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サンタとトナカイ [ファンタジー]

「おはようございます。サンタさん。雪かきをしておきました」
「ありがとうトナカイくん。しかしわしはもうサンタじゃないよ。もう引退したんだから」
「ほかの呼び方を知りません」
「じいさんでも、クソジジイでも、好きに呼びなさい」
「滅相もない。あなたは私にとって偉大なサンタクロースです」
「嬉しいね。しかしトナカイくん、君まで辞めることはなかったんじゃないか? まだ若いのに」
「いいえ、あなた以外のサンタクロースと仕事をする気にはなりません」
「そうか。君は実によくやってくれたな。何かプレゼントを贈ろう」
「ありがとうございます」
「そうだ。イブの夜にプレゼント交換をしよう。今まで配るばかりでもらったことがない。トナカイくん、イブの夜にうちに来なさい。何がいいかな。金の鈴がいいかな」
「そんな高価なものを戴けませんよ」
「あげるんじゃないよ。交換するんだ。君もプレゼントを持ってきなさい」
「あ、はあ、わかりました」

サンタクロースは、あれこれとプレゼントを考えていました。
「少々値が張るが、いいものがいいな。トナカイくんは何をくれるかな?」
カタログを見ながら、「高級腕時計かブランデーが欲しいな」などとつぶやいていました。
「おや、サンタクロース協会から電話だ。はい、もしもし」
「引退したのに申し訳ないのですが、イブの夜、少しだけでも手伝っていただけませんか? なにぶん人手不足で」
「そうか。わしはいいが、トナカイくんにも聞いてみないと」
「トナカイは必要ありませんよ。今年からハイブリットの超高速ソリに乗ってもらうことになってます。3倍の速さで配れますよ」
「なんだと? ではトナカイは?」
「もう用済みですよ。あれ? 聞いてなかったですか? みんなまとめてお払い箱です」
「何てことだ。トナカイのやつ、わしに気を遣って言わなかったのか。なんて水くさい奴だ」
実はトナカイは、突然仕事を失って、路頭に迷っていたのです。
サンタクロースには退職金と年金がありますが、トナカイには何もないのです。
雪かきや雑用を引き受けて、少しばかりの収入を得ていたのです。
「高価なプレゼントは、彼にとって負担だったな。こりゃあ失敗した」

イブの夜、トナカイはプレゼントを持ってやってきました。
「サンタさんが欲しがっていた懐中時計です。暗い夜には光りますよ」
トナカイには、角がありませんでした。
「トナカイくん、まさか角を売ったのかい?」
「はい、でも気にしないでください。また生えますから」
「何も知らずに悪いことをした。わしからのプレゼントはこれだよ」
サンタが指さす先にソリがありました。新品の美しいソリです。
「このソリで、また一緒にプレゼントを配ろう」
「でも、トナカイはもう不要です。解雇されたんですよ」
「君を雇うのはわしだよ。フリーランスのサンタクロースだ。カッコいいだろ」
トナカイは、目に涙を浮かべながら喜びました。
「カッコいいです。ありがとうございます。やはりあなたは偉大なサンタクロースです」
「さあ、さっそく仕事だ。手伝いを頼まれたんだ」
「はい、では参りましょう」

角のないトナカイは、ピカピカのソリにサンタとプレゼントを乗せて空を飛びました。
光る懐中時計が午前0時を告げました。
「さあ急ぎましょう。超高速ソリに負けていられませんよ」
「その調子だ、トナカイくん」


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ハロウィンの夜 [ファンタジー]

じいちゃんが、カボチャをくりぬいてランタンを作った。
三角の目に、大きな口。不気味な顔だ。
「もうすぐハロウィンだ。知ってるか、和也。ハロウィンには死者の霊が帰ってくるんだ」
「そうなの?」
「ああ、だからな、ばあさんが帰ってくるように、ランタンを作ったんだ」
じいちゃんがそう言って、カボチャのランタンにろうそくを灯した。
「ステキね。そういえば、このカボチャ、おばあちゃんに似てるわ」
「本当だ。こんな目でよく笑っていたな」
お母さんとお父さんは嬉しそうにランタンを見ていた。
だけど僕には、お化けカボチャにしかみえない。
おばあちゃんの顔なんか、よく憶えていない。

ハロウィンの夜、玄関先にカボチャのランタンを灯した。
「おーい和也、ご飯だぞ」
呼ばれて階段を降りると、居間から賑やかな笑い声が聞こえる。
テーブルにはいつもより豪華な夕飯が並んでいる。
そしてテーブルを囲むお父さん、お母さん、じいちゃん、そして……お化けカボチャ。
「どうして、お化けカボチャがいるの?」
じいちゃんが作ったカボチャのランタンに、手足が生えて座っている。
「何言ってるの、和也。おばあちゃんでしょ」
「そうだぞ、和也。おばあちゃんが帰って来たんだ」
「うそだ。お化けカボチャだ。気味が悪いよ」
「こら、おばあちゃんに何てこと言うの?」
お化けカボチャは、黙って頷きながら、静かに座っている。
特に害はないみたいだ。それに家族がみんな幸せそうに笑っている。
僕は不思議に思いながらも、一緒に座ってご飯を食べた。

