隣に並んで歩きだした。そして、不意に言った。
「サトシ君、どうして影がないの?」
あっ、本当だ。ぼくの影がない。そしておねえさんの心の声が聞こえる。
『影がないのって、何だっけ。幽霊? 死神? それとも……』
ぼくはおねえさんの後ろに回って、耳元でささやいた。

「吸血鬼だよ。おねえさん」

****
ある児童書の公募に出したものです。
2つ出して、1つ採用されました。
こちらは落選作です。採用作はアンソロジーの本として出版されます。
そのときはお知らせしますね。

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自己紹介

みなさま、初めまして。
どうでしょう。こうしてバスに乗り合わせたのですから、自己紹介などしてみませんか。では、まずは私から。私は、ガイドのタカギと申します。
そしてこちらが運転手のツヤマでございます。
私共、誠意をもってみなさまを無事に目的地までお連れすることをお約束いたします。
さあ、本日の乗客は4名様でございます。では前の方から順番に自己紹介をお願いします。

「初めまして。ヤマダです。17歳です。初めて参加しました」
「初めまして。スズキでございます。62歳です。初めて参加しました」
「おれ、キノシタ。52歳。初参加。……っていうかさあ、初めて参加するに決まってるだろう。いちいち言う必要ある?」
「私は、あっ、初めまして。スドウです。29歳です。私は、二回目です」
「えっ、あんた二回目?」
「はい。前回、失敗してしまいまして」
「はあ? 失敗することなんかあるの? ねえガイドさん、どういうことだよ」

キノシタ様、落ち着いてください。恐らく何かの手違いがあったのだと思います。こちらのツアーは、万全の準備を整えておりますのでご安心ください。
さて、自己紹介が終わったところで、本日の流れをざっと説明いたします。
ただいまこのバスは、山に向かっております。静かで暗い山でございます。半径10キロ以内に民家及び別荘等がないことは事前に確認済みでございます。到着予定は、午後七時でございます。着きましたらお薬と水をお配りいたします。
みなさまが眠りについてからは、こちらの方で滞りなく最期の処置をさせて頂きます。
事前にお預かりした遺書は、私の方で間違いなく遺族の方にお届けいたします。
何の心配もいりません。みなさまは苦しまず、ただ穏やかに、あちらの世界に旅立ってください。
あっ、スズキ様、質問ですか。どうぞ。

「あの、途中でやめることは出来ますか?」
「スズキさん、途中でやめるってどういうこと?」
「実はね、ヤマダ君、このツアーに申し込んだ後、娘から電話があってね、子どもが出来たらしいのよ。つまり私の孫。死ぬのは孫の顔を見てからでもいいかしらって思っちゃって」
「なんだよ、ババア。その程度の覚悟で来てたのか。俺なんか会社潰れて借金抱えて、死ぬしかなくてここにいるんだよ」
「僕だってそうだよ。学校で苛めに遭って、誰も助けてくれなくて、楽になりたくてここにいるんだ」
「ヤマダ君の気持ちわかるわ。私も昔から苛められてた。このツアーは二回目だけど、自殺未遂は三回してるの。失敗ばかりだわ」
「えっ、スドウさんだっけ?あんた、とんでもない死にぞこないだな。あんたがいたらまた失敗するかもしれねえ。悪いけどあんた、そのババアと一緒に降りてくれるか」
「誰がババアよ。失礼な男ね。私だって崖っぷちよ。パチンコで作った借金で婿にまで迷惑かけて、死ぬしかないのよ。だけど今死んだら娘の胎教に悪いし、孫の顔だって見たいじゃないの」

みなさん、落ち着きましょう。もちろん無理強いは致しません。やめたい方は降りて頂いて結構です。ただしここから自力で帰ることと、振り込まれたツアー代金が返金出来ないことをご了承頂けたら、どうぞお帰り下さい。遺書はこちらで責任をもって破棄します。
はい、スドウ様、どうしました?

