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カレンダーの声 [コメディー]

あっ、どうも。
私は2022年のカレンダーです。
筒状に丸められて、部屋の隅で出番を待っているところです。
信用金庫のカレンダーです。
数字が大きくて見やすい、書き込み式のカレンダーです。

隣の奴は、保険会社が持ってきた花の写真のカレンダーです。
六曜もないし数字も小さいですが、写真だけはきれいなので女子人気ナンバーワンです。
その隣は酒屋でもらったカレンダーです。
着物姿の女優さんが写っています。
女優メインで、日付など横にズラズラと並んでいるだけです。
しかしどの月も美人ぞろいなので、殿方に人気です。
そのまた隣はイヌネコカレンダーです。ガス屋が持ってきました。
イヌネコは人気ですね。子犬と子猫さえ載せとけば、好感度抜群ですからね。
カレンダーとしての意味は薄いかもしれませんけどね。
あとは日本の庭園カレンダー。住宅メーカーが持ってきたものです。
まあこれは、ごくごく普通のカレンダーといったところです。
99%年寄り夫婦の部屋に行くことになるでしょう。

私はいつも、キッチンの壁に掛けられます。
予定をさっと書き込めるので、家庭を仕切るお母さんには、私のようなシンプルかつ実用的なものが好まれるのです。
大安、仏滅、友引、赤口、先勝、先負。一目でわかって便利です。
なんと十干と旧暦まで書かれた優れものです。
家族全員が私を見ます。私は家族全員のカレンダーなのです。
全カレンダーたちの善望の視線を浴びながら、私は真っ先に特等席に飾られるのです。
ああ、早く新年にならないかな。

「お母さん、カレンダーもう捨てていい?」
「そうだね、捨てて新しいのに変えよう」
「これって資源ごみ?」
「そうね。畳んでリサイクルに出しましょう」
「これは?」
「それはダメ。予定が書いてあるから」
「そうだね。個人情報ダダ洩れだもんね。これは捨てよう」

なんと、キッチンの書き込み式カレンダーだけが、ぐちゃぐちゃに丸められてゴミ箱に捨てられました。
カレンダーの花形だと思っていたのに、違うのですか。
燃えるゴミの日に出されてしまうのですか。

「お母さん、イヌとネコのカレンダー、可愛いから写真だけ切り取っていい?」
「いいわよ。実はお母さんも、カレンダーの花の写真取ってあるの」
「お父さんも酒屋のカレンダー、好きな女優の写真は捨てられないみたいだね」
「まったくねえ。おじいちゃんとおばあちゃんもね、庭園の写真ふすまに貼ってるのよ」
「毎年似たような写真なのにね」
「本当ね。私たちって、似たもの家族ね」
「ほんと、ほんと。断捨離とか一生無理だわ」

ああ、他のカレンダーのみなさん、憐れむような目で私を見ないでください。
大丈夫です。たとえ燃えるゴミに出されても、私はお役目を全うします。

「あら、おじいちゃん、何か御用ですか」
「新しいカレンダーに、予定を書いてくれんかね」
「はいはい、何の予定ですか?」
「3回めのワクチン接種じゃ」

新年最初の予定がワクチン接種……。
うん、いいことだ。大切なことだ。役に立った。
でも、でもさ、ひとこと言わせて。
来年は、写真付きカレンダーになりたい!

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クリスマスお茶会のお誘い [競作]

もぐらさんが開催している「クリスマスお茶会」へのお誘いです。
素敵な朗読ブログです。
私の「サンタクロース・ハナ」も朗読していただきました。

ぜひ、お茶会の扉を開いてみてください。
なんと、タダです(笑)

http://mogura-tearoom.seesaa.net/article/484917657.html


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飽食の時代

きのう、冷蔵庫で賞味期限切れになった食材を捨てました。
まだイケるかな、と思ったけれど、まあいいか、と捨てました。

うっかり食べるのを忘れたパンが、かびていたので捨てました。
買ったことさえ忘れていました。

知人から頂いたお漬物が辛すぎて口に合わず、仕方がないので捨てました。
ごめんなさいと呟いてから捨てました。

ファミレスで頼んだ料理が食べきれなくて残しました。
ご飯を3分の1くらい残しました。
そのくせデザートのアイスクリームはぺろりと食べました。

今の私をあなたが見たら、きっと眉をひそめるでしょうね。
食べ物がなくてやせ細って、死んでいったらあなたが見たら。

でもね、もしもあなたが生きていたら、私と同じことをするでしょう。
だってね、これが当たり前になっているんだもの。
飽食の時代よ。
こんな時代が来るなんて、あなた想像できた?