食事を終えると、お化けカボチャは僕の破けたズボンを繕ってくれた。
小豆を煮て、白玉団子を作ってくれた。
要らないチラシでゴミ箱を作った。
お化けカボチャは休むことなく働く。
片付けやら、繕い物やら、何かしら仕事を見つける。
「せっかく帰ってきたのに、相変わらず貧乏性ね、おばあちゃんは」
「好きにさせておけ。そういう性分だ」
家族は呆れながらも楽しそうだ。
本当に、おばあちゃんなのかな。

深夜に目が覚めた。
喉が渇いて台所に行くと、何やらオレンジ色の物体が揺れている。
お化けカボチャだ。
お化けカボチャが、シュッシュッと音を立てて、包丁を研いでいる。
思わず悲鳴を上げると、振り向いたお化けカボチャがにやりと笑った。
「やっぱり化け物だ。僕たちみんな殺されるんだ」
僕は急いでお父さんとお母さんを起こした。
「大変だよ。お化けカボチャに殺される!」
「和也。まだそんなこと言ってるの? しょうがない子ね」
僕がしつこく起こしたから、お父さんとお母さんは、迷惑そうに起き上がった。
時刻は午前0時を過ぎたころだ。
台所に、お化けカボチャはいなかった。

「あら、おばあちゃん、シンクをピカピカにしてくれたわ」
「包丁も研いである」
「さすがおばあちゃんね。見習わなくちゃ」
「ああ、もうハロウィンは終わりか。日付が変わってる」
「そうね。おばあちゃん、来年も来てくれるかな」
「おいおい、あまりこき使うなよ」
ピカピカの台所、真っ白な布巾とよく研がれた包丁。
そういえば、おばあちゃんがいたころは、ずっとこうだった。
やっぱりおばあちゃんだったのか。
おばあちゃん、優しかったな。どうして忘れちゃったんだろう。

朝が来た。
縁側に、じいちゃんが座っていた。
となりには、じいちゃんが作ったカボチャのランタンが、寄り添うように置いてある。
すっかり殺風景になった晩秋の庭で、寒そうな背中が寂しそうだ。
じいちゃんは、優しくカボチャを撫でた。
あっ、一瞬だけ、カボチャがおばあちゃんに見えた。
三角の、優しい目で笑っている。

来年は、ちゃんとおばあちゃんに見えるかな。
僕は、今やっと、おばあちゃんの顔を思い出したんだ。

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キューピットのお仕事 [ファンタジー]

私はキューピットです。人間を結婚まで導くのが仕事です。
遠距離恋愛担当、略して「遠坦」です。
職場恋愛担当(職坦)や、婚活担当(婚坦)だったらもっとポイントが稼げるのにと、思うことは少なくありません。
だけど、やりがいはあります。
距離や寂しさに負けず頑張るカップルを応援するのは、とても有意義です。

今回のターゲットは、東北支社に異動になった中田ナオキ君と、本社勤務の大沢さおりさんの遠恋カップルを結婚させるのが仕事です。
本社の職坦キューピットから引き継ぎました。
この二人は、離れても順調に愛をはぐくみました。
毎日の電話、月に一度の逢瀬、2年の地方勤務の後、結婚させるのは難しくないと思っていました。
ところがそこに、突然現れた東北支社の新入社員、野村ヒカリ。
東京に彼女がいると知りながら、ナオキ君にグイグイ迫ります。
後ろに誰かいるなと思ったら、やはりいました。
フリーの職坦キューピット、点数稼ぎの嫌な奴です。
「職坦さん、私のターゲットの邪魔をしないで頂きたい」
「おや、これは遠坦さん、所詮人間は近くにいる人と結ばれるものだよ。悪いけどこのポイントは俺がもらう」
私はナオキ君に、さおりさんが如何に素晴らしい女性かを囁き続けました。
おかげでナオキ君は心変わりすることなく、愛を育みました。

しかし、職坦のやつは強硬手段に出たのです。
ヒカリが、ナオキ君と撮ったツーショット写真を、さおりさんの社内メールに送り付けたのです。『彼のことはお任せください』なんて強気のメッセージを添えて。
「職坦さん、やってくれましたね」
「やったのはヒカリだ。俺は耳元でちょいと囁いただけさ」
職坦め、汚い真似をしやがって。

