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本の部屋 [コメディー]

ITの進化、ペーパーレスの推進。
時代が進み、紙の本が姿を消した。
新聞、マンガ、小説、教科書。何もかもが電子化された。
本はサブスクで読む時代。指一本で電子書籍を買う時代。
紙の本は、すっかり貴重品だ。

私は、未来を担う子どもたちのために、莫大な資金をつぎ込んで図書館を造った。
今さらそんなものを作ってどうすると、誰もが言った。
しかし私は、紙の本を夢中で読んだ子どもの頃が忘れられない。
あのワクワクする気持ちを、今の子どもたちに伝えたい。
木の香りが漂う森の図書館に、世界中から貴重な本を取り寄せた。
子どもが喜びそうな冒険小説、SFにミステリー、童話や偉人伝など。
壁一面の書棚に詰まったたくさんの本。
目を輝かせる子どもたちを想像すると、涙が出そうになる。

まず手始めに、5人の子どもたちを招待した。
ゲームやスマホは持ち込み禁止。夕方まで、たっぷり本を読んで過ごしてもらう。
「君たちは、時間が来るまでこの部屋から出られない。決して退屈などと思わないで欲しい。何しろこれだけの素晴らしい書籍があるのだ」
スマホを取り上げられて不満な顔をする子もいたが、私は構わず続けた。
「さあ、どれでも気に入ったものを手に取りなさい。あとで感想を聞かせてもらうから、それまで好きなだけ楽しみなさい」
子どもたちは、きょろきょろと棚の本を見回した。
本の数に圧倒されているようだ。
私はそうっと部屋を出て、外から鍵をかけた。

できれば傍にいてアドバイスなどをしたいところだが、そこは我慢だ。
子どもたちに、自由に選ばせたい。
みんなどんな本を読むのだろう。
感想が楽しみだ。

3時間後、本の部屋に行ってみると、子供たち本を片手にソファーや床で居眠りをしていた。
読みつかれて寝てしまったようだ。本は、心地よい睡眠導入剤だ。
こういうこともいい経験だ。
さて、みんな何の本を読んだかな。
ほう、世界文学全集だ。これは素晴らしい。
トム・ソーヤの冒険、十五少年漂流記、山椒大夫。なんて素晴らしい選択だ。
それにしてもずいぶん厚い本を選んだな。
では、感想を聞かせてもらおうか。

私は子どもたちを起こした。
「君たち、さっそく感想を聞かせてくれないか?」
子どもたちは、口々に感想を述べた。
「硬かったです」
「ちょっと小さいかも」
「高すぎて首が痛いです」
「あんまりよく眠れなかったな」
「えっ、枕じゃないんですか?じゃあ、これ何?」

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