「ガイドさん、私降ります。キノシタさんと一緒に死ぬのは嫌です。こんな横柄な人と仲間だと思われたくありません」
「私も降ります。ババア呼ばわりされて不愉快よ。こんな気持ちで死にたくない。ヤマダ君はどうする?」
「僕は、正直生きていたくはありません。だけど、このおじさんと心中したみたいになるのは絶対嫌です。スドウさんとならいいけど」
「じゃあ一緒に降りよう。ガイドさん、スズキ、ヤマダ、スドウ、リタイヤします」

かしこまりました。そうなるとキノシタ様一名ということになります。キノシタ様、大変申し訳ないのですが、一名では実行出来ない決まりなので、後日他の方とツアーを組み直しますので、本日のツアーはここで終了となります。
「何だよ、それ。ああもう、やめた。俺も降りる。嫌われ者のまま死にたくないからな」

というわけでツヤマさん、全員降りちゃったね。
あーあ、任務遂行できなくて、また死神のボスに叱られちゃうかな。
でも、どんなときでも自己紹介って必要ね。一緒に死ぬ人がどんな人か、やっぱり知りたいでしょ。一緒に生きる人を選ぶように、共に死ぬ人だって選ばなきゃ。
でも見て。4人で仲良く山を下りていくわ。案外生きる道を選ぶかもね。
えっ、ツヤマさん泣いてる? ボスから怒りのメールが来たの?
やだー、もう死にたい!
……って、私も死神なんだけどね。

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ここ掘れワンワン [名作パロディー]

僕は、かの有名な「花咲かじいさん」の子孫だ。
先祖代々この土地に住み続け、白い犬を飼うことが習わしになっている。
「花咲かじいさん」を読んだ人はご存じだと思うが、犬が「ここ掘れワンワン」と吠えるところを掘れば、お宝がザックザック出てくるのだ。

おじいちゃんのときは金塊を掘り当てた。
お父さんのときは一等の宝くじを掘り当てた。
そうしてこの家は、常に繁栄してきたのだ。
しかし僕は、犬が嫌いだ。幼いころに噛まれてから、見るのも怖い。
「仕方ないね。あんたは犬の力を借りずに慎ましく生きなさい」
両親に言われた通り、僕は慎ましく生きた。
気づけば40手前で独身だ。資産を増やすことは無理でも、子孫だけは残したい。

そんなある日、隣のアパートに美人が引っ越してきた。
アパートといっても一戸建てで、そこの住人とは、先祖代々相性が悪い。
「花咲かじいさん」を読んだ人はご存じだと思うが、隣に住む意地悪じじいは、花咲かじいさんの愛犬を殺してしまうのだ。
だから時代を超えた今でも、どうも相性が悪いというわけだ。

そんなある日、隣の美人が挨拶に来た。
「こんにちは。ご挨拶に伺いました」
「ああ、これはどうも。わざわざすみません」
と、門で出迎えた僕は、思わず固まった。
美人の後ろに犬がいる。白くて大きな犬だ。
ああ、残念だけどやっぱり相性が悪そうだ。
「ホワイトシェパードのシロです。かわいいでしょ」
「はあ。でも、僕、犬は……」
そのとき、シロが突然走り出した。
「シロ、ダメよ」
シロは一目散に裏庭に回り、ワンワンと吠え始めた。
「ごめんなさい。あまり吠えない子なのにどうしたのかしら」
シロは桜の木の下で、ひっきりなしに吠えている。
白い犬、桜の木。ここ掘れワンワン。
あっ、もしかしてここに何か埋まっているのか?
僕はスコップで木の下を掘った。美人の彼女は興味津々で見ている。
「あら、何かあったわ。タイムカプセルかしら」
「いや、ちがう。これは、ただのゴミだ」
出てきたのは、ガラクタばかりだった。
「花咲かじいさん」を読んだ人はご存じだと思うが、隣に住む意地悪じじいが掘った穴からは、ヘビやお化けが出てくるのだ。
つまり隣の犬が吠えたところで、財宝にはありつけない。

シロはそれから毎日来た。
苦手な犬に毎日来られて迷惑だけど、隣の彼女も来るから追い返せない。
そして犬が来るたびに、彼女と僕は親しくなった。
隣りの住人とは相性が悪いはずなのに、不思議だ。
犬も苦手なはずなのに、なぜかシロは怖くない。
僕は彼女とシロが来るのを、心待ちにするようになった。

あるとき、シロが再び吠えた。
桜の木の下で、「ここ掘れワンワン」と吠えている。
どうせガラクタだろうと思って掘ってみたら、小さな箱が出て来た。
「あら、何かしら。今度こそタイムカプセル?」
彼女と二人で開けてみたら、2つの指輪が入っていた。
「まあ、ステキ。こんなサプライズ初めてよ」
サプライズ? 違うけど、そういうことにしちゃおうかな。

「ワンワンワンワン(おまえのお宝は彼女だよ。一生大事にしろよ)」

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