ナオキ君はすっかり落ち込みました。
さおりさんが電話もメールも無視するからです。
「会いに行きましょう。会って誤解を解くのです」
一生懸命囁きましたが、彼は心を閉ざしています。
こうなったら、さおりさんの所へ飛ぶしかありません。

しかし、さおりさんの肩の上に、なんと職坦キューピットがいたのです。
「なあ、失恋は新しい恋で埋めるものだぜ。あの大学院出のエリート、あんたに気があるぜ。いっそ乗り換えたらどうだ」
こいつ、一度に2つのポイントを手に入れようとしてるな。負けるものか。
「さおりさん、ナオキ君に会いに行きましょう。会って話せば誤解だとわかります」
両側から囁かれて、さおりさんはパニックになりました。
「職坦さん、もうやめましょう。さおりさんが精神的に参ってしまいます」
「構うものか。俺はポイントさえ稼げればそれでいい」
「ダメです。そんなの誰も幸せになりません。時として見守ることも必要なのです」
私は強引に、職坦キューピットを天空に連れて行きました。
混乱を避けるために、しばらく人間界を離れることにしたのです。

その後、事態は急展開。
なんと、ヒカリが幼なじみの青年と電撃結婚したのです。
実は彼女は、初恋の彼を振り向かせるために、ナオキ君を利用したのです。
誤解が解けて、ナオキ君とさおりさんは元のさやに収まりました。
春には本社に戻れます。ようやく私の仕事が実を結びそうです。

職坦キューピットは落ち込んでいました。
「なあ遠坦さん、今回のことは、初坦キューピットの仕業だぜ。すっかりやられたな」
「初坦?」
「初恋成就担当。略して初坦だ。滅多に成功しない分、報酬はデカいらしいぜ」
「なるほど。私たち、初坦さんに振り回されていたんですね」

そこへ、初坦キューピットがやってきました。
「遠坦さん、職坦さん、こんにちは。この度はありがとう。おかげでポイントいっぱい稼げたわ」
初坦キューピットがにっこり微笑みました。
「初坦、女だったのか」
「か、かわいい……ですね」
職坦さんと私の間に火花が散りました。
負けませんよ。この恋、私が成就してみせます!

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人魚の娘 [ファンタジー]

八十吉さんは、人魚を助けたことがあるそうだ。
岩場にきれいな虹色のうろこが見えて、近づいたら人魚だったそうだ。
「まだ子どもの人魚でなあ。海に帰そうと思ったら腕に怪我をしてたんだ。それで手当てをして、しばらく家の生け簀で泳がせてたんだよ」
八十吉さんは80過ぎのおじいさんだ。この病院に入院して、2か月ほどになる。
ボケてるわけではないけれど、時々おかしなことを言ったりする。
「相手にしちゃダメよ」と婦長は言うけれど、私は八十吉さんの人魚の話が好きだった。だからこうして、婦長の目を盗んで八十吉さんの病室に来ている。

「八十吉さん、続き聞かせて」
「またあんたか。怖い婦長に叱られるぞ」
「いいの。休憩時間だもん。ねえ、怪我が治った人魚を海に帰した後、何があったの?」
「ああ、あの後な、そうだな、10年くらい経ったころだな。海で釣りをしていたら、あのときの人魚が海からぽっかり顔を出したのさ」
「人魚の恩返し?」
「いいや、ちがう。そんな話じゃねえ」


「おじさん、あたしのこと憶えてる?」
人魚は言った。すっかり大人になっていたけど、もちろんすぐにわかった。
「おじさんに、頼みがあるの」
「ほう、何だい?」
「あたし、子どもを産んだのよ」
「そうかい。そりゃあよかったな」
「よくないわ。見てよ、あたしの子ども」
人魚はそう言って、抱えていた子どもを岩場に寝かせた。
「かわいい女の子じゃないか」
そう言いながら「おや?」と思った。
赤ん坊には足がある。虹色のうろこはどこにもない。

「わかったでしょう。あたし、人間の子どもを産んじゃったの。これは罰なのよ」
「何の罰だ?」
「人間の世界に行ってはいけない掟を破った罰よ。あの日、おじさんに助けられたあたしは、怪我をして人間界で数日過ごした。それは許されないことなのよ」
「仕方ねえよ。怪我してたんだから」
「あたしもそう思ってた。実際10年間平穏無事だったし。だけどね、今頃になって重い罰を受けることになったの。それがこの子よ。人間は海の中では生きられない。だからあたしは、愛しいわが子と一緒に暮らすことは出来ないの。それが罰よ。とてもつらい罰だわ」
人魚は、真珠みたいきれいな涙をこぼした。
「だからね、おじさんがこの子を育てて。だってこれは、おじさんのせいでもあるんだから」
「いや、待ってくれ。俺は男やもめで子どもなんか育てた事ねえよ」
赤ん坊が激しく泣き出した。「おお、よしよし」と抱いてあやしているうちに、人魚は海に帰ってしまった。

