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子どもの宿題 [コメディー]

夏休み最後の日、我が家は戦場と化す。
子どもたちの宿題が終わっていない。

私は長男(小6)と次男(小3)の読書感想文と、次男の工作づくり担当。
夫は長男と次男の算数ドリル担当。
長女(高1)は、次男の絵日記担当。

「8月6日の天気って何? みんなで水族館行ったの、いつだっけ」
「できた。お菓子の箱で作ったロボット。カッコ悪いけど、出せばOKだから」
「パパがぎっくり腰になったの、何日だっけ?」
「そんなの絵日記に描くなよ~」
「ちょっとパパ、全問正解しちゃダメよ。親がやったのバレちゃう」
「ママだって、6年生で習わない漢字が入ってるぞ」
「あー、もう、雨降ったのっていつだっけ? 全部晴れでいい?」
「お姉ちゃん、絵が上手すぎ。もっと下手に描いて」

「あー、もうやだ」
長女が鉛筆を投げた。
「どうして毎年ギリギリまでやらないのよ。あたしだって明日から学校なのに」
「お姉ちゃんはいいじゃないの。宿題終わってるし、時間はたっぷりあるんだから」
「あたしだって自分の勉強があるよ。塾だって行ってるし」
「その塾のお金は、どこから出てると思ってるの」
長女は黙った。

深夜0時、日付が変わるころ、長男と次男が帰って来た。
「ただいま」
「あれ、まだ宿題終わってないの?」
「ギリギリまでやらないのは悪い癖だね」
「どうせゲームばっかりやってたんでしょ」
「ごめん。でもだいぶ終わったから、あとひと踏ん張りよ」
「ねえ、今日の天気だけ教えて。晴れてた?」
「うん。快晴だった」
「ありがとう。快晴ね」
「じゃあ僕たち、もう寝るね」
「明日の学校の用意しておいてね」
「わかった。お疲れさま」

長男と次男は、超売れっ子の子役俳優。
夏休み前半はミュージカルの舞台。
後半はドラマの撮影で北海道ロケ。

「ママ、今日の絵日記、飛行機に乗った絵でいいかな」
「そうね、飛行機に乗る写真がインスタにアップされてたわ」
「どれどれ」
「あー、算数終わった。小6の算数難しいな」
「パパ、来年は中1よ。勉強してね」

あー、今年も終わった。
こんなふうに、子どもの宿題を家族がやるのはどうかと思うけど、仕方ないのよねえ。
あの子たちの稼ぎで暮らしてるから、私たち。

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本の部屋 [コメディー]

ITの進化、ペーパーレスの推進。
時代が進み、紙の本が姿を消した。
新聞、マンガ、小説、教科書。何もかもが電子化された。
本はサブスクで読む時代。指一本で電子書籍を買う時代。
紙の本は、すっかり貴重品だ。

私は、未来を担う子どもたちのために、莫大な資金をつぎ込んで図書館を造った。
今さらそんなものを作ってどうすると、誰もが言った。
しかし私は、紙の本を夢中で読んだ子どもの頃が忘れられない。
あのワクワクする気持ちを、今の子どもたちに伝えたい。
木の香りが漂う森の図書館に、世界中から貴重な本を取り寄せた。
子どもが喜びそうな冒険小説、SFにミステリー、童話や偉人伝など。
壁一面の書棚に詰まったたくさんの本。
目を輝かせる子どもたちを想像すると、涙が出そうになる。

まず手始めに、5人の子どもたちを招待した。
ゲームやスマホは持ち込み禁止。夕方まで、たっぷり本を読んで過ごしてもらう。
「君たちは、時間が来るまでこの部屋から出られない。決して退屈などと思わないで欲しい。何しろこれだけの素晴らしい書籍があるのだ」
スマホを取り上げられて不満な顔をする子もいたが、私は構わず続けた。
「さあ、どれでも気に入ったものを手に取りなさい。あとで感想を聞かせてもらうから、それまで好きなだけ楽しみなさい」
子どもたちは、きょろきょろと棚の本を見回した。
本の数に圧倒されているようだ。
私はそうっと部屋を出て、外から鍵をかけた。

できれば傍にいてアドバイスなどをしたいところだが、そこは我慢だ。
子どもたちに、自由に選ばせたい。
みんなどんな本を読むのだろう。
感想が楽しみだ。

3時間後、本の部屋に行ってみると、子供たち本を片手にソファーや床で居眠りをしていた。
読みつかれて寝てしまったようだ。本は、心地よい睡眠導入剤だ。
こういうこともいい経験だ。
さて、みんな何の本を読んだかな。
ほう、世界文学全集だ。これは素晴らしい。
トム・ソーヤの冒険、十五少年漂流記、山椒大夫。なんて素晴らしい選択だ。
それにしてもずいぶん厚い本を選んだな。
では、感想を聞かせてもらおうか。

