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私の百物語 [ホラー]

夏になると、お寺に行った。
怖いもの好きな姉たちといっしょに、寺を借りて百物語をするのだ。
計画を立てるのは春子ねえさん。
実際に動くのは夏子ねえさん。
怖い話が得意な秋子ねえさんは、語りべをする。
末っ子の私は、姉たちの後をついて歩くだけの甘えん坊だ。
名前は、もちろん冬子。

バスが山の寺に着いた。
夕暮れの風が心地よく、さわさわと木々を揺らした。
ひんやりとしたお堂に入ると、夏子ねえさんが用意した百本の蝋燭を並べた。
怪談話が終わるたびに、ひとつ火を消していくのだ。
秋子ねえさんは雰囲気を出すために白い着物に着替える。
黒くまっすぐな髪が、余計に怖さを演出した。
「さあ始めましょう」
太陽がすっかり姿を消すと、春子ねえさんが号令をかける。
私たちはかしこまって座り、秋子ねえさんの静かな声に耳を傾けた。

秋子ねえさんの話は本当に怖い。
昔話や、学校の怪談、実際に見てきたように話す。
私たちは、悲鳴をあげたり「もうやめて~」と泣きそうになったりしながら、99話の話を聞いた。
蝋燭は、いよいよ残り1本になった。
静まり返ったお堂に、青い月明かりが差し込んだ。

「最後は、私たちに関係のある話をしましょう」
秋子ねえさんが言った。
「どんな話?」と私たちは身を乗り出した。

「私たちに、もうひとり妹がいたことは知っているわね」
秋子ねえさんが静かに話し始めた。
「知ってる。生まれる前に死んでしまった妹ね」
春子ねえさんと夏子ねえさんが身を乗り出した。
私は知らなかった。きっと私が生まれる前の話だ。秋子ねえさんと私は、5つ年が離れているから。

「お告げがあったの。百本めの蝋燭を消した時、その子に逢えるって」
「私たちの、もうひとりの妹に?」
「ええ。だから私、試してみようと思う」
そう言うと秋子ねえさんはフッと蝋燭の火を消した。
暗闇と静寂の中で、ねえさんたちはいっせいに私を見た。

「逢えたわ」
「本当だ。あなたが生まれてくるはずだった妹ね。名前は冬子」
「そうよ。逢いたかったわ。冬ちゃん」
姉たちは、私に向かって言った。
「ちょっと、何言ってるの?私はずっといっしょにいたわ」
私の声は、姉たちに届いていない。

「冬ちゃん、可哀想に。私の命を分けてあげられたらいいのに」
「そうよ。生きたかったでしょう?私の命も分けてあげたいわ」
「冬ちゃん、私の命もあなたにあげるわ」
姉たちが私の手を取る。
「やめて!私は生きてるわ。ちゃんと生きてるわ!」
私は姉たちの手を振りほどいてお堂を出た。月はいつの間にか消え、何もない深い闇の中に、私の体は落ちていった。

***

目を開けると、白い天井があった。体が思うように動かない。
いったい何が起こったのだろう。
「気が付いたわ」
両親が、涙顔で私の顔を覗き込んだ。医者と看護師がやってきた。
「いったい私はどうしたの?」
頭はまだぼんやりとしていたが、生きているという事実だけは、はっきりとわかった。

私たち四姉妹を乗せたバスが、山道で転落した。
発見されたとき、息があったのは私だけだったそうだ。
3人のねえさんが、私に命をくれたのだと、そのとき思った。
怖い話が好きだった姉たちが、最期に聞かせてくれた百物語は、こうして終わった。

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コメント 14

川越敏司

前半、はじめ『シックスセンス』みたいな話かと思ったんですが、違いましたね。見事に裏切られました(笑)

ただ、ちょっと前半と後半との、冬子と他の姉妹との関係性が分かりづらい気がします。

生き残った私の中に3姉妹の魂が居ついてしまって。。。という展開なら、新井素子『あたしの中の...』、乾くるみ『マリオネット症候群』、あるいは滝川廉治『テルミー きみがやろうとしている事は』などがあります。

ラストの後からはじまるお話も、きっとおもしろいと思いますよ。

by 川越敏司 (2011-08-17 23:27) 

ヴァッキーノ

あなたの知らない世界っていう夏休みのお昼にやってた
新倉イワオなんかが出てたテレビ番組のような
そんな恐怖ですね。
日本的な怖さ。
おりんさん、けっこう幽霊の話続きますねえ。
こわいなあ。。。
by ヴァッキーノ (2011-08-18 11:15) 

矢菱虎犇

真夜中のお堂で蝋燭を消しながら百の怪談話。
もう設定だけで怖いなぁ。最後は真っ暗になる流れなだけに、
時限爆弾みたいにサスペンスフル!
ゾクゾク来ました。
by 矢菱虎犇 (2011-08-18 14:00) 

春待ち りこ

リンさん。。。怖いですよ。
ゾクゾクッっとしちゃいました。(T_T)

生まれてこれなかった幽霊の妹。。。の話
と思わせておいて
実は、幽霊になってしまったのが、姉三人のほうだったなんて。。。

怖かったけど、楽しみました♪ 
いつも素敵なお話をありがとっ!!!
by 春待ち りこ (2011-08-18 21:20) 

クローヴ

三人の姉たちが末の妹だけは助かるようにと。。。こういうことって
ホントにあるような気がします。
怖いけど、いいお話ですね(^^)
by クローヴ (2011-08-18 23:21) 

かよ湖

確認しますけど、これってリンさんの創ったフィクションですよね。
こわっ!コワッ!
こんな時間に読むんじゃなかったぁ。
by かよ湖 (2011-08-19 01:23) 

浅葱

うーーーん、鶏か卵か的に
どっちがどっち?
まだまだ続きがあります?
by 浅葱 (2011-08-19 18:37) 

リンさん

<川越さん>
いつもありがとうございます。
これは、生と死の間をさまよう冬子が見た夢なんです。
姉たちの手を振り払わなければ、生きていなかったかもしれませんね。

>姉たちの魂が居つく…そんな展開も面白いですね。
明るいホラーになりそうです。
by リンさん (2011-08-20 16:07) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
あなたの知らない世界…見てましたよ~
怖かったですね。あれって実体験でしたよね。
心霊写真特集も怖かったな~。
今は簡単に画像が作れるから、なんか嘘っぽいと思っちゃうけど、あのころは本気で怖かったです。
by リンさん (2011-08-20 16:10) 

リンさん

<矢菱さん>
個人的にお寺を借りて百物語をやる人は、あまりいないでしょうね。
修学旅行や合宿で、怖い話が得意な子って必ずいましたよね。
トイレ行けなくなったのを覚えています。
by リンさん (2011-08-20 16:14) 

リンさん

<りこさん>
こちらこそありがとうございます^^
お寺に行く前に亡くなったお姉さんたちは、百物語が出来なくて残念だったのね。
それが妹にあんな夢を見せたのでしょうか。
楽しんでくれてありがと!!
by リンさん (2011-08-20 16:21) 

リンさん

<クローヴさん>
みんなで妹を守ったのでしょうか。
幸せな末っ子ですね。
みんなの分も生きないといけませんね。
by リンさん (2011-08-20 16:26) 

リンさん

<かよ湖さん>
はい、フィクションですよ。
怖かったですか?
あら、夜中の1時…。怖がらせてすみません(笑)
by リンさん (2011-08-20 16:28) 

リンさん

<浅葱さん>
面白いですね。妹が幽霊かと思ったら姉が幽霊で、と思ったら妹が…繰り返します?
by リンさん (2011-08-20 16:30) 

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