途方に暮れた俺は、とりあえず赤ん坊を毛布にくるんで、近所に住む妹夫婦を訪ねた。
「ええ? 赤ん坊を育てて欲しい? どういうことよ。どこの女に産ませたのよ。お義姉さんが亡くなってずいぶん経つから、女の一人や二人いてもいいけどさ、赤ん坊を押し付けていなくなるなんて、どこの性悪女よ。本当に兄さんの子なの?」
妹はすっかり誤解していたけれど、人魚から預かったと話したところで信じるはずもないから黙っていた。
妹夫婦には子どもがいなかったから「仕方ないね」と言いながら、養女にして立派に育ててくれた。
かれこれ40年も前の話だ。


「へえ、意外な展開。じゃあ、その人魚の子どもは、今も元気なんですか」
「もうすっかり普通のおばさんだよ。人魚の娘だと言っても誰も信じないさ」
「会ってみたいなあ」
「そうか?」
そのとき病室のドアが開いて、婦長が入ってきた。
「あなた何やってるの。用もないのに患者の部屋に来るんじゃありません」
「すみません」
「伯父さんもいい加減にしてよ。血圧上がるわよ」
婦長は八十吉さんを軽く睨んで、カーテンを開けた。
えっ、伯父さん? もしかして婦長って……
「あの、婦長って……」
「なによ」
振り向いた婦長の足に、一瞬だけ虹色の模様が浮かび上がった。
八十吉さんが、小さく目配せをした。「ほらね」

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50年後の桜 [ファンタジー]

沼田のおじいさんが生き返った話は、半世紀が過ぎた今でも語り継がれています。
葬式を終えて、まさに火葬をしようとしたそのとき、棺から声がしました。
開けてみると死んだはずの沼田のおじいさんが、パッチリ目を開けていたのです。
沼田のおじいさんはその日から一週間生きて、今度こそ本当に逝きました。
私は生まれたばかりだったので実際に見たわけではないけれど、奇跡の生還と話題になり、テレビ局まで来たそうです。

そしてあれから50年。
50歳になった私は、この春母を看取りました。
葬儀を済ませ、いざ火葬というまさにその時、棺から声が聞こえたのです。
「開けてちょうだい」
私たちは顔を見合わせました。
棺を開けると、母はたった今眠りから覚めたように欠伸をして起き上がりました。
「沼田のじいさんの時と同じだ」
「50年後にまた奇跡が起こったぞ」
当時を知っている老人たちが、手を叩いて喜びました。

沼田のおじいさんと一緒だとしたら、母は一週間後に再び逝ってしまいます。
私は、仕事がある夫と息子を帰して、実家に残ることにしました。
「お母さん、気分はどう?」
「病気になる前に戻ったみたいだ。とても調子がいいよ」
「じゃあ、散歩でも行こう。桜が満開よ」
私は、最期の一週間を母と過ごしました。
川岸に咲く桜、遊歩道の桜並木、海が見下ろせる丘の一本桜。
はらはらと雪のように舞う桜吹雪を二人で眺め、母との時間を心に刻みました。
そして母は、その夜静かに2度目の息を引き取りました。

沼田のおじいさんと母が、同じ病院で亡くなったことを知ったのは、四十九日を終えた頃でした。線香をあげに来てくれた、沼田のおばさんが言ったのです。沼田のおじいさんの娘さんです。
「50年も前のことだからうろ覚えだけど、あの病院の2階の角部屋だったのよ」
母の病室も、2階の角部屋でした。
「建て替えしてるけど、窓から見える景色はさほど変わってないのよ。ほら、古い桜の木があるでしょう。ちょうど窓から見えるのよ」
「ああ、そういえば、母はいつも言っていました。満開の桜が見たいって」
「私の父もそうだったわ。だからね、あの桜の木が命をくれたんじゃないかって思うの。だって桜が散った夜、父は逝ったのよ。あなたのお母さんもそうでしょう?」
桜がくれた命、桜がくれた時間。
そんな奇跡もあるかもしれないと、春が来るたび思います。

そしてさらに50年後。
私は今、100年の人生に幕を下ろそうとしています。
奇しくも、沼田のおじいさんと母が亡くなった病院の角部屋です。
窓から見える桜はまだ2分咲き。ああ、満開の桜が見たいです。
ぼんやりした頭に、お医者様の声が聞こえます。
「ああ、どうも。〇〇病院です。お母さまが危篤なんですが、今どちらですか? ああ、宇宙旅行中ですか。いつ頃お帰りの予定ですか? 一週間後ですか。ではそれまで延命措置をしておきますね。どんなにテレパシーの技術が進んでも、臨終には直接立ち会いたいですよね。では一週間ほど延命させていただきます。ちょうどそのころ、桜が満開ですよ」

時代は変わりました。医療はどんどん進化しています。
生きてる間に満開の桜が見られそうです。
でもね、何だかむなしいです。
満開の桜は見たいけど、そういうことじゃないのよね。

KIMG1921.JPG
今年の桜、早すぎません?