私は子どもたちを起こした。
「君たち、さっそく感想を聞かせてくれないか?」
子どもたちは、口々に感想を述べた。
「硬かったです」
「ちょっと小さいかも」
「高すぎて首が痛いです」
「あんまりよく眠れなかったな」
「えっ、枕じゃないんですか?じゃあ、これ何?」

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白雪姫反省会 [名作パロディー]

ただいまより、白雪姫の反省会を始めます。

<鏡の反省>
あー、やっぱり本音を言っちゃったのがいけなかったよね。
いつもは、女王への忖度で「一番美しいのはあなたです」なんて言ってたけど、そんなわけないじゃん。
白雪姫の方がいいに決まってるじゃん。
だからつい「白雪姫でーす」って言っちゃったんだよね。
それで、姫が生きてるのバレちゃって、毒リンゴ食べることになってさ。
えっ? 今一番きれいな人は誰かって?
そりゃあ、このお話を読んで下さっているあなたですよ。(忖度)


<七人の小人の反省>
反省? まあ、強いて言うなら、白雪姫を残して仕事に出かけたことだよね。
七人もいるんだからさ、一人くらい姫のそばにいても良かったよね。
そうしたら毒リンゴ食べなかったかもしれないし。
それにしてもさ、七人もいて、どうして誰も白雪姫にキスしなかったかな。
めっちゃチャンスだったじゃん。
通りすがりの王子に横取りされてさ、俺らマジで落ち込んだ。
そうだ、俺たちの反省はそれだ。姫にキスしなかったことだ!


<女王の反省>
私の反省は、あっけなく死んでしまうことね。
だって魔女なのよ。もう少し何とかならなかったかしらね、魔法で。
私の死に方は諸説あるけど、いい死に方じゃないのよ。
雷に打たれたり、火あぶりにされたりね。悪役だから仕方ないわ。
改心して、仲良く穏やかに暮らすっていう結末は……ないわよねえ。
グリム童話だもの。


<白雪姫の反省>
反省、ですか?
えー、なんだろう。
わたしを助けたために、家来が殺されちゃったこと?
小人さんのお家を壊したこと?
空腹に負けて毒リンゴを食べちゃったこと?
王子様のキスで、ちゃっかり生き返っちゃったこと?
うーん。そのくらいしか思い浮かばないわ。
あら、みなさん、どうなさったの? 何をそんなに見つめているの?
わたしの顔に何かついているかしら?
……美しすぎるって?
ふふふ、いやだわ。それ、反省しなきゃダメ?(全員キュン死)


<王子様の反省>
出番が少ないこと!

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迎え盆

まだかなあ。おそいなあ。
「迎えに来たよ、お父さん」
ああ、となりの墓か。
「お迎えに来たよ。おばあちゃん」
斜め前の墓だ。

日が暮れちまったぞ。うちの迎えはまだか。
せっかくのお盆だというのに、迎えがないと帰れないじゃないか。
おや、誰か来たぞ。提灯をぶら下げた若い女だ。
右に曲がった。と思ったら戻ってきて左に曲がった。
ウロウロしている。こりゃあ迷ったな。何しろ大きな墓地だからな。

女がこちらに向かって歩いてきた。
「あった~。よかった~」って、ここは俺の墓だぞ。
あんた間違ってる。
「さあ、おじいちゃん、帰ろう」
いや待て。俺はあんたを知らん。どこへつれていく気だ。
女が歩き出した。「ちがうちがう」と思いながら、提灯に付いて行ってしまう。
このままでは、知らない家に帰ってしまうぞ。
女は、駐車場までの道を5回まちがえ、家までの道を数回まちがえた。
「あっ、今のところ左だった」とまあ、方向音痴にもほどがある。
そうしてたどり着いたのは、懐かしい我が家だ。
なんだ、俺の家じゃないか。

「おかえりなさい」
ばあさんだ。ばあさんが俺を迎えてくれた。
「悪かったね、ミカちゃん。お迎えに行かせちゃって」
「いいよ。仕方ないよ。家族みんなで食あたりだなんて、超ウケるんだけど」
女がへへっと笑った。
おや、この笑い方には覚えがあるぞ。近所の悪ガキだ。
女だてらに木に登って、悪さばっかりしてた子だ。
孫のタケシをいつも泣かせてたおてんば娘、ミカだ。
「おじいちゃんにはよく怒られたな。でもあたし、おじいちゃんのこと好きだったよ」
ミカはそう言いながら、線香を立てて俺の写真に手を合わせた。
よく見ると、悪ガキもすっかり美人の娘さんだ。