ねえあなた。夢でもいいから私を叱ってくださいな。
贅沢だと目を吊り上げて言ってくださいな。
まあ、無理よね。
遠い、遠い昔だもの。魂だってどこか遠くへ行ってしまったわね。
ああ、誰か私を叱ってくれないかしら。

「おばあちゃま、ご飯を残したら大きくなれないよ」

あら、ひ孫が叱ってくれた。
ありがとう。そうよね。ご飯を残してはいけないわよね。
これ以上、大きくなることはないけどね。


****
きのう、戦争と平和の講演を聞きに行った影響で、こんな話を書いてみました。
戦中戦後の体験談とか、いろいろ考えさせられました。
決して贅沢な暮らしをしているわけじゃないけれど、年末に冷蔵庫の掃除をすると、出てくるよね、無駄な食材。
平和な時代にあぐらをかいていてはいけませんね。

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プレゼント交換 [ファンタジー]

幼いころ、クリスマスに友達とプレゼント交換をしていた。
缶バッチやマンガ本といった他愛のない物だ。
しかしその友達は、遠い北の国に行ってしまった。
もう何十年も会っていない。
携帯でもあれば連絡を取り合っただろうが、あいにくずいぶん昔の話だ。
携帯はおろか、エアメールの送り方さえ知らなかった。
遠い昔の話だが、クリスマスになると何故か彼を思い出す。

私はプレゼント交換をやめなかった。
恋人とプレゼントを交換し合い、妻と交換し合い、子どもと交換し合った。
そして今は、5歳になる可愛い孫とプレゼント交換をしている。
今年のプレゼントは、折り紙で作ったサンタクロースだ。
私からは長靴に入ったお菓子をあげた。
「タツヤはサンタさんに何をお願いしたんだい?」
「あのね、恐竜の図鑑にしたの。ぼく、恐竜が好きだから」
「そうかい。届くといいね」
「絶対届くよ。だってサンタクロースだもん」

妻を亡くしてから、息子夫婦と同居をしている。
私は1階、息子の家族は2階で暮らす。
イブの夜は静かだ。
チキンとケーキを食べて、孫とプレゼントを交換したらもうやることはない。
部屋に引き上げて、静かにウイスキーでも飲んで過ごそう。

深夜になっても何故か寝付けず、起き上がってまたウイスキーを飲んだ。
窓の外には雪が降り始めた。
プレゼント交換をしたあの子は、今頃どうしているだろう。
家族と幸せに過ごしているだろうか。

鈴の音が聞こえた。ああ、サンタクロースがやってきたんだな。
2階の子ども部屋に、サンタがこっそり入る気配がした。
ぼんやりと窓の外を見ていたら、目の前にサンタクロースが現れた。
手にプレゼントを持っている。思わず窓を開けて言った。
「私は子どもじゃないよ。プレゼントは要らないよ」
「メリークリスマス、ショウちゃん」
「えっ、どうして私の名前を?」
「僕だよ。子どもの頃にプレゼント交換をした聖夜だよ」
「えっ、きみ、せいちゃんか?」
「そうだよ。すっかりおじいちゃんになっちゃったよ」
「それはお互い様だ」
「うちは元々サンタクロースの家系でね、父が修行の為に北欧に行って、僕はそのあとを継いだというわけさ」
「驚いたな。せいちゃんがサンタクロースだなんて」
「今年から担当が日本になったんだ。今タツヤ君の顔を見て、君にそっくりだったから驚いた。もしやと思って覗いたら、やっぱりショウちゃんだった」
「そうかい。それでわざわざ寄ってくれたのか」
「久しぶりのプレゼント交換をしよう。僕からは、北欧の絵葉書だ」
「ありがとう。しかし困ったな、君にあげるものが何もない」
「じゃあ、ウイスキーを一杯おくれ。寒くてかなわない」
「お安い御用だ」
私は、グラスにウイスキーを入れて渡した。
彼はそれを一気に飲んで、ほんのり赤い頬で橇に乗り込んだ。
「ああ、あったまった。最高のプレゼントをありがとう。また来年会おう」
彼は手を振って、鈴の音と共に夜空へ消えた。

翌朝、「やったー、恐竜図鑑だ」という孫の声で目が覚めた。
「じいじ、サンタさん、来たよ」
「おお、よかったな」

枕元に北欧の絵葉書、窓のふちに空のグラス。
私のところにもサンタは来た。だけどこれは内緒だね。
来年は、もっと高級なウイスキーを用意しよう。
私はもう、来年のプレゼント交換を楽しみにしている。

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