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サンタクロース宅配便 [ファンタジー]

公園に突然、大きなモミの木が生えた。
「サンタクロースからの贈り物だよ」と町長さんが言った。
みんなでオーナメントを飾り、ピカピカの電飾を付けた。
最後に町長さんが、ひときわ輝く大きな星を天辺に付けた。

「ねえ町長さん、天辺の星は、どうしてあんなに輝いているの?」
「ああ、あれはな、灯台の役割をしているんだよ。どんなに高い空の上からだって、この星が見えるんだ」
「わかった。サンタさんの目印だね」
「まあ、そういうことかな」

子供たちは大さわぎ。
「この公園に、サンタクロースが来るってことじゃないか?」
「きっとそうだ。あの星めがけて来るんだよ」
「なあ、サンタさん、見たくないか?」
「見たい、見たい」
「24日の夜中に、こっそり集まろうぜ」
そしてクリスマスイブの夜、子供たちはそうっとベッドを抜け出して、公園に集まった。
つま先まで凍りそうな夜だけど、子供たちの好奇心は寒さになんか負けない。

午前1時を過ぎたころ、巨大な光が降りてきた。
「サンタクロースが来たぞ」
子供たちが身構えていると、降りてきたのはUFOみたいな大きな飛行船だ。
「サンタって、UFOで来るの?」
「橇じゃないの? トナカイは?」
「鈴の音も聞こえないよ」

船から数人の作業員が下りてきて、ベルトコンベアーで荷物を下ろし始めた。
もっともらしい赤い服を着ているけれど、サンタクロースには見えない。
大きな段ボールが、ツリーの周りに積まれていく。
「あれ、プレゼントかな」
「あの人たち、サンタなの?」
「サンタっていうより、宅配便のお兄ちゃんみたいだ」
「本当だ。運送屋みたいだね」
「想像と違うね」
サンタたちは、荷物を下ろして伝票をチェックすると、再び飛行船に乗り込んだ。
まるで次の配達先に急ぐように、空へと旅立った。

午前2時、「寒い寒い」と言いながら、大人たちがやってきた。
「おお、届いてるぞ、プレゼント。うちのはどれだ」
大人たちは名前を確認して、自分の子供宛のプレゼントを持ち帰った。

「あっ、パパだ」「うちのパパもいる」
「ねえ、あのプレゼントを、今から僕たちの枕元に置くんじゃない?」
「やば! 急いで帰ろう」
子供たちは、忍者のように裏道を抜けて親より早く家に帰った。
そして寝たふりをしながら、親がプレゼントを置いていくのを毛布の隙間からこっそり見ていた。

「やれやれ、すっかり身体が冷えちまった」
「ご苦労さま。去年まではサンタクロースが家まで届けてくれたのにね」
「働き方改革ってやつか?」
「感染症が怖いのかも。ほら、もうご高齢だから」
「ホットウイスキーでも飲んで寝るかな」
「あら、いいわね。チキンが少し残っているわ」

親が部屋を出て行ったあと、子供たちは思う。
「結局、サンタクロースって、いるの? いないの?」

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ちょうどいいサイズの世界 [ファンタジー]

昔々、北のはずれに小人の国がありました。
何もかもが小さくて、住んでいる人たちも、5センチから10センチくらいの大きさでした。
そんな小人の国に、ひとりだけ、大きな小人の男がいました。
たくさんの兄弟の中で同じように育ったのに、その男だけずんずんずんずん成長しました。
家や木までも追い越して、天に届きそうな大きさです。
「いったい何を食べたらそんなに大きくなるんだい」
「すみません、お母さん」
声も大きいので、お母さんは吹き飛ばされそうになりました。
そんな大きな服はないので、たくさんの布を繋ぎ合わせて腰に巻き、のっしのっしと歩きました。
男が歩くと地震が起きて、小人たちは木の幹にしがみつきました。
「僕がいると、みんなに迷惑がかかるんだね」
男は、ある夜明け前、村を出ました。
誰もいない国を目指して、西へ西へと向かいました。