「ミカちゃん、ありがとうね」
「うん。じゃあ帰るね。おじさん、おばさん、タケシ、お大事にね~」
「あっ、ミカちゃん、玄関は右だよ」

ミカは帰った。
どうやら息子夫婦と孫は、食あたりで寝込んでいるようだ。
ばあさんが、俺の好きな酒を注いでくれた。飲めないのが残念。
「おじいさん、お帰りなさい。寂しいお盆でごめんね。明日には、みんな元気になるから」
俺は、おまえがいればそれでいいさ。
「そうそう、ミカちゃんね、タケシの嫁になるんだよ。秋には結婚式だ。この家もにぎやかになるね」
なんだって? あの悪ガキが、タケシの嫁に?
いつも泣かされていた、あの子を嫁に?
世の中、わからないものだな。
なんて思っていたら、帰ったはずのミカがひょっこり顔を出した。
「あらミカちゃん、どうしたの?」
「玄関だと思って開けたらお風呂だった。今度こそ帰るね」
「だから玄関は右だよ。いい加減に家の間取りを覚えておくれよ」

まったく、何という方向音痴だ。
この子が嫁に来るのか。
もう少し長生きしたかったな。

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真夜中の黒猫さん

いつからだろう。真夜中になると、黒猫がやってくる。
赤い鈴を付けている。
猫はいつの間にか部屋にいて、僕のベッドの足元に、当たり前のように座る。
たぶん猫の幽霊だ。
だって猫に触れようとした僕の手は、すうっとその体を通り抜けたのだから。
幽霊だけど、ちっとも怖くない。
猫はあまりに気ままで無防備で、そしてあまりに可愛かった。

僕は猫を待つようになった。
どうせ暑くて眠れない。暑くなくても眠れない。
睡眠よりも、僕の心は猫を求めていた。
小さな鈴の音とともに、猫が来る。
あくびをしたり、毛づくろいをしたり、大きく伸びをしたりする。
そして朝になると、最初からいなかったように消えてしまう。
鳴きもせず、振り向きもせず、鈴の音だけを残していく。

会社のノルマがきつくて、要領の悪い僕は叱られてばかり。
心も体もぼろぼろだけど、僕は毎日会社に行く。
田舎で一人暮らしをしている母が、電話の度に「帰っておいで」と言う。
だけど、今帰ったら逃げるみたいだし、負け組になってしまう。
「ねえ猫さん、僕はどうしたらいいだろう」
話しかけても知らんぷりだ。それでいい。君だけが、僕の心を癒してくれる。

数日後、会社の営業車を運転していたら、目の前に黒い猫が飛び出してきた。
あわててハンドルを切ったら、ガードレールにぶつかった。
幸い怪我はなかったけれど、会社の車をぶつけたことで、僕の立場は厳しくなった。
上司の風当たりがますます強くなり、僕はとうとう会社を辞めた。
その日から、黒猫は姿を見せなくなった。

車の前に飛び出してきた黒い猫、一瞬だけど鈴の音がした。
赤い鈴かどうかは、よく見えなかった。
まさか、あの猫じゃないよな。
荷造りをしながら、猫の定位置だったベッドを見た。
もちろん、気配ひとつない。

翌日、僕は田舎に帰った。
潮の香りがする。大きく息を吸い込んだら、やっと普通の呼吸が出来た。
「おかえり」
母が優しく出迎えてくれた。
涼しい風が入る畳の部屋で、僕は死んだように眠った。

目が覚めたら、足元に黒猫がいた。赤い鈴を付けている。
「あれ、おまえ、僕についてきたのかい?」
猫は、ゆっくり起き上がって、僕の手をペロッと舐めた。
温かい。えっ? 生きてる?

「起きたのかい? 晩ごはん出来てるよ」
母がふすまから顔をのぞかせた。
「母さん、猫がいる」
「ああ、ひとりで寂しいから、飼い始めたんだ。毎日、寂しい寂しいって話しかけてたら、あんたが帰ってきてくれたよ」
母が笑った。

僕は猫を抱き上げた。
「もしかして、母さんの策略か?」
猫は知らんぷりで、毛づくろいを始めた。
おまえ本当は、全部分かってるんじゃないのか?

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