昔々、南のはずれに巨人の国がありました。
何もかもが大きくて、5メートルを超える人たちが暮らしていました。
そんな巨人の国に、小さな女の子が生まれました。
あまりに小さいのでミルクをたくさん与え、たくさんの食事を与えました。
それでも大きくならず、年頃の娘になっても、巨人の膝くらいしかありません。
「こんなチビでは、嫁の貰い手もないし仕事にも行けないよ」
「ごめんなさい、お母さん」
「あん? 聞こえないよ」
娘の声は小さくて、誰にも届かないのです。
素敵な服が欲しくても、お裁縫道具は大きすぎて娘には使えません。
お母さんの白いハンカチをドレスのように巻き付けて、娘はいつも泣いていました。
「どこかに、私が生きる場所があるかもしれない」
娘は、ある夜明け前、村を出ました。
エメラルド色の瞳を輝かせ、東へ東へと向かいました。

虹のような美しい世界で、男と娘は出逢いました。
「同じサイズの人だ」
ふたりは駆け寄って、思わず手を取り合いました。
優しい風が吹き、鳥たちがさえずり、美しい湖がキラキラ光っています。
「ここは天国かしら」
ふたりは、手をつないで歩きました。
「見てごらん。ちょうどいいサイズの木があるよ」
「まあ本当。ちょうどいいサイズのリンゴがなっているわ」
ふたりは、木の下に座ってリンゴを食べました。
「僕はアダム。君は?」
「私はイブよ」
「ねえ、ふたりで新しい世界を作ろうよ」
「そうね。ちょうどいいサイズの世界を作りましょう」

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青田風 [ファンタジー]

最近、故郷の夢を見る。
もう20年も帰っていない僕の故郷は、田園風景が広がる田舎町だ。
鳥のさえずりで目覚め、カエルの合唱を聞きながら眠った。
緑一面の田んぼに風が吹くと、まるでさざ波みたいに稲が揺れた。
「青田風っていうのよ」と教えてくれたのは、母だったか、それとも姉だったか。

生まれ育った家はもうない。両親も、もういない。
帰る家なんかないのに無性に恋しい。

憂鬱な月曜日、気がつけば、故郷へ向かう電車に乗っていた。
満員電車に嫌気がさして、部長の小言に辟易していた。
JR線で2時間、ローカル線で40分のところが僕の故郷だ。
人気のない駅に降りて、歩いて15分。
通学路だった畦道、競い合ってザリガニを捕った小川。
何もかもが、昔のままだ。
さやさやと波打つ緑色の稲は、もう15センチほどに伸びている。
「ああ、いい風だ」
せっかくなので、実家があった場所まで行ってみることにした。
もちろん家はもうないけれど、「ただいま」と言ってみたかった。

角を曲がると、黒い瓦屋根が見えた。僕の家だ。まさか、あるはずがない。
近づくと、垣根の中から声がする。明るい笑い声と食器が重なり合う音。
覗いてみたらカフェだった。バラのアーチと庭に並んだ白いテーブル。
客席の間をくるくる回って料理を運んでいるのは、僕の姉だ。
「姉ちゃん?」
姉が僕に気づいて手招きをした。
「進じゃないの。珍しいわね。仕事はお休みなの?」
「あ…いや、そんなことより、どうしたの、これ。家は8年前に壊したはずだ。更地にして地元の不動産屋に二束三文で買い叩かれたって、姉ちゃん言ってただろう」
「そうだったかしら。きっと気が変わったのよ。ほら、今流行ってるでしょ、古民家カフェ。私ね、ずっとやりたかったの。自分で作った無農薬の野菜を使ったランチよ。なかなか評判でね、地元の人以外も来てくれるのよ」
姉は、イキイキしていた。
確かにこのところ連絡を取り合っていなかったけれど、まさか田舎に帰っていたなんて。

「進、あんた疲れてるみたいね。私の料理食べていきなさい」
姉は素早く家の中に入ると、たくさんのハーブや野菜に囲まれたグリルチキンと味噌を塗ったおにぎりをプレートに乗せて運んできた。
「今日のランチよ。食べてみて」
それは、とても懐かしい味だった。農作業をする父と母の顔が浮かんだ。
「やだ、あんた泣いてるの?」
「すごく美味いよ、姉ちゃん。俺、何だか元気が出た。明日からも頑張れる気がする」
「そう。まあ、そんなに頑張らなくていいわよ。次は奥さんと子供も連れてきなさい」

古民家カフェか。考えてみれば、更地にするよりずっといい。
父と母も、空の上できっと喜んでいるだろう。
姉はバツイチで子供もいない。ここを居場所にすることに、何の不都合もない。
「ありがとう、姉ちゃん。故郷があるって、いいね」
僕は姉に礼を言ってカフェを出た。
今から帰れば夕方には家に着く。たまにはゆっくり家族と話そう。

畦道でスマホの電源を入れたら、部長からと妻からの着信が山のようにあった。
部長には明日謝ろう。とりあえず、妻にだけ電話をかけた。
「あなた、いったいどうしたの? どこにいるのよ。会社から電話があったから、具合が悪くて病院に行ったって伝えておいたわ。それにしてもどういうこと? 連絡くらいしてよ」
「ごめん。悪かった。帰ってからゆっくり話すよ」
「それよりあなた、落ち着いて聞いてね。あのね、お義姉さんが亡くなったのよ」
「えっ? 何言ってるの?」
「ずっと入院していたらしいのよ。それでね、今朝亡くなったって病院から電話があったの。お義姉さんね、うわ言のように帰りたいって言っていたそうよ。せっかくマンションを買ったのに、もう帰れないのね。可哀想に」
通話を切ってカフェに戻った。
そこは、雑草だらけの空き地だった。古ぼけた『売地』の看板が風に揺れていた。

僕は畦道に座って、緑色の海を見ていた。波のように右へ左へ揺れる稲が触れ合う小さな音を聞いていた。
姉が帰りたかったのはマンションじゃない。この田園風景の中だ。
さざ波みたいに揺れる稲に囲まれた風景だ。
「青田風っていうのよ」
いつの間にか隣に座っていた姉が言う。
「知ってるよ」
僕は、風に消えそうな小さな声でつぶやいた。

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ベガとアルタイル [ファンタジー]

小さな星で父親と暮らすベガは、宇宙一の美女と称されるほど美しい。
近隣の星から毎日のように男たちが押しかけて、ベガをデートに誘った。
父親は、男たちに言った。
「もっとも素晴らしい宇宙船を持っている男に、ベガを誘う権利を与える」
それは宇宙中に広まり、財閥の息子たちが自慢の船に乗って、ベガの星にやってきた。

アルタイルは、中流家庭の次男坊。宇宙科学アカデミーに通う学生だ。
あるとき、天の川のほとりでベガを見かけてひとめぼれ。
何としてももう一度会いたいと願っていた。
アルタイルは、バイトした金で中古の宇宙船を買った。
修理してピカピカに磨き上げ、出来る限りの技術で改造した。
「よし、この船でベガに会いに行こう。彼女、気に入ってくれるかな」

ベガの家には、3人の先客がいた。
どの男も高級な宇宙船に乗り、身なりもよかった。
アルタイルは、何だか気後れしながら一番最後に並んだ。
ベガは、父親の隣で優しい笑みを浮かべている。

男1「ベガ、俺と一緒に銀河の果てまでぶっ飛ばそうぜ。俺の船は最高だぜ。七色に光るボディ、高性能のエンジンと、隅々まで見渡せるサーチライト。スピードならどの船にも負けないぜ。最高のスリルを味わってみないか」
ベガは困ったように首を傾げ、やんわり断った。
「目が回ってしまいそうだから、やめておきますわ」

男2「ベガ、僕の船は最新のキッチンがついているんだ。デート中に捕獲した宇宙生物を、新鮮なうちに調理して君に振舞うよ。心配いらない。三ツ星シェフも同乗させる。料理に合ったワインもたくさん用意しているよ。君は毎日、宇宙中の御馳走が食べられるんだ」
「素敵だけど、太ってしまいそうですわ」

男3「ベガさん、僕の船は高級ホテル並みの内装を施しています。ふかふかのカーペット、宇宙一の家具職人に作らせた椅子にベッド。そして大型スクリーンで、すべての星のライブ映像が見られます。もちろんお父さまとの通信も可能です」
「ほう、いいじゃないか、ベガ。この人に決めたらどうだ」と父親。
「そうね。でもお父さま、もう一人の方のお話も伺いたいわ」
ベガが、アルタイルを見た。
アルタイルは、3人の立派な船の話を聞いて、すっかり自信を無くしていた。

「あの、僕の船は、全然かっこよくなくて、しかも中古で、自分で改造したから、お金もあまりかけられなくて……」
「中古だって?」と男たちがどっと笑った。
「どんなふうに改造なさったの?」
「え…っと、まずはブレーキを改造して、他の船や隕石や星の住人にぶつかりそうになったら自動で止まるようにしました。それから、空を汚さないように自然の燃料を使い、眠っている住人を起こさないように静かなエンジンを付けました。あとは、軌道を外れたり危険な操縦をしたときに警報が鳴ったり……」
「なんて素敵!」
ベガが、アルタイルの手を握った。
「素晴らしいわ。あなたのように、安全と環境に配慮した宇宙船を造った方は初めてよ。お父さま、私、この方の船に乗りたいわ」
「うむ、いいだろう。君、名前は?」
「アルタイルです」
「ベガとアルタイルか。ふふ、悪くない。もうすぐ七夕だし、ふたりで天の川を巡ってきなさい」

こうしてベガとアルタイルは、7月7日の夜、天の川で初めてのデートを果たした。
七夕の夜、空を見上げてごらん。二つの星が寄り添っているよ。

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こどもの国 [ファンタジー]

ママと一緒に遊園地にやってきた。パパは仕事で来られなかった。
パパはいつも仕事ばかり。それでも遊園地は楽しかった。
ジェットコースターやお化け屋敷、ゴーカートとビックリハウス。
ふたりではしゃいで、あっという間に時間が過ぎた。
夕方になって、ママのスマホに電話が入った。
「ごめんね、ちょっと電話をしてくるから、ここで待っててね」
噴水前のベンチに座って、僕はママを待っていた。

ママはなかなか帰ってこない。
そのうちに園内が暗くなって、閉園を告げる音楽が流れた。
僕は不安になってママを探したけれど、どこにもいない。
「きみ、迷子?」
不意に同じ年くらいの男の子に声をかけられた。
「迷子じゃないよ。ママが戻ってこないんだ」
「ああ、捨てられたのか。可哀想に」
「ちがうよ」
「おいらと一緒においでよ。ここにいたら悪い大人に連れていかれるよ」
男の子がピューっと指笛を鳴らすと、メリーゴーランドの白馬が2頭、こっちにむかって走ってきた。
「さあ、早く乗って。遊園地が閉まっちゃうよ」
訳が分からないまま馬にまたがると、馬はそのまま暗闇に向かって走り出した。
次の瞬間、まぶしいくらいの光の世界に僕はいた。

「ここはどこ?」
「こどもの国だよ」
「こどもの国?」
「子供しかいないんだ。大人はひとりもいない。みんな自由さ。誰にも叱られないし、誰にも裏切られることはない」
そこには、たくさんの子供がいた。寝そべって、ポテトチップスを食べながらゲームをしたり、泥んこになって走り回ったり、ズボンで手を拭いたり、怒られそうなことばかりしている。
「みんな君のように、親に捨てられた子供なんだ」
「僕、捨てられたの、やっぱり?」
「そうだよ。パパは仕事ばかり、ママは自由になりたかったんだ」
僕より小さな子供が、「一緒にゲームやろう」と裾をつかんだ。
お菓子の山とハンバーガー。嫌いな野菜は食べなくていい。
僕はだんだん、この国の自由さに慣れていった。
好きなアニメを大きい音で見ても叱られない。
服を汚してナポリタンを食べてもへっちゃら。
勉強しなくてもいいし、誰かのおもちゃを取っても怒られない。

ある日僕は不思議に思って、男の子に尋ねた。
「この食べ物やおもちゃは、いったい誰が買ってくるの?」
「ああ、大人がいる世界に行って、盗んでくるのさ。おいらがメリーゴーランドの馬をちょいと失敬したみたいにね」
「ええ、それって、泥棒じゃないか」
「うん、まあそうだね。でも気にすることはないさ。この国に法律はないんだからさ」
「でも、僕のパパは警察官なんだ。犯罪だけは犯すなって言われて育ったんだ」
「ふうん。もう遅いな。だって盗んだものを食べたんだから同罪だ。それに君だって、友達のおもちゃを取ったじゃないか。それって立派な窃盗じゃないのかな」
僕は思わず泣き崩れた。
「まあ、そのうち慣れるさ。気にするな」

それから僕は、何も食べられなくなった。
「盗んだものを食べても平気なの?」と、みんなに言って、空気を悪くした。
弱い者いじめをする子を制したり、ケンカの仲裁をして煙たがられた。
そしてついに、追い出された。
「あのさ、君がいるとこの国の秩序が乱れるんだよね。出て行ってくれるかな」
乗ってきた馬にまたがり、僕は暗闇に向かって走った。どこでもいい。大人がいて、ちゃんと叱ってくれる世界に戻りたい。

気が付くと僕は、遊園地のメリーゴーランドの馬に乗っていた。
楽しい音楽に包まれて、ぐるぐる回っていた。
ママが手を振っている。パパもいる。
夢を見ていたのだろうか。

メリーゴーランドが止まるとママが駆け寄ってきた。
「捜したのよ。噴水のベンチにいなさいって言ったのに、本当に落ち着きがない子ね」
「まあ、見つかったんだからいいじゃないか」
パパは、仕事が早く終わって合流したらしい。あの時の電話はパパからだったんだ。

3人で、観覧車に乗った。はしゃぎすぎてまた叱られた。
天辺から見下ろす園内は、イルミネーションがきれいだった。
「また来ようね、こどもの国」とママが言った。
「こどもの国?」
「この遊園地の名前よ。こどもの国だけど、大人も子供楽しめる素敵な遊園地ね」
そうか。やっぱり、子供だけじゃだめだよね。

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